73 / 109
新しい恋。
よん
しおりを挟む
バズールに会いに男子寮へと向かった。
女子寮と男子寮は大きな壁で二つに分けられている。隣に行って門番さんに面会の申し込みをしないといけない。
「バズール・フェルドナーに面会したいのですが」
申し込みをすると
「はあまたか……彼は誰とも会わないよ」
と冷たく言われた。
「え?」
わたしが驚いた顔をすると
「フェルドナー様は一切面会を受け付けていないんだ。帰ってもらってもいいかな?」
「あ、あの、わたしの名前はライナ・パシェードです、こちらが身分証明書です。わたしとバズールはいとこ同士です」
「その言い訳は通用しないよ、さあ帰りなさい」
わたしの身分証明書に目も通さずに追い払おうとする門番さんに何と言おうか考えていると後ろから声が聞こえた。
「ライナ嬢?どうしたんだ?」
「あ……ケイン様……」
先生の研究室に通っているケイン様が声をかけてくれた。
「従兄弟のバズールに会いにきたのですが……」
「なるほど……門番の君はきちんと身分証明書を確認したの?ライナ嬢はバズール殿といとこ同士で親戚の場合、会うことは制限されていないはずだよ?もちろん相手が会わないというなら仕方がないけどね」
「…バズール様から面会は全て断るように言われております。今までもたくさんの令嬢が会いたいと押しかけてきて迷惑をしているのです。従姉妹と偽った人も何人もおりますし」
門番さんも無理やり押しかけてくる令嬢達にほとほと困っているのだろう。
「あ、あの、この身分証明書は本物です。ここに親戚の欄にお互いの名前が載っています」
親戚の場合は友人よりも制約が厳しくない。
男子寮と女子寮での問題事はもしも何かあれば門番さんの責任になる。
もちろん外で会うのは自由なんだけど寮では不純異性交友は絶対禁止。
なのに人気のある男性に対しては、ここに来れば会えるかもと無理やり押し寄せてくる令嬢は多い。
だからこそ親戚や婚約者などは特別許可を作っていて、証明書があれば通してもらえる。
今までは、バズールが会いにきてくれていた。わたしから会いに行くことはなかった。
バズールが来てくれて当たり前だった事に甘えていたのだとつくづく思った。
バズールは女子寮の門番さんには顔を覚えられていたくらいわたしに会いに来てくれていたのだ。
わたしはと言うと初めてで全く相手にもされなかった。
それも仕方がないのだと自身を反省しながら、ケイン様が門番さんと話してくれて中に通してもらえる事になってホッとした。
「ケイン様ありがとうございました」
わたしは中に通されてケイン様に連れられて建物の中に入った。
そして面談室に通された。
ケイン様は「じゃあ僕は行くね」と手を振り部屋に帰っていった。
わたしはバズールがくる間ソワソワしながら待っていた。
しばらく待っていると
「ライナ?」
バズールが慌てて着替えて走ってきたのがわかった。
「いきなりごめんなさい」
「どうしたんだ?何か急用?」
「ううん、最近会うことがなかったから……話がしたいなと思って……それと……これ」
そう言って切符をテーブルの上に置いた。
「これは?」
「お父様がバズールと一緒に冬の長期休暇帰って来れるようにと切符が送られてきたの。伯父様から手紙は来ていない?」
「あー、忙しくて読んでない」
「そっか、だからバズールから何も話がなかったのね………わたし………あの、あのね、………これ」
そう言ってバズールにお菓子の入った箱を渡した。
「うん?これは何?」
「バズールがした事は許せないけど、でもわたしの態度が悪かったことは認めるわ……ずっと無視して避けてごめんなさい。
わたしが焼いたクッキーなの。まだ初心者だから不恰好だけど味見をしてみたら食べれるので……よかったら食べてください」
わたしは真っ赤になりながらバズールに頭を下げてお菓子を渡した。
「…………俺も悪かった。反省してる」
バズールもバツが悪そうにしながら謝ってくれた。
「ついカーッとなってあんなことしてごめん。反省している」
バズールもわたしと同じで意地を張っていたみたい。何度も謝りに行ったのに会おうともしないわたしに対して怒って意地を張っていたみたい。
「バズールが……会ってもあんなに冷たい表情でわたしを見るから……すっごい傷ついたんだから」
「冷たい?あ……違う……あれは…怒っているライナにどう接していいのかわからなくて固まってただけだから」
「そうは見えなかったわ」
「仕方がないだろう?どう許して貰えばいいのかわからなかったんだ、もう諦めるしかないと思ってたから」
「今まで喧嘩してもすぐ仲直りできたのにね」
「いや、お前が許さなかったんだろう」
