25 / 50
にじゅうご。
しおりを挟む
アイリ様………
オスカー殿下は何を聞きたいのだろう。
「アイリ様はとても可愛らしい方だと思います…が?」
「それで?」
「えっと、わたし自身はお話ししたことがありませんのでそれくらいです」
「アイリのことをよく見ておくように。君の苦手なキャサリンだったかな。彼女に似てるから」
「えっ?」
「じゃあ僕はお先に。セルジオが来たみたいだからね」
結局殿下は食事もとらずに部屋を出て行った。
セルジオは殿下が出て行く時に頭を下げたが、何も言わずに「待たせてごめん」と言ってわたしの前に座った。
「昼食食べないの?」
「え、う、うん、食べます。殿下は食事をしてないのに良かったのかな?」
「殿下は君と話したかっただけだと思うよ」
「あの短い会話が?」
「さあ、内容は知らないからなんとも言えないけどね」
セルジオは何も聞こうとしない。
逆にわたしの方が聞きたかった。
アイリ様をよく見ておくって何?なんでキャサリン様がここで出てくるの?
最近は殿下にほとんど接触しないようにしていたのに。
でもセルジオに聞けない。彼は優しく微笑んでいるけど、聞いても答えることはないだろう。
「今日の勉強はどこからする?」
「わからないことはなんでも聞いていいからね」
「カレン、どうした?何かあるの?」
セルジオはわざとこんな言い方をするのに肝心な殿下のことは触れない。ううん、触れさせる気がないのだ。
「食事が終わったら昨日の続きを教えて欲しいの。復習はしてきたから先へ進みたいわ」
「わかった」
放課後はいつもの図書室での勉強が終わり屋敷に帰ると、兄様は出かけているみたいで公爵夫婦がまたキャサリン様と仲良く夕食を食べていた。
彼女の実家の両親は何も言わないのだろうか?
小さな頃から娘を公爵家に行かせて。
ーーーあっ、そうか。公爵家に取り入るために娘をわざと行かせているのか。
ふっ、そんなことにも気が付かないなんてわたしってバカだよね。あの二人のことになるといつも冷静さを失ってついイライラしてしまう。
食堂を通り過ぎてさっさと部屋に行こうとしたら、執事に声をかけられた。
「カレン様、旦那様がお呼びです」
「わたし、頭が痛いから無理だと言っておいて。だから食事もいらないわ」
ーーー本当はお腹がとても空いていた。
あの人達とは食べたくないし、公爵様と顔を合わせるのも嫌なので仮病を使うことにした。もちろん向こうも仮病だとわかっているだろうけど。
部屋に入るとすぐに三つ編みを解き眼鏡を外す。
制服を脱ぎ捨てて部屋着のワンピースに着替えた。
「お腹空いたな。あとでエマに頼んで何か持って来てもらおう」
今はあの人達がいるからエマに声をかけるのはやめておいた方がいい。
すぐにセルジオに習ったところを復習する。
気がついたらいつの間にか外は真っ暗。
エマを呼んで何か食べ物を用意してもらおうと呼び鈴を鳴らす。
扉を開ける音がした。
いつもならノックをするのにエマにしては珍しい。
「エマ?」
座ったまま振り返るとそこにはキャサリン様が立っていた。
「あの……何か御用かしら?」
ほとんど彼女と話したことはない。
いつもあの二人に大切にされて守られていた。彼らの横でわたしを嘲笑うように見ていた彼女が、扉の前でやはりわたしを見て楽しそうな顔をしていた。
「キャサリン様?」
怪訝な目で彼女を見てしまった。
いったいなんの用だろう。
「ふふっ、カレン様とお話をしてみたかったの。なかなかゆっくりと二人で話すことができなかったから、態々部屋に来てあげたのよ?」
「そう、でも他人の部屋に入る時はノックくらいはしないと。そんな常識も知らないの?」
「何を言ってるのかしら?この屋敷ではわたしは好きにしても怒られないわ。貴女こそわたしに言い返したらまたおじ様に何されるかわからないわよ」
「別に……彼らに何されようと関係ないわ」
