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にじゅういち。
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ヒュートの薬のおかげで少しずつ体調も精神も落ち着いてきた。
「ねえ、あの薬って魔法の薬なの?」
「違うよ。遠いある国では薬を自然の草木などで作るらしいんだ。自然界に存在する植物や動物、鉱物などの薬効とな部分を2つ以上組み合わせて作るんだって。
カレンは、怖い夢のせいで精神的にも肉体的にも体調を崩しているだろう。だから優しい薬でゆっくりと改善させていってるんだ」
「あ、だから飲んでもすぐ効かなかったのね」
「ねぇ、この公爵家の屋敷を出て寮には入れないの?そしたら少しは気持ちも楽になりそうなのに」
「駄目……わたしが勝手な行動をすればお祖父様達はあの領地から追い出されるわ。公爵夫婦は祖父母が目障りなの、本当は辺鄙な領地に追いやってしまいたいの、わたしの浅はかな行動で理由を作ることは出来ない」
「はっ、まだ、恨んでるんだ、自分たちの方が原因なのに」
ヒュートの顔が思い出したかのように何故かイラついていた。
「ヒュートは何か知っているの?」
「うん?いや、たいしたことじゃない」
理由を話そうとはしない。何故か聞いてはいけない気がした。祖父母と公爵夫婦の間には大きな確執がある。だけどその理由をわたしは知らない。
祖父母は困った顔をして笑うので聞けないでいる。
また学校へ通えるまでに回復したわたしは遅れた勉強を取り戻そうと放課後はずっと図書室に通い詰めた。
エマは心配して「早く帰ってきてください」と言ってくれるけど、早く卒業したいわたしは今年度飛級試験を受ける予定。出来れば一年間のうちに卒業したい。
無謀だけどわたしが唯一できることはそれだけしかない。
授業が終わり時間ギリギリまで図書室で勉強をしていると人の気配がした。
ーーーうん?誰?
頭を上げるとセルジオ様が立っていた。
「カレン様は体調を崩していたと聞いていたけどそんなに必死で勉強をして大丈夫なんですか?」
「ご心配をおかけしました」
ーーーやばい……忘れてたわ。婚約の打診……
「その顔は僕の話を完全に忘れていたと言う顔かな」
「うっ……ごめんなさい」
「ハア……ねぇ、そこの問題間違えてるよ。解き方は合ってるのに計算が間違ってるんじゃない?」
「えっ?うそ、ここの答えですか?」
「それからそこ分からないの?数学が苦手なの?」
「苦手と言うか飛級したいので今本を見ながらなんとか解いてるところなんです」
「習ってないのに?家庭教師は?」
「………そんなもの付けてもらってません」
「独学で勉強してるの?」
「先生に教科書はもらったのでそれを読みながら?」
「効率悪すぎ。ちょっと隣に座る。教科書かして」
セルジオ様は教科書を読むとノートにわかりやすく問題の解き方の説明を書いていってくれた。
「すっごくわかりやすい。そこ理解できていなかったんです」
「僕でも家で家庭教師に教えてもらってたんだ。何もないのにここまでやれるのはすごいと思う」
「もらってた?もう今はいないんですか?」
「うん、もうこの学校で習う勉強は全て終わらせているからね」
「どうして飛級で卒業しないんですか?」
「オスカー殿下の側近が学校卒業してしまったら側近じゃなくなるだろう?」
「なるほど、そうですよね」
ーーー殿下って成績悪いのかしら?
「君顔に出やすいね。殿下は馬鹿ではないよ、ただ王子教育と学業、さらに第二王子としての政務もあるから忙しくて飛級する勉強まで時間が取れないだけだよ。それに殿下達にとって学校は王宮から出られる唯一の自由な時間だからね、卒業は急がないよ」
「なるほどだからアイリ様に入れ上げてるんですね」
「君、言い方!考えた方がいいと思うよ」
冷たい目でギロっと睨まれた。
「ごめんなさい。とても仲がよろしいようで」
笑って誤魔化すと「誰も聞いていないからいいけど」とボソッと言ってくれた。
ーーーうん、不敬で捕まりたくないわ。
「ねぇ、家庭教師ってどうやったら見つかるのかな?」
「公爵家ならいくらでも優秀な家庭教師をつけてくれるだろう?」
その言葉に思わず返事が出来ず笑って誤魔化した。
「ああ、そこまで酷いの?」
「お金はあるの。わたしそれなりに稼いでいるから。ただ勉強を公爵家ではあまりしたくないの、飛び級目指していることは知られたくないから。わたしに関心はないみたいだけど、そのことを知られたら何を言ってくるか分からないから……警戒しておかなければいけないの」
「うーん、そうだね。僕も時間がある時なら教えてあげられるけど……君婚約者になって週に2回ほどうちの屋敷においでよ。婚約して相手の家に夫人になるための勉強に通う子は多いだろう?家庭教師をつけてあげるよ」
「そんな勝手なこと出来るの?」
「母上は厳しい人ではないからね。事情を話せば受け入れてくれるよ。婚約の打診は君のところの公爵家にそろそろ親がしてくれているはずだからね」
「あーー、もう逃げられないのね」
「どうかな?公爵が受けてくれるか分からないよ。君次第だと思う」
確かに。わたしから言えば話が早く通るだろう、今は恋愛を重きに置いて婚約者を選ぶことが多いから。
セルジオ様なら他の打診が来ていても彼を選ぶことに関しては文句は言われないと思う。
「仮の婚約者よね?」
