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新しい恋。
最終話
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「マリアナ、行ってくるわ!」
「頑張るのよ!素直にならないとダメだからね?喧嘩はしない様に!」
「わかってるわ!たぶん………大丈夫、だと……思うわ」
バズールとのんびり街中を過ごすことを考えてドレスはやめて、今流行りの白のリボンカラー ブラウスにワインレッド色のボウタイのボールガウンワンピースを選んだ。
裾がフリルになっていて動くたびにフワッとなる。
ドレスの時に着るコルセットが不要で、重たくない。ワンピースなら歩いて回るのも楽だし、しっかり楽しめそう。
オリソン国へ来てからドレスを着るよりも可愛いワンピースを着ることが増えた。
髪も下ろしてカールにしてもらった。両サイドは編み込んでもらいハーフアップにした。
いつもきちんと結い上げるかひとつにきちんと結んでいたので、久しぶりに髪を下ろした。
ーーバズールは少しは可愛いと思ってくれるかしら?て言うか気づいてはくれても褒めてはもらえないかも……
お互い幼馴染の関係が長すぎて、甘い空気になるのが難しい。
「ちょっとはイチャイチャ仲良くしてみたいのだけど……」
女子寮を出て男子寮に近い門に立ってバズールを待った。
急いで出たのはいいけど本当は30分ほど約束より早く出てしまった。そわそわして落ち着かなくてつい部屋を早く出てしまった。
バッグにはバズールへのプレゼントもしっかり入れた。
「ライナ、ごめん遅くなった」
バズールは時間ギリギリに待ち合わせの場所へとやってきた。いつものわたしなら「遅い!」と怒るのだけど今日だけは我慢した。
だって最初から喧嘩しちゃうと一日が嫌な気分になり楽しく過ごせないもの。
お互い好きだと自覚して初めてのデートで最初から喧嘩なんてね、やっぱりいい思い出になんてならないもの。
「今日はどこへ行く?夕陽の見える丘に行くには早いだろう?何か希望はある?」
「うん、ちょうど買いたい本があったの。それからマリアナが今オススメのスイーツのお店を教えてくれたの。おやつの時間にそこで何か食べたいわ。バズールはどこか行きたいところは?」
「俺?うーん特にない。本屋に行くならちょうど欲しいと思ってたのがあるから買おうかな」
「そう、じゃあ行きましょう!」
学校の門を出るとすぐに乗合馬車の停留場がある。そこで少し待てば街へ向かう馬車を出してくれる。
「ライナ今日は馬車を用意してあるんだ」
乗合馬車ではなく個別で依頼しておいた馬車が待っていた。
座り心地のいい貴族仕様の馬車は学生の中でもそれなりにお金がないと借りられない。かなり高額に設定してある。
お金儲けの仕方をここで習った気分だった。
国へ帰ったら高級馬車の賃貸業もいいかもしれないなんて考えながら馬車に乗り込んだ。
「ライナお手をどうぞ」
バズールの手を借りて馬車に乗る。
バズールは女性に対してとても優しい。ちょっとしたことでも気がきくし、さりげない優しさに女性は思わずドキッとする。だけど、しつこいアプローチに対してはキッパリと拒絶するので考えてみたらバズールに女性の影はなかった。
どんなにモテても彼が誰かと変な関係になったとかデートをしたとか話を聞いたことがない。
こんな優良物件なのに、婚約者すらいなかった。
思わずジーッとバズールを見つめてしまっていたのだろう。
「ライナ気持ち悪いよ。黙ったまま俺の顔を見て。何かついてる?」
バズールが呆れながらわたしの鼻を摘んだ。
「もう!痛いじゃない!」
「馬車に乗ったと思ったら無言で俺の顔を見ているんだ。一体また何を考えているの?うちのお嬢様は?」
「あー、うーん……バズールって、すっごくモテるのにどうして婚約者もいないし恋人もいなかったのかしら?リーリエ様もリリアンナ殿下も貴方に好意を寄せていたから、近くにいる従姉妹のわたしがなぜか巻き込まれてしまったじゃない?」
「……まだ気がつかないの?」
「へ?何に?」
「俺、シエルとの婚約解消の後はずっとライナにアピールしてたつもりだったのに。
ずっと諦めようとしていたのに……お前がシエルと結婚して仕舞えば俺の気持ちも諦めがつくと思ってたんだ。だからライナが結婚したら留学して忘れる予定だった」
ーーえ?
確かにシエルと後少しで結婚する予定だった。リーリエ様のことがなければ……今頃は幸せな家庭を築いていただろう。
「俺が好きなのはライナだけなんだ。ライナが幸せならそれでいいと思っていたしこの気持ちを伝えるつもりなんてなかった。リリアンナ殿下にどんなにアプローチされてもお前への気持ちは変わらなかった」
「嘘!だってリリアンナ殿下との結婚受け入れようと考えたこともあったよね?」
「あれは……同情と諦めだよ。俺がリリアンナ殿下と結婚すればもう殿下がライナに執拗に絡むことはないと思ったし、まあライナに気持ちが通じることはないのなら諦めてリリアンナ殿下のために結婚するのもいいかなと一瞬思ったんだ、好きではないし愛してもいないけど、手綱を握って暴走しない様にしようかなと思ったんだ」
「なんだか想像出来るから怖い。ブラックバズールが誕生するところだったのね」
「何それ、俺は基本誰にでも優しいよ」
「ほんと、周りの女の子には優しいものね、わたしにはいつも軽口しか言わないしすぐ怒るしすぐバカにするのに」
「俺の唯一だもん、カッコつける必要もないしありのままでいたかった。好きな子だからこそカッコつけるなんて出来なかった」
「普通は好きな子の前だけカッコつけるものではないの?」
「今更出来ないだろう?子供の頃は好きすぎてイジワルなことを言ったりしてた俺が、大人になり出して今更好きだからとカッコつけるなんて」
ーーバズールの言ってることはわかるけどよくわからないわ。
そんな話をしていると馬車が街に着いた。
馬車にはしばらく待ってもらって二人で街を歩いた。
元々仲良しだったので二人で遊びに行くことも多かった。シエルにはいい顔されなかったけど、兄弟のいないわたしにはバズールとカイリは従兄弟だけど兄弟でもあった。だから気兼ねなくお出かけしていた。
まさか……そんな昔からバズールがわたしを好きだなんて……全く気がつかなかった。
あんなイジワルな言い方しかしないバズールに恋愛的な愛情は感じなかった。
でも今は……隣で並んで歩くだけでドキドキする。そんなわたしの様子に気がつきもしないバズールはわたしの手を握り歩く。
わたしの歩くペースに合わせてゆっくりと歩いてくれる。
バズールの声がこんなに近くで聞こえるなんて……今までは自然とひとつ分の距離を保ちながら歩くのが当たり前だった。なのに今はそのひとつ分の距離もなくなった。
彼の体温が近くで感じる。
ーーううっ、恥ずかしい。意識しない様にしているのに隣にいると思うと何を話していいのかわからないわ。まさかバズールに対してこんな風に思うなんて……
本屋さんで欲しかった本をお互い買うとマリアナのオススメのスイーツ店へ入った。
紅茶とレモンチーズタルトを頼んだ。バズールはフォンダン・オ・ショコラとコーヒー。
お互いどちらが言うでもなくケーキを半分に切ると交換して二種類の味をしっかりと堪能した。
お持ち帰り用にいくつか買って帰ることにした。どうせ帰ったらマリアナ達に今日の報告をさせられるのだ。その時のお茶菓子用に多めに買った。
夕陽が見えるまであと一時間を切っていた。
馬車に乗り丘まで走ってもらう。降ろしてもらうとまた自然に手を繋ぎ丘を目指した。
とても天気が良く青い空だったのが少しずつ赤くなっていく。
その間繋いだ手は温かいのになぜか話はしなくなった。
冷たい空気が流れているわけでも喧嘩したわけでもない。
なんだか緊張して……
「あー、やっと丘についたぁ!ねえ、バズール、夕陽がとっても綺麗よ?」
「うん確かに。こんなに綺麗なら丘を上ってきた甲斐があったよ」
二人で沈む夕陽を見ていた。
「あ、あのね、少しううん、かなり遅くなったけど誕生日プレゼント……」
バズールにあげたプレゼントは手作りの小物入れ。男性用に皮を使っている。柔らかい皮を選んだのでそこにバズールのイニシャルを刺繍した。
ギルバート先生のところに通う同じ助手をしているミルザから教わってなんとか一人で作り上げた。
「バズール、すごく遠回りしたけど……わたしはバズールが好きです」
夕陽よりわたしの頬の方が真っ赤じゃないかと思うくらい恥ずかしい。でも一度くらい自分からちゃんと伝えたかった。
バズールは固まって何も言わない。
ーーえ?両思いのはずなのに……迷惑だった?
