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新しい恋。
にじゅうご
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「バズール……ごめんなさい。わたし大切な約束を忘れていたのよね?」
「思い出してくれたんだ……」
「うん、ごめんなさい。何か大切なこと忘れていると思っていたの」
そうあの時………
やっと好きだと気がついたのに……バズールに好きだと言えずにわたしはこのまま死ぬのかしら?
『バ…ズー……貴方…が好……き……』
薄れゆく意識の中でわたしは最後かもしれないこの言葉を口にした。だけどほとんど声にならないわたしの声は彼に届くことはない。
そう思っていたら、バズールが
『ライナ、国に無事帰れたら結婚しよう!絶対生きて、俺も絶対生き抜くから』
わたしは薄れゆく意識の中で彼の声を聞いて頷いた。
そしてわたしもバズールも意識を失った。
バズールは頭を強くうち、そして……わたしの代わりに呪いを受けた。
わたしも気がつかないうちに呪いを受けていたらしい。
カイさんのことも思い出していた。
彼はオリエ様曰く王兄であり平民として暮らしている物凄い人なのだとか……
オリエ様は今はオリソン国で騎士として過ごしているけど、以前は他国の王太子妃として過ごされていたそう。その時自分を殺しにきたのがカイさんだったらしい。カイさんは暗部の人間で情報を集める諜報部の仕事など裏の仕事をしている人なのだと教えてもらった。
だからこそリリアンナ殿下のしたこともすぐに調べてわかったのだろう。彼は飄々とした人で掴みどころがない人。だけど目の奥には闇と優しさを抱えている。
わたしの護衛をしている時、ずっと笑わせてくれた。気遣ってくれた。
だけど、時折り寂しそうにしていた。
リリアンナ殿下のことをすまなそうにわたしに謝りながら、「俺が悪いんだ、あんな妹に育ったのは……」と呟いているのを何度か聞いた。
でも思い出したわたしにはリリアンナ殿下の仕出かしたことを許すつもりはない。
あの事故の時、個室のわたし達ですら恐怖でパニックになったし物凄く痛かった。
他の乗客の人達は彼女の我儘の犠牲になったのだ。
何人もの命が奪われたかわからない。今も怪我で苦しんでいる人もいるだろう。
でもわたしはバズールへの想いをあんな時だから素直に言えたのかもしれない。
そして忘れてしまっていた……一番忘れてはいけなかったことを……
「バズール、わたし、あのね、……」
なんと言おうか悩んでいると
「ライナの記憶が戻ったんだったら日を改めてもう一度言わせて」
バズールはそう言うと、「俺そろそろ帰るよ…サマンサに声かけてから」
バズールの耳朶が真っ赤になっているのがわかったので、わたしは何も言い返せなかった。
「うん」
わたしもなんだか恥ずかしくなって彼の後ろ姿を黙って見送った。
「ライナまたギルバート様のところへ通い出したんだ」
バズールは少し不機嫌な言い方をしたのに気がついた。でも気づかないフリをした。
「うん、わたしの留学はあと三か月だけど最後まで先生のもとで勉強したいの」
バズールが先生のところに入り浸り寮にもなかなか帰らずのめり込むわたしのことを心配しているのがわかった。
「真面目に頑張るのは悪いことじゃないけど体壊さないで!あと風呂にはちゃんと入るように!いいね?」
「ひ、酷い!わたしお風呂はちゃんと入っているわ」
「ふっ、女の子なんだから当たり前だろう?」
「もう!それは冗談にはならないわ」
バズールとは気がつけばいつもと変わらない日々に戻っていた。
「明日……お休みでしょう?用事がなかったら一緒に街に出掛けないかしら?」
記憶が戻ってからひと月余り。久しぶりに二人でお出掛けしたいと思っていた。
「明日か……うーん、昼からでもいい?」
「もちろんよ。サマンサが教えてくれたの。街の外れにある丘から見る夕日がとても綺麗らしいの」
「乙女チックだな、サマンサも誰かと行ったのかな?」
「考えてもみなかったわ。ほんと……誰かと行ったのかしら?」
うーん……と考えたけど相手が誰かなんて想像出来ない。
「ぷっ。ライナ、サマンサのことだからいろんな所から情報収集してるだけだと思う。真剣に考え込まないで」
「そ、そうよね、わたしのサマンサが恋人がいるなんて……考えられない。わたしの…サマンサがいなくなるなんて考えただけで無理だわ」
「ふうん、ほんと二人は仲がいいよね」
「うん、大好きだもの」
「俺より?」
「えっ?な、なに、それは……その……あ、うん……」
「俺よりも??」
「……好きです」
ーーうっ、恥ずかしい。
わたしは今誰にも会えないくらい顔が真っ赤になっている。
「俺も。………明日お昼過ぎに迎えに行くからね」
バズールはそう言うと、わたしの頭に手をポンっと置いて「じゃあ行くね」と言ってわたしの顔を見ずに急いで行ってしまった。
ーーわたしだけ言わせて狡い!
