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10話
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高熱で寝込む事一週間。
なんとか起き上がることが出来るようになった。客室のわたしの寝ている部屋には、兄姉からのお見舞いの品がたくさん置かれていた。
たくさんの綺麗なお花。これ絶対一番上の兄様からだ!
可愛い花のブローチ。これは双子の姉様から。
王都で今流行っている?らしいびっくり箱。………。
他にはよくわからない動物が描かれた絵。
本は……喧嘩に勝つ方法……虫の育て方………。
兄様達のチョイスはいつものことなので読まずに一応捨てないで取っておくことにしよう。
どうせ後で「本返してくれ」と言いにくるはずだから。
それでもいつも寝込んでばかりのわたしにみんな文句も言わず大切にしてくれる。
「アニア、やっと起き上がれるようになったばかりだから無理はしてはだめよ。ただね、上の二人とお父様は領地へもう帰ってしまったの」
わたしが寝込んでいる間に三人は帰ってしまった。
「ごめんなさい、わたしが寝込んだから」シュンとなっていると、「そんなことよりダイアナが明日会いにくるわ。そしてお義母様もこちらに顔を出してくださると連絡が来たの」
「ほんと?二人に会えるの?」
「ええ、だから三人が帰ったことは気にしない。ここに来るまでの道のりを家族でしっかり楽しんだんだもの。いい思い出は出来たわ」
「……うん」
「もうすぐダイアナの子供達も来るのよ」
「そっかあ、ダイアナはキースと結婚したのよね」
最近はアニアとして過ごすことが多かったのに……ダイアナのことを思い出すと、やはりエレファだった頃の気持ちが強くなってしまう。
そして、夜にヴィアがわたしの部屋に来て「久しぶりに話をしよう」と言った。
「エレファ様……として辛くはない?前世の記憶に悩まされているのではないのか心配なんだ」
「お父様とお母様がエレファでもあるわたしを何も言わずに受け入れてくれたの。
そしてここに連れて来てくれた。それからは悪夢を見ることはなくなったの。今は嫌だった時のことを考えるよりもリヴェールやアシュアに会えること、ダイアナに会えることが楽しみなの。
ヴィアのように、私がエレファだと信じてもらえるのか心配だけど」
「………たぶんわかると思うよ。貴女は幼いのにエレファ様のあの独特の雰囲気が何故かあるんだ。どんな人も惹きつける魅力がね。あ、僕は幼女趣味はないからね?」
「もちろんわかっているわ」クスクス笑って答えた。
「わたくしが常に見張っているからアニア、心配しないでちょうだい」
「ジャスティアはいい母親になったな」
「当たり前よ、七人も愛する大切な子供がいるのよ」
次の日の朝スッキリと目覚めたわたしは侯爵家の侍女さんに可愛く髪型を整えてもらった。
「アニア様、お二人のお姉様とお揃いにしましたよ」
お姉様達が「アニアと一緒」と言って、手を繋ぎ三人で鏡の前に立ってポーズを取りニコニコしていたらお母様が来て
「まあ!我が家の三人の天使。とっても可愛いわ」と三人まとめて抱きしめてくれた。
「今日はお祖母様にお会いする日なの。みんな初めてだけど、とても優しい人なの」
いつものお母様より今日のお母様は少しそわそわして、でも寂しそうにどこか遠くを見ている気がする。
そしてわたし達はお祖母様であるリヴェールに会った。
みんなで挨拶をするとお母様に「みんな可愛らしいわね。ジャスティア、素敵な母親になったわね」と優しく微笑んでいた。
ーー懐かしい。わたしの大好きだったリヴェールのあの笑顔。
わたしは二人が涙を流しながら再会する姿を静かに見守った。
そして孫達一人一人に声をかけて抱きしめてくれた。
最後のわたしには「アニア?忘れ物を渡したくて、はいこれ」とわたしの小さな手の中にそっとハンカチを渡してくれた。
ーーこれは……わたしがまだ元気だった頃彼女に会いにいった時に忘れていったハンカチだった。
「……まだとって置いてくれたの?」震える声で小さく呟いた。
「当たり前じゃない。いつかわたしの前に戻って来てくれると信じていたわ。お帰りなさい、わたしの大切なエレファ」
そう言ってみんなと同じように抱きしめてくれた。
みんなが寝静まった頃、リヴェールはヴィアとわたしの部屋を訪れた。
「先にヴィリアムと会うなんて狡いわ。親友のわたしを差し置いて」
「仕方がないでしょう。アニアを見ればエレファ様だとわかったんですから」
「お義母様は、アニアと会えることが楽しみだったのですね?わたくしには別に会いたいと思っていなかったのでしょう?」
お母様が不機嫌に言った。
「ジャスティアったらいい歳して娘にヤキモチ妬くなんて!貴方に会えることを一番心待ちにしていたのよ、ただ貴女の手紙を読んで半信半疑だったの」
「わたくしが嘘をつくとでも?」
「そんなことは言っていないわ。ただ生まれ変わるならダイアナのところだと思っていたらまさかの貴女のところだからよ」
「まさかのってどう言う意味かしら?わたくしではエレファ様の母親にはなれないと?」
「違うわ、でも……結びつかなかったのよ」
「お母様……泣かないで。ここに来ることを一番楽しみにしていたのはお母様なんです、リヴェール。
そして一番怖がっていたのも。ここに来ることをかなり悩んだと思うの。だけどわたしのために勇気を振り絞って来ると決断してくれたんです」
「ジャスティア、ごめんなさい。わたしはずっと貴女を愛しているの……なのに何故か昔から貴女とは言い合いばかり。ずっと貴女を守ってあげられなくて後悔していたのにね。厳しいことばかり言って……だから母親として失格だったのよね」
「ごめんなさい、違うの。貴女の厳しさにいつも反抗してばかりだったけど……本当はわかっていたの。
わたしをちゃんと見てくれてわたしにちゃんと心からの言葉をくれていたこと。だけど未だに素直になれない、七人も産んで育てているのに……貴女の前では我儘で傲慢なわたしに戻ってしまう」
二人は三十年以上の時を経てやっと親子になった。
わたしの大好きなお母様と、親友でお祖母様のリヴェール。わたしが前世の記憶を取り戻したのはこのためだったのかしら。
なんとか起き上がることが出来るようになった。客室のわたしの寝ている部屋には、兄姉からのお見舞いの品がたくさん置かれていた。
たくさんの綺麗なお花。これ絶対一番上の兄様からだ!
可愛い花のブローチ。これは双子の姉様から。
王都で今流行っている?らしいびっくり箱。………。
他にはよくわからない動物が描かれた絵。
本は……喧嘩に勝つ方法……虫の育て方………。
兄様達のチョイスはいつものことなので読まずに一応捨てないで取っておくことにしよう。
どうせ後で「本返してくれ」と言いにくるはずだから。
それでもいつも寝込んでばかりのわたしにみんな文句も言わず大切にしてくれる。
「アニア、やっと起き上がれるようになったばかりだから無理はしてはだめよ。ただね、上の二人とお父様は領地へもう帰ってしまったの」
わたしが寝込んでいる間に三人は帰ってしまった。
「ごめんなさい、わたしが寝込んだから」シュンとなっていると、「そんなことよりダイアナが明日会いにくるわ。そしてお義母様もこちらに顔を出してくださると連絡が来たの」
「ほんと?二人に会えるの?」
「ええ、だから三人が帰ったことは気にしない。ここに来るまでの道のりを家族でしっかり楽しんだんだもの。いい思い出は出来たわ」
「……うん」
「もうすぐダイアナの子供達も来るのよ」
「そっかあ、ダイアナはキースと結婚したのよね」
最近はアニアとして過ごすことが多かったのに……ダイアナのことを思い出すと、やはりエレファだった頃の気持ちが強くなってしまう。
そして、夜にヴィアがわたしの部屋に来て「久しぶりに話をしよう」と言った。
「エレファ様……として辛くはない?前世の記憶に悩まされているのではないのか心配なんだ」
「お父様とお母様がエレファでもあるわたしを何も言わずに受け入れてくれたの。
そしてここに連れて来てくれた。それからは悪夢を見ることはなくなったの。今は嫌だった時のことを考えるよりもリヴェールやアシュアに会えること、ダイアナに会えることが楽しみなの。
ヴィアのように、私がエレファだと信じてもらえるのか心配だけど」
「………たぶんわかると思うよ。貴女は幼いのにエレファ様のあの独特の雰囲気が何故かあるんだ。どんな人も惹きつける魅力がね。あ、僕は幼女趣味はないからね?」
「もちろんわかっているわ」クスクス笑って答えた。
「わたくしが常に見張っているからアニア、心配しないでちょうだい」
「ジャスティアはいい母親になったな」
「当たり前よ、七人も愛する大切な子供がいるのよ」
次の日の朝スッキリと目覚めたわたしは侯爵家の侍女さんに可愛く髪型を整えてもらった。
「アニア様、お二人のお姉様とお揃いにしましたよ」
お姉様達が「アニアと一緒」と言って、手を繋ぎ三人で鏡の前に立ってポーズを取りニコニコしていたらお母様が来て
「まあ!我が家の三人の天使。とっても可愛いわ」と三人まとめて抱きしめてくれた。
「今日はお祖母様にお会いする日なの。みんな初めてだけど、とても優しい人なの」
いつものお母様より今日のお母様は少しそわそわして、でも寂しそうにどこか遠くを見ている気がする。
そしてわたし達はお祖母様であるリヴェールに会った。
みんなで挨拶をするとお母様に「みんな可愛らしいわね。ジャスティア、素敵な母親になったわね」と優しく微笑んでいた。
ーー懐かしい。わたしの大好きだったリヴェールのあの笑顔。
わたしは二人が涙を流しながら再会する姿を静かに見守った。
そして孫達一人一人に声をかけて抱きしめてくれた。
最後のわたしには「アニア?忘れ物を渡したくて、はいこれ」とわたしの小さな手の中にそっとハンカチを渡してくれた。
ーーこれは……わたしがまだ元気だった頃彼女に会いにいった時に忘れていったハンカチだった。
「……まだとって置いてくれたの?」震える声で小さく呟いた。
「当たり前じゃない。いつかわたしの前に戻って来てくれると信じていたわ。お帰りなさい、わたしの大切なエレファ」
そう言ってみんなと同じように抱きしめてくれた。
みんなが寝静まった頃、リヴェールはヴィアとわたしの部屋を訪れた。
「先にヴィリアムと会うなんて狡いわ。親友のわたしを差し置いて」
「仕方がないでしょう。アニアを見ればエレファ様だとわかったんですから」
「お義母様は、アニアと会えることが楽しみだったのですね?わたくしには別に会いたいと思っていなかったのでしょう?」
お母様が不機嫌に言った。
「ジャスティアったらいい歳して娘にヤキモチ妬くなんて!貴方に会えることを一番心待ちにしていたのよ、ただ貴女の手紙を読んで半信半疑だったの」
「わたくしが嘘をつくとでも?」
「そんなことは言っていないわ。ただ生まれ変わるならダイアナのところだと思っていたらまさかの貴女のところだからよ」
「まさかのってどう言う意味かしら?わたくしではエレファ様の母親にはなれないと?」
「違うわ、でも……結びつかなかったのよ」
「お母様……泣かないで。ここに来ることを一番楽しみにしていたのはお母様なんです、リヴェール。
そして一番怖がっていたのも。ここに来ることをかなり悩んだと思うの。だけどわたしのために勇気を振り絞って来ると決断してくれたんです」
「ジャスティア、ごめんなさい。わたしはずっと貴女を愛しているの……なのに何故か昔から貴女とは言い合いばかり。ずっと貴女を守ってあげられなくて後悔していたのにね。厳しいことばかり言って……だから母親として失格だったのよね」
「ごめんなさい、違うの。貴女の厳しさにいつも反抗してばかりだったけど……本当はわかっていたの。
わたしをちゃんと見てくれてわたしにちゃんと心からの言葉をくれていたこと。だけど未だに素直になれない、七人も産んで育てているのに……貴女の前では我儘で傲慢なわたしに戻ってしまう」
二人は三十年以上の時を経てやっと親子になった。
わたしの大好きなお母様と、親友でお祖母様のリヴェール。わたしが前世の記憶を取り戻したのはこのためだったのかしら。
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