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新しい恋。
にじゅう
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カイさんはバズールの病室を訪ねてくれた。
「強く頭を打ったんだな。今回の列車事故はかなり悲惨だったと聞く。怪我人はもちろん死人も多数出たんだ。お前達は個室だったから助かったんだろうな」
わたしにはあまりみんな話したがらなかったが、今回の事故は大事故でわたしが思っていた以上に大変で救出にも手こずったらしい。
わたし達は個室で頑丈な作りだったのと助けやすい位置に扉があったので運が良かったと言われた。
そのことを聞くと胸が痛い。
わたしのお腹の傷なんて大したことではないと思えた。
ーーどうしても思い出せない。バズールと同じ列車に乗ってわたしはお腹に怪我をした。
でもバズールの怪我のことは覚えていない。わたしは傾いた客室で扉に捕まっていて落ちた。そして割れたガラスでお腹を怪我した。
でもバズールは?覚えていない。
バズールがわたしと同じ空間にいたこと自体思い出せない。
「なぁ、ライナ……バズールは助かるかもしれない。リリアンナの気配がするんだ……」
「気配?」
「あぁ、アイツの邪気を感じる」
ーーカイさんがものすごく怒った顔をしているのが怖いのだけど。
「俺が持っている聖水使えるかも……たぶんリリアンナの怨念で眠らされているんだと思う。あいつは自分だけが不幸になるのが嫌でお前とバズールを呪ったんだと思う。それを庇ってバズールがお前の分まで呪いを受けたんだと思う」
「リリアンナ様とは確かオリソン国の王女様でもうすぐ嫁がれる方ですよね?バズールのことを愛していた方……」
「独りよがりな愛情をバズールに向けて振られたんだけどな………はあー」
カイさんは大きなため息を吐いた。
「ったく、アイツは最後までしつこい奴だ!聖水がダメならアイツ自身から呪いの解呪の仕方を聞き出すからもう大丈夫だ。
あー、今のライナは知らないんだったな。リリアンナは歳の離れた俺の妹なんだ。甘やかして我儘に育ててしまったんだ……反省している。まさか人に迷惑をかける奴に育つなんてな。俺は妹にほとんど関わらなさすぎてアイツがどんなふうに育ってしまったかなんて興味もなかった。それがこの結果だ。
兄として謝る、バズールは必ず目覚めさせるからな」
そう言うと、カイさんは「一度国に帰る。そして聖水を持ってくる。ついでにリリアンナを締め上げて来るから少し待っていてくれ」
カイさんは慌ただしく帰って行った。
わたしは半信半疑な中、とりあえずカイさんが戻ってくるのを待ちながらバズールの面会に来ている。
伯母様はバズールが心配で毎日やはり面会に来ていた。
「ライナ、バズールが目覚めるかもしれないと聞いたわ……もしも本当にそんな奇跡が起こるならとても嬉しいことなんだけど……信用出来るのかしら?」
「わたしは記憶を失っているのではっきりと言い切ることは出来ませんがお父様も伯父様もカイさんのことをご存知みたいです。それにわたしもお話ししていて信用するに足る人だと思っています、ただ……呪い……とは、流石に……」
最後の方の呪いという言葉は思わず小さな声になってしまった。
伯母様もどう答えていいのかわからず困った顔をしていた。
「そうね……でも主人曰く外国には呪いや魔法、魔道具などこの近辺の国では聞いたことがない御伽話みたいなことが本当に存在する国もあると言っていたわ。そして外国を飛び回るカイさんならご存知だろうと……主人はそこまで遠くには行かないので噂だけだけど聞いたことはあるらしいの」
「そうなんですね……」
お互い顔を見つめあって、頷き…納得するしかなかった。
カイさんが帰国して数日後……
いつものように眠るバズールの体を拭いてあげていると
「………な、何を……」
聞いたことがある声が……小さいけど聞こえてきた。
「う、うそ?バズール?目が覚めた……?」
バズールの体を拭いている途中で手を止めて、思わずバズールに抱きついた。
「心配したんだから!早く目覚めなさいよ!」
「うわ、ライナ!どうしたの?俺……確か……」
「ずっと眠り続けるから、このまま死んでしまうかもとずっと心配したんだから!馬鹿!」
「……ごめんライナ。心配かけて……ところでライナこそお腹の怪我は?」
「もう随分良くなったわ……」
「良かった。俺、助けてあげられなくて心配だったんだ」
「わたし……その時の記憶がなくて……バズールが助けてくれたのでしょう?」
「覚えていない?なんで?忘れるなよ!」
「そんなこと言ってもわかんないよ。何があったのか教えて!」
「なんなんだよ!やっと気持ちが通じたのに」
バズールがボソッと言った言葉はわたしには聞こえなかった。
ただぶつぶつと何かいい続けているバズールを見つめながら、
「助かって良かったね」
と言ったけど彼には聞こえていないみたいだった。