バズールは日を改めてなんて言ってたけど、今のところ何にも言ってくれない。でも時々確かめるように「俺のこと好き?」と聞いてくる。
もう誤魔化したり意地っ張りになって喧嘩をしたくない。記憶が戻ってからは素直になりたいと思って、「好き」だと答えている。
ーーかなり恥ずかしくて中々口に出せないけど。
すると「俺も」と言ってくれる。
バズールが一言でもそんなことを言う人なんて思っていなくてとても気恥ずかしい。
でも好きだと思っていてくれるのだと確信出来て本当はわたしも嬉しい。
明日は久しぶりのお出掛け。バズールの誕生日が列車事故のすぐ後だったので、何もしてあげていないことを思い出したのは最近。
記憶が戻ってからやっといろんなことを思い出し目の前が鮮明になったのだ。
やっと手作りのプレゼントが出来上がった。
ーー喜んでもらえたらいいな。
明日のお出掛けの時に渡そうと思いながら、明日のお出かけの服を選んだり髪の毛のお手入れをしたりしてドキドキしながら長い夜を過ごした。
◆ ◆ ◆
長い間お付き合いいただきありがとうございます。
明日は最終話です。
よろしくお願いします。
「思い出してくれたんだ……」
「うん、ごめんなさい。何か大切なこと忘れていると思っていたの」
そうあの時………
やっと好きだと気がついたのに……バズールに好きだと言えずにわたしはこのまま死ぬのかしら?
『バ…ズー……貴方…が好……き……』
薄れゆく意識の中でわたしは最後かもしれないこの言葉を口にした。だけどほとんど声にならないわたしの声は彼に届くことはない。
そう思っていたら、バズールが
『ライナ、国に無事帰れたら結婚しよう!絶対生きて、俺も絶対生き抜くから』
わたしは薄れゆく意識の中で彼の声を聞いて頷いた。
そしてわたしもバズールも意識を失った。
バズールは頭を強くうち、そして……わたしの代わりに呪いを受けた。
わたしも気がつかないうちに呪いを受けていたらしい。
カイさんのことも思い出していた。
彼はオリエ様曰く王兄であり平民として暮らしている物凄い人なのだとか……
オリエ様は今はオリソン国で騎士として過ごしているけど、以前は他国の王太子妃として過ごされていたそう。その時自分を殺しにきたのがカイさんだったらしい。カイさんは暗部の人間で情報を集める諜報部の仕事など裏の仕事をしている人なのだと教えてもらった。
だからこそリリアンナ殿下のしたこともすぐに調べてわかったのだろう。彼は飄々とした人で掴みどころがない人。だけど目の奥には闇と優しさを抱えている。
わたしの護衛をしている時、ずっと笑わせてくれた。気遣ってくれた。
だけど、時折り寂しそうにしていた。
リリアンナ殿下のことをすまなそうにわたしに謝りながら、「俺が悪いんだ、あんな妹に育ったのは……」と呟いているのを何度か聞いた。
でも思い出したわたしにはリリアンナ殿下の仕出かしたことを許すつもりはない。
あの事故の時、個室のわたし達ですら恐怖でパニックになったし物凄く痛かった。
他の乗客の人達は彼女の我儘の犠牲になったのだ。
何人もの命が奪われたかわからない。今も怪我で苦しんでいる人もいるだろう。
でもわたしはバズールへの想いをあんな時だから素直に言えたのかもしれない。
そして忘れてしまっていた……一番忘れてはいけなかったことを……
「バズール、わたし、あのね、……」
なんと言おうか悩んでいると
「ライナの記憶が戻ったんだったら日を改めてもう一度言わせて」
バズールはそう言うと、「俺そろそろ帰るよ…サマンサに声かけてから」
バズールの耳朶が真っ赤になっているのがわかったので、わたしは何も言い返せなかった。
「うん」
わたしもなんだか恥ずかしくなって彼の後ろ姿を黙って見送った。
「ライナまたギルバート様のところへ通い出したんだ」
バズールは少し不機嫌な言い方をしたのに気がついた。でも気づかないフリをした。
「うん、わたしの留学はあと三か月だけど最後まで先生のもとで勉強したいの」
バズールが先生のところに入り浸り寮にもなかなか帰らずのめり込むわたしのことを心配しているのがわかった。
「真面目に頑張るのは悪いことじゃないけど体壊さないで!あと風呂にはちゃんと入るように!いいね?」
「ひ、酷い!わたしお風呂はちゃんと入っているわ」
「ふっ、女の子なんだから当たり前だろう?」
「もう!それは冗談にはならないわ」
バズールとは気がつけばいつもと変わらない日々に戻っていた。
「明日……お休みでしょう?用事がなかったら一緒に街に出掛けないかしら?」
記憶が戻ってからひと月余り。久しぶりに二人でお出掛けしたいと思っていた。
「明日か……うーん、昼からでもいい?」
「もちろんよ。サマンサが教えてくれたの。街の外れにある丘から見る夕日がとても綺麗らしいの」
「乙女チックだな、サマンサも誰かと行ったのかな?」
「考えてもみなかったわ。ほんと……誰かと行ったのかしら?」
うーん……と考えたけど相手が誰かなんて想像出来ない。
「ぷっ。ライナ、サマンサのことだからいろんな所から情報収集してるだけだと思う。真剣に考え込まないで」
「そ、そうよね、わたしのサマンサが恋人がいるなんて……考えられない。わたしの…サマンサがいなくなるなんて考えただけで無理だわ」
「ふうん、ほんと二人は仲がいいよね」
「うん、大好きだもの」
「俺より?」
「えっ?な、なに、それは……その……あ、うん……」
「俺よりも??」
「……好きです」
ーーうっ、恥ずかしい。
わたしは今誰にも会えないくらい顔が真っ赤になっている。
「俺も。………明日お昼過ぎに迎えに行くからね」
バズールはそう言うと、わたしの頭に手をポンっと置いて「じゃあ行くね」と言ってわたしの顔を見ずに急いで行ってしまった。
ーーわたしだけ言わせて狡い!
バズールは日を改めてなんて言ってたけど、今のところ何にも言ってくれない。でも時々確かめるように「俺のこと好き?」と聞いてくる。
もう誤魔化したり意地っ張りになって喧嘩をしたくない。記憶が戻ってからは素直になりたいと思って、「好き」だと答えている。
ーーかなり恥ずかしくて中々口に出せないけど。
すると「俺も」と言ってくれる。
バズールが一言でもそんなことを言う人なんて思っていなくてとても気恥ずかしい。
でも好きだと思っていてくれるのだと確信出来て本当はわたしも嬉しい。
明日は久しぶりのお出掛け。バズールの誕生日が列車事故のすぐ後だったので、何もしてあげていないことを思い出したのは最近。
記憶が戻ってからやっといろんなことを思い出し目の前が鮮明になったのだ。
やっと手作りのプレゼントが出来上がった。
ーー喜んでもらえたらいいな。
明日のお出掛けの時に渡そうと思いながら、明日のお出かけの服を選んだり髪の毛のお手入れをしたりしてドキドキしながら長い夜を過ごした。
◆ ◆ ◆
長い間お付き合いいただきありがとうございます。
明日は最終話です。
よろしくお願いします。
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