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さんじゅうなな。

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「お二人は今どうしているのですか?」

「施設に入って治療中だ。長年の薬が体に染み込んでいるからね。簡単には体から抜けないみたいだ」

「そうですか……」

「カレン、今まですまなかった」

 兄様は頭を深々と下げた。

「助け出してくれた時に謝罪は受け入れたわ。それにもう説明は要らないわ。ほとんどキャサリン様が説明してくれたもの」

 兄様に前世の記憶の話はしていない。
 と言うかどう説明したらいいのかわからないもの。

 オスカー殿下がわたしの息子のミハインだったなんて……

 彼は前世の記憶がある人をはっきり把握していた。わたしなんてあの場にいなければまだ思い出すこともなかっただろう。ただ王都はあまり居たくない場所で、飛び降りる夢はいつも見る悪夢でしかなかったはず……

 頭の中はぐるぐる。考えがあっちに行ったりこっちに行ったりして、自分自身でもどうしていいのかわからない。

「俺は王太子殿下に相談していたんだ。両親の行動は異常過ぎた。さらにキャサリンの言動もおかしい。それに俺自身もキャサリンといるとカレンに対して悪感情が湧いてくる。
 それで調べ始めたんだ、キャサリンの実家のことを……そしたら怪しい香油を外国から手に入れていたことがわかった」

「カレンの知らない両親の過去なんだーーー」

 そう言って両親の『真実の愛』の話を語られた。

 なんて馬鹿らしい話を聞かされるのだろう。そう思いながらも前世の記憶の陛下とセリーヌ様のことを思い出した。
 お二人もまた『真実の愛』で結ばれていたのかもしれない。



「キャサリンは男爵家の養女なんだ。たぶん公爵家に出入りさせるために明るくて可愛らしい向上心の高い女の子を養女にしたんじゃないかと思っている」

「そう」
 ーーーそんなこともうどうでもいいわ。

「ダルト男爵は大切な幼馴染を亡くしているんだ。それが父上の元婚約者なんだよ」

「それは?」

 その言葉には驚いた。
 ーーーあの二人は他人を不幸にしてまで結ばれていたの?

「王太子殿下に聞いたんだが両親の結婚は自殺者まで出しての結婚だったからその当時はかなり問題視されたらしい。それにその揉め事の中生まれたのが俺だったんだ。
 男爵がどんな気持ちでそんなことをしたのかは今捕まえて取り調べているから後日わかると思う」

 兄様は大きな溜息をついた。そして一口だけ紅茶を飲むと話を続けた。

「『魅了の香油』はあの二人にだけ効いたみたいなんだ。カレンに罪悪感を抱きながらも今更素直に娘と向き合えずにいたからつけ入りやすかったんだと思う」


「ふふっ、我が子に愛情すらかわかない親だから?産まれてきた我が子が嫌いな義母に似ているから可愛くなかったから?罪悪感を抱く?あり得ないわ」

「それは……確かにそうかもしれないが、なんとか修復しようとしてはいたと思うんだ……」

 そして香油の話になり、

「その香油がこの国に出回ると困るから色々調べることになった。王太子殿下も協力してくれたんだ。カレンへの仕打ちは酷いものだったけど君が領地へ行ってくれたのでとりあえず要観察になったんだ。
 それから俺は殿下の協力のもと、青い薔薇の香油について調べる事になった」

 ーーー青い薔薇?
 前世でも見たことがある。確か離宮でセリーヌ様が大切に育てていたわ。

「そして今年になってカレンは一年に一度だけ王都に来ていただけだったのに両親が王都の学校へ通わせると言い出した。
 それは魅了されているからか、魅了が解けている時にそう思ったのかよくわからなかった。
 俺はこの香油の魅了を解くための薬を探して回っていたから、屋敷にはあまり近寄らなかったんだ。
 両親は長年の香油で、ほとんどキャサリンを愛して娘のように扱ってカレンを嫌っていた。
 嫌っているのに会いたがり、嫌っているのにそばに置きたがる。完全に魅了されているわけではない。
 キャサリンに会わない時には、カレンの写真をじっと見つめている姿を何度となく見ていたからね。だけどキャサリンに会うと、またカレンに対して憎悪が湧くようだった。
 そんな二人を俺はどうすることもできなかった」

「兄様……キャサリン様の魅了の所為だけじゃないわよね?公爵夫婦はわたしが嫌いだった。そこが根底にあるから二人がわたしを嫌い疎んじた。それだけの話だと思います」

 ーーー今更なのよ。

 そして前世での青い薔薇の記憶も今更だわ。

 あの青い薔薇はもう王城にはないのだろう。あれば王太子殿下も兄様も何か言ったはずだもの。

 陛下はもしかしたら………魅了されていたの?

 もう今になってはわからない。ただの憶測でしかないわ。

 兄様の話は最後の方はうわの空で聞いていた。

 キャサリン様のしたことはもうどうでもいい。もちろんマキナ様としては考えないといけないかもしれないけど。

 それよりも……ううん、もう前世のこと。今更なのよ。

 だけど、わたしはこれからどう生きたらいいのだろう。

 カレンとして生きてきた。前世なんて関係ない?そうは思えない。だってずっと北の塔のこと夢で見てきたもの。この王都にいるのが嫌だったのも前世の記憶の所為だったし。

 エマが心配して何度か部屋を覗いてくれた。

「心配しないで」

 わたしはそう言って作り笑いで返すしかなかった。

 明日の学校、セルジオとオスカー殿下に会いに行こう。

 そう決心して眠れぬ夜を過ごした。
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