あまりにも無言のバズールに泣きそうになった。
「……ライナ、狡い!俺が先に言いたかったのに……」
そう言いながら髪を両手で掻きむしったバズール。
「もう、おれのバカ!」
大きく息を吸い込んだと思うと
「ライナ、俺はずっとお前を愛しています。結婚して欲しい」
いきなりのプロポーズに驚くも
「はい」と先に考えるよりも言葉が出ていた。
「愛してる、ライナ」
バズールは、そっとわたしの唇に顔を近づけて……キスをした。
「君の両親に昨日許可はもらった。うちの両親にもカイリが伯爵家を継ぐ様に頼んできた。一年後おれが留学を終えたら結婚しよう」
「え?国へ帰ってたの?」
「うん、今朝一番の列車に飛び乗ってギリギリ待ち合わせの時間に間に合った。どうしても今日プロポーズしたかったんだ、だから両方の両親に許可をもらってきた」
あまりの素早さに驚いたけど、バズールとなら一生一緒にいても毎日が楽しく過ごせそう。
そして………
「「ライナおめでとう」」
たくさんの友人や知人達に囲まれて結婚式を挙げた。
貴族としての堅苦しい結婚式ではなく、オリソン国でたくさんの友人達に囲まれての結婚式は豪華な衣装や豪華なパーティー会場ではなく、知人のお店を貸し切ってワイワイと言いながら楽しく会話を楽しむ披露宴となった。
態々国から来てくれた高位貴族の友人達もここでは平民の友人達とも気軽に過ごしてくれた。
みんなからの温かい好意に感謝しながらバズールのお嫁さんになった。
「ライナ、絶対に幸せにするからな」
バズールはずっとわたしだけを愛してくれる。
だからわたしもバズールだけを愛し続ける。
もう辛い思いもさよならもする事はない。
ずっと貴方を愛しています。
◆ ◆ ◆
長いお話になってしまいすみませんでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
応援のエールもとても励みになりました。
最後までなんとか書けてホッとしています。
近況ボードでの温かいコメント感謝しております。そして同じ思いをされた方達もたくさんいて少しずつ大切な思い出になるのだと感じました。
皆様、ありがとうございます。
そして
【彼の瞳に映るのは】
本日から新しいお話も始めました。
訳あって偽りの婚約をすることになった二人が少しずつ本当に惹かれあっていくお話です。
もしよろしければ読んでみてくださいね。よろしくお願いします。
番外編は……書く予定でいます。リリアンナとリーリエのことなど少しだけ。
少しお待ちいただければと思っています。
「頑張るのよ!素直にならないとダメだからね?喧嘩はしない様に!」
「わかってるわ!たぶん………大丈夫、だと……思うわ」
バズールとのんびり街中を過ごすことを考えてドレスはやめて、今流行りの白のリボンカラー ブラウスにワインレッド色のボウタイのボールガウンワンピースを選んだ。
裾がフリルになっていて動くたびにフワッとなる。
ドレスの時に着るコルセットが不要で、重たくない。ワンピースなら歩いて回るのも楽だし、しっかり楽しめそう。
オリソン国へ来てからドレスを着るよりも可愛いワンピースを着ることが増えた。
髪も下ろしてカールにしてもらった。両サイドは編み込んでもらいハーフアップにした。
いつもきちんと結い上げるかひとつにきちんと結んでいたので、久しぶりに髪を下ろした。
ーーバズールは少しは可愛いと思ってくれるかしら?て言うか気づいてはくれても褒めてはもらえないかも……
お互い幼馴染の関係が長すぎて、甘い空気になるのが難しい。
「ちょっとはイチャイチャ仲良くしてみたいのだけど……」
女子寮を出て男子寮に近い門に立ってバズールを待った。
急いで出たのはいいけど本当は30分ほど約束より早く出てしまった。そわそわして落ち着かなくてつい部屋を早く出てしまった。
バッグにはバズールへのプレゼントもしっかり入れた。
「ライナ、ごめん遅くなった」
バズールは時間ギリギリに待ち合わせの場所へとやってきた。いつものわたしなら「遅い!」と怒るのだけど今日だけは我慢した。
だって最初から喧嘩しちゃうと一日が嫌な気分になり楽しく過ごせないもの。
お互い好きだと自覚して初めてのデートで最初から喧嘩なんてね、やっぱりいい思い出になんてならないもの。
「今日はどこへ行く?夕陽の見える丘に行くには早いだろう?何か希望はある?」
「うん、ちょうど買いたい本があったの。それからマリアナが今オススメのスイーツのお店を教えてくれたの。おやつの時間にそこで何か食べたいわ。バズールはどこか行きたいところは?」
