【完結】今夜さよならをします

たろ

文字の大きさ
上 下
24 / 109

じゅうさん

しおりを挟む
 リーリエ様はお店の中で泣き出した。

 わたしは悪者なのだろうか。

 仕方なくお店の奥のお客様専用の個室に入ってもらい落ち着くまで声をかけずに静かに待った。

「ライナ様、ミレガー伯爵様がお見えになりました」

「ありがとう、伯父様を呼んできてちょうだい」
 わたしではもう対応出来ないので同じ伯爵でもある伯父様に来てもらうことにした。

 ミレガー伯爵はわたしの顔を覚えていた。

「君は……うちの使用人だったはずだが?」

「はい、お世話になりましたが今はお暇させて頂いております」

「うちの娘を嘘つき呼ばわりしたのは君か?」

「違います。リーリエ様がうちのお店で買われたネックレスが偽物だと言われたので、箱の認証番号とネックレスについているはずの商会の印がどちらもないのでこちらはうちの商会が売ったものではないとご説明させていただいただけです」

「お父様、渡すときに偽物を渡されたのではないのかしら?そして本物はこのライナが盗んだと思うの」

「商品をお渡しする時はお客様の目の前で中身を確認していただき納得された上でサインをしていただいております。なので偽物にすり替えることなどあり得ません」

「……確かに、わたしはこの目で確認して買った。それにこのネックレスは私が買ったものではない。リーリエ、ルビーのネックレスはわたしが妻に贈ったものでお前に贈ってはいない。これはどうしたんだ?」

「え?お母様のお部屋からもちろんもらったのよ?お母様が宝石箱に入れていたから」

「勝手に盗ったのか?」

「何を仰っているのかわからないわ?だってお母様のものはわたしのものよ?」
 リーリエ様は何を言っているの?と言う顔をしてキョトンとしていた。

「リーリエは黙って妻のものを使っているのか?」

「どうしてお父様はそんな怖いお顔をするの?……リーリエこわい」
 そう言うとリーリエ様は両手で顔を覆って泣き出した。
「リーリエ、す、すまない。泣かないでくれ」
 伯爵はリーリエ様に優しく宥めようとしていたがますます泣き出して店内の方まで泣き声が届きそうな勢いだった。

 わたしは溜息をついた。

「ミレガー伯爵、こちらの不手際でないことがお分かり頂けたのならこれからのことをお話ししたいと思います」

「は?これからとは?」
 ミレガー伯爵はわたしを小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「リーリエ様にはきちんとお話ししておりますが、わたしは嘘をついていると言われ盗人呼ばわりされました。何度も違うと否定しましたが聞き入れていただけませんでした」

「お前は使用人だろう?疑われても仕方がない身分だ、もういいだろう、わたし達は帰らせてもらうよ」
 ミレガー伯爵も聞く耳を持たない人物のようだ。

 ーー伯父様早くきてくれないかしら?

 ここで引きとめておかないとさっさと帰っていきそうだわ。

「申し訳ございませんがもうすぐ当店の代表者が来ますのでお待ちいただけないでしょうか?」

 頭を下げてお願いすると

「うるさい!退け!」

 わたしを振り払いリーリエ様を連れて帰ろうとした。

 わたしの体は振り払われた勢いでテーブルの方へと倒れてしまった。

 ガタッ。

 勢いよく転んでテーブルの角に頭をぶつけてしまった。

「……ラ、ライナ様!」
 お店の従業員がわたしのそばに慌ててやって来てわたしの顔を覗き込んだ。

「…あっ……血が……」
 額から生温かい血が流れてきているのがわかる。

 目に入りそうになり額の血を手で拭くと、手は真っ赤になっていた。

 ーー痛いし頭がクラクラする。

「タオルです」従業員が急いでタオルを渡してくれた。止血をするためタオルを傷口にあてるとズキッと痛みが走る。

「わ、わたしは何も悪くはない。か、帰らせてもらう。リーリエ早く帰ろう」

「逃げないでください」
 怒りの声が扉の方から聞こえて来た。

 ーー伯父様とお父様が物凄く怖い顔をしているのがぼんやりと見えた。その姿を見てわたしはホッとしたのか、フラッとしてそのまま意識を手放した。

「ライナ!」

 わたしを呼ぶ声が聞こえた。








 ーーーーー

 目が覚めたら頭がズキズキと痛むしクラクラするし、意識はあるのだけど目をあけることが出来なかった。

「……だ、誰かい…ません…か?」

 小さな掠れた声がなんとか出た。

「ライナ様!」
 サマンサの声が聞こえた。

「……サ…マンサ?」

「はい」

「頭…が痛…いの」

「すぐにお医者様をお呼び致します」

 サマンサが部屋の外へと走って行ったのがわかった。

 待っている間なんとか痛みを堪えて目をあけると……

 窓の外は真っ暗だった。
 ーーもう夜なのね。
 ーーここは……病院?かしら?


 お医者様が来てすぐに診察をしてくれた。


「頭を強く打っております。それにかなりの出血もありましたのでしばらくは絶対安静です」

「………はい」

「薬を出しておきますので少しは痛みも和らぐと思います」

「……ありがとう…ございます」

 わたしは薬を飲んでまたそのまま眠りについてしまった。


 朝目覚めると体が怠くて、熱を測ると高熱が出ていた。
 結局四日間も熱が下がらずそのまま寝込んでしまうことになった。



 ◆ ◆ ◆

 最後に貴方と。

 ショートショートを書いています。
 もしよろしければ。

 今回は……悲しいお話です。
しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

この恋は幻だから

豆狸
恋愛
婚約を解消された侯爵令嬢の元へ、魅了から解放された王太子が訪れる。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...