11 / 109
シエル編①
しおりを挟む・・・ん?・・・朝?
もう、そんな時間?
何だか、温かいな。
それに、顔に何か当たってる?
何だろう。
もぞもぞ動いてみる。
まぁ、気持ち良いし、いいか。
ああ。でも、そろそろ鍛練を始める時間だから起きないと・・・
幼い頃から早朝鍛練に興味を持ち、お父様や護衛騎士の鍛練に勝手に参加していた私は早起きすること十四年。
体が勝手に目覚め、シャキッと動き出すというのに、どうも今朝は勝手が違った。
「シュガー、熱烈なのは大歓迎だが、そんなにひっついて呼吸されたり、もぞもぞされると流石にくすぐったいぞ」
頭のすぐ上から聞こえてくる、深みがあるのに甘く、吐息が混じった艶のある声に慌てて飛び起きる。
「ちょっ・・・、どうして人のベッドに!」
信じられないことに、アントニオが私のベッドで横になっている。
しかもその胸元ははだけていて、貞操の危機といったものが頭を過ぎる。
オロオロして自分の姿を確認すると、昨夜借りた見慣れない男性用の寝間着をきちんと身につけている事にほっとする。
「人を犯罪者のように・・・。
俺は呼び鈴が鳴ったからこの部屋に来ただけだ。
そしたら、魘されているお前が水を飲みたいような事を言ってるから、手を貸して飲ませた。
寝かせてやったら、今度は俺の腕を離さない。
というより、しがみついてきた。
仕舞いに抱きついてきて、今に至る」
どうだ、解ったか?
ベッドに肩ひじをついて横になったまま、なぜか嬉しそうに笑顔を浮かべている。
はだけた白いシャツの胸元からは逞しい身体が見えて、なぜか直視出来なかった。
落ち着かないので部屋を出て行ってもらうことにする。
「普通に起き上がれるみたいで良かった。
頬はその湿布薬を貼っておけば、腫れや痛みは治るはずだ。
朝食はここに運ぶから待ってろ。
ああそう。
三日はベッドで安静にするんだぞ。
後になってから、調子が悪くなる場合もあるからな。
間違っても鍛練なんてするな」
アントニオはガバッとベッドから起き上がると、私の頭を数回撫でて行った。
・・・湿布薬?
頬に触れてみると、確かに冷たいものが貼られていた。
しかも、痛みも腫れも引いている・・・。
昨夜、てっきり頬を冷やすものと思いきや、医師にはスースーする塗り薬を塗られた。
『アレは無いのか?』
アントニオが医師に聞いていたのは、この湿布薬だったのかな。
寝る前は貼ってなかったはず。
・・・ってことは、貼ってくれた?
呼び鈴を鳴らした記憶もなければ、水を飲みたいなんて言ったことも覚えていない。
でも、結果的に異性と同衾してしまった。
起こってしまったものは、しょうがない。
私はもぞもぞしたのが、実際にはアントニオに擦り寄っていたという恥ずかしい記憶を封印することにした。
「この湿布薬の効き目すごいですね」
朝食を運んできてくれたアントニオは、自分の分も持ってきたようで、分厚いベーコンを口に運んでいる。
私のベーコンは、食べやすいように薄く小さくカットされている。
「この国にはない湿布薬だ。
フレジアって国知ってるか?」
私は頷く。
フレジアは四方を海に囲まれた神秘の国。
フレジアの王族、そして一部の貴族は魔法や錬金術を使うと聞いたことがある。
「この国に来る前はそこで役者をしていた。
まぁ、フレジアでも一流だった俺は色々とツテがあるんだ」
「ヘェ~」
フレジアの魔法薬。
どおりで、あんな効果があったんだ。
「何だ、俺のすごさが解ったか」
アントニオはコーヒーに角砂糖を四つも入れて、それを飲み干す。
「・・・シュガー、そういえばお前、短剣を持っていただろう。
なぜ髪を切ろうとした時、出さなかった?」
「ああ、あれはですね、スパイスさんでしたっけ?
彼がこう、嫌な雰囲気を出してたので」
スパイスさんは私に警戒していた。
多分スパイスさんは、アントニオの護衛的な役割なのかも。
「そうか。
実は、お前が昨夜使った短剣が見つからなかった」
「・・・そうですか」
あの時、図体の大きい男の短剣と同時に飛んで行った。
辺りは暗かったし、見つからなくても仕方ない。
そう思った。
でも、あのライアン様から贈られた短剣が、翌朝騎士によって発見され、血痕のついた短剣が現在捜索願いの出されている私ジュリアナ・アッシュフィールドの私物であることが判り、捜索が拡大しているなんて、私は知る由もなかった。
もう、そんな時間?
何だか、温かいな。
それに、顔に何か当たってる?
何だろう。
もぞもぞ動いてみる。
まぁ、気持ち良いし、いいか。
ああ。でも、そろそろ鍛練を始める時間だから起きないと・・・
幼い頃から早朝鍛練に興味を持ち、お父様や護衛騎士の鍛練に勝手に参加していた私は早起きすること十四年。
体が勝手に目覚め、シャキッと動き出すというのに、どうも今朝は勝手が違った。
「シュガー、熱烈なのは大歓迎だが、そんなにひっついて呼吸されたり、もぞもぞされると流石にくすぐったいぞ」
頭のすぐ上から聞こえてくる、深みがあるのに甘く、吐息が混じった艶のある声に慌てて飛び起きる。
「ちょっ・・・、どうして人のベッドに!」
信じられないことに、アントニオが私のベッドで横になっている。
しかもその胸元ははだけていて、貞操の危機といったものが頭を過ぎる。
オロオロして自分の姿を確認すると、昨夜借りた見慣れない男性用の寝間着をきちんと身につけている事にほっとする。
「人を犯罪者のように・・・。
俺は呼び鈴が鳴ったからこの部屋に来ただけだ。
そしたら、魘されているお前が水を飲みたいような事を言ってるから、手を貸して飲ませた。
寝かせてやったら、今度は俺の腕を離さない。
というより、しがみついてきた。
仕舞いに抱きついてきて、今に至る」
どうだ、解ったか?
ベッドに肩ひじをついて横になったまま、なぜか嬉しそうに笑顔を浮かべている。
はだけた白いシャツの胸元からは逞しい身体が見えて、なぜか直視出来なかった。
落ち着かないので部屋を出て行ってもらうことにする。
「普通に起き上がれるみたいで良かった。
頬はその湿布薬を貼っておけば、腫れや痛みは治るはずだ。
朝食はここに運ぶから待ってろ。
ああそう。
三日はベッドで安静にするんだぞ。
後になってから、調子が悪くなる場合もあるからな。
間違っても鍛練なんてするな」
アントニオはガバッとベッドから起き上がると、私の頭を数回撫でて行った。
・・・湿布薬?
頬に触れてみると、確かに冷たいものが貼られていた。
しかも、痛みも腫れも引いている・・・。
昨夜、てっきり頬を冷やすものと思いきや、医師にはスースーする塗り薬を塗られた。
『アレは無いのか?』
アントニオが医師に聞いていたのは、この湿布薬だったのかな。
寝る前は貼ってなかったはず。
・・・ってことは、貼ってくれた?
呼び鈴を鳴らした記憶もなければ、水を飲みたいなんて言ったことも覚えていない。
でも、結果的に異性と同衾してしまった。
起こってしまったものは、しょうがない。
私はもぞもぞしたのが、実際にはアントニオに擦り寄っていたという恥ずかしい記憶を封印することにした。
「この湿布薬の効き目すごいですね」
朝食を運んできてくれたアントニオは、自分の分も持ってきたようで、分厚いベーコンを口に運んでいる。
私のベーコンは、食べやすいように薄く小さくカットされている。
「この国にはない湿布薬だ。
フレジアって国知ってるか?」
私は頷く。
フレジアは四方を海に囲まれた神秘の国。
フレジアの王族、そして一部の貴族は魔法や錬金術を使うと聞いたことがある。
「この国に来る前はそこで役者をしていた。
まぁ、フレジアでも一流だった俺は色々とツテがあるんだ」
「ヘェ~」
フレジアの魔法薬。
どおりで、あんな効果があったんだ。
「何だ、俺のすごさが解ったか」
アントニオはコーヒーに角砂糖を四つも入れて、それを飲み干す。
「・・・シュガー、そういえばお前、短剣を持っていただろう。
なぜ髪を切ろうとした時、出さなかった?」
「ああ、あれはですね、スパイスさんでしたっけ?
彼がこう、嫌な雰囲気を出してたので」
スパイスさんは私に警戒していた。
多分スパイスさんは、アントニオの護衛的な役割なのかも。
「そうか。
実は、お前が昨夜使った短剣が見つからなかった」
「・・・そうですか」
あの時、図体の大きい男の短剣と同時に飛んで行った。
辺りは暗かったし、見つからなくても仕方ない。
そう思った。
でも、あのライアン様から贈られた短剣が、翌朝騎士によって発見され、血痕のついた短剣が現在捜索願いの出されている私ジュリアナ・アッシュフィールドの私物であることが判り、捜索が拡大しているなんて、私は知る由もなかった。
238
お気に入りに追加
8,435
あなたにおすすめの小説




〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる