【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

文字の大きさ
上 下
40 / 50

さんじゅうきゅう。

しおりを挟む
「……ねえアレス…、これって……」

「ああ、襲撃された後だな。それも魔法士に」

「……魔法士」

その有様に私は息をのんだ。

町を出てからアルテミスに乗って暫く、また新たに建物が見えて来て、ちょうど良いからそこで休もうかと言う話になったのだが……。

近づくにつれて様子がおかしいと言う事に気が付き、その町に足を踏み入れた私達に緊張が走った。
それもそのはず、建物は壊され倒壊しており、瓦礫の残骸がそこかしこに散らばっているのだ。
人の気配もなく灯りもなくて、ただ今が昼間なのが幸いで、夜に着いていたら不気味さが更に増した事だろう。

そしてこの襲撃が魔法士と言う事が私達には分かるが、それはそこかしこから魔力反応があるからだ。
しかもこれ程の破壊力は魔法でなければ行えないと言う事もあるが。

「この被害、相当の魔力量の持ち主か数人でやったか、だな」

「まだ近くにいるのかしら……?」

「この辺りにはいないようだがこの先、俺達が向かう先にはいるかもしれないな」

王宮魔法士だったアレスに言われると結構説得力があって余計に不安が込み上げてくる。
アレスが強いって事は分かっているけれども、私が足を引っ張ったらとかそんな余計な考えが頭を過ってしまうのだ。

「まあもしそいつらに出くわしても俺が守るから安心して良い」

「……うん。ありがとう」

何てことのないように当たり前に返事をするアレスに少しは気持ちが楽になった気がするけど。それにどんなに大きな敵にも彼は変わらずいつものペースだなと思うと思わず苦笑してしまう。

とにかくこの町を通って行くのが一番早いと言う事でその後もそのまま町を抜けるためにアルテミスに乗って走って行く。
それにしても思っていたよりも町自体が大きいようで中々出口が見えてこないのは驚きだ。

前を見据えるアレスから声が上がったのはそんな時だった。

「どうやらこの騒動を起こした連中の御出ましの様だぞ」

「えっ」

私は後ろから身体を少しずらして覗くように前方を見る。すると確かに向かって行く先に黒い影が数名立っているのが見える。それに近づくとそいつらは素性を隠すためだろうか、マントを被っていていかにも怪しい集団だった。

そいつらは動く事なく私達をじっと見ているだけで、その視線がとても気味の悪いもので嫌な汗をかく。

「よし、俺はあいつらの相手をしてくるからリリーシェはその場から動かないでくれ」

「え、えっ、アレス!?」

そのまま強行突破かと思いきや、アレスは急にアルテミスを止めるとその場に降りてしまい、慌てて降りようとした私を手で制する。

「ちょっと相手にって一人で!?向こうは見ただけでも八人いるのよっ!」

「大丈夫だって。安心してそこで見てろ」

「アレスっ!わあっ!!」

流石に一人で行かせるわけには、そう思い降りようしたら突如結界?が張られてしまい、身動きが制限されてしまう。
それは明らかにアレスが張ったものだけど、私とアルテミスの一人と一匹がすんなり入れるくらい、でも思い切り動くことは出来ないくらいの狭さ、そして四方八方からの攻撃を受け止められるように丸い形をしていた。

しかもそれを内側から試しに触ってみると手が弾かれてしまい、これでは外からも中からも何もする事が出来ないと言う事が分かった。まさに完全防御とはこう言う事だなと呆れながら思うのだった。

そう思っている間にもアレスはすたすたと集団の方へと歩いて行く。
とことん私を戦闘から遠ざけたいようね。その思いがひしひしと伝わってくるわ。
いくら守るって言っても数人相手に庇いながらは難しいものね。この結界なら強固だし、傍を離れても大丈夫みたいだし。
だから心配だけどその気持ちはぐっと抑えておくしかない。力になりたいと思う気持ちは人一倍なのに、今はただ見ている事しか私には出来ないのだ。
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

処理中です...