「ふふっ、わたしがお二人に愛されるのをいつも指を咥えてみていたくせに。本当は羨ましかったのでしょう?実の娘は冷遇されているのに、わたしはお二人に愛されているもの。ドレスや宝石もプレゼントしてもらえるし一緒に観劇に行ったり買い物に行ったりしているわ」
「だから?」
「強がらなくてもいいわ。わたしにお願いしなさいな。そしたら少しはお二人にお願いしてあげてもよくてよ?もう少し優しくしてもらえるように言ってあげるわ」
「必要ないわ」
「愛されたいのでしょう?優しく微笑んでもらいたいのでしょう?優しく話しかけられたいのでしょう?優しく『カレン』って名前を呼ばれたいのでしょう?わたしに傅きなさい。わたしに頭を下げるなら考えてあげるから」
「はっ?何故貴女にそんなこと頼まないといけないの?」
「ねぇ、わたしをみても何も感じないの?」
「貴女頭おかしいんじゃないの?」
「おかしいわ、なんでこの人には何も効かないのよ、わたしの言うことを聞くものでしょう?なんで全く動じないの、なんで羨ましがらないの」
キャサリン様がブツブツ独り言を言い始めた。
「もうこれ以上くだらない話は聞きたくないわ。出て行ってくれるかしら?」
「なっ、何がくだらないのよ!酷いわっ!」
「ハアーー、わたしが怒る前に出て行ってくれないかしら?」
低い声でキャサリン様に言った。
「カレン!お前はキャサリンに何を言ったんだ!」
キャサリンの後ろから怒鳴る声が聞こえた。
公爵様がわたしの部屋にズカズカと入ってくるなりわたしの頬を叩いた。
バシッ!
ーーーえっ?
思わず目を見開いた。
ーーー何があったの?
ーーーわたし何か悪いことをした?
目の前には物凄く怖い顔をした公爵様。
その後ろにはニヤニヤ笑うキャサリン様。
そして………その姿をただ黙ってみている公爵夫人。
「お前はわたしをイラつかせる。ひとつも可愛げがない!」
今まで何度か叩かれたけどこんなに酷く叩かれたのは初めてで呆然として立っていた。
わたしを助けてくれる人はここにはいない。
エマの姿もキースの姿もない。
みんなどこに居るの?
目がエマを探した。そのことに気がついたのか公爵様は言った。
「はっ?お前は気づいていないのか?お前の大切な使用人達は領地に帰した。ここにはわたしの言うことしか聞かない使用人しかいない」
ーーーなんで?
オスカー殿下は何を聞きたいのだろう。
「アイリ様はとても可愛らしい方だと思います…が?」
「それで?」
「えっと、わたし自身はお話ししたことがありませんのでそれくらいです」
「アイリのことをよく見ておくように。君の苦手なキャサリンだったかな。彼女に似てるから」
「えっ?」
「じゃあ僕はお先に。セルジオが来たみたいだからね」
結局殿下は食事もとらずに部屋を出て行った。
セルジオは殿下が出て行く時に頭を下げたが、何も言わずに「待たせてごめん」と言ってわたしの前に座った。
「昼食食べないの?」
「え、う、うん、食べます。殿下は食事をしてないのに良かったのかな?」
「殿下は君と話したかっただけだと思うよ」
「あの短い会話が?」
「さあ、内容は知らないからなんとも言えないけどね」
セルジオは何も聞こうとしない。
逆にわたしの方が聞きたかった。
アイリ様をよく見ておくって何?なんでキャサリン様がここで出てくるの?
最近は殿下にほとんど接触しないようにしていたのに。
でもセルジオに聞けない。彼は優しく微笑んでいるけど、聞いても答えることはないだろう。
「今日の勉強はどこからする?」
「わからないことはなんでも聞いていいからね」
「カレン、どうした?何かあるの?」
セルジオはわざとこんな言い方をするのに肝心な殿下のことは触れない。ううん、触れさせる気がないのだ。
「食事が終わったら昨日の続きを教えて欲しいの。復習はしてきたから先へ進みたいわ」
「わかった」
放課後はいつもの図書室での勉強が終わり屋敷に帰ると、兄様は出かけているみたいで公爵夫婦がまたキャサリン様と仲良く夕食を食べていた。
彼女の実家の両親は何も言わないのだろうか?
