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さんじゅういち
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シエルから連絡が来たのは1週間後だった。
今回はシエル本人が我が家に会いに来た。
お父様の都合がつかず、仕事が終わった夕方に彼はやってきた。
「前回は申し訳ありませんでした」
来てすぐにお父様に対して頭を下げた。
あの時のわたしへの怒りや横柄な態度は消えているように感じた。
隣にいたおじ様はわたしを見てぺこりと頭を下げたがすぐにお父様とおじ様は部屋を出て行き二人っきりになった。
「…………」
シエルはソファに座ったまま下を向いて何も話そうとはしなかった。
重たい空気の中わたしは彼が話し出すのを待つしかなかった。
わたしから話しかけることは簡単だけど今の彼にはわたしの言葉は入ってこないだろう。それくらい憔悴しているようだった。
この1週間の間に彼は何かあったのかは知らない。それとも知ったのだろうか、リーリエ様達のことを。
彼の顔を久しぶりにしっかり見た気がする。
この前は話すのが精一杯で顔をじっくりとは見ていなかった。
あんなに優しくてカッコよくて大好きだと思っていたはずの彼なのに今はただ、シエルがここにいるだけだとしか思えない。
デートも何度もキャンセルされ、彼に信じてもらえず、会えば文句を言われ怒りをぶつけられることしかなかったこの数ヶ月。
いつの間にか彼への愛情は消え去っていた。それでも長年一緒に過ごした思い出は消えることはない、好きだった感情は無くなってもまだ彼への情は残っている。
だからこそシエルに対して今も何も言わずに待っている。
ここでまたわたしを罵倒するならそれまで。
すぐに婚約解消の書類を見せてサインを貰い帰ってもらう。
そう思いながら彼の言葉を待つこと10分以上の時間が経っていた。
出された紅茶はそろそろ冷め始めた。
無言の中黙っていると喉が乾燥してきて紅茶を口にする。
紅茶を飲む音が静かすぎる部屋に響いてしまう。
カチャッ……ゴクッ。
なんとも言えない音にわたしは困り顔をしながら俯いたままのシエルをチラッと見ながらまた音を立てないように紅茶を飲む。
ーーシエル?
心の中で彼の名を呼ぶ。
「………ライナ……ごめん………カイゼンから言われた……ライナは悪くないって」
そう言うとシエルは顔を上げた。
情けない顔をしている、そこにはあれだけわたしに威圧的な態度を取っていたシエルの姿はなくなっていた。
「………噂を真に受けた俺がバカだと。リーリエ様は天使のように愛らしくライナのことを悪者にするなんて信じることができなかったんだ」
「うん、シエルは婚約者であり幼馴染でもあるわたしの言葉よりリーリエ様の言葉だけを信じたものね」
ーー嫌味だったかな?でも真実だもの。
「俺はリーリエ様の護衛騎士として頑張ってきた。彼女はいつも目を潤ませてか弱く守ってあげるべき存在だった。まさか……あんな人だと思わなかった」
「あんな人?」
流石にどんな人なのか想像できなかった。あざとい人だとはわかっていた。自分が都合よく扱えそうな人の前では、か弱そうにしてじぶんの味方に付ける人だ。
そう、常に周りにじぶんの味方をつけて自慢げに人を見下すのが好きな人だ。
「……リーリエ様はライナのことを学校の貴族令息達に態と悪口を言って回らせて社交界で醜聞になるようにしていた。さらに商会に行って君のことを偽物の商品を渡したと言ってクレームを言ったことも真実だったと聞いた。……誘拐の話も真実だった」
「そう……どうやって聞いたの?」
「君に話を聞かされてミレガー伯爵が捕まって取り調べが行われている王城の騎士団に行ってきた……君は本当に殺されそうになっていたんだね。リーリエ様は………今、奥様と共に捕まったよ、君の名誉を著しく害したことにより名誉毀損でね、そして奥様はミレガー伯爵と共に密輸にも関わっていたらしいんだ。
リーリエ様は……婚約者のいる貴族令息達と体の関係があったらしい。リーリエ様付きの護衛騎士達ともそういうことをしていたらしい、まだ15歳の未成年とは言え流石に看過できない。
それに、自分の気に入らない令嬢達に対して……かなりえげつない事をしていた」
「……あ、貴方は?」
わたしは震える声で聞いた。
「…俺は……たぶんあれはそうなんだと今ならわかることが何度かあった。だけど誘われたけどしていない。彼女は俺の守るべき人であってそういう対象ではない。ライナ……勘違いさせてごめん、君を信じなくてごめん、嫌な思いばかりさせてごめん。それでも俺は……」
「シエル、もうわかっているのでしょう?」
「え?何が?」
シエルは唇を震わせてわたしを見た。
わかっているはず………なのに彼はわたしとまだやり直せると少しでも期待しているのだろうか?
