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じゅう
しおりを挟むサマンサはわたしの後を追ってくれていた。
そして包み込むように抱きしめてくれた。
「っうっ……わたしって……シエルにとって鬱陶しいだけの婚約者だったのかな?」
サマンサの胸に顔を埋めてポロポロと涙が溢れて止まらなかった。
シエルからの言葉を聞いて、彼と一緒にいたいと思ったわたしの気持ちをシエルも受け入れてくれていると思っていたのは独りよがりな勘違いだったと気がついた。
もうすぐ婚約は解消される。解消に納得いかなくて渋っていたシエルの母もシエルの態度をみて諦めてくれた。
今は解消に向けて両家で話し合い、書類の作成を弁護士を通して行っているところだ。
ひと月もあれば婚約は解消される。
わたしはその後頑張って試験勉強をして留学するつもりだ。シエルのことはもう諦めていた……はずなのに。
リーリエ様を思う気持ちを否定なんてできない。シエルのことがまだ好きだから彼には好きな人と結ばれて欲しいし、わたしもそんな彼と結婚することはできない。
でも……彼に婚約解消の話が進んでいるのに伝えない時点でわたしは酷い人なのだろう。
でもわたしの顔を見れば嫌味と文句しか言わない彼にどう伝えればいいのかしら?
ーーわからない…彼の気持ちも考えていることも……
ーーそして……リーリエ様のこともよくわからない。シエルのことが好きなのか……バズールのことを好きなのか………
「グスッ……ヒックっ……」
「ライナ様?」
「っう………ごめんなさい、サマンサが優しいからつい泣いてしまったわ……もうシエルのことは諦めたはずなのにね、彼に会うとこんなに動揺してしまうなんて……」
「ライナ様、あんな男忘れましょう。もっとライナ様を大切にしてくれるいい男は他にいます!」
「ふふ、そんないい人いるのかしら?……そうだね、留学先で出会えるかもしれないものね、今はもう恋なんてしたいと思わないけど……」
「ライナ!!」
息切れをしながらわたしを呼ぶバズールの声。
ーーあ、バズールのことすっかり忘れてた。
「ご、ごめんなさい、バズールのこと忘れて置いてきちゃったんだった」
「え?俺、忘れられてたの?凄い勢いで走っていったの見えたけど屋台並んでたしお金払わないといけないし、探すけどどこに行ったかわかんないし……」
「探してくれてありがとう」
わたしは泣いている顔を見られないように横を向いて返事をしたけど不自然過ぎて……
「今更ライナの泣き顔見ても何にも言わないよ、シエルに酷いことでも言われたの?」
少し怖い顔をしたバズールが聞いてきたので
「ちょっとね」とだけ答えた。
敢えてさっきの話をする必要はない。それに口に出すと惨めなだけだもの。
「あのリーリエ嬢の近くにいなかったからおかしいと思ったんだ。学園祭だから護衛としてついているはずだからね彼女みたいな性格の子は。たまたま離れていただけだったんだ」
「もう大丈夫!それよりバズールもそろそろ休憩の時間終わるのではないの?」
「……あ、くそっ行かないといけない。サマンサ、ライナをよろしく!なんかあったらさっきの教室に顔出して!いい?わかった?」
「うん、ありがとう。バズール、同じ歳なのにお兄ちゃんみたいね」
わたしがクスッと笑うと「こんな手のかかる妹はいらない」とバズールはムスッとした。
それからバズールと別れてサマンサと二人で少しだけ回ってみたけどあんまり楽しくなくて
「サマンサ帰らない?」
「帰ります!」
と即答だったのでお祖母様に頼まれた手作りクッキーだけ買って、バズールの屋敷に帰った。
「ただいま帰りました」
お祖母様と伯母様に挨拶をして、休憩がてら手作りクッキーと紅茶をいただくことにした。
「お祖母様の言う通りとても美味しい」
「甘さもちょうどいいし、食べると口の中ですぐに溶けるの。とても美味しいのよ」
お祖母様がにこにこしながら食べていた。
「……で、ライナは何か嫌なことがあったのかしら?」
「え?どうしてそう思ったのですか?」
お祖母様も伯母様も怖い顔をしていた。
「だって、泣き腫らした顔をしているもの」
ーー誤魔化せない?ごまか……無理よね……
わたしはリーリエ様とバズールのやり取り、その後シエルから責められたことを仕方なく話した。
「本当にシエルは変わってしまったんだね」
お祖母様は呆れてものが言えないと言った顔をしていた。
伯母様はとても怖い笑顔で黙って聞いていた。
ある意味伯母様の無言が怖かった。
「…わたし、婚約解消したら留学もいいかなと思っているんです。バズールも卒業したら留学すると聞いて、わたしもシエルのことしか見てなくて高等部への進学をしなかったからもう一度勉強をするのもいいかなと思っているんです」
「バズールと同じところ?」
「バズールは高等部を卒業しているけどわたしは中等部だけなので同じところとは考えていません。お父様たちに相談して仕事の跡を継ぐことも考えて少しでも役に立つところを探すつもりです」
「あら?そうなの?バズールと同じところでも良いのでは?」
「伯母様、バズールと今日少しの間学校を回ったのですが彼とてもモテるんですよ?女子からの突き刺さる視線がとても怖かったんです。一緒のところに留学したらわたし耐えられないと思います、あの女子の視線に」
ーーわたしはとんでもないと否定した。
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