【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

じゅういち

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 トランクを持ち寮を出た。

 男子寮の方へ目線をやるが女子寮からは壁を隔てられているしかなりの距離があるのでバズールの姿など見えるわけはない。

 待ち合わせは駅。

 大学の建物の敷地には寄り合い馬車乗り場がある。そこまでトボトボと歩いた。

 昨日のことを考えながら。
 寮に帰るとマリアナは何も知らないから普通に話しかけてくる。

 わたしのせいで攫われた事は知っているマリアナ。でもそこにリリアンナ殿下が裏にいる事は知らない。真実を知らないまま幕を閉じた今回の事件、嫌な思いも怖い想いもしたのはマリアナなのに隠されて謝られることもない。もし知ってそのことを誰かに話せば彼女自身の命が脅かされる。

 わたしは作り笑いでマリアナと話す。
 ーーごめんなさい。そう思いながら。

「ライナ、攫われた時わたしハンカチで口を押さえられたの、そしたら意識がなくなって……怖いとか思う暇もなかったわ」
 そう言ってわたしのせいなのに、わたしに心配かけないように笑いかけてくれる。

「マリアナ、ごめんなさい。わたしのせいで巻き込まれてしまって……」

「いっぱい心配してくれていっぱい謝って、もう大丈夫。今回のことはギルバート先生からも話を聞いたわ。『君を巻き込んでしまってすまなかった』と言われたわ。でも仕方がないもの、わざと巻き込んだ訳ではないしね、それに王族でもあるギルバート先生やケイン様と話すことができてわたしの存在に少し興味を持ってくれたのよ?」

「興味?」

「わたし平民だけど……それなりに勉強は頑張っているつもり。いつかは文官になりたいと思ってこの大学で2年間だけ特別枠で通っているの。その間に文官の採用試験を受けているの。前回は落ちたんだけどわたしが学んでいる経済学の成績を知って非正規雇用として手伝いに来ないかと言って下さったの」

 嬉しそうに笑うマリアナ。確かにマリアナの成績はいい。2年後なら文官の採用試験に合格すると思う。でも一年目の……半年とちょっとで非正規とは言え働かせてもらえるのは特別待遇だ。

「……ライナ、そんな顔しないで」

 わたしが考えていることがわかったみたいで……

「例えそれが今回の事件のお詫び?口封じ?だとしてもわたしにとってはまたとないチャンスなの。まずは大学に通いながら週末や午後の時間、文官見習いとして働くことになったの。実力を見せつけて文官になるつもりよ!」

「うん、マリアナが頑張るのなら応援するね」

 わたしは本当のことを知らないで良かったのだと一人納得する。だってマリアナが真実を知れば、それは一生秘密を持ち続けて生きていくことになる。何かあれば簡単に命は消される恐怖の中。

 それなら今のこの状況を受け入れるのが一番。真実を知らせることだけが全てではない。
 わたしは貴族として大人として、少しだけそんな世界の汚さを知り、そして理解した。

 ーー大人になるってなんだか疲れる。

 そんなことを考えながら乗合馬車に乗り駅へと向かった。

 馬車を降りて待ち合わせ場所に30分早く着いた。

 広場のベンチに腰掛けてバズールが来るのを待つ。

 リリアンナ殿下からの告白を受けたのかしら?

 ここには来ないかも……なぜか心配でモヤモヤしてバズールのことを考えると胸がチクチク痛むのは何故?

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