「うん」
「……………お受け……致し……ま、す」
勉強のためにわたしは仮の婚約者になった。
「ねえ、あの薬って魔法の薬なの?」
「違うよ。遠いある国では薬を自然の草木などで作るらしいんだ。自然界に存在する植物や動物、鉱物などの薬効とな部分を2つ以上組み合わせて作るんだって。
カレンは、怖い夢のせいで精神的にも肉体的にも体調を崩しているだろう。だから優しい薬でゆっくりと改善させていってるんだ」
「あ、だから飲んでもすぐ効かなかったのね」
「ねぇ、この公爵家の屋敷を出て寮には入れないの?そしたら少しは気持ちも楽になりそうなのに」
「駄目……わたしが勝手な行動をすればお祖父様達はあの領地から追い出されるわ。公爵夫婦は祖父母が目障りなの、本当は辺鄙な領地に追いやってしまいたいの、わたしの浅はかな行動で理由を作ることは出来ない」
「はっ、まだ、恨んでるんだ、自分たちの方が原因なのに」
ヒュートの顔が思い出したかのように何故かイラついていた。
「ヒュートは何か知っているの?」
「うん?いや、たいしたことじゃない」
理由を話そうとはしない。何故か聞いてはいけない気がした。祖父母と公爵夫婦の間には大きな確執がある。だけどその理由をわたしは知らない。
祖父母は困った顔をして笑うので聞けないでいる。
また学校へ通えるまでに回復したわたしは遅れた勉強を取り戻そうと放課後はずっと図書室に通い詰めた。
エマは心配して「早く帰ってきてください」と言ってくれるけど、早く卒業したいわたしは今年度飛級試験を受ける予定。出来れば一年間のうちに卒業したい。
無謀だけどわたしが唯一できることはそれだけしかない。
授業が終わり時間ギリギリまで図書室で勉強をしていると人の気配がした。
ーーーうん?誰?
頭を上げるとセルジオ様が立っていた。
「カレン様は体調を崩していたと聞いていたけどそんなに必死で勉強をして大丈夫なんですか?」
「ご心配をおかけしました」
ーーーやばい……忘れてたわ。婚約の打診……
「その顔は僕の話を完全に忘れていたと言う顔かな」
「うっ……ごめんなさい」
「ハア……ねぇ、そこの問題間違えてるよ。解き方は合ってるのに計算が間違ってるんじゃない?」
「えっ?うそ、ここの答えですか?」
「それからそこ分からないの?数学が苦手なの?」
「苦手と言うか飛級したいので今本を見ながらなんとか解いてるところなんです」
「習ってないのに?家庭教師は?」
「………そんなもの付けてもらってません」
「独学で勉強してるの?」
「先生に教科書はもらったのでそれを読みながら?」
「効率悪すぎ。ちょっと隣に座る。教科書かして」
セルジオ様は教科書を読むとノートにわかりやすく問題の解き方の説明を書いていってくれた。
「すっごくわかりやすい。そこ理解できていなかったんです」
「僕でも家で家庭教師に教えてもらってたんだ。何もないのにここまでやれるのはすごいと思う」
「もらってた?もう今はいないんですか?」
「うん、もうこの学校で習う勉強は全て終わらせているからね」
「どうして飛級で卒業しないんですか?」
「オスカー殿下の側近が学校卒業してしまったら側近じゃなくなるだろう?」
「なるほど、そうですよね」
ーーー殿下って成績悪いのかしら?
「君顔に出やすいね。殿下は馬鹿ではないよ、ただ王子教育と学業、さらに第二王子としての政務もあるから忙しくて飛級する勉強まで時間が取れないだけだよ。それに殿下達にとって学校は王宮から出られる唯一の自由な時間だからね、卒業は急がないよ」
「なるほどだからアイリ様に入れ上げてるんですね」
「君、言い方!考えた方がいいと思うよ」
冷たい目でギロっと睨まれた。
「ごめんなさい。とても仲がよろしいようで」
笑って誤魔化すと「誰も聞いていないからいいけど」とボソッと言ってくれた。
ーーーうん、不敬で捕まりたくないわ。
「ねぇ、家庭教師ってどうやったら見つかるのかな?」
「公爵家ならいくらでも優秀な家庭教師をつけてくれるだろう?」
その言葉に思わず返事が出来ず笑って誤魔化した。
「ああ、そこまで酷いの?」
「お金はあるの。わたしそれなりに稼いでいるから。ただ勉強を公爵家ではあまりしたくないの、飛び級目指していることは知られたくないから。わたしに関心はないみたいだけど、そのことを知られたら何を言ってくるか分からないから……警戒しておかなければいけないの」
「うーん、そうだね。僕も時間がある時なら教えてあげられるけど……君婚約者になって週に2回ほどうちの屋敷においでよ。婚約して相手の家に夫人になるための勉強に通う子は多いだろう?家庭教師をつけてあげるよ」
「そんな勝手なこと出来るの?」
「母上は厳しい人ではないからね。事情を話せば受け入れてくれるよ。婚約の打診は君のところの公爵家にそろそろ親がしてくれているはずだからね」
「あーー、もう逃げられないのね」
「どうかな?公爵が受けてくれるか分からないよ。君次第だと思う」
確かに。わたしから言えば話が早く通るだろう、今は恋愛を重きに置いて婚約者を選ぶことが多いから。
セルジオ様なら他の打診が来ていても彼を選ぶことに関しては文句は言われないと思う。
「仮の婚約者よね?」
「うん」
「……………お受け……致し……ま、す」
勉強のためにわたしは仮の婚約者になった。
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