小さな頃から娘を公爵家に行かせて。
ーーーあっ、そうか。公爵家に取り入るために娘をわざと行かせているのか。
ふっ、そんなことにも気が付かないなんてわたしってバカだよね。あの二人のことになるといつも冷静さを失ってついイライラしてしまう。
食堂を通り過ぎてさっさと部屋に行こうとしたら、執事に声をかけられた。
「カレン様、旦那様がお呼びです」
「わたし、頭が痛いから無理だと言っておいて。だから食事もいらないわ」
ーーー本当はお腹がとても空いていた。
あの人達とは食べたくないし、公爵様と顔を合わせるのも嫌なので仮病を使うことにした。もちろん向こうも仮病だとわかっているだろうけど。
部屋に入るとすぐに三つ編みを解き眼鏡を外す。
制服を脱ぎ捨てて部屋着のワンピースに着替えた。
「お腹空いたな。あとでエマに頼んで何か持って来てもらおう」
今はあの人達がいるからエマに声をかけるのはやめておいた方がいい。
すぐにセルジオに習ったところを復習する。
気がついたらいつの間にか外は真っ暗。
エマを呼んで何か食べ物を用意してもらおうと呼び鈴を鳴らす。
扉を開ける音がした。
いつもならノックをするのにエマにしては珍しい。
「エマ?」
座ったまま振り返るとそこにはキャサリン様が立っていた。
「あの……何か御用かしら?」
ほとんど彼女と話したことはない。
いつもあの二人に大切にされて守られていた。彼らの横でわたしを嘲笑うように見ていた彼女が、扉の前でやはりわたしを見て楽しそうな顔をしていた。
「キャサリン様?」
怪訝な目で彼女を見てしまった。
いったいなんの用だろう。
「ふふっ、カレン様とお話をしてみたかったの。なかなかゆっくりと二人で話すことができなかったから、態々部屋に来てあげたのよ?」
「そう、でも他人の部屋に入る時はノックくらいはしないと。そんな常識も知らないの?」
「何を言ってるのかしら?この屋敷ではわたしは好きにしても怒られないわ。貴女こそわたしに言い返したらまたおじ様に何されるかわからないわよ」
「別に……彼らに何されようと関係ないわ」
「ふふっ、わたしがお二人に愛されるのをいつも指を咥えてみていたくせに。本当は羨ましかったのでしょう?実の娘は冷遇されているのに、わたしはお二人に愛されているもの。ドレスや宝石もプレゼントしてもらえるし一緒に観劇に行ったり買い物に行ったりしているわ」
「だから?」
「強がらなくてもいいわ。わたしにお願いしなさいな。そしたら少しはお二人にお願いしてあげてもよくてよ?もう少し優しくしてもらえるように言ってあげるわ」
「必要ないわ」
「愛されたいのでしょう?優しく微笑んでもらいたいのでしょう?優しく話しかけられたいのでしょう?優しく『カレン』って名前を呼ばれたいのでしょう?わたしに傅きなさい。わたしに頭を下げるなら考えてあげるから」
「はっ?何故貴女にそんなこと頼まないといけないの?」
「ねぇ、わたしをみても何も感じないの?」
「貴女頭おかしいんじゃないの?」
「おかしいわ、なんでこの人には何も効かないのよ、わたしの言うことを聞くものでしょう?なんで全く動じないの、なんで羨ましがらないの」
キャサリン様がブツブツ独り言を言い始めた。
「もうこれ以上くだらない話は聞きたくないわ。出て行ってくれるかしら?」
「なっ、何がくだらないのよ!酷いわっ!」
「ハアーー、わたしが怒る前に出て行ってくれないかしら?」
低い声でキャサリン様に言った。
「カレン!お前はキャサリンに何を言ったんだ!」
キャサリンの後ろから怒鳴る声が聞こえた。
公爵様がわたしの部屋にズカズカと入ってくるなりわたしの頬を叩いた。
バシッ!
ーーーえっ?
思わず目を見開いた。
ーーー何があったの?
ーーーわたし何か悪いことをした?
目の前には物凄く怖い顔をした公爵様。
その後ろにはニヤニヤ笑うキャサリン様。
そして………その姿をただ黙ってみている公爵夫人。
「お前はわたしをイラつかせる。ひとつも可愛げがない!」
今まで何度か叩かれたけどこんなに酷く叩かれたのは初めてで呆然として立っていた。
わたしを助けてくれる人はここにはいない。
エマの姿もキースの姿もない。
みんなどこに居るの?
目がエマを探した。そのことに気がついたのか公爵様は言った。
「はっ?お前は気づいていないのか?お前の大切な使用人達は領地に帰した。ここにはわたしの言うことしか聞かない使用人しかいない」
ーーーなんで?
70
お気に入りに追加
1,883
あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる