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にじゅうに。
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「カレン、本当にビスター家のセルジオ君と婚約をするつもりなのか?」
ずっと避けていた公爵様と久しぶりに対峙した。
ううん、エマが真っ青な顔をして涙目で頼んできたのだ。学校へ行く用意をしていた時だった。
『すみませんカレン様。今日だけは何があっても旦那様を避けることができませんでした。部屋の前に立っています』
仕方なく部屋から出て廊下で話した。
部屋の中には入れたくなかったもの。
「はい、わたしはセルジオ様と婚約したいと思っております」
「…………この国では本人達が婚約をしたいと言えば家格さえ合えば親としても拒否できない。
……お前はそれをわかっていて言い出したのか?」
いつものように怒りを抑えながら話しているのではなく、冷たく淡々とわたしに話しかける公爵様。
そう淡々と……とても冷たい目をわたしに向けて。
「はい、わたしは婚約したいと思っております。あとはセルジオ様が動いてくれますので。では失礼します」
ーーー好きだとか愛だとかそんなものはないけど。契約婚約だもの。
またすぐに部屋の中に入ろうとしたら「待ちなさい」と呼び止められた。
「公爵様、もうこれ以上会話は必要ないと思いますが?」
振り向かずにそのまま部屋に入っていった。
何故あんな顔をしたのだろう。いつも睨んで冷たい顔しかしないのに、一瞬傷ついたような顔をした。
そんなにわたしが決めたことが気に食わなかったのかしら?
まぁ、本当はもっと家格の上の人に嫁がせたかったのかもしれないわ。
どちらにしても学校さえ卒業したらこの家から逃げ出すつもりだもの。セルジオ様もそれでいいと約束してくれているから、今はとりあえず勉強にまっしぐらだよね。
エマが部屋の中で話を聞いていた。
「カレン様……婚約をされるのですか?」
「ごめんね、話していなくて。この前セルジオ様と話して決めたことなの」
エマには本当のことは話さないつもり。エマが知っているのに黙っていたと公爵夫婦が知ってしまえばエマを問い詰めてしまう。エマの責任になったら嫌だもの。
「エマ、わたしヒュートからもらった美味しい紅茶を飲みたいの。淹れてくれるかしら?」
「はいかしこまりました」
エマはすぐにお茶の用意をしてくれた。
今日も学校に早めに行って教室で勉強をするつもり。だから部屋で朝食のパンを食べるつもりで準備をしてもらった。
ヒュートのくれた薬のおかげで最近はあの怖い夢をあまり見ない。おかげでぐっすり眠れている。
もうすぐヒュートも仕事で国に帰ってしまう。
マックス様の屋敷に薬は届けてくれることになったので安心してるけど、ヒュートに会えなくなるのはとても寂しい。
わたしのことを一番わかってくれている彼。だけど甘えてばかりいてはダメだよね。
朝食を終えて屋敷を出ようとした時、話し声が聞こえてきた。
執事と料理長が話をしていた。
「リオネル様の食事はお部屋に持っていくようにお願いします」
「わかった。旦那様達はリオネル様が帰ったことは知ってるんだろう?」
「後で挨拶をすると言っていたけど、すぐに部屋に入ってしまったので知らないと思います。勝手に知らせるなと言われていますし、ハアー」
溜息を吐きながら執事が話していた。
帰ってきたことを知らせないと公爵様達がまた機嫌が悪くなるのをわかってるから頭を抱えているのかしら?
兄様が帰ってきた。
別に嬉しいとか会いたいとかなんの感情も湧かない。だからそのままスルーして屋敷を出た。
馭者が馬車に乗るのを立って待ってくれている。
「いつもありがとう」お礼を言って馬車に乗った。
馬車の中から見える景色は見慣れているはずなのに、今日の気分はいつもと違う。
公爵様と朝から話したからか、兄様が帰ってきたと聞いたからなのか。
………もうこれ以上何事もなく静かに時が過ぎてくれればいい。
あの家族と関わるのはうんざりだ。
誰もいない教室で教科書を広げて勉強を始めた。
「………レン?ねぇ………もう……!」
勉強に集中し過ぎていた。
オリヴィアの髪の毛が顔にふわっと当たった。
「ごめん」
オリヴィアがクスッと笑いながらわたしの前に座っていた。長いプラチナブロンドのふわふわした髪がわたしの顔に当たったのだった。
「やっと学校に通い出したと思ったら勉強ばかり。ねぇ今日の放課後は付き合ってもらうわよ」
「どこに?」
「街に新しいカフェが出来たらしいの。カレンと一緒に行きたいの」
「あー、うん、でも……」
「今日は断らないで!もう予約しているの」
オリヴィアの必死な顔を見て「わかった、付き合うわ」と返事をした。
「良かった!断られたらショックよ!たまには親友との付き合いも大事にして欲しいもの」
「ごめん、つい夢中になっちゃって」
「勉強も大切だけどたまには息抜きも必要だわ」
「うん」
カフェは店構えがとても可愛くて、中に入るのが楽しみだった。
白いレンガの建物で窓は木枠で丸みがある。中に入るとレースをふんだんに使われていた。
テーブルクロスやクッション、カーテン、壁紙はピンクの花柄なんだけど可愛過ぎないように一番広い壁面は白い壁紙が貼られていた。
センスよく飾られた珍しい形と色の瓶。
思わず目が留まる。
手作りの小物や雑貨も飾られていて買うこともできる。
買って帰れるようにショーケースにはケーキやクッキーも売られていた。
オリヴィアは家族にケーキを買っていた。
わたしも使用人のみんなにケーキを買おう。
久しぶりの楽しい時間を過ごせた。
「オリヴィア、誘ってくれてありがとう」
「カレン、勉強も大事、だけど今のカレンは頑張り過ぎていつ倒れるか分からないわ、とても心配なの。お願いだから無理はしないでちょうだい」
「ごめんね、心配かけて。早くあの人達から独立したくてつい無理してしまっていたのかも」
「辛いことがあったらうちに家出してきてちょうだい。うちだったらあなたの実家の圧力を跳ね返すことが出来るわ」
「オリヴィアの気持ちだけで嬉しいわ」
オリヴィアの家は侯爵家。彼女のお母様は王家の血を継いでいる。我が家より家格は下かもしれないけど、公爵様は強くは言えない。
でも迷惑はかけたくない。
「もう!カレンって顔に出やすいわ!迷惑なんかじゃないんだからね?わかってる?お母様もカレンならいつでもいらっしゃいって言ってるのよ」
「うん、ありがとう。オリヴィア、大好きよ」
「あら?わたしはカレンのこと愛してるわ」
「あっ……」
「どうしたの?」
「忘れてた……わたし、セルジオ様と婚約したの」
「何?それ?いつ?知らないわ、聞いてないわよ!」
「だって今朝公爵様から許可をもらったばかりだもの」
「ちゃんと説明してちょうだい」
「………はい」
オリヴィアってたまにエマと同じで怖い時があるのよね。はあー………
ずっと避けていた公爵様と久しぶりに対峙した。
ううん、エマが真っ青な顔をして涙目で頼んできたのだ。学校へ行く用意をしていた時だった。
『すみませんカレン様。今日だけは何があっても旦那様を避けることができませんでした。部屋の前に立っています』
仕方なく部屋から出て廊下で話した。
部屋の中には入れたくなかったもの。
「はい、わたしはセルジオ様と婚約したいと思っております」
「…………この国では本人達が婚約をしたいと言えば家格さえ合えば親としても拒否できない。
……お前はそれをわかっていて言い出したのか?」
いつものように怒りを抑えながら話しているのではなく、冷たく淡々とわたしに話しかける公爵様。
そう淡々と……とても冷たい目をわたしに向けて。
「はい、わたしは婚約したいと思っております。あとはセルジオ様が動いてくれますので。では失礼します」
ーーー好きだとか愛だとかそんなものはないけど。契約婚約だもの。
またすぐに部屋の中に入ろうとしたら「待ちなさい」と呼び止められた。
「公爵様、もうこれ以上会話は必要ないと思いますが?」
振り向かずにそのまま部屋に入っていった。
何故あんな顔をしたのだろう。いつも睨んで冷たい顔しかしないのに、一瞬傷ついたような顔をした。
そんなにわたしが決めたことが気に食わなかったのかしら?
まぁ、本当はもっと家格の上の人に嫁がせたかったのかもしれないわ。
どちらにしても学校さえ卒業したらこの家から逃げ出すつもりだもの。セルジオ様もそれでいいと約束してくれているから、今はとりあえず勉強にまっしぐらだよね。
エマが部屋の中で話を聞いていた。
「カレン様……婚約をされるのですか?」
「ごめんね、話していなくて。この前セルジオ様と話して決めたことなの」
エマには本当のことは話さないつもり。エマが知っているのに黙っていたと公爵夫婦が知ってしまえばエマを問い詰めてしまう。エマの責任になったら嫌だもの。
「エマ、わたしヒュートからもらった美味しい紅茶を飲みたいの。淹れてくれるかしら?」
「はいかしこまりました」
エマはすぐにお茶の用意をしてくれた。
今日も学校に早めに行って教室で勉強をするつもり。だから部屋で朝食のパンを食べるつもりで準備をしてもらった。
ヒュートのくれた薬のおかげで最近はあの怖い夢をあまり見ない。おかげでぐっすり眠れている。
もうすぐヒュートも仕事で国に帰ってしまう。
マックス様の屋敷に薬は届けてくれることになったので安心してるけど、ヒュートに会えなくなるのはとても寂しい。
わたしのことを一番わかってくれている彼。だけど甘えてばかりいてはダメだよね。
朝食を終えて屋敷を出ようとした時、話し声が聞こえてきた。
執事と料理長が話をしていた。
「リオネル様の食事はお部屋に持っていくようにお願いします」
「わかった。旦那様達はリオネル様が帰ったことは知ってるんだろう?」
「後で挨拶をすると言っていたけど、すぐに部屋に入ってしまったので知らないと思います。勝手に知らせるなと言われていますし、ハアー」
溜息を吐きながら執事が話していた。
帰ってきたことを知らせないと公爵様達がまた機嫌が悪くなるのをわかってるから頭を抱えているのかしら?
兄様が帰ってきた。
別に嬉しいとか会いたいとかなんの感情も湧かない。だからそのままスルーして屋敷を出た。
馭者が馬車に乗るのを立って待ってくれている。
「いつもありがとう」お礼を言って馬車に乗った。
馬車の中から見える景色は見慣れているはずなのに、今日の気分はいつもと違う。
公爵様と朝から話したからか、兄様が帰ってきたと聞いたからなのか。
………もうこれ以上何事もなく静かに時が過ぎてくれればいい。
あの家族と関わるのはうんざりだ。
誰もいない教室で教科書を広げて勉強を始めた。
「………レン?ねぇ………もう……!」
勉強に集中し過ぎていた。
オリヴィアの髪の毛が顔にふわっと当たった。
「ごめん」
オリヴィアがクスッと笑いながらわたしの前に座っていた。長いプラチナブロンドのふわふわした髪がわたしの顔に当たったのだった。
「やっと学校に通い出したと思ったら勉強ばかり。ねぇ今日の放課後は付き合ってもらうわよ」
「どこに?」
「街に新しいカフェが出来たらしいの。カレンと一緒に行きたいの」
「あー、うん、でも……」
「今日は断らないで!もう予約しているの」
オリヴィアの必死な顔を見て「わかった、付き合うわ」と返事をした。
「良かった!断られたらショックよ!たまには親友との付き合いも大事にして欲しいもの」
「ごめん、つい夢中になっちゃって」
「勉強も大切だけどたまには息抜きも必要だわ」
「うん」
カフェは店構えがとても可愛くて、中に入るのが楽しみだった。
白いレンガの建物で窓は木枠で丸みがある。中に入るとレースをふんだんに使われていた。
テーブルクロスやクッション、カーテン、壁紙はピンクの花柄なんだけど可愛過ぎないように一番広い壁面は白い壁紙が貼られていた。
センスよく飾られた珍しい形と色の瓶。
思わず目が留まる。
手作りの小物や雑貨も飾られていて買うこともできる。
買って帰れるようにショーケースにはケーキやクッキーも売られていた。
オリヴィアは家族にケーキを買っていた。
わたしも使用人のみんなにケーキを買おう。
久しぶりの楽しい時間を過ごせた。
「オリヴィア、誘ってくれてありがとう」
「カレン、勉強も大事、だけど今のカレンは頑張り過ぎていつ倒れるか分からないわ、とても心配なの。お願いだから無理はしないでちょうだい」
「ごめんね、心配かけて。早くあの人達から独立したくてつい無理してしまっていたのかも」
「辛いことがあったらうちに家出してきてちょうだい。うちだったらあなたの実家の圧力を跳ね返すことが出来るわ」
「オリヴィアの気持ちだけで嬉しいわ」
オリヴィアの家は侯爵家。彼女のお母様は王家の血を継いでいる。我が家より家格は下かもしれないけど、公爵様は強くは言えない。
でも迷惑はかけたくない。
「もう!カレンって顔に出やすいわ!迷惑なんかじゃないんだからね?わかってる?お母様もカレンならいつでもいらっしゃいって言ってるのよ」
「うん、ありがとう。オリヴィア、大好きよ」
「あら?わたしはカレンのこと愛してるわ」
「あっ……」
「どうしたの?」
「忘れてた……わたし、セルジオ様と婚約したの」
「何?それ?いつ?知らないわ、聞いてないわよ!」
「だって今朝公爵様から許可をもらったばかりだもの」
「ちゃんと説明してちょうだい」
「………はい」
オリヴィアってたまにエマと同じで怖い時があるのよね。はあー………
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