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新しい恋。
番外編 リリアンナの後悔③
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目が覚めた。
白い天井と白い壁。
ずっともう一度だけ見たいと思っていた空が、横を振り向くと見えた。
ただそれだけで……涙が溢れた。
「こ……こ…は?」
小さな掠れた声をなんとか絞り出した。
誰もいないと思っていたらカイお兄様が可愛がっているオリエと言う女騎士が部屋の中にいた。
「リリアンナ様、やっとお目覚めになられたのですね?」
とても優しい声。
「お水を少しでも飲まれませんか?」
寝ているわたしの体を少しだけ起こしてくれて背中に枕を当てて座る体勢になった。
水差しからコップに水を注いで、「どうぞ」とわたしに差し出した。
でも体に力が入らないわたしにはコップを持つ力さえなかった。
それに気付き彼女がコップを持って少しずつわたしの口に水を含ませるように飲ませてくれた。
ーー美味しい。
言葉にならないけど思わずゴクゴクと飲んでいた。
「リリアンナ様、辛かったでしょう?」
オリエ……様はわたしが水を飲み終わるともう一度そっと寝かせてくれた。
「あまり食事が摂れなかったのですね?体が衰弱していますよ」
わたしの手を優しく握りしめた。
「お助けできなくて申し訳ありませんでした。全て貴女が列車事故を指示したように仕組まれていました。カイさんですらそのことを見破るのは大変でした。犯人達が捕まった時、全員が貴女の名前を出し、同じことを言い、貴女が全て悪いんだと口裏を合わせていました」
声が出にくいわたしは黙って頷いていた。
「でも貴女は列故事故だけは指示していないとカイさんに訴えたのでカイさんは一人でもう一度調べ始めました。何度聞いても同じことしか言わない犯人達に違和感を覚えて、囚われた犯人達の家族や友人知人達を片っ端から調べたんです。そしたら犯人達はリリアンナ様と接触したことがないとわかったんです。
全員が接触したことがあると言った人物はリリアンナ様の側近だったユリウス殿でした」
「ユ…リ、ウス?」
驚き目を見開いて聞き直す。
ーーユリウスはわたしのどんな我儘も聞いてくれた、そして『リリアンナ様のためなら』といつも笑ってくれたお兄様みたいな人。
「はい、調べれば調べるほど『黒』で怪しい人物でした。前国王の派閥にユリウスの父親はいたのに言葉巧みに自分は違うと逃げ切っていました。その次男のユリウスは、貴女のそばで仕えながら陛下の評判をなんとか落として少しでも陛下の治世を揺らごうと画策していたみたいです」
ーーわたしはお兄様の地位を揺らごうとしていたの?
わたしの傲慢さや我儘がお兄様にも迷惑をかけようとしていたなんて……バズールが好きだから、バズールとライナが幸せになるのが許せないからと、まわりを使い酷いことばかりしていた。
「リリアンナ様……貴女がバズール様やライナ様にしたことは決して許されることではありません。でも何もしていないことまで罪を被る必要はありません。貴女は我儘から人を傷つけた、でも人殺しはしていないのです」
「殺して……いない?」
涙が溢れた。
ずっとわたしの足元に亡くなった人たちが絡みついて、離してくれなかった。自分の愚かさのせいでたくさんの命を奪ったのに生き続けなければいけない、それが恐怖だった。「いっそ処刑してくれれば…」何度そう思ったことか。
まだわたしのそばには「苦しい」「どうして死ななければいけなかったの?」とわたしの足を持ち縋っている人の姿が見える。
『わたしはしていないから離して』なんて死んだ人たちに言うつもりはない。
わたしが傲慢で我儘だったから主犯に祭り上げられたのだ。それはわたし自身が蒔いた種だ。
フラフラとした頭の中、常に思考回路が回らずボッーとした日々の中で過ごしたわたしの意識が少しずつ正常に動き始めた。
やっと少しずつ言葉も出始めた。
「オリエ様……本当のこと…がわかって……少しだけホッ……としま…した。でもやは……りわたし……の責任です。ユリウス……の悪意に…気がつ…きもせず彼を…側近と…して扱っ…てきた…のだから……」
なんとか言い終わるとわたしは疲れてまた意識を失ってしまった。
