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12話
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「アニア……やっと目が覚めたのね」
「お母様、姉様…兄様?」
みんなが心配そうにわたしを見ていた。
「ここは?」
周りをキョロキョロすると見たことがない場所にいた。
「お母様、ここは何処?」
「えっ?」「アニア何言ってんだ?」「アニア?」
ーーどうしてみんな変な顔をしているのかしら?
「ここは王都のお母様の親戚の家なの。アニアは倒れて寝込んだのよ。今はいつだと思っているの?」
「倒れた?わたし?………今は5月18日よ?だって大好きな仔馬のエルの誕生日がもうすぐなのよ?」
「……エルの誕生日はもうとっくに過ぎてしまったわ」
「え?嘘?だって……な、なんで?お母様?今は?」
「今はね、9月5日よ。アニアは4ヶ月近い間の記憶を失くしてしまったみたいね?」
「エルのお祝いは?」
「大丈夫よ、ちゃんとしてあげたわ。エルも貴女が思っているよりも大きくなっているわ。アニアの体調が落ち着いたら領地に帰りましょう。お父様も兄様達もみんなが帰ってくるのを楽しみにしているわ」
わたしは突然倒れて3日ほど寝込んでいたらしい。
兄様二人が
「アニアってほんとすぐ寝込むんだから!」
「なんかまたいつものアニアに戻ったな?最近アニア変だったのに」
と、よくわからないことを言う。
何にも覚えていないので、わたしが「変」だったと言われてもよくわからないや。
屋敷を去る時、侯爵家の当主のおじ様やお母様の友人や知人、お祖母様達がみんなお見送りに来てくれた。
知らない顔の人たちなんだけどわたしの顔を見て涙ぐんでいた。
わたしが記憶をなくした間、みんなと仲良くなったらしい。そう姉様二人が教えてくれた。
「そっか、じゃあ覚えていなくてごめんなさいって言わないといけないのね?」
「そうね、でもごめんなさいよりありがとうって言ってあげた方がいいと思うわ」
「?うん、わかった」
わたしは一人一人に抱きしめられて「ありがとう」とにっこり笑って挨拶をした。
馬車に乗りふと窓に顔を出した。
「アシュア、リヴェール、ダイアナ、キース、ヴィア!ありがとう」
わたしなのにわたしじゃない誰かがわたしの口を開かせた。
みんな驚くより嬉しそうに笑った。
わたしは自分が言ったくせにキョトンとして、でもみんなが見えなくなるまで窓から顔を出して手を振り続けた。
そして窓を閉めようとしたら、「あっ、止めて!」
馬車を無理やりとめてもらった。
何故かわからない。だけど馬車の扉を開けてもらって御者のおじさんに馬車から降ろしてもらった。
後ろからお母様も降りてきた。
「アニア、どうしたの?突然?」
「ジャスティア、少しだけアニアの体を借りるわ」
「え?」
「わたしやっぱり話したいの」
「エレファ様?」
「そう、もうわたしはアニアの中から消えるつもりだった。だけど最後にお願い」
わたしはアニアの意識を完全に眠らせた。
アニアの中にいるエレファではなく、完全にエレファとして『彼』のところへ走った。
子供の足だから遅い。
後ろから兄様が来てわたしを抱っこした。
「きゃっ」
「アニア、体弱いくせに、走るの遅いだろ?」
「あのお爺さんのところへ行きたいんだろう?」
向こうに立っているのは……ダニエルだった。
兄様はわたしをおろすと「行けよ」と言ってくれた。
「ダニエル?」
「君はやはりエレファなのか?」
「もう眠りにつこうと思っていたのに、まさか最後に目の前に現れるんだもの。無理矢理出てきてあげたわ」
「そうか……みんなから伝言を聞いた。君はもうエレファの記憶は失くなったと聞いたからこっそり見送りだけするつもりだった」
「そう……今は幸せ?」
「君の元に行きたいと何度も思ったよ。だけどこんな僕を君が受け入れるわけがない。どんな辛い人生でも生き続けることが僕の贖罪だと思って生きてきた……そろそろ君の元へ行くわけにはいかないだろうか?」
「あら?受け入れるわけがないわ」
