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にじゅうに
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目が覚めるとそこは知らない場所だった。
窓の外は暗い……
ーーもう夜みたい……
部屋の中は真っ暗だけど、別に縛られてはいないし立って歩くことができた。
「誰かいませんか?」
月明かりを頼りに暗闇の中を歩いてみた。
何もない部屋。
わたしは絨毯だけが敷かれた床に寝かされていたみたい。身体中が床の上で寝ていたので痛い。
扉のノブを回してみたがやはり鍵は掛けられていた。
窓ももちろん開かないように、はめ殺しになっていた。
「はあー、喉が渇いたわ」
恐怖はもちろんあるのだけどまずはこの喉の渇きをどうにかしたい。
仕方なく、扉をなん度も叩いてみた。
扉に耳を当てていたらしばらくすると人の声が微かに聞こえて来た。
「…………開けるぞ」
外から聞こえた微かな男の人の声に慌てて、扉から離れた。
灯りを持った男の人と女の人が入って来た。
「起きていますか?」
わたしに声をかけて来たのはわたしよりもかなり年上の女の人だった。
「………はい」
「部屋の中が暗くてごめんなさいね。顔を知られると困るの。でも何もしないわ、これ食べ物です」
そう言うと床に食べ物を置いた。
薄暗いランタンの灯りと毛布も扉の近くに置いてくれた。
「あなたの父親と交渉が成立すればすぐに解放します。大人しくしていてくださればこちらは危害を加えることはしません。お願いです、大人しくしていてください」
悪いことをしている人のはずなのに女性の声はか弱く震えていた。懇願するように言われた。
その言葉に思わず「わかりました」と答えてしまった。
扉の鍵が閉まってからわたしは置かれたランタンを取りトレーに近づけた。
そこには温かなスープとパン、ジュースと別にお水の入ったコップがあった。
あの女性の声は申し訳なさそうで悪意は感じられなかった。だから有り難く頂くことにした。
「あったかい……それに美味しい」
たくさん具の入ったトマトのスープはお腹が空き過ぎた胃に優しい。
パンも柔らかくてバターが使われた美味しい手作りのパンだった。
しっかりお腹も喉も満たされて、自分の今の環境についてやっと考えることができた。
お父様と交渉が上手くいったらと言っていた。
わたしは誘拐されてお父様と何か取引をしているようだ。でもわたしを監禁している二人には悪意は感じない、どちらかと言うとイヤイヤしている感じがする。頼まれて仕方なくしているのか何か脅されているのか事情があるのだろう。
だからわたしに顔を見られたくないのかもしれない。
お父様が護衛をしっかりつけなさい、と言われていたのにわたしがトイレへ一人で行ってしまった。
そのことが今更ながら後悔することになった。
まあ、あんな厳重な図書館でまさかの誘拐があるなんて思いもよらなかったけど。
話し相手もいないランタンの灯りだけの中、寒さの中毛布に包まるしか手立てはないので大人しくしていることにした。
どのくらいここにいればいいのだろう?
お父様もバズールももう動いてくれているだろう。サマンサが責任を感じて落ち込んでいなければいいけど……
なんて危機感を感じないといけないのに、ここは静かで恐怖を感じない。
感覚が麻痺しているのかもしれない。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
たぶん睡眠薬を入れられていたみたい。
少し頭が痛い。
また夜暗くなってから目が覚めた。
今回は近くにランタンも置いてあるし水差しとコップも置かれていた。
そして、また昨日と同じように二人の男性と女性が現れた。
「食事です。あと少しだけ我慢してください。申し訳ありません」
「体調はどうです?」
などわたしに気遣ってくれる。
「……わたしはあとどれくらいで解放されますか?」
「…………たぶん数日中には……すみません、絶対に無傷で解放します。我慢してください」
女性は震える声で何度も謝った。だからと言ってすぐにわたしを解放するとは言ってくれない。
男性は何も言わない。
でも男性もわたしに圧を与えることも強い口調もない。ただ女性のそばにいるだけだ。
薄暗い灯りでは手元が見えるのがやっとだ。
二人の顔はよく見えない。声だけを聞くと40歳は過ぎているのではないかと思うのだけど。
また薬で眠らされるのかと考えると食事に手をつけるのは危ぶまれた。
でもお腹はかなり空いている。
どうしようかと悩んだけど、喉の渇きだけは我慢できない。仕方なく水だけを飲んだ。
そして眠れないまま朝を迎えた。
わたしが寝たふりをしていると部屋の中に女性が入って来た。
「食べていない…でも眠っているみたい……ごめんなさいライナ様……娘の命がかかっているの。でもあなたにも危害は加えないから……我慢してくださいね」
眠っているわたしにそっと謝りながらトレーを回収して新しい水差しとコップを置いて出ていった。
ーーやっぱりこの人達は無理やりわたしを誘拐したのではなくてさせられたのだと思った。
娘の命……脅されているのだろうか。
でも良心の呵責に苛まれているのがわかる。
わたしはこの人達を信じることにした。
夜また同じように食事を持ってきた。
わたしは優しく女性に問いかけた。
「あの……娘さんはどうなっているのですか?」
「………あ、や、……」
動揺した女性はトレーを落とした。
「す、すみません……」
急いでトレーを拾おうとした。
「ごめんなさい、昼間の話しが聞こえてしまっていたのです」
わたしは出来るだけ優しく声をかけた。
「……誘拐などしてすみません……成功すれば娘の病気を治してあげられるんです……わたし達は捕まってもいいんです。娘の命さえ助かれば」
彼女は必死だった。
よく話を聞くと、難病で寝込んでいる娘の治療費と引き換えに夫婦はわたしの誘拐を引き受けたらしい。
そしてわたしのお父様に、わたしと引き換えにミレガー伯爵家の裁判を取り消すように交渉しているそうだ。あくまでも自身がしていることを主張してミレガー伯爵ではないと伝えているらしい。
「あなたは……ミレガー伯爵家で働いている執事のバイセン様と奥様ですね」
「……ライナ様、申し訳ありません。わたしの声でバレてはいけないので妻にだけ話をさせていました」
そう言うと部屋の明かりをつけた。
明るくなった部屋の扉に立っていたのは一緒に働いていた執事のバイセン様だった。
「脅されているのですか?」
わたしは彼をみて聞いた。
窓の外は暗い……
ーーもう夜みたい……
部屋の中は真っ暗だけど、別に縛られてはいないし立って歩くことができた。
「誰かいませんか?」
月明かりを頼りに暗闇の中を歩いてみた。
何もない部屋。
わたしは絨毯だけが敷かれた床に寝かされていたみたい。身体中が床の上で寝ていたので痛い。
扉のノブを回してみたがやはり鍵は掛けられていた。
窓ももちろん開かないように、はめ殺しになっていた。
「はあー、喉が渇いたわ」
恐怖はもちろんあるのだけどまずはこの喉の渇きをどうにかしたい。
仕方なく、扉をなん度も叩いてみた。
扉に耳を当てていたらしばらくすると人の声が微かに聞こえて来た。
「…………開けるぞ」
外から聞こえた微かな男の人の声に慌てて、扉から離れた。
灯りを持った男の人と女の人が入って来た。
「起きていますか?」
わたしに声をかけて来たのはわたしよりもかなり年上の女の人だった。
「………はい」
「部屋の中が暗くてごめんなさいね。顔を知られると困るの。でも何もしないわ、これ食べ物です」
そう言うと床に食べ物を置いた。
薄暗いランタンの灯りと毛布も扉の近くに置いてくれた。
「あなたの父親と交渉が成立すればすぐに解放します。大人しくしていてくださればこちらは危害を加えることはしません。お願いです、大人しくしていてください」
悪いことをしている人のはずなのに女性の声はか弱く震えていた。懇願するように言われた。
その言葉に思わず「わかりました」と答えてしまった。
扉の鍵が閉まってからわたしは置かれたランタンを取りトレーに近づけた。
そこには温かなスープとパン、ジュースと別にお水の入ったコップがあった。
あの女性の声は申し訳なさそうで悪意は感じられなかった。だから有り難く頂くことにした。
「あったかい……それに美味しい」
たくさん具の入ったトマトのスープはお腹が空き過ぎた胃に優しい。
パンも柔らかくてバターが使われた美味しい手作りのパンだった。
しっかりお腹も喉も満たされて、自分の今の環境についてやっと考えることができた。
お父様と交渉が上手くいったらと言っていた。
わたしは誘拐されてお父様と何か取引をしているようだ。でもわたしを監禁している二人には悪意は感じない、どちらかと言うとイヤイヤしている感じがする。頼まれて仕方なくしているのか何か脅されているのか事情があるのだろう。
だからわたしに顔を見られたくないのかもしれない。
お父様が護衛をしっかりつけなさい、と言われていたのにわたしがトイレへ一人で行ってしまった。
そのことが今更ながら後悔することになった。
まあ、あんな厳重な図書館でまさかの誘拐があるなんて思いもよらなかったけど。
話し相手もいないランタンの灯りだけの中、寒さの中毛布に包まるしか手立てはないので大人しくしていることにした。
どのくらいここにいればいいのだろう?