「わたしとシエルの関係は………もう終わったこと……」
「ま、待って……まだ何も終わっていない。だって……ライナ?俺はライナを愛しているんだ」
「わたしではなくリーリエ様を信じた貴方がわたしを愛していると言うの?」
「ずっと君だけだ」
「あれだけわたしが悪いと言い続けた貴方が?」
「すまない、君が悪い事をしているなら正さないといけないと思ったんだ」
「貴方にとってわたしはなんだったのでしょうね?婚約者?それとも自分の気持ちを自己満足させるための道具?言う事を聞かない道具は必要ない?思う通りにならないわたしには価値すらなかった?あんな酷い事を平気で言える貴方はもうわたしが愛したシエルではないわ」
ーー涙くらい流れると思ったのに……心の中はカラカラに渇いて一滴の涙すら出ない。
「シエル、婚約解消の書類よ」
彼の目の前のテーブルに紙を置いた。
「だ、だめだ。俺は婚約解消なんてする気はない」
「勝手に出すこともできたの、おじ様は何度も自分がサインをして出すと言ってくれたの」
わたしはシエルの目を見つめた。
彼は動揺して真っ青になっていたけどわたしにはどうでもよかった。
「……でもね、最後に貴方と話をしてみたかったの」
今回はシエル本人が我が家に会いに来た。
お父様の都合がつかず、仕事が終わった夕方に彼はやってきた。
「前回は申し訳ありませんでした」
来てすぐにお父様に対して頭を下げた。
あの時のわたしへの怒りや横柄な態度は消えているように感じた。
隣にいたおじ様はわたしを見てぺこりと頭を下げたがすぐにお父様とおじ様は部屋を出て行き二人っきりになった。
「…………」
シエルはソファに座ったまま下を向いて何も話そうとはしなかった。
重たい空気の中わたしは彼が話し出すのを待つしかなかった。
わたしから話しかけることは簡単だけど今の彼にはわたしの言葉は入ってこないだろう。それくらい憔悴しているようだった。
この1週間の間に彼は何かあったのかは知らない。それとも知ったのだろうか、リーリエ様達のことを。
彼の顔を久しぶりにしっかり見た気がする。
この前は話すのが精一杯で顔をじっくりとは見ていなかった。
あんなに優しくてカッコよくて大好きだと思っていたはずの彼なのに今はただ、シエルがここにいるだけだとしか思えない。
デートも何度もキャンセルされ、彼に信じてもらえず、会えば文句を言われ怒りをぶつけられることしかなかったこの数ヶ月。
いつの間にか彼への愛情は消え去っていた。それでも長年一緒に過ごした思い出は消えることはない、好きだった感情は無くなってもまだ彼への情は残っている。
だからこそシエルに対して今も何も言わずに待っている。
ここでまたわたしを罵倒するならそれまで。
すぐに婚約解消の書類を見せてサインを貰い帰ってもらう。
そう思いながら彼の言葉を待つこと10分以上の時間が経っていた。
出された紅茶はそろそろ冷め始めた。
無言の中黙っていると喉が乾燥してきて紅茶を口にする。
紅茶を飲む音が静かすぎる部屋に響いてしまう。
カチャッ……ゴクッ。
なんとも言えない音にわたしは困り顔をしながら俯いたままのシエルをチラッと見ながらまた音を立てないように紅茶を飲む。
ーーシエル?
心の中で彼の名を呼ぶ。
「………ライナ……ごめん………カイゼンから言われた……ライナは悪くないって」
そう言うとシエルは顔を上げた。
情けない顔をしている、そこにはあれだけわたしに威圧的な態度を取っていたシエルの姿はなくなっていた。
「………噂を真に受けた俺がバカだと。リーリエ様は天使のように愛らしくライナのことを悪者にするなんて信じることができなかったんだ」
「うん、シエルは婚約者であり幼馴染でもあるわたしの言葉よりリーリエ様の言葉だけを信じたものね」
ーー嫌味だったかな?でも真実だもの。
「俺はリーリエ様の護衛騎士として頑張ってきた。彼女はいつも目を潤ませてか弱く守ってあげるべき存在だった。まさか……あんな人だと思わなかった」
「あんな人?」
流石にどんな人なのか想像できなかった。あざとい人だとはわかっていた。自分が都合よく扱えそうな人の前では、か弱そうにしてじぶんの味方に付ける人だ。
そう、常に周りにじぶんの味方をつけて自慢げに人を見下すのが好きな人だ。
「……リーリエ様はライナのことを学校の貴族令息達に態と悪口を言って回らせて社交界で醜聞になるようにしていた。さらに商会に行って君のことを偽物の商品を渡したと言ってクレームを言ったことも真実だったと聞いた。……誘拐の話も真実だった」
「そう……どうやって聞いたの?」
「君に話を聞かされてミレガー伯爵が捕まって取り調べが行われている王城の騎士団に行ってきた……君は本当に殺されそうになっていたんだね。リーリエ様は………今、奥様と共に捕まったよ、君の名誉を著しく害したことにより名誉毀損でね、そして奥様はミレガー伯爵と共に密輸にも関わっていたらしいんだ。
リーリエ様は……婚約者のいる貴族令息達と体の関係があったらしい。リーリエ様付きの護衛騎士達ともそういうことをしていたらしい、まだ15歳の未成年とは言え流石に看過できない。
それに、自分の気に入らない令嬢達に対して……かなりえげつない事をしていた」
「……あ、貴方は?」
わたしは震える声で聞いた。
「…俺は……たぶんあれはそうなんだと今ならわかることが何度かあった。だけど誘われたけどしていない。彼女は俺の守るべき人であってそういう対象ではない。ライナ……勘違いさせてごめん、君を信じなくてごめん、嫌な思いばかりさせてごめん。それでも俺は……」
「シエル、もうわかっているのでしょう?」
「え?何が?」
シエルは唇を震わせてわたしを見た。
わかっているはず………なのに彼はわたしとまだやり直せると少しでも期待しているのだろうか?
「わたしとシエルの関係は………もう終わったこと……」
「ま、待って……まだ何も終わっていない。だって……ライナ?俺はライナを愛しているんだ」
「わたしではなくリーリエ様を信じた貴方がわたしを愛していると言うの?」
「ずっと君だけだ」
「あれだけわたしが悪いと言い続けた貴方が?」
「すまない、君が悪い事をしているなら正さないといけないと思ったんだ」
「貴方にとってわたしはなんだったのでしょうね?婚約者?それとも自分の気持ちを自己満足させるための道具?言う事を聞かない道具は必要ない?思う通りにならないわたしには価値すらなかった?あんな酷い事を平気で言える貴方はもうわたしが愛したシエルではないわ」
ーー涙くらい流れると思ったのに……心の中はカラカラに渇いて一滴の涙すら出ない。
「シエル、婚約解消の書類よ」
彼の目の前のテーブルに紙を置いた。
「だ、だめだ。俺は婚約解消なんてする気はない」
「勝手に出すこともできたの、おじ様は何度も自分がサインをして出すと言ってくれたの」
わたしはシエルの目を見つめた。
彼は動揺して真っ青になっていたけどわたしにはどうでもよかった。
「……でもね、最後に貴方と話をしてみたかったの」
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