「そうだな、それだけのことをしてきたのだから」
「違うわ、まだこれからダイアナやダイアナの子供達と向き合うのが貴方の贖罪よ。そしてダイアナ達が満足いくまで向き合ったら……そうね待っているわ。ただわたしがいるところに来ても貴方はずっとわたしに謝り続けるのよ?離れることはできないの?わかってる?」
「ああ、君に謝り続けるよ、絶対に離れない」
「わたし……行くわね。もうこの世に戻ることはないから……この体はアニアのもの、アニアに返さないとね」
「兄様?どうして馬車を降りてわたしはおんぶされているの?」
何故かみんなとお別れして馬車に乗り込んだはずなのに、兄様が「はあー」と溜息を吐きながらわたしをおんぶしている。
「アニアが幸せならいいや」
「だな、なんかこの数ヶ月、色々大変だったけど、面白かったな」
「うん、みんな大人達は隠してたけど、子供だって馬鹿じゃないんだ。アニアのことわかってるのにな」
「ほんと、俺ら二人だけ除け者にして。双子には話して俺らには何にも話してくれないんだから」
「兄様?なんのこと?」
わたしはよくわかんなくて兄様に聞いたけど
「お前は何にも知らなくていいんだ、アニアが笑ってくれたら」
「そんなことより早く体が丈夫になって一緒に虫取りに行こうぜ」
「え?やだよ」
◆ ◆ ◆
これにてエレファ編は終わりです。
読んで頂きありがとうございました。
「お母様、姉様…兄様?」
みんなが心配そうにわたしを見ていた。
「ここは?」
周りをキョロキョロすると見たことがない場所にいた。
「お母様、ここは何処?」
「えっ?」「アニア何言ってんだ?」「アニア?」
ーーどうしてみんな変な顔をしているのかしら?
「ここは王都のお母様の親戚の家なの。アニアは倒れて寝込んだのよ。今はいつだと思っているの?」
「倒れた?わたし?………今は5月18日よ?だって大好きな仔馬のエルの誕生日がもうすぐなのよ?」
「……エルの誕生日はもうとっくに過ぎてしまったわ」
「え?嘘?だって……な、なんで?お母様?今は?」
「今はね、9月5日よ。アニアは4ヶ月近い間の記憶を失くしてしまったみたいね?」
「エルのお祝いは?」
「大丈夫よ、ちゃんとしてあげたわ。エルも貴女が思っているよりも大きくなっているわ。アニアの体調が落ち着いたら領地に帰りましょう。お父様も兄様達もみんなが帰ってくるのを楽しみにしているわ」
わたしは突然倒れて3日ほど寝込んでいたらしい。
兄様二人が
「アニアってほんとすぐ寝込むんだから!」
「なんかまたいつものアニアに戻ったな?最近アニア変だったのに」
と、よくわからないことを言う。
何にも覚えていないので、わたしが「変」だったと言われてもよくわからないや。
屋敷を去る時、侯爵家の当主のおじ様やお母様の友人や知人、お祖母様達がみんなお見送りに来てくれた。
知らない顔の人たちなんだけどわたしの顔を見て涙ぐんでいた。
わたしが記憶をなくした間、みんなと仲良くなったらしい。そう姉様二人が教えてくれた。
「そっか、じゃあ覚えていなくてごめんなさいって言わないといけないのね?」
「そうね、でもごめんなさいよりありがとうって言ってあげた方がいいと思うわ」
「?うん、わかった」
わたしは一人一人に抱きしめられて「ありがとう」とにっこり笑って挨拶をした。
馬車に乗りふと窓に顔を出した。
「アシュア、リヴェール、ダイアナ、キース、ヴィア!ありがとう」
わたしなのにわたしじゃない誰かがわたしの口を開かせた。
みんな驚くより嬉しそうに笑った。
わたしは自分が言ったくせにキョトンとして、でもみんなが見えなくなるまで窓から顔を出して手を振り続けた。
そして窓を閉めようとしたら、「あっ、止めて!」
馬車を無理やりとめてもらった。
何故かわからない。だけど馬車の扉を開けてもらって御者のおじさんに馬車から降ろしてもらった。
後ろからお母様も降りてきた。
「アニア、どうしたの?突然?」
「ジャスティア、少しだけアニアの体を借りるわ」
「え?」
「わたしやっぱり話したいの」
「エレファ様?」
「そう、もうわたしはアニアの中から消えるつもりだった。だけど最後にお願い」
