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じゅういち。
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「お待たせしてごめんなさい」
ヒュートが馬車でしばらく待っていてくれた。
キースがヒュートと楽しそうに話していた。
よかった。待たせたけど少しホッとした。
「公爵夫婦がなかなか離してくれなかった?」
怒りもせず心配そうに聞いてきた。
「うーん、ドレス断ったのに用意していたらしいわ。だけどキャサリン様が自分に似合うからって貰ったって」
「はっ?何それ?って言うか、他人のドレス勝手に貰うなんて出来るわけないだろう?」
ヒュートは呆れていたけどキースは使用人の立場なので苦笑するしかなかった。
「あー、キャサリン様は遠縁なんだけど………一つ年下で……ご近所さんで幼い頃は遊びにくる程度だったのだけど、今は公爵家に我が物顔で居着いていてわたしよりもあの家の娘のように振る舞っているわ」
「だからって勝手にドレスを貰うなんてそんな非常識なことする?」
「公爵夫婦が許しているのだから良いのでは?目に入れても痛くないくらい可愛がっているみたいよ?
『お前は娘などではない』
『キャサリンのように可愛い子が娘なら良かったのに』って8歳の時に言われたわ」
「ひでぇな」
「でもわたしもしっかり言い返したわ。
『でしたらわたしを捨てたら良いのでは?キャサリン様を娘にすればいいのです』ってね」
思い出してクスクス笑った。
「そしたら、『バシッ』ってね、公爵様に頬を叩かれたわ。公爵夫人は思いっきりため息をついてたわね。その時、あの人達と親子関係は終わったの」
「拗れてるね。どっちも」
「そうかしら?ハッキリしているわ。わたしはあの人達にとって書類上の娘で本当に娘のように可愛いのはキャサリン様なの。ただそれだけだわ」
「まぁ、ミラー家のお祖母様は嫁の公爵夫人と仲が悪いからな。娘が母親である自分より姑にばかり懐いて良い気持ちはしないだろう」
「はっ?そんな理由なわけないじゃない。それにお祖母様はとても優しい人よ。あの人が勝手に目の敵にしているのよ」
「それ、お前が公爵夫婦にしているのと変わらないじゃん」
「今日のヒュート嫌い」
ちょっと口を尖らせてムッとした顔をしてみせたら
「怒るなよ、お嬢ちゃん。今日は一生に一度のデビュタントの日なんだ、楽しもう。兄貴にも報告しないといけないしな」
「兄様にも見て欲しかったな」
「しっかり報告するよ。お祖母様とお祖父様たちにも」
そう言って頭に手を置こうしたので
「駄目!今日はクシャクシャってしたら髪がグチャってなるじゃない」
「あっ、そうだった」
ヒュートといると落ち着く。
幼い頃から一緒に領地で遊んでまわっていたから気を遣わなくて楽。
「さっ、今日は気合を入れてお嬢様しなくっちゃ」
「お前、ほんと、お嬢様演技、上手に出来るもんな」
「失礼ね。これでもわたしお嬢様なのよ?お祖母様にしっかりマナーだけは鍛えられてるの」
「そうか、じゃあ俺もしっかりエスコートしないといけないな」
二人で笑い合った。
王族の挨拶は、公爵夫婦と一緒にしないといけない。それも公爵家なので最後の方。
順番が回ってくるまでオリヴィアやマックス様達と話しながら過ごした。
そんな時ふと視線に気がついた。
セルジオ様がアイリ様と二人で話をしていた。
殿下の恋人の相手をしているようだ。
話しかけてきたいのかチラチラこちらの様子を窺っているようだ。
ーーーうん、わたしは用事はない。いくら幼馴染でも、ヒュート達と違って仲良くなりたいとは何故か思えない。
