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新しい恋。
にじゅういち
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バズールが退院して屋敷へと帰って行った。
カイさんは現れなかった。
彼が話したことは真実だったのだろうか?
それとも作り話?
わたしの記憶はまだ戻らない。
それでも失った記憶を取り戻すために周りから話を聞いた。
シエルという人にも会うことができた。
彼とは街のカフェでわたしの友人のユミエルが付き添ってくれる中で会うことにした。
第一印象は少し疲れて見えたけど騎士として働いているのにとても優しい印象で好青年に見えた。
「すみません。貴方のことを忘れてしまっているようなんです。婚約解消してしまっているのに厚かましくお会いして申し訳ないのですが……一目会ってお話ししたら記憶が戻るかもしれないと思ったので……」
謝りながらもシエル様にお会いすると、シエル様は優しい笑顔で話しかけてくれた、
「いえ、ライナが……いえライナ様が少しでも記憶が戻るきっかけがあるのなら協力させていただきます」
とても優しい人。こんな優しい人なのに……リーリエ様という人の話を信じてわたしを信じてくれなかったらしい。
でも悲しい記憶もこの人に対して嫌だという気持ちもない。今は優しい人だと思うだけ。
好きだった……大好きだったらしいのだけど、はじめましてのわたしには彼に対してなんの感情も気持ちもわかなかった。
たぶん記憶を失っていても、もう彼への気持ちは終わってしまっているのだろう。
ユミエルも黙って隣で話をしているわたしを見ていた。
軽い雑談をして彼が帰ってから、ユミエルはわたしをじっと見つめ、安心したように話しかけた。
「ライナはもうシエル様のことは完全に吹っ切れているのね。いくら記憶がなくてももう気持ちが動くことはないみたいで安心したわ」
「そうみたい。でもこれからどうしたらいいのか悩んでいるの。わたしは留学中であと5ヶ月残っているらしいのだけど……記憶がない中留学先へ戻ってもどうしていいのかわからないの」
「確かにそうね。バズールは意識を取り戻してから体調が良くなったらまた留学先のオリソン国へ帰るのでしょう?」
「うん、向こうも列車事故に巻き込まれてるのも考慮してくれるらしくて、レポートを提出すれば単位は取らせてもらえるらしいの」
「ねぇライナ、ズバリ聞くけどバズールのことをどう思っているのかしら?」
ーーユミエルのツッコミにどう答えようか悩んでしまった。
実は最近のバズールはおかしい。
意識が戻り留学先でのわたしの過ごした日々を聞きたくて会いに何度か行ったのだけど
「ライナはもう留学を終わらせるべきだと思う」
と言って話そうとしない。
わたしにオリソン国でのことを語りたがらない。
「ねぇライナ、あの国での記憶がないということは必要がなかったんだと思う、だから思い出す必要はないんだよ」
「でも、カイさんがリリアンナ様という方がわたし達を呪ったからバズールの意識が戻らなかったんだと仰ったわ」
「……そのカイさんはそう言ったけど戻って来なかったんだろう?御伽話か夢物語なんじゃない?」
「え?でもそんな人には見えなかったわ」
「俺とその初めて会った人、どっちを信じるの?」
バズールは不機嫌になった。
「ライナ……忘れた記憶を取り戻したい気持ちはわかる。でも君が忘れた記憶は話を聞いているんだろう?嫌な記憶ばかりなんだ。そんな辛い気持ちを思い出さないで!」
「……う、うん」
バズールは失くした記憶のことや留学のことを話すと不機嫌になる。でもその一方で意識を取り戻してから、恥ずかしくなるくらい優しい。
ユミエルに困った顔で返事をした。
「バズールは……ずっと従兄弟だと思って接してきたの。そのはずだったのに……意識が戻らなくて永遠に続くのかと思ったら……苦しくて辛くて…目覚めたバズールを見た時……気がついたの。わたしバズールを好きなんだと、ううん、愛しているの。だからこそシエル様に会ってみたかった、わたしが好きだったという人に。会ってハッキリとしたの。わたしが好きなのはバズールだって」|
「そう、じゃあバズールが留学先に行ってしまう前に告白しなきゃ、向こうにはあと一年以上行ってしまうのでしょう?」
「うん、やっと好きだと自覚したのに……諦めるしかないのかも」
「何弱気になっているの?バズールの気持ち聞いたことあるの?」
「バズールは……私を従姉妹としかみていないわ。だっていつも口が悪くて意地悪ばかりだったもの。最近は優しいけど……そっちの方がおかしいのだもの」
「明後日からの建国祭、バズールと出掛けるのでしょう?ライナも素直になりなさい。あまりにも近すぎて幼馴染が長すぎるから仕方がないけど、素直にならないとバズールを他の子に取られてしまうわよ?」
「え…それは……でもバズール、昔からとてもモテていて……わたしなんか……」
「バズールの気持ちを確かめなさい。わたしが言えるのは素直になることだけ。記憶は失くしたけどバズールの言うとおり敢えて思い出す必要はないのでは?」
「……わかった」
ユミエルの勢いにわたしは頷くしかなかった。
ーーバズールがわたし以外の人と……そう考えただけで胸がぎゅっと苦しくなった。
でも婚約者がいたことも知っているわたしなんかバズールが相手にするとは思えない。
わたしは……素直に好きと言えるのかしら?
カイさんは現れなかった。
彼が話したことは真実だったのだろうか?
それとも作り話?
わたしの記憶はまだ戻らない。
それでも失った記憶を取り戻すために周りから話を聞いた。
シエルという人にも会うことができた。
彼とは街のカフェでわたしの友人のユミエルが付き添ってくれる中で会うことにした。
第一印象は少し疲れて見えたけど騎士として働いているのにとても優しい印象で好青年に見えた。
「すみません。貴方のことを忘れてしまっているようなんです。婚約解消してしまっているのに厚かましくお会いして申し訳ないのですが……一目会ってお話ししたら記憶が戻るかもしれないと思ったので……」
謝りながらもシエル様にお会いすると、シエル様は優しい笑顔で話しかけてくれた、
「いえ、ライナが……いえライナ様が少しでも記憶が戻るきっかけがあるのなら協力させていただきます」
とても優しい人。こんな優しい人なのに……リーリエ様という人の話を信じてわたしを信じてくれなかったらしい。
でも悲しい記憶もこの人に対して嫌だという気持ちもない。今は優しい人だと思うだけ。
好きだった……大好きだったらしいのだけど、はじめましてのわたしには彼に対してなんの感情も気持ちもわかなかった。
たぶん記憶を失っていても、もう彼への気持ちは終わってしまっているのだろう。
ユミエルも黙って隣で話をしているわたしを見ていた。
軽い雑談をして彼が帰ってから、ユミエルはわたしをじっと見つめ、安心したように話しかけた。
「ライナはもうシエル様のことは完全に吹っ切れているのね。いくら記憶がなくてももう気持ちが動くことはないみたいで安心したわ」
「そうみたい。でもこれからどうしたらいいのか悩んでいるの。わたしは留学中であと5ヶ月残っているらしいのだけど……記憶がない中留学先へ戻ってもどうしていいのかわからないの」
「確かにそうね。バズールは意識を取り戻してから体調が良くなったらまた留学先のオリソン国へ帰るのでしょう?」
「うん、向こうも列車事故に巻き込まれてるのも考慮してくれるらしくて、レポートを提出すれば単位は取らせてもらえるらしいの」
「ねぇライナ、ズバリ聞くけどバズールのことをどう思っているのかしら?」
ーーユミエルのツッコミにどう答えようか悩んでしまった。
実は最近のバズールはおかしい。
意識が戻り留学先でのわたしの過ごした日々を聞きたくて会いに何度か行ったのだけど
「ライナはもう留学を終わらせるべきだと思う」
と言って話そうとしない。
わたしにオリソン国でのことを語りたがらない。
「ねぇライナ、あの国での記憶がないということは必要がなかったんだと思う、だから思い出す必要はないんだよ」
「でも、カイさんがリリアンナ様という方がわたし達を呪ったからバズールの意識が戻らなかったんだと仰ったわ」
「……そのカイさんはそう言ったけど戻って来なかったんだろう?御伽話か夢物語なんじゃない?」
「え?でもそんな人には見えなかったわ」
「俺とその初めて会った人、どっちを信じるの?」
バズールは不機嫌になった。
「ライナ……忘れた記憶を取り戻したい気持ちはわかる。でも君が忘れた記憶は話を聞いているんだろう?嫌な記憶ばかりなんだ。そんな辛い気持ちを思い出さないで!」
「……う、うん」
バズールは失くした記憶のことや留学のことを話すと不機嫌になる。でもその一方で意識を取り戻してから、恥ずかしくなるくらい優しい。
ユミエルに困った顔で返事をした。
「バズールは……ずっと従兄弟だと思って接してきたの。そのはずだったのに……意識が戻らなくて永遠に続くのかと思ったら……苦しくて辛くて…目覚めたバズールを見た時……気がついたの。わたしバズールを好きなんだと、ううん、愛しているの。だからこそシエル様に会ってみたかった、わたしが好きだったという人に。会ってハッキリとしたの。わたしが好きなのはバズールだって」|
「そう、じゃあバズールが留学先に行ってしまう前に告白しなきゃ、向こうにはあと一年以上行ってしまうのでしょう?」
「うん、やっと好きだと自覚したのに……諦めるしかないのかも」
「何弱気になっているの?バズールの気持ち聞いたことあるの?」
「バズールは……私を従姉妹としかみていないわ。だっていつも口が悪くて意地悪ばかりだったもの。最近は優しいけど……そっちの方がおかしいのだもの」
「明後日からの建国祭、バズールと出掛けるのでしょう?ライナも素直になりなさい。あまりにも近すぎて幼馴染が長すぎるから仕方がないけど、素直にならないとバズールを他の子に取られてしまうわよ?」
「え…それは……でもバズール、昔からとてもモテていて……わたしなんか……」
「バズールの気持ちを確かめなさい。わたしが言えるのは素直になることだけ。記憶は失くしたけどバズールの言うとおり敢えて思い出す必要はないのでは?」
「……わかった」
ユミエルの勢いにわたしは頷くしかなかった。
ーーバズールがわたし以外の人と……そう考えただけで胸がぎゅっと苦しくなった。
でも婚約者がいたことも知っているわたしなんかバズールが相手にするとは思えない。
わたしは……素直に好きと言えるのかしら?
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