18 / 109
シエル⑦
しおりを挟む俺が避暑地にリーリエ様の護衛としてついて行っている間にライナの社交界デビューの夜会が行われていた。
エスコートはライナの父親だった。
ファーストダンスは父親と踊ったらしい。
その後バズールと3回も続けて踊ったと友人に聞いた時には思いっきり壁を叩くしかなかった。
ライナとのすれ違いは大きくなるばかりだ。
ーーーーーー
何度も手紙を送るが連絡すらなくなったライナ。
そんなある日リーリエ様が言い出した。
「シエルの男爵家でお茶会があるらしいの。クラスメイトの子達が話していたのよ?
シエルのところのお茶会はとても人気があると聞いたの。是非行ってみたいわ」
確かにうちのお茶会は男爵家ではあるが高位貴族の夫人達に喜ばれている。
母上はとてもセンスがあり庭や屋敷も他家とは違う家具などの調度品を置いている。庭の花も外国から取り寄せて植えているので珍しい花が多い。
一つ一つの花の植え方もいかに花を綺麗に見せるのかこだわり、その辺の高位貴族には負けない素晴らしい庭だと言われている。
男の俺にはあまり興味がないが義姉上は嫁に来た時
「こちらの庭でお茶を飲めるのがとても楽しみだった」と言っていた。
奥様からも「リーリエを連れて行ってもらえないかしら?」と頼まれてしまったら断ることはできない。
「わたしシエルのお母様とお話ししてみたいわ。素敵な方なのでしょう?」
甘えた声でリーリエ様が俺に頼んでくる。
周りにいた先輩達も「断るなよ」「リーリエ様の頼みなんだ。聞いてやれ」とまた圧をかけてくる。
「母に聞いてみますのでお待ちください」
と答えると
「ありがとう、ドレスは何を着ていこうかしら?シエルはどんなドレスが好みなの?」
ーー俺はリーリエ様が何を着ようとどうでもよかった。
「リーリエ様は可愛らしいので何を着てもお似合いになると思います」
ーー仕方ないので適当に答えることにした。
「シエルったら可愛いなんて!嬉しいわ」
ーーこの人の頭はお花畑なのだろうか。
ーーーーーー
お茶会の当日俺は息子としてではなくリーリエ様の護衛として我が家のお茶会に参加した。
遠くにライナの姿が見えた。
久しぶりのライナ。目が合うかと思ったがこちらを見ようともしない。気が付かないのかわざと無視しているのか。
すると俺のことは見向きもしないでリーリエ様のところに来た。
「リーリエ様お久しぶりでございます」
と笑顔を向け挨拶をしていた。
リーリエ様は「お久しぶりね」とだけ言った。
ライナのことなど興味すらないようだ。
「……なんでいるの」小さな声でリーリエ様が何か呟いているのが聞こえたが、内容はわからなかった。
ライナは俺の両親に挨拶をして母上の隣の席に座った。
リーリエ様はお茶会にあまり参加をしたことがないと言っていた。
少し作法は苦手なようでお茶の頂き方が汚い。音を立てているしカップを持つ時に小指が立っている。
いくら病弱でマナーのレッスンが足りていないとはいえ伯爵令嬢のリーリエ様。周りの同級生にクスッと笑われてかなり傷ついている。
相方の騎士は俺の横でそんな令嬢達に腹を立てているのがわかった。
リーリエ様を慕っている護衛が多いのでみんな自分の休みすら取りやめてリーリエ様をお護りしている。
俺もそれに見習い休むことが殆どできなくなっていた。
チラッとライナを見ると母上の隣に柔かに笑顔で座っていた。
するとライナのところにリーリエ様がわざわざ行くと言い出した。
ライナのところへ行くといきなりリーリエ様は………
「ライナはどうしてここにいるの?シエルとはどういう関係?たかが使用人ごときが貴族のお茶会に来るなんて恥ずかしくないの?」
「リーリエ様、わたしとシエルは幼馴染なのです。そしてわたしは元使用人ではありますが、パシェード男爵の娘でもあります」
ーーえ?幼馴染?婚約者だとは言ってくれないのか?
俺はずっと無視され続けさらに幼馴染でしかないと言われて無性に腹が立った。
「ふうんそうなの」
ライナの話を聞いても興味がないのか自分の髪の毛を指でくるくると巻きつけて遊んでいるリーリエ様。
俺は暫く腹が立ってそんなリーリエ様を黙って見ていた。
俺はリーリエ様のそばに行くと思わず思ってもいないことを言ってしまった。
「リーリエ様、そんなところに立っていたら疲れるでしょう?母上の隣に是非お座りください」
ライナの前でリーリエ様に優しくして見せつけてやりたくなった。
なのにライナは俺の言葉を無視して母上と話をしている。俺のことを無視するのか?
「おば様、今日の紅茶の味は如何でした?」
「ライナのお勧めに間違いはないわ」
母上までも俺の言葉を耳にしていたのにライナと同じように無視して二人だけで話している。
二人で話している姿にイライラして我慢できなくなった。
「ライナ、いい加減にしろ。その席をリーリエ様に譲るんだ、そこを退け!」
ライナの頭の上で俺は怒った。
「ライナ、シエルの言うことを聞いてちょうだい。使用人ごときが座る席ではないわ」
リーリエ様もうっすらと涙をためてライナに諭すように言った。
「シエル、リーリエお嬢様を連れて元の席にお戻りなさい」
母上が俺に呆れたように言った。
周りの客は俺とリーリエ様の態度に呆れ果て黙って見ていたのがわかる。
でも感情的になっていた俺は止めることが出来なかった。
「し、しかし、リーリエ様は母上と話しをしてみたいと言っています。是非リーリエ様を隣の席に座らせてください。あの席ではお可哀想です」
先程のクラスメイトの態度を思い出して言った。
「あの席に何か問題があるのかしら?同じ学校の同じ年頃の方達よ?」
母上が自分が決めた席に対してどんな不満があるのかと尋ねた。
「リーリエ様はとても繊細なんです。あの子達はとても性格が悪くリーリエ様に対して冷たい態度を取るのです」
「シエルは優しいから見ていられないみたいなのです」
悲しそうに呟くリーリエ様………
「あの子達は性格が悪く冷たい態度を取る?そう……皆様のお子様のことをうちの息子がとても失礼なことを言って申し訳ございません」
母上は席を立ちまわりに座っている夫人たちに頭を深々と下げた。
「母上?」
俺は母上の行動に驚いていた。まさか母上が俺のことを庇わないなんて……いつも俺に優しい母上なのに。
「貴方の言ったあの子達とはここにいるお客様のお嬢様達よ。わたしが見ている時は我儘を言ってまわりを振り回していたのはそこにいる貴方のお嬢様だったわ。冷たい態度も無視もしていなかったわ」
まわりの人達は流石に大人で怒ることもなく静観しているようだった。
「ひ、酷いわ。わたしは我儘なんて言わない。シエルわたしこんなお茶会嫌だわ、帰りたい」
リーリエ様を巻き込んでしまった。
「申し訳ございませんリーリエ様。すぐにお暇しましょう」
そう言うと俺はライナ睨みつけて去っていった。
ーーなんでリーリエ様を陥れようとするんだ。
元使用人なら少しは労ってもいいのに。
俺はライナへのイライラで限界だった。
282
お気に入りに追加
8,435
あなたにおすすめの小説



【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる