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新しい恋。
さん
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時間は嫌でも過ぎていく。
「バズールから話しかけてくれたらいいのに……」
ベッドの上に座りクッションを抱きしめて切符を見つめた。
ずっと一緒に育ったバズール。言いたいことも言えるしお互い気を遣わない気軽さの中で過ごしてきた。
喧嘩もよくした。でもすぐに「ごめんね」と言えば仲直りしてきたのに……
今回は喧嘩してひと月以上経った。どちらからともなく謝ることもできずにいた。ううん、バズールが何度も謝ろうとしたけどそれをわたしが避けた。
「バズールがいけないのよ。わたし……悪くないもの。リリアンナ殿下を好きなくせにわたしにキスなんてするんだもの、いくら腹を立てていたからってキスするなんて……」
わたしがぶつぶつ言っているとルームメイトのマリアナがわたしのベッドに近寄ってきた。
「ライナったらバズール様と仲直りしたいのならそろそろ許してあげたら?バズール様何度も寮に会いにこられていたじゃない」
「……だって……バズールったら……」
「キスくらいいいじゃない。お互い好きなんでしょう?」
「…へっ⁈」
あまりにも驚いてマリアナを凝視して固まってしまった。
ーーな、何を言っているの?バズールだよ?バズールはバズールだよ?
バズールは従兄弟で幼馴染で喧嘩友達でどんな悩みも話せていつもそばに居てくれる……バズールだよ?
「バズール様とのキスそんなに嫌だった?」
マリアナがあっけらかんと聞いてきた。
「……驚いた……わ」
ーーいやとかそんなこと考えたこともなかった。
ただ驚いて……バズールが男の人に見えて……それで……
「もう二度と話すのも嫌なの?」
「ううん、仲直りしたい。でもバズールはいつもリリアンナ殿下のそばに居るから、話すことも出来ないもの」
「リリアンナ殿下ね……我が国では有名な方よ、可愛らしい容姿でいろんな人を魅了してやまない。それでいて性格も我儘で自由奔放。だけどわたし達平民からはとても人気があるのよ。わたしも尊敬しているわ」
わたしはその話を聞いてキョトンとした。
「王族ってどうしても高位貴族の人たちの顔色を窺いやすいじゃない?でもリリアンナ殿下は街に顔を出して今困っていることはないのか自分の足で見にきて、すぐに調べて動いてくださるの。わたし達にとってはとても尊いお方なの」
「素敵な方なのね」
ーーああ、だからバズールはリリアンナ殿下へ好意を持ったのね。
その話を聞いて今まで不思議だったのに疑問がストンと腑に落ちて納得した。
バズールはただ自分に甘えて言い寄ってくる人や自分の妻になりたいだけの人たちに対してはとても冷たい。
あんなにモテるのに女性に興味がないのかと思っていたけど、ただ自分が納得できる女性に出会えなかっただけなのだ。
あんな楽しそうに話しているバズールを見た事がなかった。わたしといてもあんな顔をしたことなんてない。
そう思うと胸がツキっとくるのはどうしてなのかしら?
マリアナが言ったとおり好きだから?
うん、バズールのことは大好き。だってずっと一緒に育った仲なんだもの、嫌いになんてなれない。シエルのことで辛い日々もバズールがそばに居てくれたおかげでなんとか乗り越えられたのだもの。
「………イナ?…………聞こえてる?」
マリアナの呼びかけに答えるのも忘れるくらいバズールのことを考え込んでいた。
「うん、聞こえてるわ。マリアナ、わたしバズールのこととても大切なの。好きって色々あるのよね。わたしはバズールのことずっと友達だと思ってる、キスしたことは許せないけどバズールとこれ以上仲が悪いままでいたくないわ、もう一度話してみる」
「うーん、ライナはまだまだ恋に恋する乙女なのね。もう少し大人になったらわかるのかもしれないわね」
「あら?わたしこれでも大きな失恋をしたのよ?しっかり恋する気持ちは知っているわ」
「その噂なんだけど……ライナが愛する二人を引き裂いて邪魔した婚約者っていわれているの……知ってた?」
「ハア、それ誰が流したのかしら?シエルはリーリエ様を愛してはいなかった。ただ護衛として職務を全うしていただけなの……それにわたしとシエルは幼い頃から仲良く遊んでいた幼馴染で関係は良好だったの……」
「ごめん、ライナ。わたしはライナがそんなことする子ではないのわかってたし信じていなかったんだけど、あまりにも酷い噂なので腹が立ってライナに話してしまったの……ライナ、ごめんね辛い話をさせて……」
マリアナは意地悪でそんな噂話をわたしにした訳ではないのはわかっていた。
でもどうしてなのだろう?
