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にじゅうろく。

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「なんで?なんでなの?エマとキースがいないの?」

 ーーーふざけないでよ!わたしの大切な二人をどこにやったのよ!

「ふん、あと料理長やお前と親しい使用人も全て領地へ送った。もちろんお前が住んでいた場所ではなく他の領地にな。お前はここに何しに来たんだ?
 仲良しこよしをして使用人と暮らすためか?
 お前がここに来たのは、この公爵家のために少しでも良家の子息と婚姻を結ぶためだ。わかっているのか?
 なのにオスカー殿下と婚約するならともかく我が家より格下のセルジオと婚約などしおって!」

 公爵様がまた手を振り上げた。

「叩きたいなら叩けばいいわ。わたしは貴方なんかに屈しないわ」

「生意気な娘が!」

 バシッ!

 ーーー痛っ。口の中が切れた。口の中で鉄の味がする。

 どうしてここまでわたしを憎むのだろう?

 公爵様の隣に立っているキャサリン様は、チラチラとわたしを見ている。
「おじ様、可哀想だわ。やめてあげて」
 優しい言葉とは裏腹にわたしを見る目は楽しそう。

「キャサリン、カレン様にどんな酷い言葉を言われても大丈夫。優しいおじ様とおば様がいてくれるもの」
 公爵様に向かって瞳をうるうるさせている。

 ーーー気持ち悪い。わたしなら絶対に無理!したくないわあんなこと。

「キャサリンは本当に優しい子だ。それなのにカレンは我儘で態度も悪い。こんなんじゃ成績も大したことはないんだろう。毎日遊び歩いてまともに帰っても来ないで!」

 公爵夫人もいつものように感情のない顔でわたしを見ている。

「カレン、いい加減にお父様に謝りなさい。その態度がどれだけ私達を馬鹿にしていると思うの?キャサリンのように可愛らしくて良い子になりなさい」


 ーーーこの猿芝居はなんなの?もう、うんざりだわ。


「わたしは貴方達の子供ではありません。今は仕方なく書類上親子関係になっているだけです。どうぞわたしのことは他人だと思って放っておいて頂けませんか?どうぞキャサリン様と楽しくお過ごしください」

「わたしが愛されているからってカレン様ったらわたしにヤキモチ焼いて!」

 ーーーはっ?馬鹿なの?


 もう話す気にもならない。

 そう思っていると、互いが睨み合っていた。

 公爵様はさらに手をあげた。

 また叩かれる。

 そう思っていたら振り上げた腕を反対の手で掴んでいた。


「………カ…レン、頼むから……逃げて…くれ」

 公爵様が何かに耐えるようにわたしに言った。

 それを見たキャサリン様が
「おじ様ぁ、そんな言葉は許さないわ。早く叩かないと!カレン様はおじ様の言うことを聞かない悪い子なのよ?ねっ?おば様もそう思うでしょう?」

 甘えた声で愉しそうにニヤニヤ笑いながらみんなを交互に見ている。

 ーーー何、この変な感じ。

 すっごく嫌な気持ちになる。ゾワゾワとしてくるこの違和感。

 それに公爵様が「逃げてくれ」なんて、頭でもおかしくなったの?

「……早く、抑えられている今しか、逃げられ…ない、もうこれ以上…暴力を振いたく…はないんだ」

「駄目よ?もう2回も我が娘を叩いたのに、今更だわ。ねえ?カレン様もこんな親嫌よね?」

「……なんでそんなことを言うの?」
 ーーーわからない、この人のことが。

 公爵様の顔が苦しげに歪んでいた。

「……逃げて……」
 わたしは何故か動けないでいた。


「カレン!」

 その時、兄様が突然部屋に入って来た。

「カレン、こっちにおいで。その腫れた頬は父上がしたのか?」

 わたしは腫れ上がってしまった頬を隠すことはできないと思い正直に頷いた。

「せっかく薬で少しは良くなってきてると思ったのに」
 兄様が悔しそうに言った。

「あら?効きが悪いと思ったら、リオネルお兄様が何か飲ませていたのね?」

「こんな強い香油、父上達を廃人にするつもりか?」

「ふうん、そこまで知ってるの?」
 キャサリン様は悪びれることなく愉しそう。

「貴方達もわたしの言うことを聞いてもらうわ」

「カレンも俺も君の香油は効かないよ。そのために香油の魅了から身を守るために前もって薬は飲んでるからね」

「くすり?」
 わたしはなんのことかわからなくて尋ねた。

「ヒュートがカレンに飲ませていただろう?」

「あれは……怖い夢を見ないようにするため……」

「うん、魅了を跳ね除ける薬だったけどカレンにとっては精神的な辛いことなども安定させていたみたいだね。夜が眠れるようになっていると報告があったからね」


 そんな話をしていたらまた公爵様が起こり出した。

「うるさい!リオネルは向こうに行きなさい!カレン、お前は親に対しての態度がなってない。まともに挨拶すら出来ないし、可愛げがなく………「父上、いい加減にしてください」

 兄様が公爵様の言葉を止めた。

「お前は………」

 真っ赤な顔をして怒りに震える公爵様。

 さっきまでの言葉はなんだったのだろう。絆されなくてよかった。

「カレン、この屋敷にはもう居なくていいから、行こう」

「どこに?エマ達は他の領地へ行かされてわたしの大切な人達がいなくなったんです。このまま出て行くなんて嫌です」

「大丈夫だから。みんな俺が保護してるから、彼らのところへ行こう」

「エマ達に会えるのですか?」

「うん、みんな待ってるから」
 そう言って腫れた頬をそっと触った兄様。

「ごめん、助けるのが遅れてしまって」

「ううん、兄様が助けてくれるなんて思ってもいなかったわ」  

「そうだな、俺はお前をずっと避けていたからね」

 兄様がなんとも言えない顔をして笑った。

 昔の兄様の優しい顔を思い出した。
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