足元に絡みつく亡くなった人たちの憎悪と悲しみがわたしを眠りへと誘う。
白い天井と白い壁。
ずっともう一度だけ見たいと思っていた空が、横を振り向くと見えた。
ただそれだけで……涙が溢れた。
「こ……こ…は?」
小さな掠れた声をなんとか絞り出した。
誰もいないと思っていたらカイお兄様が可愛がっているオリエと言う女騎士が部屋の中にいた。
「リリアンナ様、やっとお目覚めになられたのですね?」
とても優しい声。
「お水を少しでも飲まれませんか?」
寝ているわたしの体を少しだけ起こしてくれて背中に枕を当てて座る体勢になった。
水差しからコップに水を注いで、「どうぞ」とわたしに差し出した。
でも体に力が入らないわたしにはコップを持つ力さえなかった。
それに気付き彼女がコップを持って少しずつわたしの口に水を含ませるように飲ませてくれた。
ーー美味しい。
言葉にならないけど思わずゴクゴクと飲んでいた。
「リリアンナ様、辛かったでしょう?」
オリエ……様はわたしが水を飲み終わるともう一度そっと寝かせてくれた。
「あまり食事が摂れなかったのですね?体が衰弱していますよ」
わたしの手を優しく握りしめた。
「お助けできなくて申し訳ありませんでした。全て貴女が列車事故を指示したように仕組まれていました。カイさんですらそのことを見破るのは大変でした。犯人達が捕まった時、全員が貴女の名前を出し、同じことを言い、貴女が全て悪いんだと口裏を合わせていました」
声が出にくいわたしは黙って頷いていた。
「でも貴女は列故事故だけは指示していないとカイさんに訴えたのでカイさんは一人でもう一度調べ始めました。何度聞いても同じことしか言わない犯人達に違和感を覚えて、囚われた犯人達の家族や友人知人達を片っ端から調べたんです。そしたら犯人達はリリアンナ様と接触したことがないとわかったんです。
全員が接触したことがあると言った人物はリリアンナ様の側近だったユリウス殿でした」
「ユ…リ、ウス?」
驚き目を見開いて聞き直す。
ーーユリウスはわたしのどんな我儘も聞いてくれた、そして『リリアンナ様のためなら』といつも笑ってくれたお兄様みたいな人。
「はい、調べれば調べるほど『黒』で怪しい人物でした。前国王の派閥にユリウスの父親はいたのに言葉巧みに自分は違うと逃げ切っていました。その次男のユリウスは、貴女のそばで仕えながら陛下の評判をなんとか落として少しでも陛下の治世を揺らごうと画策していたみたいです」
ーーわたしはお兄様の地位を揺らごうとしていたの?
わたしの傲慢さや我儘がお兄様にも迷惑をかけようとしていたなんて……バズールが好きだから、バズールとライナが幸せになるのが許せないからと、まわりを使い酷いことばかりしていた。
「リリアンナ様……貴女がバズール様やライナ様にしたことは決して許されることではありません。でも何もしていないことまで罪を被る必要はありません。貴女は我儘から人を傷つけた、でも人殺しはしていないのです」
「殺して……いない?」
涙が溢れた。
ずっとわたしの足元に亡くなった人たちが絡みついて、離してくれなかった。自分の愚かさのせいでたくさんの命を奪ったのに生き続けなければいけない、それが恐怖だった。「いっそ処刑してくれれば…」何度そう思ったことか。
まだわたしのそばには「苦しい」「どうして死ななければいけなかったの?」とわたしの足を持ち縋っている人の姿が見える。
『わたしはしていないから離して』なんて死んだ人たちに言うつもりはない。
わたしが傲慢で我儘だったから主犯に祭り上げられたのだ。それはわたし自身が蒔いた種だ。
フラフラとした頭の中、常に思考回路が回らずボッーとした日々の中で過ごしたわたしの意識が少しずつ正常に動き始めた。
やっと少しずつ言葉も出始めた。
「オリエ様……本当のこと…がわかって……少しだけホッ……としま…した。でもやは……りわたし……の責任です。ユリウス……の悪意に…気がつ…きもせず彼を…側近と…して扱っ…てきた…のだから……」
なんとか言い終わるとわたしは疲れてまた意識を失ってしまった。
足元に絡みつく亡くなった人たちの憎悪と悲しみがわたしを眠りへと誘う。
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