近づけば何か問題が起きそうで危険な予感しかしない。
彼の視線に気がついたオリヴィアが言った。
「セルジオ様、カレンに用事があるんじゃないの?」
「わたしはないわ」
「セルジオ様って、確かこの国の宰相のビスター様の息子だろう?」
「よく知ってるわね?ヒュート、この国の人間じゃないのに」
「うちは商売人なんだから国の要人と将来有望な人間のことはしっかり把握してるよ」
「ヒュート様ってカレンの親戚よね?わたしはお会いしたことがないけど実家は商会を営んでいるの?」
「ウィンフリー侯爵家にも贔屓にしてもらっているよ。カレンのお祖母様とうちの祖父様が姉弟なんだ。グラント商会を営んでいる次男のヒュートと言います。よろしく」
「グラント商会?うちの国でも有名よね?お母様が美術品とか宝石とかこの国にはないモノを取り扱っているからとても好んで買っているわ」
「是非これからもよろしく!」
ヒュートは抜け目なく「良いモノをまたお見せします」と商売っけを出していた。
「ルロワール家も取引してくれてるんだけど、それもあってマックスとは仲良くなったんだ」
「うん、僕は外国の珍しい本が欲しくてヒュートに頼んだんだ。そしたらこの国ではなかなか手に入らない本を送ってくれるようになったんだ」
「ヒュートは本が好きだものね。とても詳しいと思うわ」
「知識を得ることは何よりも宝になるからね、一番の財産だと思わない?」
ヒュートの言葉にオリヴィアは苦い顔をした。
「わたしは本より綺麗なアクセサリーの方がいいわ」
「わたしは是非マックス様の本を貸して欲しいわ」
その言葉にマックス様が「いつでもどうぞ。アリシアも喜ぶよ」と言ってくれた。
「じゃあまた伺ってもいいかしら?」
仲良く話していたのでセルジオ様がこちらにくることはなかった。
そして侯爵家以上の人達の挨拶の順番が来た。みんなそれぞれの家族のもとへ行き仲良く話しながら順番を待っていた。
我が家の場合は……公爵夫婦はムスッとしていた。
ヒュートは挨拶をしたけど「ああ、よろしく頼む」と一言だけ。
わたしとヒュートはなんとなく顔を合わせて苦笑いをして無言で順番を待っていた。
目の前の家族はセルジオ様のビスター家がいた。
アイリ様は男爵令嬢らしい。だから早めに挨拶は終わっていた。
待っている間退屈なので会場を見回すと、アイリ様は何人かの子息達と楽しそうに話している姿が見えた。
殿下の取り巻きなのか、それともただの友人達なのか。ちょっとスキンシップ多めな気がする。
そんなことを考えながらボッーと見つめていた。
ーーーあんな姿を見て、殿下と恋人同士なんて聞いても憧れなんてわかないわよね。
殿下の恋人………うん、ないわ。
ヒュートが馬車でしばらく待っていてくれた。
キースがヒュートと楽しそうに話していた。
よかった。待たせたけど少しホッとした。
「公爵夫婦がなかなか離してくれなかった?」
怒りもせず心配そうに聞いてきた。
「うーん、ドレス断ったのに用意していたらしいわ。だけどキャサリン様が自分に似合うからって貰ったって」
「はっ?何それ?って言うか、他人のドレス勝手に貰うなんて出来るわけないだろう?」
ヒュートは呆れていたけどキースは使用人の立場なので苦笑するしかなかった。
「あー、キャサリン様は遠縁なんだけど………一つ年下で……ご近所さんで幼い頃は遊びにくる程度だったのだけど、今は公爵家に我が物顔で居着いていてわたしよりもあの家の娘のように振る舞っているわ」
「だからって勝手にドレスを貰うなんてそんな非常識なことする?」
「公爵夫婦が許しているのだから良いのでは?目に入れても痛くないくらい可愛がっているみたいよ?
