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にじゅういち

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 次の日の朝、いつもより遅く起きたら外は雨が上がっていた。
 雨が降り止んだ空はどこまでも青くて晴れ渡っていた。

「うーん昨日の嫌な気分もスッキリね」

 昨日の夜は遅くまでバズールと勉強をして……いつもと違って真面目なバズールと話をした。

 食堂へ行くとバズールは食事を終えたところだった。
 いつもと変わらないバズールに少し安心して

「おはよう」とお互い挨拶をした。

「ライナは試験勉強で屋敷に篭ってばかりだろう?たまには息抜きがてら外に出ない?」

「でも勉強してもしても足りない気分で落ち着かないの」

「うん、だからたまには王立図書館へ行かないかなと思って。試験の過去問もたくさん残っているはずなんだ、資料としてね」

「行ってみたいわ!是非」
 わたしは思わず目をキラキラと輝かせた。



 急いで食事をして着替えて馬車に乗り込んだ。

 お父様から外出する時はサマンサだけではなくて護衛も増やしておくようにと言われている。

 男爵家から伯爵家になることで、よく思わない人もいる。それにより何か事件に巻き込まれてはいけないのでしっかり護衛はつけて外出するように命じられていた。




「お待たせしてごめんなさい」

 今日は勉強しやすいようにシンプルなドレスにした。王立図書館は許可証がないと入れない格式のある図書館だ。なので勉強するとは言えきちんとドレスを着ないと中には入れない。

 バズールの服は何故か数枚は我が家にも置いてある。男の子のいないお母様にとってよく顔を出すバズールは息子のようなもの。

 娘同様、バズールも着せ替えをして楽しんでいる母。
 お父様とお揃いの服を作ろうとしてバズールは流石に嫌がった。
 バズールの必死で断る姿はちょっと面白かった。母は残念そうにしていた。
 お父様も少し楽しみにしていたのでバズールが断ったと聞いて少し寂しそうだった。

 わたしはそんな三人を横で微笑ましく笑っていた。

 シエルとの婚約中、わたしと彼にはこんな関係はあったかしら?

 優しい彼、かっこいい彼、いつも騎士になりたいと必死で努力している姿が大好きで尊敬していた。
 彼のお嫁さんになって支えていきたいと思っていた。

 苦手な刺繍も上手だと言われるように頑張った。お菓子作りも彼のために覚えた。

 仕事だって……そばに居たくて……これがわたしの自己満足で我儘でしかない行動だったのだと今になってやっと気がついた。

 ーーま、本当に遅過ぎたのだけどね。

 彼の心がわたしから離れてしまったのにも気が付かずに屋敷で働いていたなんて。

 思い出すと虚しくなる。
 馬車の中はわたしが考えごとをしていた所為か静かに時が過ぎていった。

 バズールもサマンサも無理にわたしに話しかけることはなかった。

 想いに耽っていて我にかえると、馬車の中では二人がわたしの顔をじっと見ていた。

「え?な、何?」

「いや百面相が面白くて」バズールがククッと笑った。

「ライナ様はどんな面白い顔をされても可愛くていらっしゃいます」とバズールの笑いを諌めようとするサマンサ。

「……うっ、恥ずかしいから見ないでちょうだい」

 ーー二人とも空気を読んでくれたのだろうけど、今度からは考え込まないようにしようと思った。




 ーーーーー

 図書館に着くと、門で身分証明書と許可証を見せた。サマンサや護衛騎士は、我が家の証明書を見せれば三人だけは入館許可をもらえる。

 久しぶりの王立図書館はため息が出るほどの大きな立派な建物。
 中に入るのにも時間がかかるが入って本を探すのもかなり大変である。
 なので来館すると、案内の人が付いて読みたい本の場所へと連れていってくれる。

「ありがとうございました」案内の方にお礼を言って五人で腰掛けた。

 ここでは護衛もじっと立っていると邪魔になるので座って周囲を護衛するのが規則になっている。

 他の人の集中の邪魔になるといけないので。

 サマンサは待っている間持参した書類仕事を始めた。

 護衛の二人はピリピリとした空気でわたし達から少し離れた席に座っていた。
 普段は優しい二人が今日はいつもより真剣で怖い顔をしている気がする。

 やはりお父様の言う通り、我が家の周囲では何か不穏な空気が漂っているのかしら?

 とりあえず今までの過去問を見て今年の傾向を考えながら勉強を進めた。
 わからないところはバズールに聞くことでいつも以上に進めることができた。

 みんなが集中しているので、黙って静かにトイレへと一人席を立った。
 部屋の片隅にあるトイレなので護衛達には手で合図だけした。みんなが座っていて見える位置なので護衛達もわたしを目で追うだけでついては来なかった。中には入れないししっかり見える位置なので大丈夫。
 ついて来られると逆に恥ずかしいもの。

 トイレから外に出ようと思った時、一人のお年寄りの女性が目の前で転んだ。

「大丈夫ですか?」
 慌てて彼女のところへ駆け寄った。

「………は、はい」

 様子を伺って立たせてあげようと屈んでいると、後ろから手が忍び寄りわたしの口に何か布を押し当てられた。

「ん…っ……やっ……」
 抵抗しようとしたら頭の中がボッーとしてきて、意識はあるのに体が思うように言うことを聞いてくれない。

 お年寄りだと思っていた人はすくっと立ってもう一人の犯人と二人でわたしの服を手際よく脱がした。
 別の服を着せると両脇を二人で支えて外へ連れ出した。
 あまりにも自然に三人がトイレから出て来たので、護衛達は服が違うし頭を下に向いていたわたしには気が付かなかったようだ。

 わたしはぐったりとしたまま犯人達に連れ去られてしまった。

 ーー助けて!声が出ない。

 馬車に乗せられてもう一度ハンカチを押し当てられた。そして今度は意識を失った。

 ーー………バズール……サマンサ………







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