【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

文字の大きさ
上 下
29 / 50

にじゅうきゅう。

しおりを挟む
 学校に再び通い出した。

 兄様の家から学校へは公爵家のタウンハウスから通うよりも時間はかかるけど、さほど気にならなかった。心も時間も逆にゆとりが出来た気がする。

 週末はセルジオ様の屋敷に行き、約束通り家庭教師に教えてもらい勉強をみてもらっている。
 兄さまの家なら多分家庭教師をつけてもらえただろう。セルジオと婚約して勉強する必要はなかったなと今なら思うけど、あの時はこれが正解だと思ってた。

 だって簡単に逃げ出せない場所だと思ってたから。

 昼休みは王族専用の特別室に通っている。

 王太子殿下もオスカー殿下も何故かそこに行くようにとわたしに勧めてくれた。

 ありがたいと素直にそこを使わせてもらっている。静かに勉強ができてなかなかいい。




 そんなある日、勉強をしていたら廊下が騒がしくなった。



「ふふ。この場所に一度来てみたかったの。同じ学校の廊下なのに全然造りが違うのよね。扉一つにしても彫刻を施しているし、壁も……この壁は何かしら?不思議な手触りだわ。白くてざらっとした感じで……とても素敵ね。ああ、早く王宮で暮らしたいわ。王子妃として暮らせれば贅沢もできるし宝石も買い放題よ!」

 護衛騎士達は何故か彼女を止めようとしない。
 好き勝手なことを言っているのに。

 オスカー殿下もにこにこと隣で笑っている。

「アイリ様……」

 部屋から出れば彼女と顔を合わせてしまう。なんだか嫌な予感しかしない。

 ーーーうん、隠れよう。オスカー殿下もここには連れてこないだろう。

 中からこっそり鍵を閉めた。

 そしてまた椅子に座り勉強を始めた。


 ガチャガチャッ!

「ねぇ、ここの部屋は鍵が掛かってるわ。中を見たいから開けて欲しいの」

 ーーーなんで!他の部屋を見ればいいじゃない!

「ここは今使用中だからダメだよ」
 オスカー殿下!ナイス!

「アイリぃ、ここの部屋も見てみたい。どうしてもダメぇ?」

 ーーーいやいや、ふつう、使用中だと聞いたら諦めるよね?

「ごめんね。中の人も困ると思うんだ。突然開けられたら。だから他の部屋に行こう」

「ええーー、全部の部屋を見たかったのにぃ」


 そう言えばオスカー殿下がアイリ様のことよく見ておいてって以前言ってたよね?

 このことなのかな?

 周りの人のことも考えずに行動するところ?

 うーん、あんまり関わったことがないからわかんない。アイリ様って甘え上手なのかしら?

 やっと静かになったはいいけど、午後からの授業……どうしよう。
 そろそろ時間なのに……アイリ様達はどうするのかしら?

「アイリぃ、今日の授業サボりたぁい。オスカー様と一緒にここでゆっくりしたいわ」

「僕はサボるわけにはいかないよ。みんなに悪い影響を与えるわけにはいかないからね。アイリも一緒に頑張ろう」

「でもぉ、アイリ、なんだか体調が悪いみたい。オスカー様、触ってみて。胸が苦しいの」

 ーーーお、おお、なんかすごい展開になってる。

 わたし、この部屋にいること殿下知ってるわよね?やめて!変なこと廊下でしないで!

「体調が悪いなら医務室に連れて行こう。王族専用の医師がここには常駐しているから安心して」

「もう!わかってるくせに!今日のオスカー様、なんだかいつもと違うわ。いつもならわたしの言うことなんでも聞いてくれるのに!効きが悪いのかしら?」

 ーーー効きが悪い?

 この言葉………キャサリン様と同じ……?


 まだ兄様から話は聞いていない。

 公爵夫婦のこと、そしてキャサリン様の犯罪のことも。あれからどうなったのか……

 なんとなく自分からは聞きにくいし聞きたいとは思わなかった。だけど何か嫌な気分がする。

 みんな知っているのにわたしだけ知らない何か………

「僕はアイリのためならなんだって聞いてあげたい。だけど王族として模範となるように過ごさなければいけないんだよ、ごめんね」

「もういいわっ、授業に行きましょう」

 ーーーふう、助かった。




 少し時間を置いて部屋を出るしかない。

 あれはなんだったのだろう。



 教室に戻るとやはり授業が始まっていた。
 オリヴィアがわたしの顔を見るとホッとした顔をした。遅れてきたから心配してくれていたみたい。

 放課後になると図書室にいつもなら向かうのだけど今日はセルジオに会いに彼の教室へ急いで向かった。

 まだいるだろうか?

 教室を覗くと、セルジオはオスカー殿下と反対の扉から出ていくところだった。

「あ、セルジオ……」

 殿下がいるのに大きな声は出せない。

 慌てて後を追う。

 やはり王族専用の特別室の方へ向かっている。

 ーーーアイリ様は?

 いつもうるさいくらいオスカー殿下のそばに居るのに。ふと他のところへ目をやるとアイリ様は他の男子生徒達の腕に絡まったりして楽しそうに話している姿が見えた。

 それをオスカー殿下は目線をやることもなくセルジオと話しながら歩いていた。

 今まで関わることもなかったアイリ様。確かに観察すると面白い。

 オスカー殿下達のことはつい忘れてアイリ様の姿をしばらくみていた。



 すると………

「キャサリン様?」
 アイリ様のところに親しげにキャサリン様が来た。
 年齢が2歳違う。

 それにキャサリン様はまだ社交界もデビューしてないはず。

ずっと引っかかる違和感。二人とはあまり接していないのでよくわからないけど……

『効きが悪い』あの言葉が妙に引っかかる。











しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...