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えっ?

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「ミルヒーナ、良かったな。お前の婚約者が決まったぞ」

 気持ちよく昼寝をしていたミルヒーナが、お父様の言葉にハッと目を覚ました。

「今なんと?わたくしに婚約者?」

 驚きながらも口元からたらりと垂れた涎をそっと袖口で拭いた。

「ミルヒーナ、涎はハンカチで拭きなさい」

「お父様、今はそんな話をしている時ではないでしょう。わたくしに婚約者?わたくしはお父様とお母様と弟のガトラとずっとずっーーーと一緒に暮らすと言っておりますわよね?お父様は35歳という若さでもう物忘れが出て来たのですか?何度断られたら諦めるのですか?」

「失礼な!可愛いお前の嫁ぎ先を必死で考えて決めたのだ」

「いや!わたくしは大好きなガトラとずっーーーーーといたいのです!」

「大丈夫だ、ガトラとも毎日会える。そんなお前にとって、今度こそお似合いのいい相手を選んでやった」

「わたくし、髪の毛がたくさんあって、お鼻はそれなりの高さで、目は二重、お口はキリリとひきしまっていて、背はわたくしよりも20センチ以上高くて、わたくしよりも賢く、わたくしよりも馬術に優れた人がよろしくってよ?」

「大丈夫だ。お前より賢い人は探せばこの世にはたくさんいる。お前は身長が何センチだと思っているんだ。お前より背が高い男の方が多いだろう?」

「あら、失礼ね。わたくしこれでも最近3ミリほど伸びましたわ。おかげで155センチと1ミリですわ。わたくしより賢い人なんてあんまりいないと思うわ、わたくしこう見えて才女ですよ?」

「はは、わたしの娘だからな。優秀なのは当たり前!とにかく、明日は顔合わせだ。いいか、明日は抜け出して外出するのは禁止だからな。わかったな」

「はああ」大きなため息をつく。

「お父様。わたくしそんな事したことありませんわ」

「どこがだ?いつもいつも使用人達が探し回っているのを知っているんだぞ!」

 チッ!心の中で舌打ちをした。

「明日会えばいいのでしょう?」

「そうだ、しっかり用意をしておくように!」

 お父様はプリプリ怒りながら部屋を出て行った。

 大きな欠伸を堪えれば、目からは大粒の涙。
「ふああ、もう少し眠ろうかしら………うん?そう言えばわたくし、明日会う婚約者になる人の名前聞いていないわ」
 ーーまっ、いいか……

 ぽてんとまたベッドに横になるとウトウトと眠り始めた。

 ーーまっ、どうせ明日も顔合わせで終わるでしょう。いつものように向こうからお断りのお手紙が届くはずだもの。

 明日はどんな態度を取ろうかしら?嫌われるためには……
 ずっとお喋りしまくる?
 お茶をズズズッと音を立てて飲むのもいいかしら?
 それとも……素敵な服装と美しい化粧?(ド派手なドレスとド派手なメイク!)

 そんなことを考えながらミルヒーナはそのまま眠りについた。

 朝目覚めると屋敷のメイド達がミルヒーナを叩き起こした。

「お嬢様、早く起きてください!今日は10人目の婚約者との顔合わせの日ですよ!さっさと朝食を済ませてお化粧をしましょう。髪型はどうしましょうか?編み込みをたくさんしてアップにするならお時間もかかります。さあ、急いで急いで」


「わたくし……とても眠たいわ……」

 大きな欠伸をしながらベッドから動こうとしないミルヒーナを見て呆れもせず、慣れたメイド達は毛布を剥いでしまう。

「もう!寒いわ!」

「さっさと起きてくださいな!」

「もう!うちのメイド達はご主人様より立場が強いなんておかしいと思うの」

「私達は旦那様からミルヒーナ様には遠慮はいらないと言われておりますので!」

「酷いわ、わたくしはこの屋敷でお父様からも使用人達からも虐待に遭っているのね」
 ミルヒーナが手で顔を覆い泣いているふりをする。

「はいはい、なんとでも言ってください。私達が愛するミルヒーナ様」
 メイド達はいつも同じことを繰り返すミルヒーナには慣れているので返事も手慣れたもの。

 我が愛する伯爵令嬢のミルヒーナ様は社交界でも有名な変わり者。

 こよなく家族を愛している。どこか儚げなふわふわとした愛らしい令嬢。容姿だけなら彼女は引く手数多。

 ただ、魔法が使える者が多い世界で全く魔法が使えない珍しい令嬢。
 両親と同じ、かなりの魔力を持っているのに、何故かその魔力を活かせずにいる。

 本人は「まっ、仕方がないわよね」
 と、ヘラっと笑っている。

「だって気にしても使えないんだもの。それにここに居れば使えなくても困らないもの」

 家族に愛され、使用人にも大切にされ、この狭い屋敷の世界の中だけでのんびりと暮らす。

 両親はそれを心配して、魔法が使えなくても娘を大切にしてくれそうな婚約者を必死で探すこと10人目。

 魔力がなくても魔道具があるので生きてはいけるこの世界。
 ミルヒーナ自身、魔法が使えなくても生活には困らなかった。
 魔力は魔法が使える者が魔道具に注いでくれる。
 ただ魔力は多い方がやはり重宝される。
 だから魔法が使えなくても高い魔力を持つミルヒーナを欲しがる貴族は多い。
 でもミルヒーナ自身が欲しいのではなく、魔力を多く持つミルヒーナが産む子を欲しがっているだけなのだ。

 それがわかっているミルヒーナは、相手から婚約を断られるようにと、相手に我儘を言ったり、暴れたり、ド派手な服装をしたり、全て破談にしてきた。



 今回の婚約者候補は……

 それなのに………
 
 なんと!
 
 リヴィ・アルゼン。

 ミルヒーナの幼馴染だった。

「えっ?なんでリヴィかここにいるの?」

「お見合いの相手の名前も知らないで今日は来たの?」


 ミルヒーナを嘲笑うリヴィの笑顔にミルヒーナは顔を引き攣らせ後ろへと後ずさった。

「知らない!えっ?や、やだっ!」
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