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にじゅうご。

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 アイリ様………

 オスカー殿下は何を聞きたいのだろう。

「アイリ様はとても可愛らしい方だと思います…が?」

「それで?」

「えっと、わたし自身はお話ししたことがありませんのでそれくらいです」

「アイリのことをよく見ておくように。君の苦手なキャサリンだったかな。彼女に似てるから」

「えっ?」

「じゃあ僕はお先に。セルジオが来たみたいだからね」
 結局殿下は食事もとらずに部屋を出て行った。

 セルジオは殿下が出て行く時に頭を下げたが、何も言わずに「待たせてごめん」と言ってわたしの前に座った。

「昼食食べないの?」

「え、う、うん、食べます。殿下は食事をしてないのに良かったのかな?」

「殿下は君と話したかっただけだと思うよ」

「あの短い会話が?」

「さあ、内容は知らないからなんとも言えないけどね」
 セルジオは何も聞こうとしない。

 逆にわたしの方が聞きたかった。

 アイリ様をよく見ておくって何?なんでキャサリン様がここで出てくるの?

 最近は殿下にほとんど接触しないようにしていたのに。

 でもセルジオに聞けない。彼は優しく微笑んでいるけど、聞いても答えることはないだろう。

「今日の勉強はどこからする?」
「わからないことはなんでも聞いていいからね」
「カレン、どうした?何かあるの?」

 セルジオはわざとこんな言い方をするのに肝心な殿下のことは触れない。ううん、触れさせる気がないのだ。

「食事が終わったら昨日の続きを教えて欲しいの。復習はしてきたから先へ進みたいわ」

「わかった」





 放課後はいつもの図書室での勉強が終わり屋敷に帰ると、兄様は出かけているみたいで公爵夫婦がまたキャサリン様と仲良く夕食を食べていた。

 彼女の実家の両親は何も言わないのだろうか?

 小さな頃から娘を公爵家に行かせて。

 ーーーあっ、そうか。公爵家に取り入るために娘をわざと行かせているのか。

 ふっ、そんなことにも気が付かないなんてわたしってバカだよね。あの二人のことになるといつも冷静さを失ってついイライラしてしまう。

 食堂を通り過ぎてさっさと部屋に行こうとしたら、執事に声をかけられた。

「カレン様、旦那様がお呼びです」

「わたし、頭が痛いから無理だと言っておいて。だから食事もいらないわ」

 ーーー本当はお腹がとても空いていた。

 あの人達とは食べたくないし、公爵様と顔を合わせるのも嫌なので仮病を使うことにした。もちろん向こうも仮病だとわかっているだろうけど。

 部屋に入るとすぐに三つ編みを解き眼鏡を外す。

 制服を脱ぎ捨てて部屋着のワンピースに着替えた。

「お腹空いたな。あとでエマに頼んで何か持って来てもらおう」

 今はあの人達がいるからエマに声をかけるのはやめておいた方がいい。

 すぐにセルジオに習ったところを復習する。

 気がついたらいつの間にか外は真っ暗。

 エマを呼んで何か食べ物を用意してもらおうと呼び鈴を鳴らす。


 扉を開ける音がした。
 いつもならノックをするのにエマにしては珍しい。

「エマ?」

 座ったまま振り返るとそこにはキャサリン様が立っていた。

「あの……何か御用かしら?」

 ほとんど彼女と話したことはない。

 いつもあの二人に大切にされて守られていた。彼らの横でわたしを嘲笑うように見ていた彼女が、扉の前でやはりわたしを見て楽しそうな顔をしていた。


「キャサリン様?」
 怪訝な目で彼女を見てしまった。
 いったいなんの用だろう。

「ふふっ、カレン様とお話をしてみたかったの。なかなかゆっくりと二人で話すことができなかったから、態々部屋に来てあげたのよ?」

「そう、でも他人の部屋に入る時はノックくらいはしないと。そんな常識も知らないの?」

「何を言ってるのかしら?この屋敷ではわたしは好きにしても怒られないわ。貴女こそわたしに言い返したらまたおじ様に何されるかわからないわよ」

「別に……彼らに何されようと関係ないわ」

「ふふっ、わたしがお二人に愛されるのをいつも指を咥えてみていたくせに。本当は羨ましかったのでしょう?実の娘は冷遇されているのに、わたしはお二人に愛されているもの。ドレスや宝石もプレゼントしてもらえるし一緒に観劇に行ったり買い物に行ったりしているわ」

「だから?」

「強がらなくてもいいわ。わたしにお願いしなさいな。そしたら少しはお二人にお願いしてあげてもよくてよ?もう少し優しくしてもらえるように言ってあげるわ」

「必要ないわ」

「愛されたいのでしょう?優しく微笑んでもらいたいのでしょう?優しく話しかけられたいのでしょう?優しく『カレン』って名前を呼ばれたいのでしょう?わたしに傅きなさい。わたしに頭を下げるなら考えてあげるから」

「はっ?何故貴女にそんなこと頼まないといけないの?」

「ねぇ、わたしをみても何も感じないの?」

「貴女頭おかしいんじゃないの?」



「おかしいわ、なんでこの人には何も効かないのよ、わたしの言うことを聞くものでしょう?なんで全く動じないの、なんで羨ましがらないの」

 キャサリン様がブツブツ独り言を言い始めた。

「もうこれ以上くだらない話は聞きたくないわ。出て行ってくれるかしら?」

「なっ、何がくだらないのよ!酷いわっ!」

「ハアーー、わたしが怒る前に出て行ってくれないかしら?」
 低い声でキャサリン様に言った。



「カレン!お前はキャサリンに何を言ったんだ!」

 キャサリンの後ろから怒鳴る声が聞こえた。

 公爵様がわたしの部屋にズカズカと入ってくるなりわたしの頬を叩いた。

 バシッ!

 ーーーえっ?

 思わず目を見開いた。

 ーーー何があったの?

 ーーーわたし何か悪いことをした?

 目の前には物凄く怖い顔をした公爵様。

 その後ろにはニヤニヤ笑うキャサリン様。

 そして………その姿をただ黙ってみている公爵夫人。


「お前はわたしをイラつかせる。ひとつも可愛げがない!」

 今まで何度か叩かれたけどこんなに酷く叩かれたのは初めてで呆然として立っていた。

 わたしを助けてくれる人はここにはいない。

 エマの姿もキースの姿もない。

 みんなどこに居るの?
 目がエマを探した。そのことに気がついたのか公爵様は言った。

「はっ?お前は気づいていないのか?お前の大切な使用人達は領地に帰した。ここにはわたしの言うことしか聞かない使用人しかいない」

ーーーなんで?




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