やつれて青白い顔のバズールだけど、生きている。
それだけで嬉しい。
「強く頭を打ったんだな。今回の列車事故はかなり悲惨だったと聞く。怪我人はもちろん死人も多数出たんだ。お前達は個室だったから助かったんだろうな」
わたしにはあまりみんな話したがらなかったが、今回の事故は大事故でわたしが思っていた以上に大変で救出にも手こずったらしい。
わたし達は個室で頑丈な作りだったのと助けやすい位置に扉があったので運が良かったと言われた。
そのことを聞くと胸が痛い。
わたしのお腹の傷なんて大したことではないと思えた。
ーーどうしても思い出せない。バズールと同じ列車に乗ってわたしはお腹に怪我をした。
でもバズールの怪我のことは覚えていない。わたしは傾いた客室で扉に捕まっていて落ちた。そして割れたガラスでお腹を怪我した。
でもバズールは?覚えていない。
バズールがわたしと同じ空間にいたこと自体思い出せない。
「なぁ、ライナ……バズールは助かるかもしれない。リリアンナの気配がするんだ……」
「気配?」
「あぁ、アイツの邪気を感じる」
ーーカイさんがものすごく怒った顔をしているのが怖いのだけど。
「俺が持っている聖水使えるかも……たぶんリリアンナの怨念で眠らされているんだと思う。あいつは自分だけが不幸になるのが嫌でお前とバズールを呪ったんだと思う。それを庇ってバズールがお前の分まで呪いを受けたんだと思う」
「リリアンナ様とは確かオリソン国の王女様でもうすぐ嫁がれる方ですよね?バズールのことを愛していた方……」
「独りよがりな愛情をバズールに向けて振られたんだけどな………はあー」
カイさんは大きなため息を吐いた。
「ったく、アイツは最後までしつこい奴だ!聖水がダメならアイツ自身から呪いの解呪の仕方を聞き出すからもう大丈夫だ。
あー、今のライナは知らないんだったな。リリアンナは歳の離れた俺の妹なんだ。甘やかして我儘に育ててしまったんだ……反省している。まさか人に迷惑をかける奴に育つなんてな。俺は妹にほとんど関わらなさすぎてアイツがどんなふうに育ってしまったかなんて興味もなかった。それがこの結果だ。
兄として謝る、バズールは必ず目覚めさせるからな」
そう言うと、カイさんは「一度国に帰る。そして聖水を持ってくる。ついでにリリアンナを締め上げて来るから少し待っていてくれ」
カイさんは慌ただしく帰って行った。
わたしは半信半疑な中、とりあえずカイさんが戻ってくるのを待ちながらバズールの面会に来ている。
伯母様はバズールが心配で毎日やはり面会に来ていた。
「ライナ、バズールが目覚めるかもしれないと聞いたわ……もしも本当にそんな奇跡が起こるならとても嬉しいことなんだけど……信用出来るのかしら?」
「わたしは記憶を失っているのではっきりと言い切ることは出来ませんがお父様も伯父様もカイさんのことをご存知みたいです。それにわたしもお話ししていて信用するに足る人だと思っています、ただ……呪い……とは、流石に……」
最後の方の呪いという言葉は思わず小さな声になってしまった。
伯母様もどう答えていいのかわからず困った顔をしていた。
「そうね……でも主人曰く外国には呪いや魔法、魔道具などこの近辺の国では聞いたことがない御伽話みたいなことが本当に存在する国もあると言っていたわ。そして外国を飛び回るカイさんならご存知だろうと……主人はそこまで遠くには行かないので噂だけだけど聞いたことはあるらしいの」
「そうなんですね……」
お互い顔を見つめあって、頷き…納得するしかなかった。
カイさんが帰国して数日後……
いつものように眠るバズールの体を拭いてあげていると
「………な、何を……」
聞いたことがある声が……小さいけど聞こえてきた。
「う、うそ?バズール?目が覚めた……?」
バズールの体を拭いている途中で手を止めて、思わずバズールに抱きついた。
「心配したんだから!早く目覚めなさいよ!」
「うわ、ライナ!どうしたの?俺……確か……」
「ずっと眠り続けるから、このまま死んでしまうかもとずっと心配したんだから!馬鹿!」
「……ごめんライナ。心配かけて……ところでライナこそお腹の怪我は?」
「もう随分良くなったわ……」
「良かった。俺、助けてあげられなくて心配だったんだ」
「わたし……その時の記憶がなくて……バズールが助けてくれたのでしょう?」
「覚えていない?なんで?忘れるなよ!」
「そんなこと言ってもわかんないよ。何があったのか教えて!」
「なんなんだよ!やっと気持ちが通じたのに」
バズールがボソッと言った言葉はわたしには聞こえなかった。
ただぶつぶつと何かいい続けているバズールを見つめながら、
「助かって良かったね」
と言ったけど彼には聞こえていないみたいだった。
やつれて青白い顔のバズールだけど、生きている。
それだけで嬉しい。
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