「俺?うーん特にない。本屋に行くならちょうど欲しいと思ってたのがあるから買おうかな」
「そう、じゃあ行きましょう!」
学校の門を出るとすぐに乗合馬車の停留場がある。そこで少し待てば街へ向かう馬車を出してくれる。
「ライナ今日は馬車を用意してあるんだ」
乗合馬車ではなく個別で依頼しておいた馬車が待っていた。
座り心地のいい貴族仕様の馬車は学生の中でもそれなりにお金がないと借りられない。かなり高額に設定してある。
お金儲けの仕方をここで習った気分だった。
国へ帰ったら高級馬車の賃貸業もいいかもしれないなんて考えながら馬車に乗り込んだ。
「ライナお手をどうぞ」
バズールの手を借りて馬車に乗る。
バズールは女性に対してとても優しい。ちょっとしたことでも気がきくし、さりげない優しさに女性は思わずドキッとする。だけど、しつこいアプローチに対してはキッパリと拒絶するので考えてみたらバズールに女性の影はなかった。
どんなにモテても彼が誰かと変な関係になったとかデートをしたとか話を聞いたことがない。
こんな優良物件なのに、婚約者すらいなかった。
思わずジーッとバズールを見つめてしまっていたのだろう。
「ライナ気持ち悪いよ。黙ったまま俺の顔を見て。何かついてる?」
バズールが呆れながらわたしの鼻を摘んだ。
「もう!痛いじゃない!」
「馬車に乗ったと思ったら無言で俺の顔を見ているんだ。一体また何を考えているの?うちのお嬢様は?」
「あー、うーん……バズールって、すっごくモテるのにどうして婚約者もいないし恋人もいなかったのかしら?リーリエ様もリリアンナ殿下も貴方に好意を寄せていたから、近くにいる従姉妹のわたしがなぜか巻き込まれてしまったじゃない?」
「……まだ気がつかないの?」
「へ?何に?」
「俺、シエルとの婚約解消の後はずっとライナにアピールしてたつもりだったのに。
ずっと諦めようとしていたのに……お前がシエルと結婚して仕舞えば俺の気持ちも諦めがつくと思ってたんだ。だからライナが結婚したら留学して忘れる予定だった」
ーーえ?
確かにシエルと後少しで結婚する予定だった。リーリエ様のことがなければ……今頃は幸せな家庭を築いていただろう。
「俺が好きなのはライナだけなんだ。ライナが幸せならそれでいいと思っていたしこの気持ちを伝えるつもりなんてなかった。リリアンナ殿下にどんなにアプローチされてもお前への気持ちは変わらなかった」
「嘘!だってリリアンナ殿下との結婚受け入れようと考えたこともあったよね?」
「あれは……同情と諦めだよ。俺がリリアンナ殿下と結婚すればもう殿下がライナに執拗に絡むことはないと思ったし、まあライナに気持ちが通じることはないのなら諦めてリリアンナ殿下のために結婚するのもいいかなと一瞬思ったんだ、好きではないし愛してもいないけど、手綱を握って暴走しない様にしようかなと思ったんだ」
「なんだか想像出来るから怖い。ブラックバズールが誕生するところだったのね」
「何それ、俺は基本誰にでも優しいよ」
「ほんと、周りの女の子には優しいものね、わたしにはいつも軽口しか言わないしすぐ怒るしすぐバカにするのに」
「俺の唯一だもん、カッコつける必要もないしありのままでいたかった。好きな子だからこそカッコつけるなんて出来なかった」
「普通は好きな子の前だけカッコつけるものではないの?」
「今更出来ないだろう?子供の頃は好きすぎてイジワルなことを言ったりしてた俺が、大人になり出して今更好きだからとカッコつけるなんて」
ーーバズールの言ってることはわかるけどよくわからないわ。
そんな話をしていると馬車が街に着いた。
馬車にはしばらく待ってもらって二人で街を歩いた。
元々仲良しだったので二人で遊びに行くことも多かった。シエルにはいい顔されなかったけど、兄弟のいないわたしにはバズールとカイリは従兄弟だけど兄弟でもあった。だから気兼ねなくお出かけしていた。
まさか……そんな昔からバズールがわたしを好きだなんて……全く気がつかなかった。
あんなイジワルな言い方しかしないバズールに恋愛的な愛情は感じなかった。
でも今は……隣で並んで歩くだけでドキドキする。そんなわたしの様子に気がつきもしないバズールはわたしの手を握り歩く。
わたしの歩くペースに合わせてゆっくりと歩いてくれる。
バズールの声がこんなに近くで聞こえるなんて……今までは自然とひとつ分の距離を保ちながら歩くのが当たり前だった。なのに今はそのひとつ分の距離もなくなった。
彼の体温が近くで感じる。
ーーううっ、恥ずかしい。意識しない様にしているのに隣にいると思うと何を話していいのかわからないわ。まさかバズールに対してこんな風に思うなんて……
本屋さんで欲しかった本をお互い買うとマリアナのオススメのスイーツ店へ入った。
紅茶とレモンチーズタルトを頼んだ。バズールはフォンダン・オ・ショコラとコーヒー。
お互いどちらが言うでもなくケーキを半分に切ると交換して二種類の味をしっかりと堪能した。
お持ち帰り用にいくつか買って帰ることにした。どうせ帰ったらマリアナ達に今日の報告をさせられるのだ。その時のお茶菓子用に多めに買った。
夕陽が見えるまであと一時間を切っていた。
馬車に乗り丘まで走ってもらう。降ろしてもらうとまた自然に手を繋ぎ丘を目指した。
とても天気が良く青い空だったのが少しずつ赤くなっていく。
その間繋いだ手は温かいのになぜか話はしなくなった。
冷たい空気が流れているわけでも喧嘩したわけでもない。
なんだか緊張して……
「あー、やっと丘についたぁ!ねえ、バズール、夕陽がとっても綺麗よ?」
「うん確かに。こんなに綺麗なら丘を上ってきた甲斐があったよ」
二人で沈む夕陽を見ていた。
「あ、あのね、少しううん、かなり遅くなったけど誕生日プレゼント……」
バズールにあげたプレゼントは手作りの小物入れ。男性用に皮を使っている。柔らかい皮を選んだのでそこにバズールのイニシャルを刺繍した。
ギルバート先生のところに通う同じ助手をしているミルザから教わってなんとか一人で作り上げた。
「バズール、すごく遠回りしたけど……わたしはバズールが好きです」
夕陽よりわたしの頬の方が真っ赤じゃないかと思うくらい恥ずかしい。でも一度くらい自分からちゃんと伝えたかった。
バズールは固まって何も言わない。
ーーえ?両思いのはずなのに……迷惑だった?
あまりにも無言のバズールに泣きそうになった。
「……ライナ、狡い!俺が先に言いたかったのに……」
そう言いながら髪を両手で掻きむしったバズール。
「もう、おれのバカ!」
大きく息を吸い込んだと思うと
「ライナ、俺はずっとお前を愛しています。結婚して欲しい」
いきなりのプロポーズに驚くも
「はい」と先に考えるよりも言葉が出ていた。
「愛してる、ライナ」
バズールは、そっとわたしの唇に顔を近づけて……キスをした。
「君の両親に昨日許可はもらった。うちの両親にもカイリが伯爵家を継ぐ様に頼んできた。一年後おれが留学を終えたら結婚しよう」
「え?国へ帰ってたの?」
「うん、今朝一番の列車に飛び乗ってギリギリ待ち合わせの時間に間に合った。どうしても今日プロポーズしたかったんだ、だから両方の両親に許可をもらってきた」
あまりの素早さに驚いたけど、バズールとなら一生一緒にいても毎日が楽しく過ごせそう。
そして………
「「ライナおめでとう」」
たくさんの友人や知人達に囲まれて結婚式を挙げた。
貴族としての堅苦しい結婚式ではなく、オリソン国でたくさんの友人達に囲まれての結婚式は豪華な衣装や豪華なパーティー会場ではなく、知人のお店を貸し切ってワイワイと言いながら楽しく会話を楽しむ披露宴となった。
態々国から来てくれた高位貴族の友人達もここでは平民の友人達とも気軽に過ごしてくれた。
みんなからの温かい好意に感謝しながらバズールのお嫁さんになった。
「ライナ、絶対に幸せにするからな」
バズールはずっとわたしだけを愛してくれる。
だからわたしもバズールだけを愛し続ける。
もう辛い思いもさよならもする事はない。
ずっと貴方を愛しています。
◆ ◆ ◆
長いお話になってしまいすみませんでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
応援のエールもとても励みになりました。
最後までなんとか書けてホッとしています。
近況ボードでの温かいコメント感謝しております。そして同じ思いをされた方達もたくさんいて少しずつ大切な思い出になるのだと感じました。
皆様、ありがとうございます。
そして
【彼の瞳に映るのは】
本日から新しいお話も始めました。
訳あって偽りの婚約をすることになった二人が少しずつ本当に惹かれあっていくお話です。
もしよろしければ読んでみてくださいね。よろしくお願いします。
番外編は……書く予定でいます。リリアンナとリーリエのことなど少しだけ。
少しお待ちいただければと思っています。
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