『お前は娘などではない』
『キャサリンのように可愛い子が娘なら良かったのに』って8歳の時に言われたわ」
「ひでぇな」
「でもわたしもしっかり言い返したわ。
『でしたらわたしを捨てたら良いのでは?キャサリン様を娘にすればいいのです』ってね」
思い出してクスクス笑った。
「そしたら、『バシッ』ってね、公爵様に頬を叩かれたわ。公爵夫人は思いっきりため息をついてたわね。その時、あの人達と親子関係は終わったの」
「拗れてるね。どっちも」
「そうかしら?ハッキリしているわ。わたしはあの人達にとって書類上の娘で本当に娘のように可愛いのはキャサリン様なの。ただそれだけだわ」
「まぁ、ミラー家のお祖母様は嫁の公爵夫人と仲が悪いからな。娘が母親である自分より姑にばかり懐いて良い気持ちはしないだろう」
「はっ?そんな理由なわけないじゃない。それにお祖母様はとても優しい人よ。あの人が勝手に目の敵にしているのよ」
「それ、お前が公爵夫婦にしているのと変わらないじゃん」
「今日のヒュート嫌い」
ちょっと口を尖らせてムッとした顔をしてみせたら
「怒るなよ、お嬢ちゃん。今日は一生に一度のデビュタントの日なんだ、楽しもう。兄貴にも報告しないといけないしな」
「兄様にも見て欲しかったな」
「しっかり報告するよ。お祖母様とお祖父様たちにも」
そう言って頭に手を置こうしたので
「駄目!今日はクシャクシャってしたら髪がグチャってなるじゃない」
「あっ、そうだった」
ヒュートといると落ち着く。
幼い頃から一緒に領地で遊んでまわっていたから気を遣わなくて楽。
「さっ、今日は気合を入れてお嬢様しなくっちゃ」
「お前、ほんと、お嬢様演技、上手に出来るもんな」
「失礼ね。これでもわたしお嬢様なのよ?お祖母様にしっかりマナーだけは鍛えられてるの」
「そうか、じゃあ俺もしっかりエスコートしないといけないな」
二人で笑い合った。
王族の挨拶は、公爵夫婦と一緒にしないといけない。それも公爵家なので最後の方。
順番が回ってくるまでオリヴィアやマックス様達と話しながら過ごした。
そんな時ふと視線に気がついた。
セルジオ様がアイリ様と二人で話をしていた。
殿下の恋人の相手をしているようだ。
話しかけてきたいのかチラチラこちらの様子を窺っているようだ。
ーーーうん、わたしは用事はない。いくら幼馴染でも、ヒュート達と違って仲良くなりたいとは何故か思えない。
近づけば何か問題が起きそうで危険な予感しかしない。
彼の視線に気がついたオリヴィアが言った。
「セルジオ様、カレンに用事があるんじゃないの?」
「わたしはないわ」
「セルジオ様って、確かこの国の宰相のビスター様の息子だろう?」
「よく知ってるわね?ヒュート、この国の人間じゃないのに」
「うちは商売人なんだから国の要人と将来有望な人間のことはしっかり把握してるよ」
「ヒュート様ってカレンの親戚よね?わたしはお会いしたことがないけど実家は商会を営んでいるの?」
「ウィンフリー侯爵家にも贔屓にしてもらっているよ。カレンのお祖母様とうちの祖父様が姉弟なんだ。グラント商会を営んでいる次男のヒュートと言います。よろしく」
「グラント商会?うちの国でも有名よね?お母様が美術品とか宝石とかこの国にはないモノを取り扱っているからとても好んで買っているわ」
「是非これからもよろしく!」
ヒュートは抜け目なく「良いモノをまたお見せします」と商売っけを出していた。
「ルロワール家も取引してくれてるんだけど、それもあってマックスとは仲良くなったんだ」
「うん、僕は外国の珍しい本が欲しくてヒュートに頼んだんだ。そしたらこの国ではなかなか手に入らない本を送ってくれるようになったんだ」
「ヒュートは本が好きだものね。とても詳しいと思うわ」
「知識を得ることは何よりも宝になるからね、一番の財産だと思わない?」
ヒュートの言葉にオリヴィアは苦い顔をした。
「わたしは本より綺麗なアクセサリーの方がいいわ」
「わたしは是非マックス様の本を貸して欲しいわ」
その言葉にマックス様が「いつでもどうぞ。アリシアも喜ぶよ」と言ってくれた。
「じゃあまた伺ってもいいかしら?」
仲良く話していたのでセルジオ様がこちらにくることはなかった。
そして侯爵家以上の人達の挨拶の順番が来た。みんなそれぞれの家族のもとへ行き仲良く話しながら順番を待っていた。
我が家の場合は……公爵夫婦はムスッとしていた。
ヒュートは挨拶をしたけど「ああ、よろしく頼む」と一言だけ。
わたしとヒュートはなんとなく顔を合わせて苦笑いをして無言で順番を待っていた。
目の前の家族はセルジオ様のビスター家がいた。
アイリ様は男爵令嬢らしい。だから早めに挨拶は終わっていた。
待っている間退屈なので会場を見回すと、アイリ様は何人かの子息達と楽しそうに話している姿が見えた。
殿下の取り巻きなのか、それともただの友人達なのか。ちょっとスキンシップ多めな気がする。
そんなことを考えながらボッーと見つめていた。
ーーーあんな姿を見て、殿下と恋人同士なんて聞いても憧れなんてわかないわよね。
殿下の恋人………うん、ないわ。
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