【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

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にじゅう。ーー両親の過去

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「殿下はご存知……だったんですね」

「うん?生まれてないから噂だけ……
『真実の愛』だったかな……」

「はっ、くだらない」
 俺は吐き捨てた。殿下の前だったが、抑えられなかった。

 ーーー何が『真実の愛』だ。

「だがその愛のおかげで君は生まれたんだろう?」

「………そうですね……」
 不機嫌に返事をするしかなかった。






 俺は『真実の愛』から生まれた大切な宝物。

 母がそう何度も何度も繰り返し幼い頃俺に話す。

 その意味がわからなかった俺は、それはとても素晴らしいことだと、俺はみんなから愛されるために生まれてきたと教えられそう思っていた。

 何がだ!

 二人は恋をした。
 だが二人にはそれぞれ婚約者がいた。
 その婚約者達を裏切り二人は結ばれた。捨てられた婚約者の一人は自殺していた。

 そんな二人の愛の結晶が俺だ。

 二人は妊娠したため結婚をして俺を産んだ。
 反対していた両家も仕方なく納得したらしい。

 両親に似た俺はとても可愛がられた。

 6年後生まれた妹のカレンは、父方の祖母にあまりにも似ていた。

 両親の結婚を一番反対した人。
 母はとても恨んでいた。ひどい言葉を吐かれたからと。父もあまりにも猛烈に反対されたことで祖母を嫌っていた。
 あとで聞いたが、二人が言われたのはひどい言葉ではなく、常識のある人なら当たり前だと思う言葉だった。
 そんな祖母にそっくりのカレンは、両親になつかなかった。

 生まれてすぐに母は「嫌だわお義母様にそっくりで気持ちが悪いわ」と言った。

 父は、眉を顰めて「俺たちの子供だとは思えない」と吐き捨てた。

 俺はそんな二人を見て育った。

 こんなに可愛い妹をどうして?そうは思ってもまだ幼い俺は自分だけが愛される事に満足していた。

 妹の様子が変だと気がついたのはカレンが3歳になった頃。

 生まれた時から半分親から見放されて育ったカレンは夜中になると大泣きする。部屋が近い俺は何度も目が覚めた。

 眠い目を擦りながら一度カレンの部屋を覗いた。

 眠りながら泣いていた。

 小さな体を震わせて。それを可哀想と思うより怖く感じた。

 あんな小さいのに悲しそうに泣いている。

 次の日になればケロッとしている。愛されてはいなくてもそれが当たり前のカレンにとってこの屋敷で過ごすのは苦痛ではなかったようだ。

 そう思っていたのに……

 夜中になると泣き続けるカレンの体は衰弱していった。その話を使用人の噂で聞きつけた祖父母が少しの間領地で預かると手紙を書いてきた。

 両親からすると、愛情を持てない娘に手を焼いていたのでさっさと預けることを了承した。

『カレン、しばらく向こうで暮らしなさい』
 冷たく父は言った。

 祖父母は王都には来ず執事のビルが迎えにきた。旅の途中カレンが退屈しないようにと娘のエマを連れてきてカレンの相手をしてくれた。

 カレンはすぐにビルとエマになつき、楽しそうにしている姿を屋敷で見た時、俺はなぜか胸がズキッと痛くなった。

 カレンが笑っている。


 屋敷で一度も見たことがなかった本当の笑顔。

 作り笑いしかしていなかったカレン。心から笑うことなどこの妹にはないと思っていた。

 そしてその横にいた両親も俺と同じ思いを抱いたようだった。

『カレンはあんなふうに笑うのね』母が寂しそうに言った。
 ーーー今更だろう。

 そう思った。

『わたしは間違っていたのか』父の言葉に呆れた。
 ーーーあんた達は娘を捨てたんだろう。

 俺も同じか。


 それからカレンを領地から年に数回王都に呼び寄せた。

 カレンは王都に戻ると体調を崩す。それをわかっていても両親はなんとかカレンとの関係を変えようとしていた。互いに最初はうまく話せなくても帰る頃にはなんとか向き合えるようになる。

 なのにキャサリンが屋敷に遊びに来るようになってから少しずつ歯車が狂い出した。






「まっ、お前達はカレンに捨てられても自業自得だから仕方ないが、その香油は気になるな。簡単に手に入らない香油を手に入れてその男爵はなぜカレン一人を嫌わせたんだ?」

「それが……キャサリンは男爵家の養女なんです……たぶん公爵家に出入りさせるために明るくて可愛らしい向上心の高い女の子を養女にしたんじゃないかと思っています」

「公爵夫婦に取り入るためか?」

「はい、あの二人はカレンに罪悪感を抱きながらも今更素直に娘と向き合えずにいたからつけ入りやすかったんだと思います……その理由は……」

「遠縁の男爵家……ダルト男爵は確か大切な幼馴染を亡くしたらしいね」

「何故それを?」

 俺は驚いた。この話は俺も全く知らなかった。調べていて偶然公爵家に昔働いていた執事から聞いたばかりだった。

「僕一応王太子だから。ある程度大きな事件や貴族間の問題や争い事は勉強するんだ。
 君の両親の結婚は自殺者まで出しての結婚だったからその当時はかなり問題視されたんだ。それにその揉め事の中生まれたのが君で、今では僕の側近候補。
 興味しかないよね?」

「まぁ、男爵がどんな気持ちでそんなことをしたのかは本人に聞くしかないけど、全て今の所憶測の域を出ていないよね?」

「証拠はありません、キャサリンは令嬢なのでドレスも着るし化粧も子供でも多少はします。それに幼いながらも少しは香水もつけますので、『魅了の香油』をつけているかなんてわかりません」

「だよね、まずは男爵家の人の出入りやどこと取引しているか調べてみるしかないね。カレンには気の毒だけど、元々破綻した親子関係みたいだからさっさと見切りをつけて親なんて捨てればいいと思うよ」

「かなり酷い言葉ですね?」
 俺は流石に唖然としてしまった。

「そうかな?酷いのは我が子に愛情すらかけない親だろう?産んだら嫌いな義母に似ているから可愛くないなんて普通あり得ないよね?」

「それは確かにそうですがなんとか修復しようとしてはいたんです」

「だけど何もないのに魅了にかかるはずはない。君はそう言っただろう?」

「………そうですね」

「まっ、その香油がこの国に出回ると困るから色々調べてはみるよ。君の家庭の問題は事件性がない限り今のところは要観察だよね」

「カレンが公爵家から出たいと言い出したら、手続きは任せてくれ。いつでも協力するから」

 王太子は笑ってそう言った。
 だけどその声はとても冷たく俺は突き放されているのがわかった。

 カレンへの仕打ち、聞いていて他人でも楽しいものではないのだろう。



 それから俺は殿下の協力のもと、青い薔薇の香油について調べる事になった。

 カレンは一年に一度だけ今も王都に来ていたが、両親はとうとう王都の学校へ通わせると言い出した。

 それは魅了されているからか、魅了が解けている時にそう思ったのか。
 俺はこの香油の魅了を解くための薬を探して回っていた。

 両親は長年の香油で、ほとんどキャサリンを愛し娘のように扱い、カレンを嫌った。
 嫌っているのに会いたがり、嫌っているのにそばに置きたがる。完全に魅了されているわけではない。

 キャサリンに会わない時には、カレンの写真をじっと見つめている姿を何度となく見ていたから。

 だけどキャサリンに会うと、またカレンに対して憎悪が湧くようだ。

 俺はできるだけ実家の屋敷には帰らないようにしていた。帰ってもキャサリンのことは避けるようにしていた。

 おかげで俺自身はもう魅了されることはなかった。


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