「だってバズールったらリリアンナ殿下を好きだと言ったじゃない」
「俺が?いつ?」
「たまたま通りかかった時に……
『ふふ、素直になりなさい。わたしのこと好きでしょう?』
『はい、好きですね』
って話してたじゃない」
「あ、あっ、あれ?あれは……
『どう?バズール?わたしに惚れた?』
『あー、人間性には惚れました』
っていう会話が前にあるんだ。そして最後に
『性格だけなら』と付け加えたんだ。
リリアンナ殿下は我儘放題で自由奔放に見えるけど、市井に行って人々の声を聞き入れられる人なんだ。その事に対して話しただけだ」
「そうなんだ……リリアンナ殿下といる時のバズールはとても楽しそうだったから……それにリリアンナ殿下のお気に入りだと聞いているわ。
いずれバズールに降嫁されるのだと噂されているからわたしなんかもう相手にするのも嫌なのだと思ってたの」
「俺とリリアンナ殿下が?」
バズールは初めて聞いたと驚いた顔をしている。
「知らないの?」
「今はリリアンナ殿下の側近として忙しい時間を過ごしているのは確かだし、気に入られているのも確かだ。でもそれはいずれ国に戻った時に王太子殿下の側近としての勉強になるから仕えているだけだ。リリアンナ殿下は全ての人は自分を愛するものだと思っている。だから俺が敬愛するのが当たり前だと思っているし俺自身も今はそれほどリリアンナ殿下のことを悪い人ではないと思っているし尊敬しているところもある」
「そっか、わたしが先生を尊敬しているのと同じね」
「いや違うから、俺はライナみたいにギルバート様に夢中じゃないから」
「いつわたしが先生に夢中になったと言うの?わたしは先生の助手をしながら商会に少しでも役立つことを勉強になればいいなと思って頑張っているの!」
「嘘だ。ライナこそいつも楽しそうにしてるじゃないか!」
「それはバズールでしょう!」
「だから俺は……」
「「……………」」
「ふふ、また、言い合いになって喧嘩になったら仲直り出来なくなるわ」
「そうだな、ごめんライナ。ライナは別にギルバート様を好きな訳ではなかったんだ」
「へ?先生を好き?」
ーー先生を好き?意識したことなんてなかった。
どうしてバズールはそんなこと思ったのかしら?
女子寮と男子寮は大きな壁で二つに分けられている。隣に行って門番さんに面会の申し込みをしないといけない。
「バズール・フェルドナーに面会したいのですが」
申し込みをすると
「はあまたか……彼は誰とも会わないよ」
と冷たく言われた。
「え?」
わたしが驚いた顔をすると
「フェルドナー様は一切面会を受け付けていないんだ。帰ってもらってもいいかな?」
「あ、あの、わたしの名前はライナ・パシェードです、こちらが身分証明書です。わたしとバズールはいとこ同士です」
「その言い訳は通用しないよ、さあ帰りなさい」
わたしの身分証明書に目も通さずに追い払おうとする門番さんに何と言おうか考えていると後ろから声が聞こえた。
「ライナ嬢?どうしたんだ?」
「あ……ケイン様……」
先生の研究室に通っているケイン様が声をかけてくれた。
「従兄弟のバズールに会いにきたのですが……」
「なるほど……門番の君はきちんと身分証明書を確認したの?ライナ嬢はバズール殿といとこ同士で親戚の場合、会うことは制限されていないはずだよ?もちろん相手が会わないというなら仕方がないけどね」
「…バズール様から面会は全て断るように言われております。今までもたくさんの令嬢が会いたいと押しかけてきて迷惑をしているのです。従姉妹と偽った人も何人もおりますし」
門番さんも無理やり押しかけてくる令嬢達にほとほと困っているのだろう。
「あ、あの、この身分証明書は本物です。ここに親戚の欄にお互いの名前が載っています」
親戚の場合は友人よりも制約が厳しくない。
男子寮と女子寮での問題事はもしも何かあれば門番さんの責任になる。
もちろん外で会うのは自由なんだけど寮では不純異性交友は絶対禁止。
なのに人気のある男性に対しては、ここに来れば会えるかもと無理やり押し寄せてくる令嬢は多い。
だからこそ親戚や婚約者などは特別許可を作っていて、証明書があれば通してもらえる。
今までは、バズールが会いにきてくれていた。わたしから会いに行くことはなかった。
バズールが来てくれて当たり前だった事に甘えていたのだとつくづく思った。
バズールは女子寮の門番さんには顔を覚えられていたくらいわたしに会いに来てくれていたのだ。
わたしはと言うと初めてで全く相手にもされなかった。
それも仕方がないのだと自身を反省しながら、ケイン様が門番さんと話してくれて中に通してもらえる事になってホッとした。
「ケイン様ありがとうございました」
わたしは中に通されてケイン様に連れられて建物の中に入った。
そして面談室に通された。
ケイン様は「じゃあ僕は行くね」と手を振り部屋に帰っていった。
わたしはバズールがくる間ソワソワしながら待っていた。
しばらく待っていると
「ライナ?」
バズールが慌てて着替えて走ってきたのがわかった。
「いきなりごめんなさい」
「どうしたんだ?何か急用?」
「ううん、最近会うことがなかったから……話がしたいなと思って……それと……これ」
そう言って切符をテーブルの上に置いた。
「これは?」
「お父様がバズールと一緒に冬の長期休暇帰って来れるようにと切符が送られてきたの。伯父様から手紙は来ていない?」
「あー、忙しくて読んでない」
「そっか、だからバズールから何も話がなかったのね………わたし………あの、あのね、………これ」
そう言ってバズールにお菓子の入った箱を渡した。
「うん?これは何?」
「バズールがした事は許せないけど、でもわたしの態度が悪かったことは認めるわ……ずっと無視して避けてごめんなさい。
わたしが焼いたクッキーなの。まだ初心者だから不恰好だけど味見をしてみたら食べれるので……よかったら食べてください」
わたしは真っ赤になりながらバズールに頭を下げてお菓子を渡した。
「…………俺も悪かった。反省してる」
バズールもバツが悪そうにしながら謝ってくれた。
「ついカーッとなってあんなことしてごめん。反省している」
バズールもわたしと同じで意地を張っていたみたい。何度も謝りに行ったのに会おうともしないわたしに対して怒って意地を張っていたみたい。
「バズールが……会ってもあんなに冷たい表情でわたしを見るから……すっごい傷ついたんだから」
「冷たい?あ……違う……あれは…怒っているライナにどう接していいのかわからなくて固まってただけだから」
「そうは見えなかったわ」
「仕方がないだろう?どう許して貰えばいいのかわからなかったんだ、もう諦めるしかないと思ってたから」
「今まで喧嘩してもすぐ仲直りできたのにね」
「いや、お前が許さなかったんだろう」
「だってバズールったらリリアンナ殿下を好きだと言ったじゃない」
「俺が?いつ?」
「たまたま通りかかった時に……
『ふふ、素直になりなさい。わたしのこと好きでしょう?』
『はい、好きですね』
って話してたじゃない」
「あ、あっ、あれ?あれは……
『どう?バズール?わたしに惚れた?』
『あー、人間性には惚れました』
っていう会話が前にあるんだ。そして最後に
『性格だけなら』と付け加えたんだ。
リリアンナ殿下は我儘放題で自由奔放に見えるけど、市井に行って人々の声を聞き入れられる人なんだ。その事に対して話しただけだ」
「そうなんだ……リリアンナ殿下といる時のバズールはとても楽しそうだったから……それにリリアンナ殿下のお気に入りだと聞いているわ。
いずれバズールに降嫁されるのだと噂されているからわたしなんかもう相手にするのも嫌なのだと思ってたの」
「俺とリリアンナ殿下が?」
バズールは初めて聞いたと驚いた顔をしている。
「知らないの?」
「今はリリアンナ殿下の側近として忙しい時間を過ごしているのは確かだし、気に入られているのも確かだ。でもそれはいずれ国に戻った時に王太子殿下の側近としての勉強になるから仕えているだけだ。リリアンナ殿下は全ての人は自分を愛するものだと思っている。だから俺が敬愛するのが当たり前だと思っているし俺自身も今はそれほどリリアンナ殿下のことを悪い人ではないと思っているし尊敬しているところもある」
「そっか、わたしが先生を尊敬しているのと同じね」
「いや違うから、俺はライナみたいにギルバート様に夢中じゃないから」
「いつわたしが先生に夢中になったと言うの?わたしは先生の助手をしながら商会に少しでも役立つことを勉強になればいいなと思って頑張っているの!」
「嘘だ。ライナこそいつも楽しそうにしてるじゃないか!」
「それはバズールでしょう!」
「だから俺は……」
「「……………」」
「ふふ、また、言い合いになって喧嘩になったら仲直り出来なくなるわ」
「そうだな、ごめんライナ。ライナは別にギルバート様を好きな訳ではなかったんだ」
「へ?先生を好き?」
ーー先生を好き?意識したことなんてなかった。
どうしてバズールはそんなこと思ったのかしら?
134
お気に入りに追加
8,435
あなたにおすすめの小説


立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。


〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる