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よんじゅうよん。

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 オリソン国での生活はとにかく忙しかった。

 結局周りに勧められて王立学園の編入試験を受けることにした。
 この学園は勉強さえ出来れば貴族でも平民でも入学出来る。さらに文官になるのも実力主義らしい。

 だからわたしが平民としてこの国に来てもヒュートのグラント商会で働かなくても他に選択肢はたくさんあるらしい。

 もちろんグラント商会で働けることは平民にとっては十分すぎる働き場所ではある。

 だけど……文官を目指して勉強していたわたしとしてはこの国の制度はあまりにも魅力的だった。

 兄様には止められたけどわたしはあの国に全てを置いてきた。
 それは身分も友人も………そして……たぶん恋も。だけど前世の記憶もしがらみも置いてくることができた。

 ただグラント商会に投資をしていて増えたわたしのお金はこの国の銀行にあるので、それだけはそのまま。

 世界を渡り歩くグラント商会。投資から得た金額はかなりのもの。おかげで誰にも頼らなくても学園に通うことが出来そう。

 オリエ様、ブルダさん、マチルダさん、そしてかっこいいと噂のイアン様にもお世話になりながらわたしは学園に通うことにした。

 ブルダさんとマチルダさんの息子のギルさんは学園を卒業して騎士になりこの屋敷に毎日遊びにくる。
 そしてこの屋敷でメイドをしていたミーシャさんは今勉強に集中するために寮に入って暮らしている。ミーシャさんはギルさんのいとこで今もこの屋敷に遊びにくる。
 今はわたしと同級生で仲良くしてもらっている。アンさんは少し遅れて入学していてわたしは一つ上の学年に編入したので2歳年上だけど同級生になり、色々教えてもらっている。

 そして、護衛騎士として働くもう一人のアンさんはなんとギルさんの婚約者らしい。

 ギルさんがアンさんに卒業式の時に公開プロポーズをしたらしくその話はとても有名。

『俺はずっとアンだけが好きだったんだ。結婚したいのに俺が20歳を過ぎるまでダメだって!あと2年頑張って稼いでアンの実家が安定したら結婚するんだ』

 アンさんの実家の男爵領の借金をオリエ様のお父様が融資してくれたらしい。

 今はその借金を返しているところだけど数年はかかるのでアンさんは結婚を渋っているらしい。

 だけどギルさんは早く結婚したくて毎日のように仕事帰りにオリエ様の屋敷に来ては結婚しようと言っている。

 ちなみにこの屋敷は今は広さがある。以前住んでいた狭い屋敷の方はギルさんが一人で住んでいるらしい。

『アンと結婚するためにこの屋敷をイアン様から買ったんだ。今は節約して必死で借金を返済中なんだ』


 イアン様は時々屋敷に帰ってきてはオリエ様の後ろをついて回る。

「もういい加減にわたしのことは放っておいて!」

「オリエがもし転んだらどうするんだ?心配でたまらないんだ」

「だったらたまには仕事を終わらせて早く帰ってきたらいいじゃない」

「俺だって帰りたいよ!あの人達は俺をこき使い過ぎるんだよ!」

「もうすぐ子供が生まれるのにパパの顔を知らないで育つ子供になりそうね」

「そんな……俺は仕事を辞める!ヒュート、俺を商会で雇うようにじっ様に言ってくれ!」

 ヒュートが遊びにきている時だった。
「えっ、イアン様ならいつでも喜んで雇いますよ。シャトナー国とももっと深くお付き合い出来そうだし、アルク国にも顔が効くでしょう?」

「……お、おお、うん………俺の人間性とか優秀さだとかそっちを見て欲しいんだが……」

「ヒュート、こんな旦那だけどお願いしてもいいかしら?」

「仕方ないからいつでも雇ってあげますよ」


「俺は優秀なんだ!陛下達に言って早く仕事を上がれるようにするよ!オリエ愛してるからな」

 わたし達の前でもオリエ様に愛を囁けるイアン様にわたしは最初驚いた。

 だけど今ではそれが普通になってヒュートも顔を出しに来ては二人の仲の良さに呆れて笑っていた。

「カレン、あの二人のように仲睦まじい夫婦って見てていいよな」

「うん、そうだね。我が家にはなかったな……真実の愛で結ばれた夫婦だったけど、、、」

 この国に来て久しぶりに思い出した公爵夫婦。ううん、もう、兄様が公爵の地位を継いであの二人は今も診療所で魅了の効果が抜けずに苦しんでいるらしい。

 わたしのことを思い出すと、わたしに対しての憎しみや苛立ちがまだあるのだろうか。
 叩きたいほど嫌っているのだろうか。

 もしキャサリン様が現れなかったらあそこまで嫌われなかった?それとも結果は変わらなかった?

 そうキャサリン様とアイリ様は捕まってその後刑に服すことになったらしい。

 二人の刑は、あの香油の効果を試されること。

 禁止された香油とは言えまだまだ解明されていないことが多いらしい。だから彼女達は実験体としてこれから様々な魅了をかけられることになると聞いた。

 それこそ……ボロボロになるまで……

 自分たちが人にしたことが自分に返ってくるのだ。

 その話を聞いた時、前世の二人の記憶のことを思い出した。二人は前世のわたしを恨んでいた。マックス様だってわたしを……わたしは結局何も出来なくてあの人達から逃げるようにこの国に来た。

 わたし自身は前世の記憶をしまい込んでしまったけど、あの人達は今も苦しんでいるのかしら?

 オスカー殿下ももうわたし(前世)のことなんか忘れて幸せになって欲しい。



 わたしは過去を振り返るのをやめて必死でオリソン国で暮らした。勉強も今まで以上に頑張ったし、土日はヒュートの商会でのお手伝いもさせてもらった。

 在庫管理から発注の仕方、仕入れに関しては他国からも多く、わたしではわからないことばかりだった。

 いろんな国に支店がありそこから新しい情報を得ながら、その土地で商売をしていく。

 シンプルなことだけど、それが難しい。
 そんな生活はーーー

 みんなと暮らしていたおかげなのか、わたしの心は不思議に安定していった。



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