【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

文字の大きさ
上 下
42 / 50

よんじゅういち。

しおりを挟む
 セルジオの言葉に固まった。

「ごめんなさい……セルジオ。わたし達は仮の婚約者同士でしょう?貴方が近づいたのはオスカー殿下に頼まれたからでしょう?違う?」

「確かに殿下に頼まれた……魅了の件もあったし、殿下に前世の話もされたからね。君を監視する意味でも婚約はとてもいいと思ったんだ」

「じゃあもういいでしょう?わたしはこの国を去るつもりだからわたしが全て悪いことにしてくれていいわ」

「ふざけないで!僕は君を悪者にして婚約解消をするつもりはないよ。確かに殿下に頼まれた……だけど婚約をしたいと願ったのは僕の意思だ。君が鈍感なのも僕を好きじゃないのも知っていたから、仮の婚約者として話を持ちかけたんだ」

「えっ、えええ?わたしのことを?」

 ーーーぜったい、嘘!だってそんな風に感じたことはないもの。

「その顔は全く信じてないよね?大体幼い頃からいつも君と一緒にいたいと思っていたのはオスカー殿下ではなく僕だったんだ。僕が君のそばにいたいと願ったからオスカー殿下は君を友達としてそばに置いていたんだ」

「オスカー殿下が?何故?」

「オスカー殿下は僕が君のことを好きだと知っていたからね。それを知って気を利かせてくれたんだよ」

「いや、ぜったいそんな風に思えないですっ!だってオスカー殿下は誰にでも優しかったけどセルジオはいつも無表情だったですよね?」

「………そんなことはない。僕は君にだけは優しかったはずだ」

「あの態度が……ふふっ、セルジオらしいわ。ぜったい分からないわよ!」

 だけど婚約してからは彼の屋敷に行くと家庭教師をつけてくれたし、一緒にお茶をしたり放課後も忙しい合間に勉強も見てくれた。

 彼は不器用だけど確かに優しかった。

 公爵夫婦の態度に疲れている時も、彼のおかげでなんとか乗り越えられたのも確か。
 エマやキースがずっと助けてくれたけど、あの屋敷から離れられて週末過ごせたのはセルジオのおかげだった。

「カレン、僕は初めての告白をしてるんだ。婚約解消は確かに約束していたことだけど、もう一度考えて欲しい。僕との未来を……君を愛しているんだ」

「ばっ、馬鹿!ここは図書室だよ?やめて!みんな聞いてるわ」

「馬鹿じゃないよ。僕は君のことが本気で好きなんだ」

 たぶん今鏡を見たらわたしの顔は情けないほど真っ赤だろう。

 だけど、セルジオのことを好きだとか考えたこともなかった。

 って言うか、公爵夫婦から離れたい一心で過ごしていたから、人を好きになるとかそんなことを考える余裕なんてなかった。

「………セルジオ、とりあえず保留で……帰ってもいいかな?」

 周りの視線が気になって限界だった。

 だって学校の図書室で告白されるなんて……みんな見てるよ……


 家に帰るとなんだか疲れて制服を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込んだ。

「カレン様!制服がしわくちゃになります!それにそんな格好をしてお行儀が悪いですよ!」

「わかってる!だけど疲れたんだもの」

「そんなこと言ってたら、一人で外国で暮らせるんですか?心配でたまりませんよ!」

「そうだよね、だけど、頑張ればなんとかなると思うの」

「平民の暮らしを舐めたらダメですよ!何もかも一人でしないといけないってとても大変なことなんです」

「わかってるわ……」

 ーーーなんとなく考えてはいるんだよね。
 ヒュートの商会で通訳の仕事をさせてもらえたらいいなと思っている。今手紙を書いて返事待ちなんだよね。

 以前、外国人のお客様が増えて通訳が出来る人が欲しいと言ってたから。
 外国語は割と得意な方だ。
 特に……前世の記憶のおかげか、いろんな国の言葉がわかる。前世のことは忘れたいと思っていたけど都合のいいところは覚えていてよかったと思っている。

 平民であっても実力さえあればヒュートの商会では雇ってもらえる。ただし、親戚とは言っても実力がなければ切り捨てられる。
 あ……でも、商会として雇えない時は掃除のお姉さんくらいなら雇ってくれると言ってたわ。

 今はセルジオのことは頭から切り離した。だって心がついていかないんだもの。

 思い出すだけで恥ずかしい。明日学校でどんな噂がたっているのか考えただけで頭が痛い。

 エマは百面相しているわたしの顔を呆れながら見ていた。

「カレン様、お食事を摂って湯浴みをお願いします、そうしたら少しは気持ちが落ち着くと思いますので」

「わかったわ」

「何回わかったと言ってるんですか?さぁ、服を着てお食事です!また倒れてしまったらどうするんですか?エマは心配でたまりません!」

「はい、はい、わかりました」

 エマといられるこんな幸せな時間があとどれくらい続くのかしら。

 自分から手放そうとしているくせに、寂しいと思うのは我儘なのかな。
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...