お父様もバズールももう動いてくれているだろう。サマンサが責任を感じて落ち込んでいなければいいけど……
なんて危機感を感じないといけないのに、ここは静かで恐怖を感じない。
感覚が麻痺しているのかもしれない。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
たぶん睡眠薬を入れられていたみたい。
少し頭が痛い。
また夜暗くなってから目が覚めた。
今回は近くにランタンも置いてあるし水差しとコップも置かれていた。
そして、また昨日と同じように二人の男性と女性が現れた。
「食事です。あと少しだけ我慢してください。申し訳ありません」
「体調はどうです?」
などわたしに気遣ってくれる。
「……わたしはあとどれくらいで解放されますか?」
「…………たぶん数日中には……すみません、絶対に無傷で解放します。我慢してください」
女性は震える声で何度も謝った。だからと言ってすぐにわたしを解放するとは言ってくれない。
男性は何も言わない。
でも男性もわたしに圧を与えることも強い口調もない。ただ女性のそばにいるだけだ。
薄暗い灯りでは手元が見えるのがやっとだ。
二人の顔はよく見えない。声だけを聞くと40歳は過ぎているのではないかと思うのだけど。
また薬で眠らされるのかと考えると食事に手をつけるのは危ぶまれた。
でもお腹はかなり空いている。
どうしようかと悩んだけど、喉の渇きだけは我慢できない。仕方なく水だけを飲んだ。
そして眠れないまま朝を迎えた。
わたしが寝たふりをしていると部屋の中に女性が入って来た。
「食べていない…でも眠っているみたい……ごめんなさいライナ様……娘の命がかかっているの。でもあなたにも危害は加えないから……我慢してくださいね」
眠っているわたしにそっと謝りながらトレーを回収して新しい水差しとコップを置いて出ていった。
ーーやっぱりこの人達は無理やりわたしを誘拐したのではなくてさせられたのだと思った。
娘の命……脅されているのだろうか。
でも良心の呵責に苛まれているのがわかる。
わたしはこの人達を信じることにした。
夜また同じように食事を持ってきた。
わたしは優しく女性に問いかけた。
「あの……娘さんはどうなっているのですか?」
「………あ、や、……」
動揺した女性はトレーを落とした。
「す、すみません……」
急いでトレーを拾おうとした。
「ごめんなさい、昼間の話しが聞こえてしまっていたのです」
わたしは出来るだけ優しく声をかけた。
「……誘拐などしてすみません……成功すれば娘の病気を治してあげられるんです……わたし達は捕まってもいいんです。娘の命さえ助かれば」
彼女は必死だった。
よく話を聞くと、難病で寝込んでいる娘の治療費と引き換えに夫婦はわたしの誘拐を引き受けたらしい。
そしてわたしのお父様に、わたしと引き換えにミレガー伯爵家の裁判を取り消すように交渉しているそうだ。あくまでも自身がしていることを主張してミレガー伯爵ではないと伝えているらしい。
「あなたは……ミレガー伯爵家で働いている執事のバイセン様と奥様ですね」
「……ライナ様、申し訳ありません。わたしの声でバレてはいけないので妻にだけ話をさせていました」
そう言うと部屋の明かりをつけた。
明るくなった部屋の扉に立っていたのは一緒に働いていた執事のバイセン様だった。
「脅されているのですか?」
わたしは彼をみて聞いた。
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