【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

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にじゅうはち。

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「カレン様!よかった。無事だったんですね」

 エマが走ってきてわたしに抱きついた。

 そしてわたしの顔を見るなり、怒りで声を振るわせた。
「その頬は…あの男ですか?わたしの大事なカレン様に何をしたんです!許さない!絶対許せない!」
 そう言いながら涙をポロポロ流し始めた。

 キースはすぐに氷水を持ってきて「これでまずは冷やしましょう」と言ってわたしの頬を冷やし始めた。

 他の使用人達もわたしのそばに来て話しかけてくれる。みんな無事でよかった。顔を見れてなんだかホッとしたのか、体の力が抜けてしまった。

「カレン様?」
「大丈夫ですか?」

「うん、ごめん。ちょっと横になりたい、かな」

 通された部屋は客室だった。
 すぐにソファに横になるように言われ、そのまましばらく目を閉じた。

「心配しないでね、みんなの顔を見たらホッとしたの」

 気がつけばそのまま眠りについてしまった。


「熱い……誰か…… ごめんなさい……わたくしが貴方を愛したから……熱い…………グレン、ごめんなさい……リオネル……貴方を残していってごめんなさい………わたくしは……弱すぎた……人を恨み人を妬むことしか出来なかった………」





 ーーー誰かがそばに居るのがわかる。

 なのに目を開けられない。

 体が熱い……頭が痛い……この夢は何?
 いつものように飛び降りる夢じゃない。
 懐かしい顔。でも会いたくなかった。ううん、会いたくても会ったらいけない人達。

 胸が苦しくて切なくて涙が出た。

 声を掛けることもできない………






 目覚めると近くに人の気配がした。

「だ、れ……?」

「よかった、カレン様はずっとうなされていたんですよ。客用の寝室をお借りしてベッドに移ったんです。かなり熱が高くて心配しました」

 エマが「心配ばかりかけないでください。心臓がもちません」と泣き出した。

「……ごめんね」

 エマの顔を見たらやっぱりホッとした。誰よりも心を許せる大切な人。エマから引き離されればわたしはどうなっていただろう。
 もうあの屋敷で息することも辛かったかもしれない。

「王太子殿下にご挨拶しなきゃ。兄様は?」

「先ほどまでここにいらっしゃいましたが、今はお仕事があるからと席を外しております。また後で顔を出すと言っておりました」

「うん、わかった………もう少し寝るね」

「はいゆっくり眠ってください」

 わたしはエマがそばに居てくれるのに安心してまた眠りについた。



 ーーーーーー


「カレン様………薬が効いて眠れるようになったと思ったのに……また酷くなってしまって……」

「俺たちは見守ってあげるしかない。エマ、何があっても俺とエマはカレン様の味方でいよう」

「うん、キース。わたし達はフランソア様のそばに居たのに心をお守りすることが出来なかったわ。死を止めることも出来なかった。今世こそ何があっても守ってみせるわ、絶対に幸せになってもらうの」

「当たり前だ。もう2度とあんな悲しい思いはしたくない。なのにあの毒親とキャサリンとか言う女、俺たちの大事な主に酷いことばかりしやがって!」

「もっと力のある人間に生まれ変わりたかった。そしたらあんな親達簡単に切り捨ててやるのに」

「そしたらそばに居ることができなかった。俺たちはそばに居られるんだ。俺たちなりに守るしかない」





 ーーーーーーー

 次の日、体調が戻ると兄様の家に向かうことになった。
 結局王太子殿下はお忙しくて挨拶することができなかった。また後日話をしようと言われ、わたしは王宮を去った。

 たくさんの使用人は必要ないので王宮でしばらく働かせてもらうことになった。

 エマだけは『何があってもついて行きます』と引きさがらなかったので、兄様も『エマだけだよ』と許してくれた。

 着いたのは街中から外れた場所にある小さな一軒家だった。と言っても平民の家からするとかなり大きめなのかもしれない。

「ここは俺の隠れ家なんだ。カレンの護衛としてキースにも来てもらうようにしているから安心して」

 ーーーよかった。流石に女二人は怖かったもの。

「ちなみに俺もたまにこの家に泊まることがあるからね。小さいとはいえ、部屋数はそれなりにあるからみんなの部屋はそれぞれあると思うよ。じゃあ俺はまた両親のところへ行って来るから、ゆっくり過ごしてね。必要なものは適当に買い揃えていいからね」

「ありがとうございます」

「エマ、明日からまた学校に通おうと思うの」

「そんな焦らなくてもいいんじゃないですか?」

「ううん、今回わかったの。やっぱり頑張って学校を卒業するしかないって。一人の力で生きていくためにも知識を身につけ、社会に出て生きていく力を持たないと口だけではどうしようもないもの。みんなに助けられないと生きていけない……そんなの悔しいじゃない」

「それでもわたしはおそばに居ます。キースと二人カレン様から離れません!」

「ふふ、ありがとう。二人を雇えるように頑張って働かなきゃ」

「大丈夫です。わたしとキースが働いてカレン様を食べさせますので!」

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