態々この国で目立たないわたしの噂を流す必要はないはず。だってこの国で社交をしている訳でもないし、お父様の地位も商会の仕事もここではあまり関係ない。
ふとリリアンナ殿下の顔が浮かんだけど……証拠もないのにそんなこと考えたらいけないと頭を横に振って悪い想像はやめる事にした。
「マリアナ、わかってるわ。ありがとう……ただ噂を流したのは誰なのかしら?ってつい考えてしまったの」
「確かに……留学で来てるライナの事情を知っている人なんてそんなにいないと思うわ。それにその噂話の内容があまりにも詳しいのよね。ライナの婚約者の話って貴女の国では有名なの?」
「シエルのことはあまり話題にはならなかったわ、ただ……わたしを攫って殺そうとしたのがその噂の愛する二人と言われる女の子の父親なの」
わたしはマリアナにあの時のことを詳しく話した。隠していたつもりはないけど敢えてべらべらと話すことでもないので初めて人に話した。
その話を聞いたマリアナはとても腹を立てて
「なんでライナがそんな嫌な思いをしたの!」
と、さらに怒ってくれた。
「それにそんな人の過去をいかにもライナが悪いみたいに噂を流すなんて」
マリアナはそう言いながらわたしをぎゅうっと抱きしめてくれた。
「バズールから話しかけてくれたらいいのに……」
ベッドの上に座りクッションを抱きしめて切符を見つめた。
ずっと一緒に育ったバズール。言いたいことも言えるしお互い気を遣わない気軽さの中で過ごしてきた。
喧嘩もよくした。でもすぐに「ごめんね」と言えば仲直りしてきたのに……
今回は喧嘩してひと月以上経った。どちらからともなく謝ることもできずにいた。ううん、バズールが何度も謝ろうとしたけどそれをわたしが避けた。
「バズールがいけないのよ。わたし……悪くないもの。リリアンナ殿下を好きなくせにわたしにキスなんてするんだもの、いくら腹を立てていたからってキスするなんて……」
わたしがぶつぶつ言っているとルームメイトのマリアナがわたしのベッドに近寄ってきた。
「ライナったらバズール様と仲直りしたいのならそろそろ許してあげたら?バズール様何度も寮に会いにこられていたじゃない」
「……だって……バズールったら……」
「キスくらいいいじゃない。お互い好きなんでしょう?」
「…へっ⁈」
あまりにも驚いてマリアナを凝視して固まってしまった。
ーーな、何を言っているの?バズールだよ?バズールはバズールだよ?
バズールは従兄弟で幼馴染で喧嘩友達でどんな悩みも話せていつもそばに居てくれる……バズールだよ?
「バズール様とのキスそんなに嫌だった?」
マリアナがあっけらかんと聞いてきた。
「……驚いた……わ」
ーーいやとかそんなこと考えたこともなかった。
ただ驚いて……バズールが男の人に見えて……それで……
「もう二度と話すのも嫌なの?」
「ううん、仲直りしたい。でもバズールはいつもリリアンナ殿下のそばに居るから、話すことも出来ないもの」
「リリアンナ殿下ね……我が国では有名な方よ、可愛らしい容姿でいろんな人を魅了してやまない。それでいて性格も我儘で自由奔放。だけどわたし達平民からはとても人気があるのよ。わたしも尊敬しているわ」
わたしはその話を聞いてキョトンとした。
「王族ってどうしても高位貴族の人たちの顔色を窺いやすいじゃない?でもリリアンナ殿下は街に顔を出して今困っていることはないのか自分の足で見にきて、すぐに調べて動いてくださるの。わたし達にとってはとても尊いお方なの」
「素敵な方なのね」
ーーああ、だからバズールはリリアンナ殿下へ好意を持ったのね。
その話を聞いて今まで不思議だったのに疑問がストンと腑に落ちて納得した。
バズールはただ自分に甘えて言い寄ってくる人や自分の妻になりたいだけの人たちに対してはとても冷たい。
あんなにモテるのに女性に興味がないのかと思っていたけど、ただ自分が納得できる女性に出会えなかっただけなのだ。
あんな楽しそうに話しているバズールを見た事がなかった。わたしといてもあんな顔をしたことなんてない。
そう思うと胸がツキっとくるのはどうしてなのかしら?
マリアナが言ったとおり好きだから?
うん、バズールのことは大好き。だってずっと一緒に育った仲なんだもの、嫌いになんてなれない。シエルのことで辛い日々もバズールがそばに居てくれたおかげでなんとか乗り越えられたのだもの。
「………イナ?…………聞こえてる?」
マリアナの呼びかけに答えるのも忘れるくらいバズールのことを考え込んでいた。
「うん、聞こえてるわ。マリアナ、わたしバズールのこととても大切なの。好きって色々あるのよね。わたしはバズールのことずっと友達だと思ってる、キスしたことは許せないけどバズールとこれ以上仲が悪いままでいたくないわ、もう一度話してみる」
「うーん、ライナはまだまだ恋に恋する乙女なのね。もう少し大人になったらわかるのかもしれないわね」
「あら?わたしこれでも大きな失恋をしたのよ?しっかり恋する気持ちは知っているわ」
「その噂なんだけど……ライナが愛する二人を引き裂いて邪魔した婚約者っていわれているの……知ってた?」
「ハア、それ誰が流したのかしら?シエルはリーリエ様を愛してはいなかった。ただ護衛として職務を全うしていただけなの……それにわたしとシエルは幼い頃から仲良く遊んでいた幼馴染で関係は良好だったの……」
「ごめん、ライナ。わたしはライナがそんなことする子ではないのわかってたし信じていなかったんだけど、あまりにも酷い噂なので腹が立ってライナに話してしまったの……ライナ、ごめんね辛い話をさせて……」
マリアナは意地悪でそんな噂話をわたしにした訳ではないのはわかっていた。
でもどうしてなのだろう?
態々この国で目立たないわたしの噂を流す必要はないはず。だってこの国で社交をしている訳でもないし、お父様の地位も商会の仕事もここではあまり関係ない。
ふとリリアンナ殿下の顔が浮かんだけど……証拠もないのにそんなこと考えたらいけないと頭を横に振って悪い想像はやめる事にした。
「マリアナ、わかってるわ。ありがとう……ただ噂を流したのは誰なのかしら?ってつい考えてしまったの」
「確かに……留学で来てるライナの事情を知っている人なんてそんなにいないと思うわ。それにその噂話の内容があまりにも詳しいのよね。ライナの婚約者の話って貴女の国では有名なの?」
「シエルのことはあまり話題にはならなかったわ、ただ……わたしを攫って殺そうとしたのがその噂の愛する二人と言われる女の子の父親なの」
わたしはマリアナにあの時のことを詳しく話した。隠していたつもりはないけど敢えてべらべらと話すことでもないので初めて人に話した。
その話を聞いたマリアナはとても腹を立てて
「なんでライナがそんな嫌な思いをしたの!」
と、さらに怒ってくれた。
「それにそんな人の過去をいかにもライナが悪いみたいに噂を流すなんて」
マリアナはそう言いながらわたしをぎゅうっと抱きしめてくれた。
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