41 / 109
閑話 バズールvsシエル
しおりを挟む
「シエル、約束だからな。忘れるなよ。絶対」
俺はシエルがライナと婚約したと聞いた時、居ても立っても居られず、シエルの屋敷へと向かった。
11歳の俺にとって一つ年上のシエルは超えられない壁だった。
どんなに努力したってライナにとって俺は従兄弟でしかなくて……シエルは常に「好きな人」なのだ。
「俺はライナのことが好きなんだ。絶対大切する」
シエルは俺に真剣な顔をして約束した。
ーー俺はライナに何かあったら守ろう。そう心に誓って恋心をそっと奥底へと追いやった。
なのに……
あいつはとにかくモテる。
「シエル様、差し入れです」
騎士課に通うシエルに令嬢達はいつも群がっていた。
シエルは基本優しい。そんな令嬢達にも無下に出来ないで笑顔で対応する。
そんな姿がライナを傷つけているとも考えない奴なんだ。
俺とライナは学年が同じで二人で一緒に過ごすこともある。
偶然シエルが女の子達に囲まれている姿を見たライナは口をギュッと結び黙って俯いた。見ないように急足でその場を去る。
俺も何も言えずに「ライナ……急ごう」とだけしか言ってあげられなかった。
「………うん………」
俺もライナも何も話さない。
そんな時シエルは俺たち二人の姿を女の子に囲まれていてもじっと見ていたことに気が付かなかった。
俺はシエルを呼び出した。
「ライナを泣かせるな!」
「俺はライナを大切にしている。バズールこそ婚約者でもないのにライナのそばにいるのはやめてくれ」
「俺は同じクラスなんだ。態と彼女のそばにいる訳ではない」
「それでも……いつもいつも……俺だってあいつの近くにいたいのに」
シエルが聞き取れないくらいの声で呟いた。
シエルがライナを大好きなことはわかっていた。そして同じ歳の俺にヤキモチを妬いていることも知っていた。それでも……ライナが選んだのはシエルだ。俺じゃない。
「ライナが好きなら他の子からの差し入れなんて受け取るな!断ればいいじゃないか!これから先ずっと誰にでもいい顔をするのか?そんなことばかりするならライナはずっと傷つくことになる。
お前みたいな男にライナはやれない」
「ふん、俺の婚約者だ。いくらバズールがライナのことを思っても諦めるしかないんだ」
バコッ!!
俺は気がつけばシエルの顔を殴っていた。
シエルは口から血をペッと吐き出して、俺に殴りかかってきた。
騎士課のシエルに体力も運動神経も敵わないのはわかっている。それでも負けたくない。
「くそっ!お前なんかに俺の気持ちはわからない!」
俺が叫びながらシエルの腹を蹴り上げた。
シエルは俺の足を掴むと振り上げて俺を転がした。そして俺に被さり殴りかかった。
気がつけば顔から血が出て身体中痛みで唸るほどだった。
「お願いだ、ライナを悲しませないで。あいつの悲しそうな顔を横で見ているのは辛い、俺じゃあ、ライナを喜ばせることはできない。シエルじゃなきゃ駄目なんだ」
俺は悔しくて涙が出た。俺がライナを幸せにすることが出来ない。ならば俺はシエルに頼むしかない。
「ライナがそんなふうに感じてるなんて思っていなかった。今度から差し入れは断るし出来るだけ話さないようにする……俺もお前にヤキモチ妬いてごめん」
シエルはそう約束したのに……
ライナは伯爵家で働き出してからどんどん暗い顔になっていった。
「シエル!ライナを大切にするって約束しただろう?」
「俺はライナを今も大切にしているつもりだ」
「どこが?約束は守らない、リーリエ嬢を優先する、嘘だとわかる噂に惑わされて……ライナを大事にしている?どこがだ!」
「……お前は仕事をしたことがないくせに!俺はあと少しで夢が叶うんだ。そしたら……ライナと結婚して幸せになれる」
「夢なんかよりライナが大切なんじゃないのか?」
俺はシエルとまた殴り合いになった。
あの時は体力もなく一つ年上のシエルに勝つことはなかった。
でも今は違う。騎士じゃなくても鍛えることはできる。いつかライナを守るために俺は俺なりに力をつけてきた。
そして俺はシエルと同等の喧嘩をした。
殴ったぶん殴り返された。蹴ったぶん蹴り返されたけど負けなかった。
「シエル、ライナがこれ以上悲しい思いをするなら俺がライナは貰う、諦めないから」
俺はシエルに吐き捨てて項垂れるシエルをジロッと睨みつけた。
「ライナは渡さない…………」
シエルも俺を睨み返した。
