【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

じゅうきゅう

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 退院してからも毎日カイザンさんに護衛をしてもらいバズールの病室へ通った。

 病室に入るとバズールに話しかける。

「ねぇお寝坊さん、そろそろ起きないとわたしも忙しいから来れなくなるわよ?」

「バズール、今日はサマンサと刺繍を刺したの。ね、見て?これバズール用のハンカチよ。あげるわね」
 ベッドの横のサイドテーブルに置いた。

「バズール、わたしはオリソン国に留学していたらしいの。そこでの話を最近カイさんと言う人が我が家に来て話してくれたの。わたしは働いていた屋敷のお嬢様だったリーリエ様に恨まれていたらしいの。だからなのね、記憶を失ったのは……ミレガー伯爵家で過ごした日々もシエルと言う人と婚約した日々も留学していた日々も忘れてしまったの……」

 わたしは思い出せない記憶を少しずつ周りの人から教えてもらった。
 この国での出来事はみんなが教えてくれたけど、オリソン国でのことはわからなかった。そんな時カイさんが現れた。
 両親は最初から彼の素性を知っているらしくわたしにすぐに会わせてくれた。

「ライナ、本当に記憶をなくしたんだな」
 そしてオリソン国でのわたしの普段の生活のことも教えてくれた。彼はわたしの護衛をしていたこともあり詳しかった。
 そしてそこであった事件のことも……

「バズールに会いに行きたい。俺はいろんな国を回っているんだ。それこそ魔道具も手に入るし薬草や薬も手に入る。もしかしたらバズールを助けることができるかもしれない」

 ニコニコしていつも和やかで親しみやすい話し方をするカイさんが突然真面目な顔をした。

「……ひと月以上…バズールが意識を取り戻さない……もしも目覚める方法があるなら試してみたいです」

 魔道具……なんだか聞いたこともない言葉が出てきた……
 カイさんをジトっと見ているとニヤッと笑った。

「この世界にはライナが知らないことがたくさんあるんだ。俺はいろんな国へ行ってこの目で確かめて触れていろんなことを知った。バズールを助けることだって出来るはずだ」

 カイさんの言葉には嘘がない、信じてしまう。

「知らない世界……」

「ああ、お前は外国のことを色々研究するギルバートの助手だった。忘れるなんてもったいない。辛いこともあったかもしれない、だけどそれ以上に大事な思い出や大切な人も出来たはずだ、お前なら思い出せる。バズールが意識が戻るように一緒に探そう」

「大切な人……」

 辛かったであろう日々を他人事のようにしか聞いていなくて、自分のことだとピンとこなかった。
 でも思い出せば辛いことや悲しいこともあるかもしれない。でもそれ以上に大切な思い出や人のことを思い出せる……

 ーー思い出したい。




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