【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

じゅうさん

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 バズールの声を聞いて慌てて鍵を開けた。

 ガチャッ。

 扉が開いた瞬間、バズールは頭を思いっきり下げて

「遅れてごめん!」と謝った。

「どうしたの?どうやって汽車に……」
 疑問しか浮かばない。

「ギリギリで汽車に乗り込んだのはいいけど、切符が見つからなくて車掌さんに怪しまれて今まで捕まってた」

「捕まる?え?……じゃあ見つかったの?」

「うん、入れてたはずの内ポケットに入ってなくて必死で服のポケット探したら何故か俺……手の中に隠し持ってた」

「それって……握りしめていたこと忘れてたの?」

「慌てて汽車に乗り込んだから改札通って切符を見せた時に無意識に持っていたみたい………」

「ぷっ!バズールったら……もう来ないんだと思ってた、約束の時間になっても来ないから」

「ごめん、完全に寝坊した。目覚まししてたのに止めてまた寝てた」

「ふふ、確かにバズールって起きるの苦手だものね。今は起こしてくれるメイドもいないもの。自力で起きるのってやっぱり大変なの?」

「昨日は色々あって寝れなかったからね」

「……あっ………う、うん、そうだよね」

「ライナこそ昨日は大丈夫だった?王宮に呼び出されたんだろう?」

「あーーー、うん、自分の悪いところを教えていただいたかな……」

 ーー昨日のリリアンナ殿下の言葉を思い出すと胸が痛い。
『婚約解消をした傷モノ』
『バズールと幸せに暮らしてみせる』

 リリアンナ殿下に言われた言葉はたくさんあるけど、心に残った……ううん、抉られた言葉はこの二つ………

 バズールの顔が見れずにまた窓の外の流れる景色に目をやる。
 外の風景がどんどん変わっていくのを静かに見つめた。

 内心、バズールとどう話せばいいのか……恋心を自覚してしまったわたしはわからなくて……

「俺も呼び出された。ライナが帰ったあとに」

 その声には疲れがみえた。
 やはり殿下はわたしの時のようにわあわあと喚き散らしたのだろうか。

「そう……」
 どんな理由で呼ばれたかわかっているわたしはそれ以上言葉が見つからない。

 ーーはあ、意識しすぎなのわかっているの。普通に普通にしなきゃ!

「……リリアンナ殿下には以前から何度か結婚の申し入れがあった……そして断ったことは知っているよな?」

「う、うん」

「昨日もまた申し込まれた。ライナも聞いている?」

「うっ……そ、そうだね」
 ーー気になってるなんて言えない。

「俺……断ったんだ」

「…そ、そうなの…………」
 ーーホッとした。だけど……リリアンナ殿下のことを考えると……たぶんもう一つの辺境伯のところへお嫁に行くことになるのだろう。

 同じ人を好きになってしまったので……同情かもしれないけど、やっぱり辛いだろうなと思ってしまう。
 好きな人と結ばれず無理やり嫁がされるなんて……



 やっと自覚した恋心。
 なのに今さらどんな顔をして接していいのかわからず素っ気なくなっている。
 この態度はバズールが一番嫌いな態度なのを知ってて…
 ーーもう喧嘩は嫌だわ、す、素直にならなきゃ。例えこの思いを本人に話さなくても……バズールは従兄弟……今さら好きですなんて言えるわけがないわ。

「なぁライナ……国に帰ったらミレガー元伯爵達の裁判の結果を知ることになると思う」

「うん」

「リーリエ嬢はオリソン国で犯罪を犯したからそのまま向こうで裁かれる……」

「うん……」

「リリアンナ殿下は辺境伯に一月後嫁ぐことが決まった。これは王命だから覆ることはない」

「うん」

「俺がリリアンナ殿下の申し入れを断れば好きでもない人の元へ後妻として嫁がなければいけないとわかってて断った」

「………うん」

「俺が受け入れれば殿下は幸せになれるのかもと一瞬考えた。だけど彼女は俺を愛していると言いながら俺の容姿やいずれ受け継ぐ爵位、俺の優秀な頭の中が好きだったらしい」

「う、う、…………んっ?」

 ずっと窓の外を見ながらバズールと目線を合わせないようにしていたのに思わずバズールに目を向けた。

「ふっ………やっと俺の顔を見たな。なんなんだよ!俺の顔すらまともに見ないで!ライナらしくもない!」

「わたしらしいってどんな感じなの?」










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