【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

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じゅうよん。

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 セルジオ様と別れて、夜会の会場に戻った。迷子にならないように近衛騎士の一人が会場まで送ってくださった。
 セルジオ様、抜かりないわ。
 ーーー多分一人なら確実に迷子よ。

 ヒュートが心配してすぐにわたしを見つけて来てくれた。

「カレン、大丈夫だった?」

「ああ、うん、まぁ、大丈夫、かな⁈」

「なんだそれ!話せないこと、なのか?」

「うーん、ちょっと今は頭の中を整理したいし、もしかしたら相談に乗ってもらうかもしれない」

「わかった、今は聞かない。顔色も悪くないし酷いことを言われた訳ではないみたいだし、大切な話だったんだろう?」

「うん……そうだね」

 ーーーうん、わたしにとっては将来に関わることだから。

 でも、誰にでも話せることではない。いくらヒュートでも。

 気を取り直して、初めてのダンスをヒュートと踊った。その後マックス様にも誘われて踊った。

 ヒュートは流石に商売柄、夜会に出馴れているだけあってダンスがとても上手で、リードしてくれた。

 マックス様はわたしよりも先にデビューは終わっていたのでわたしよりもかなり慣れていた。

 わたしはと言うと……馴れないヒールと初めてのダンスにかなり緊張して、うん、ごめんなさい、二人とも。足は大丈夫だったかしら?

 特にヒュート。
 笑顔でわたしの耳元で「痛い!俺に合わせろ!」
 と怒りながら言われた。
 そしてその後「クックックッ」と笑われた。

 その言葉に逆に肩の力が抜けて、なんとか踊りきることが出来た。その後マックス様には2回しか足を踏まなくて済んだ。

 ーーーよかった、無事にわたしのデビューは終わった。


 はずなのに!ホッとしてたら……

 来た!セルジオ様。

「もちろん僕とも踊ってくれるでしょう?」

「………はい」

 こんなたくさんの人前で誘われては、断ることなんて出来ないわ。

 セルジオ様のダンスは二人よりも圧倒的に上手だった。下手なわたしが本当はダンスが得意なのでは?と思わせるほどに。

「カレン様は力み過ぎて身体中がカチンコチンになってるから下手になってしまう。頭で考えすぎないで相手に身を任せたらいいんだ。いつもハリネズミのように威嚇して固くならないで、たまには相手に身を任せるのも気が楽でいいと思うよ」

「ぐっ……セルジオ様ってなんだか父親みたい、お説教くさいわ」

「えっ?僕、君みたいに気の強い娘は嫌だな」

 ーーーひっどい!

「そんな嫌なのに婚約者になるのはいいのですか?」

「婚約者なら君を好きにできるからね」

「好きに?何その発言!」
 ーーーなんだか顔が熱くなって来た。

「何勘違いしてるの。君は思った以上に考えていることが顔に出るね。婚約者になればお互い好き合ってる振りが出来るだろう?そうすれば好き勝手に生きられるだろう?」

「う、ううん⁈よくわからない発言をされて納得できるような出来ないような……」

「ま、期待して返事を待ってるよ」

「期待しないでほしいわ。まだどうするか決めていないの」

 セルジオ様はダンスが終わると、わたしの手のひらに軽いキスを落とした。

 ーーーな、何をしてくれてるの!

 真っ赤になったわたしの顔を見て、ニコッと微笑み「じゃあまたね」と去って行った。

 最後までかっこいい、この人。

 わたしはキスされた手を思わずゴシゴシとハンカチで拭いた。

 その後のダンスの誘いは断った。

 だって学校では眼鏡に三つ編みでいるわたしの姿を馬鹿にしていた男の子たちが掌を返すように声をかけてくる。
 人の見た目だけで判断してくる男の子たちなんてごめんだわ。それにその中には幼い頃、わたしの目の色を気持ち悪いと言って意地悪をした子もいる。

 顔って案外変わっていない。しっかり覚えているわ。

「ヒュート少し疲れたから外の風に当たってくるわ」

「ついて行こうか?」

「出来たら一人になりたい」

「わかった、あまり暗いところには行かないで。一人っきりも駄目だよ。あとお酒を勧められても口にしては駄目だからね。あんまり遠くに行くなよ、迷子になるから。約束だよ?」

「………ここにも父親みたいな人がいたわ」

 セルジオ様に然り、ここにもう一人、口煩いのがいた。思わずため息をついて「わかりました」と答えた。


 ベランダには誰もいなかった。
 空には明るい月。あと少しで満月かな。

 天気のいい夜は雲がなく星が綺麗だった。

 ボッーと何も考えずにいたら、声が聞こえてきた。
 聞き覚えのある声。なんとなく会いたくなくて物陰に隠れた。

「アイリ、そばにいてあげられなくてすまなかったね」

「オスカー殿下ぁ、アイリは贈っていただいたドレスをせっかく着たのよ?一番に踊りたかったわ」

「すまないな、君を優先する事はできなかった。後で踊ろう」

「ほんとぉ?嬉しいわ。陛下にもご挨拶したいわ、紹介していただける?」

「うーん、それはまだ早いかな」
 少し困った声のオスカー殿下。流石にそれはどうかと思うわ。

「どぉして?わたし達は恋人同士なのよ?」

「アイリのことは愛しているよ。その可愛さがたまらない。だけど父上とそう簡単に会わせることはできないんだ。国王は誰とでも簡単には会えないし、会わないんだよ」

「オスカー殿下は息子でしょう?息子からのお願いなら聞いてもらえるのではなくて?ねっ?」

「僕も父上と話すことはできても、父上の時間を簡単に空けてもらうことは難しいんだよ、スケジュール管理されているからね。それに会う前にはその人の名前、家族構成、今までの犯罪履歴、怪しいところはないかなど調べてからしか許可してもらえないんだよ。
 アイリは学生だからある程度で済むとは思うけど……」

「じゃあ、いいのね?会える?」

「うーん、君の家族、特に父親の職業や現在の収入、領地経営のことなど調べられると思う。それでもいいのなら一度父上に話してみるよ」

「そ、そこまでするのっ?ただ、息子の恋人を紹介するだけなのに?」

 アイリ様のさっきまでの甘ったるい声が突然焦りの声に変わった。


 姿を見なくてもアイリ様の感情が読み取れる。

 あわよくば陛下に顔を覚えてもらって少しでも印象を良くして、オスカー殿下の正妻にはなれなくても、愛妾くらいにはなれるのでは?なんて思っているのだろう。

 彼は第二王子なのでいずれは臣下になり、公爵か侯爵あたりの爵位を賜るだろう。
 彼女の男爵家の地位では正妻は無理だ。

 だからその時に愛妾として悠々自適な暮らしを求めているのだろう。

 ーーー自分だけが愛される、愛妾として。





 ーーー突然ーーー

 頭が痛い。

 ガンガンする。

 気分が悪い。

 ーーーわたくしは愛されることのない妻だから。

 ーーーどうしてわたくしを解放してはくださらないの?



 よくわからない。悲しみと後悔。

 頭の中に流れてくる。そして胸が苦しい、切なくて今にも泣き出しそうになる。

 この気持ちは何?いつもみる夢の中にいるようだ。

 ガタッ!


「誰だ?」


 遠くで声が聞こえる。

 意識が遠のく中で

「……レン!…っか………………だ!」

 もうこのまま永遠に眠りにつきたい。

 何故かそう思った。








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