俺はシエルがライナと婚約したと聞いた時、居ても立っても居られず、シエルの屋敷へと向かった。
11歳の俺にとって一つ年上のシエルは超えられない壁だった。
どんなに努力したってライナにとって俺は従兄弟でしかなくて……シエルは常に「好きな人」なのだ。
「俺はライナのことが好きなんだ。絶対大切する」
シエルは俺に真剣な顔をして約束した。
ーー俺はライナに何かあったら守ろう。そう心に誓って恋心をそっと奥底へと追いやった。
なのに……
あいつはとにかくモテる。
「シエル様、差し入れです」
騎士課に通うシエルに令嬢達はいつも群がっていた。
シエルは基本優しい。そんな令嬢達にも無下に出来ないで笑顔で対応する。
そんな姿がライナを傷つけているとも考えない奴なんだ。
俺とライナは学年が同じで二人で一緒に過ごすこともある。
偶然シエルが女の子達に囲まれている姿を見たライナは口をギュッと結び黙って俯いた。見ないように急足でその場を去る。
俺も何も言えずに「ライナ……急ごう」とだけしか言ってあげられなかった。
「………うん………」
俺もライナも何も話さない。
そんな時シエルは俺たち二人の姿を女の子に囲まれていてもじっと見ていたことに気が付かなかった。
俺はシエルを呼び出した。
「ライナを泣かせるな!」
「俺はライナを大切にしている。バズールこそ婚約者でもないのにライナのそばにいるのはやめてくれ」
「俺は同じクラスなんだ。態と彼女のそばにいる訳ではない」
「それでも……いつもいつも……俺だってあいつの近くにいたいのに」
シエルが聞き取れないくらいの声で呟いた。
シエルがライナを大好きなことはわかっていた。そして同じ歳の俺にヤキモチを妬いていることも知っていた。それでも……ライナが選んだのはシエルだ。俺じゃない。
「ライナが好きなら他の子からの差し入れなんて受け取るな!断ればいいじゃないか!これから先ずっと誰にでもいい顔をするのか?そんなことばかりするならライナはずっと傷つくことになる。
お前みたいな男にライナはやれない」
「ふん、俺の婚約者だ。いくらバズールがライナのことを思っても諦めるしかないんだ」
バコッ!!
俺は気がつけばシエルの顔を殴っていた。
シエルは口から血をペッと吐き出して、俺に殴りかかってきた。
騎士課のシエルに体力も運動神経も敵わないのはわかっている。それでも負けたくない。
「くそっ!お前なんかに俺の気持ちはわからない!」
俺が叫びながらシエルの腹を蹴り上げた。
シエルは俺の足を掴むと振り上げて俺を転がした。そして俺に被さり殴りかかった。
気がつけば顔から血が出て身体中痛みで唸るほどだった。
「お願いだ、ライナを悲しませないで。あいつの悲しそうな顔を横で見ているのは辛い、俺じゃあ、ライナを喜ばせることはできない。シエルじゃなきゃ駄目なんだ」
俺は悔しくて涙が出た。俺がライナを幸せにすることが出来ない。ならば俺はシエルに頼むしかない。
「ライナがそんなふうに感じてるなんて思っていなかった。今度から差し入れは断るし出来るだけ話さないようにする……俺もお前にヤキモチ妬いてごめん」
シエルはそう約束したのに……
ライナは伯爵家で働き出してからどんどん暗い顔になっていった。
「シエル!ライナを大切にするって約束しただろう?」
「俺はライナを今も大切にしているつもりだ」
「どこが?約束は守らない、リーリエ嬢を優先する、嘘だとわかる噂に惑わされて……ライナを大事にしている?どこがだ!」
「……お前は仕事をしたことがないくせに!俺はあと少しで夢が叶うんだ。そしたら……ライナと結婚して幸せになれる」
「夢なんかよりライナが大切なんじゃないのか?」
俺はシエルとまた殴り合いになった。
あの時は体力もなく一つ年上のシエルに勝つことはなかった。
でも今は違う。騎士じゃなくても鍛えることはできる。いつかライナを守るために俺は俺なりに力をつけてきた。
そして俺はシエルと同等の喧嘩をした。
殴ったぶん殴り返された。蹴ったぶん蹴り返されたけど負けなかった。
「シエル、ライナがこれ以上悲しい思いをするなら俺がライナは貰う、諦めないから」
俺はシエルに吐き捨てて項垂れるシエルをジロッと睨みつけた。
「ライナは渡さない…………」
シエルも俺を睨み返した。
254
お気に入りに追加
8,435
あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる