【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

文字の大きさ
上 下
34 / 50

さんじゅうよん。

しおりを挟む
「セルジオ?」

 そこにはセルジオとオスカー殿下が立っていた。

「君たちいい加減にしろ」

「はっ?何?セルジオ様ったらカッコつけて!」

 アイリ様が口をぷくっと膨らませた。

「俺には前世の記憶はありません」
 わたしの顔を見てそう言った。

 ーーーセルジオは誰でもないの?

 オスカー殿下と目が合った。

「………アイリもキャサリンも記憶が戻ったのは最近のことだろう?君たちのその性格は前世は関係なく今の性格だよね?別に君たちの前世のことは今の君たちの生活には影響はない、違うかい?」

「な、何よ!オスカー殿下それどう言う意味ですか?」
 キャサリン様はオスカー殿下の言葉の意味をどう受け取っていいのか悩んで考えているのがわかる。

 だけどアイリ様は突然甘えた声で話し始めた。

「アイリはぁ、オスカーのことを愛しているわ。確かに前世の記憶が戻ったのは最近のことよ。オスカーを愛しているのは今だし、前世の記憶は前世の記憶でしかないわ。陛下を愛していたのは前世のこと。だけどぉ、カレン様が、なんだかムカつくのは前世のせいだと今は思ってるの」

 キャサリン様もふふッと笑う。

「そうね、わたしもずっとカレン様が憎たらしかったわ。公爵令嬢で美人でお金持ち、わたしだってみんなから可愛いと言われてるのに男爵令嬢でしかなくて、好きな宝石もドレスもたくさん買えないわ。
 お父様が公爵夫婦に甘えれば好き勝手出来ると言われて、甘えて見せたらすぐに可愛がってくれたわ。
 ふふ、貴女に意地悪するのがとても楽しかったわ。前世の記憶が戻ったのは最近だけど。グレンのことを愛していたのは確かだわ。でもそれは前世のわたしであって今のわたしではないわ。今のわたしはたくさんの人に愛されるキャサリンよ」


「わたしを恨んでいるからではないの?」

 キャサリン様に聞いた。

「前世のことを思い出せば、子を産んで死んだわたしと我が子を育てられた王妃様。そりゃずるいと思うわ。だけど今と前世は違うわ。
 今のわたしは前世の時のようにグレンを愛しているわけではないし生まれ育った環境も考え方も違うわ」

 ーーー前世と今は違う……

 「わたしはセリーヌとして陛下を愛したけど、今のわたしは別に陛下を求めていないもの。アイリとしてのわたしが好きなのはオスカー殿下よ」と言ってオスカー殿下の腕に絡んで体をくっつけた。
「ねっ、オスカー様ぁ」と甘えて見せる。

 さっきまでとは違いオスカー殿下が現れてからは甘えてねだるような声で話すアイリ様。

 キャサリン様もわたしをさっきまで攻めていたはずなのにセルジオの前では態度が一変した。

 少しずつ前世の記憶が戻ってくるわたしは少しだけ冷静さが戻ってきた。

 ーーーわたしの前世は後悔と懺悔しかない人生だった。

 だけど、今のわたしと前世のわたくしは違う。

 記憶があるけど……性格も考え方も違ってる。それはアイリ様やキャサリン様もそう。

 二人ともわたくしが知っているセリーヌ様でもマキナ様でもない。

 前世は前世でしかない……の?


 マックス様はそんな私たちの会話を黙って聞いていた。
 マックス様は前世のわたくしのせいで子供を殺そうとしてしまった。そして自ら死んでしまった。わたくしを恨んでも仕方がない。

 セルジオも黙ってアイリ様とキャサリン様の会話を聞いていた。

 オスカー殿下はアイリ様が腕に絡んで甘えてきているのを優しく見つめ………てはいなかった。

 どちらかと言うと、困った顔をして顰めていた。
 どうしたんだろう?いつもどんな時も優しい笑顔でアイリ様を見ていたような気がするのに……
 でもよく考えたらわたしって、さほど二人の姿を拝見していたわけではない。どちらかと言うと苦手なタイプだったので避けていたもの。

 思い出した記憶が押し寄せてくる。たまに前世の性格が現れる。辛くて悲しい、そして醜い心。

 だけどそんな中でも今は落ち着いてカレンとしていつもの性格でいられた。
 セルジオのおかげかもしれない。セルジオには前世の記憶がない。多分だから前世はわたし達とは関わりがない人なのだろう。

 オスカー殿下も?

 そう思っていたら……

「アイリ、そろそろその猿芝居はやめないか?」

「えっ?」

「君が愛しているのは第二王子としての僕であっていいように利用したいだけだろう?君が持っている香油を使ってね?
 残念ながら最初から僕には効かないよ?君に近づいたのも兄上に頼まれたからで前もって薬を飲んでいたんだ」

「えっ?どう言うこと?だって、わたしの言うことを聞いてくれたからセルジオ様はカレン様と婚約したのでしょう?後々婚約破棄させてカレン様の無様に泣く姿を見るためにさせたのよ?」

「はっ?なんで貴女にそんなこと命令されないといけないんだ?」
 セルジオが冷たく言い放った。

「だってだってセルジオ様はいつもオスカー様の隣で……何も言わずに話を聞いていたじゃない」

「もちろん側近だからね。オスカー殿下のために隣にはいたよ」

「二人とも薬が効いていないの?」

「ごめんね、アイリ。全く効いていないんだ」
 オスカー殿下の目は笑っていなかった。

 アイリ様とキャサリン様が青い顔をして互いに目を合わせて驚いていた。





しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...