【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

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よんじゅうはち。  新たなる日々。

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 ヒュートの泣きそうな顔を見てキョトンとしたわたし。

「どうしたの?」首をコテンと傾げてヒュートに聞いた。

「カレンがこんな汚い家でこれからも暮らすと思ったら切なくなったんだ」

「失礼ね!わたしだってもう少し時間が出来たら家のこともちゃんとしたいと思ってるわ!」

 ーーーそんなに汚い汚いって言わないで欲しいわ!
 プリプリ怒りながらヒュートに文句を言った。
「ごめんごめん。悪気は無いんだけど……俺帰るよ。引っ越しの準備もあるから」

「うん、出発の日取りが決まったら教えてね。顔を出しに行くから」

「いいよ、一生のお別れじゃないんだし」

「でもしばらくは会えないんでしょう?」

「………またいつでも会えるよ」



 ヒュートがそう言うので、

「またね」と言って送り出した。

 いつものように軽口で。



 ーーーーー



 ヒュートはカレンが完全に前世の記憶を失くしていることに気がついて、オスカー殿下のところへ急いで赴いた。

 簡単には会えないのはわかっていた。だからオリソン国の侯爵子息として無理な打診をして会うことが叶った。




「オリソン国のグラント侯爵のご子息であるヒュート殿が一体何の御用でしょう?」

 オスカー殿下はヒュートを怪しげに見た。

「お忙しいところお時間を作って頂きありがとうございました。オスカー殿下、そして王太子殿下にもお話があります」



 自分の前世のことを……


「父上がまさか記憶を取り戻していたなんて……しかもカレンのすぐそばにいた貴方が……まさか」

「ミハイン……この世でお前に会えたこと感謝している……だがフランソアはもうこの世にはいない。全ての前世の記憶と共に消えてしまった。だからお願いだ……もうカレンに前世のことは話さないで欲しい。
 彼女はカレンとしてオリソン国で女性文官として今必死で頑張っているところなんだ……フランソアとしての記憶は全くない……だからもうカレンに何を話しても彼女には全く知らないことでしかないんだ……」

「カレンは何も覚えていないのですか?母上だった記憶も貴方の妻だった記憶も…?」

「それでいいんだと思う。フランソアはカレンの中で記憶を共有して生きるつもりはなかった。もう彼女はこの世にはいない。わたしもヒュートから消えるつもりだ。その前に憂いを取り除きたい……セリーヌやマキナが現れたと聞いている。しかも犯罪者として。マキナはわたしでも知っているキャサリンだったんだろう」

「セリーヌ様は僕を魅了で洗脳しようとしたアイリでした。会いたいなら今地下牢にいますよ?」

「………わたしは…魅了されていた一人だ。だが魅了されるには相手に対して好感を持っていたり、カレンの両親のようにカレンに対して嫌う気持ちを利用したり、根本は魅了されたその人の持っていた感情からなんだ」

「ええ調べてわかりました」

「わたしにはセリーヌに会いたいと言う気持ちはもうない。後悔したのはフランソアに対してだけだった。もう今は前世のことでフランソアを煩わせたくない」

「僕が調べたところもう彼女に関わる前世持ちはいないと思われます……キャサリンとアイリはもうすぐ罪に問われ処刑されます。この国に魅了の香油を持ち込んで使用したのですから。その周りで動いていた大人達もほとんど捕まえて調べ上げたのでみんなまとめて処刑されます。全て根絶やしにすることになりました」

「カレンは安心して暮らせるのならわたしはもう何も言わない……ミハイン……色々とすまなかったな……わたしももうすぐ記憶が消える……今世でお前に会えたこと嬉しく思う」

「父上、僕もこのまま眠りにつくつもりです……母上が幸せになってくれたのならもう今世にこの記憶は必要ありませんからね」









 ーーーーーーー



「オリエ様!仕事で身も心もボロボロになってしまいました!わたしに癒しを!」

 最近はお休みの日はオリエ様に会いに行く。ううん、可愛い可愛いミィリナちゃんに。

「イアンがこき使ってるのよね?ごめんなさいね?」

「いえ、仕事ですから!もう少しわたしが仕事に慣れれば要領良く仕事もできるんだけど、まだまだかな……」

「何言ってるの!17歳でこんなに頑張ってるんだもの、十分よ!」

「あっ、そんなこと言ってもらえたら嬉しくて涙出てきます」

 ミィリナちゃんを抱っこしていたら癒されすぎたのか疲れなのか涙がポロポロと溢れ出した。マチルダさんがそんなわたしの頭を撫でてくれた。

「一人でこの国に来て一年半、カレン様はよく頑張りました。今日はここで心の休憩をしましょうね」

「ここにいるだけで幸せな気持ちになれます」

 両親に酷いことをされていても泣くのが嫌だった。辛くても絶対泣いてなんかやらないと思っていた。
 だけどこの場所はわたしの涙腺を脆くする。

 イアン様だって仕事以外ではとても優しい。仕事の時は………『鬼』だけど。

 ゆっくり美味しい紅茶を飲んでマチルダさんの作ったチョコレートケーキを食べた。

 ミィリナちゃんの眠る姿を見ていた。
 ずっと、見飽きることなく……

 オリエ様もわたしの隣に座りわたしの肩を抱き寄せて黙って隣にいてくれた。

「…………ヒュートがしばらくこの国から離れるらしいです」

「ええ、挨拶に来たわ……寂しくない?」

「寂しいけど、ヒュートにはヒュートの夢があるから頑張って欲しい」

「そう……」

「わたし……オリソン国に来てよかったです……だからこそ今度長期休暇を利用して自分の国に帰って会いに行こうと思います」

「………ご両親?」

「はい、療養中の二人に……そして一度はお別れしたわたしの好きな人に……待っててくれてはいないかもしれませんが、今無性に会いたくて」

 そうセルジオに会いたい。

 この前までのわたしはずっと靄がかかった感じだった。なのにそれがなくなって今はとても身も心も軽い。

「カレンには好きな人がいたのね?」

「……好きな人がいたことに今頃になって気がつきました……すっごく会いたくて……もう向こうには婚約者がいるかもしれないし、わたしのことを嫌いになってるかもしれませんけど…ね」










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