【完結】貴方の瞳に映るのは

たろ

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9話

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 わたしの記憶にあるジズリーヌ国よりも高い建物が増え、街も綺麗になっていた。

「お母様、わたしより目がうるうるしているわ」
 こっそり耳元で話しかけると「うるさいわね」と言いながら小さなわたしの体ごと抱きしめてきた。

 わたしを抱きしめる手は微かに震えていた。
 いつも元気で兄様達を怒鳴っている姿とは打って変わって馬車の中から外をずっと黙って見ているお母様に、いつも元気な兄様達は静かに見守っていた。

「今日はみんな静かだな」
 お父様の一言からみんなホッとしたのか口を開いた。

「だってさ、母様がいつもと違うんだもん」
「そうだよ、アニアを抱っこしてうるうるしてるんだもん」
「鬼の目にも涙ってこう言うことを言うのかな」

「はあああ?誰が鬼よ!!わたしは心優しい貴婦人よ!」
 今馬車に乗っているのはわたしと3番目のグレンと4番目のビル。そして両親。

 残りはもう一台の馬車に分かれて乗っている。
 下二人はとっても元気なので両親が目を離すと何をしでかすかわからないからと一番下のわたしと三人、この馬車に乗ることになった。

 いつもの楽しい元気なお母様に戻って兄様達は嬉しそう。

 でもわたしはお母様の服を掴んでずっと震えていた。
 もうすぐ嫌な思い出しかない公爵家の前の屋敷を通過する。心がザワザワして吐きそう。

 お父様はこの道がどう言う道かは知らない。
 だけどお母様はわたしの気持ちがわかったのか、抱っこしたまま耳元でそっと声をかけた。

「大丈夫、貴女に酷い目にあわせたあの男はもういないの。貴女は今から大好きなダイアナに会いにいくのよ。ま、わたしは会いたくないのだけどね」

「うん」いつものお母様の口調に少しクスッと笑った。

「お母様、ありがとう」

 お父様はそんな二人を何も言わず黙って見守ってくれていた。後で知ったのだけどお父様はこの国の地理にも詳しいしお母様の若かりし頃の出来事はほぼ把握されていて、わたしの前世の記憶の出来事も聞いたことがあったらしい。
 だけど、お父様は態とふざける事で知らん顔をしていてくれたとずっと後で話してくれた。






 今目の前にある屋敷は、わたしが留学した頃に住んでいたリヴェールの家。
 今は前王妃の実家の侯爵家として知られている。リヴェールのお兄様の長男が当主をしている。

 わたし達大家族が行くと

「はい、そこに整列!」

 一番上の兄様14歳を筆頭に2番目の12歳、3番目の9歳、4番目の8歳、5と6番目の7歳、そして7番目の6歳が横に並んだ。

 ちなみに2番目と3番目が歳が離れているのは、お父様が数年間領地を離れて戦いに行かれていたからだった。

「「「初めまして、よろしくお願い致します」」」

 一斉に当主に挨拶をした。

 わたしはあの小さかった男の子が、こんなおじさんになって当主になったのを感無量になりながら見つめた。

「小さなレディ、僕の顔に何かついているのかいい?」
「ご、ごめんなさい。おじ様ってリヴェール様に似ていらっしゃるから」

 思わず言った言い訳に「こんな小さなレディが叔母の顔を知っているなんて」と驚かれた。

「あら?知っていて当たり前よ?わたくしが写真をアニアには見せたもの」

「…あっ、う、うん、お母様が見せてくださったの。だからリヴェール様のこともヴィア様のことも知っているの」

「……後でアニア嬢、僕とお話をしよう」

 ーー間違えた。焦ってエレファの時の呼び方をしてしまった。

『ヴィア』これはわたしが幼い彼に名付けたあだ名。
 わたししか呼ばないはずの名前を呼んでしまった。


『もういつもわたしに付き纏って!すぐに泣くのねヴィリアム。ふふ可愛いヴィア』


「お母様……」

 お母様はわたしの困った顔を見て
「どうせもうすぐお義母様がこちらに来られるから隠すのはやめましょう。そばにいてあげるわ」







 そして、みんなが客室に案内されてから

「アニアは今から王都のお医者様に診察をしてもらうからあなた達は静かにお勉強をしていなさい。わかったわね」

 お母様は一緒について来た使用人に子供達をお願いしてわたしをお父様が抱っこして部屋を出た。

 わたしの体が弱いのはみんな知っているので
「アニアまた熱が出ないといいな」と優しく声をかけてくれた。

 実はもう、少しだけ熱が上がってきていた。
 グレンは気づいていて、「母様、早くアニアを連れていってやって」と急かしてくれた。

「アニア、ご対面の前にお医者様に診て貰いましょう」

「お母様、たぶんこれを逃したらお熱で話せなくなるわ。先にお話ししたい」

「アニア、まだ頑張れるか?」
 お父様が少し考えてから「先に話そう」と決断してくれた。

 部屋に入ると、ヴィアが考え込むようにして座っていた。幼い頃の面影がある。

 わたしが可愛がっていたヴィア。

 信じてくれるだろうか?

「アニア嬢、君はエレファ様なのか?」

 ずばり聞いてきて驚いた。

「どうしてわかったの?ヴィア?」
 わたしは隠す事なく答えた。

「一番の理由はもちろん僕を『ヴィア』と呼んだ事だ。そのあだ名はエレファ様がつけたし、エレファ様しか呼ばない。
 しかも『ヴィ』の発音が独特なんだ。ブラン王国出身のエレファ様だからそんな言い方になるんだよ。それに君は僕をとても懐かしそうに見ていただろう?屋敷の中に入ってきた時も迷わず自然に歩いていた」

「え?歩いているところまで見られていたの?」

「みんな子供達はキョロキョロと珍しそうに歩くのに対して、君は全部知っているかのように慣れた屋敷のように自然に歩いていたんだ。だから逆に君に目がいってしまったんだ」

「ふふ、久しぶりねヴィア」

「小さなレディのエレファ様にお会いできるなんて光栄です。貴女が昔言っていたブラン王国の魔法が目の前で見れたのですね?」

「そう言えばよくヴィアはブラン王国の魔法のお話を聞きたがっていたわよね?」

「はい、子供の頃、貴女から聞く話に夢中になっていました。まさか本当に前世の記憶を持って生まれ変わるなんて……でもいつか僕の前に現れるかもしれないと貴女が亡くなった時思ったんですよ、ま、そう願わずにいられなかったんです、信じたくなくて」

 そう言ってアニアであるわたしを抱きしめてくれた。

「うん?体が熱い。熱があるのかな?」

「ヴィリアム、感動の再会が終わったのならさっさと医者を呼んでちょうだい。アニアは体が弱いのよ。後でわたくしから事情は話すから」

「わかった、エレファ様……いやアニア嬢。そこのソファに寝ていなさい。すぐに医者を呼んでくるから」

 そう言って当主自ら走って部屋を出ていった。

「ほんと、ヴィリアムって変わらないわね。落ち着きがないんだから!」
 年上の侯爵様に呼び捨てで命令するお母様に、わたしは頭がフラフラしながらも、思わずお母様らしいと笑った。
 そして緊張が弛んだのだろう、そのまま意識を手放し高熱で寝込むことになった。





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