わたしはアニアの意識を完全に眠らせた。
アニアの中にいるエレファではなく、完全にエレファとして『彼』のところへ走った。
子供の足だから遅い。
後ろから兄様が来てわたしを抱っこした。
「きゃっ」
「アニア、体弱いくせに、走るの遅いだろ?」
「あのお爺さんのところへ行きたいんだろう?」
向こうに立っているのは……ダニエルだった。
兄様はわたしをおろすと「行けよ」と言ってくれた。
「ダニエル?」
「君はやはりエレファなのか?」
「もう眠りにつこうと思っていたのに、まさか最後に目の前に現れるんだもの。無理矢理出てきてあげたわ」
「そうか……みんなから伝言を聞いた。君はもうエレファの記憶は失くなったと聞いたからこっそり見送りだけするつもりだった」
「そう……今は幸せ?」
「君の元に行きたいと何度も思ったよ。だけどこんな僕を君が受け入れるわけがない。どんな辛い人生でも生き続けることが僕の贖罪だと思って生きてきた……そろそろ君の元へ行くわけにはいかないだろうか?」
「あら?受け入れるわけがないわ」
「そうだな、それだけのことをしてきたのだから」
「違うわ、まだこれからダイアナやダイアナの子供達と向き合うのが貴方の贖罪よ。そしてダイアナ達が満足いくまで向き合ったら……そうね待っているわ。ただわたしがいるところに来ても貴方はずっとわたしに謝り続けるのよ?離れることはできないの?わかってる?」
「ああ、君に謝り続けるよ、絶対に離れない」
「わたし……行くわね。もうこの世に戻ることはないから……この体はアニアのもの、アニアに返さないとね」
「兄様?どうして馬車を降りてわたしはおんぶされているの?」
何故かみんなとお別れして馬車に乗り込んだはずなのに、兄様が「はあー」と溜息を吐きながらわたしをおんぶしている。
「アニアが幸せならいいや」
「だな、なんかこの数ヶ月、色々大変だったけど、面白かったな」
「うん、みんな大人達は隠してたけど、子供だって馬鹿じゃないんだ。アニアのことわかってるのにな」
「ほんと、俺ら二人だけ除け者にして。双子には話して俺らには何にも話してくれないんだから」
「兄様?なんのこと?」
わたしはよくわかんなくて兄様に聞いたけど
「お前は何にも知らなくていいんだ、アニアが笑ってくれたら」
「そんなことより早く体が丈夫になって一緒に虫取りに行こうぜ」
「え?やだよ」
◆ ◆ ◆
これにてエレファ編は終わりです。
読んで頂きありがとうございました。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(10件)
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なかなか読む勇気がなくて
やっと読めました。
読んで、よかったです。
エレファが辛いなか死んでしまって
どんなに辛かっただろうと
思ってましたが、
このお話で少しでも救われたと思います。
ダニエルもエレファに会えて、
救われたと思います。
感想ありがとうございました
二人は結ばれなくてもまた会える時が来るので、その時を楽しみにしています。
最後はダニエルもエレファに許され、死後の永遠の縁まで約束されたんですね。
これでダニエルとエレファの両方が傷つき苦痛だった心が救われたようです。
ダニエルはエレファの言葉通り、もっと償うことが残っていますが。
本当に余韻が残る最終話でした。
ありがとうございます。
感想ありがとうございます。
ダニエルまで救われること嫌がられる読者もいるかなと思いつつ、なのでこの話を読みたいと思う方だけに別の話として書きました。
やっとこの辛い話が終わりました。
・°°・(>_<)・°°・。
次は楽しい話を書きます!
泣きました。
今までの事を思い出し泣きました。
ほんと良かったです。
変な言い方ですが…
皆んな幸せになってほしいです!
もちろんダニエルもエレファも
今度こそ一緒に
幸せに過ごしてほしいです。
感想ありがとうございます。
最後の終わらせ方は決めて書き始めたのですが、喜んでもらえて何よりです。
ホッとしました。