【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

たろ

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よん。

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「公爵様、公爵夫人、しばらくお世話になります」

 今朝目覚めてから、髪は櫛を梳かすだけにしてもらいシンプルなワンピースを着て、両親のいる食堂に顔を出した。

 もちろん一緒に食事を摂るつもりはない。

 淡々と挨拶だけした。

「社交界デビューが終わりましたら領地へ帰ります」とだけ伝えた。

「カレン、君にはこの王都にある学園に通ってもらう。もし勝手に領地へ帰るならお前の祖父母には療養所へ行ってもらう。以上だ」

 お父様はそれだけ言うとわたしを見ようともしない。

 お母様は最初からわたしのことを見ようともしないで食事を続けていた。

 わたしは悔しさから手を強く握りしめた。だけど言い返せばもっと酷いことを言われる。

「………はい」

 この言葉を無理やり絞り出して、二人の前から黙って去った。

 わたしにはもう自由はない。

 兄様は寮に入れてもらえたけどわたしはこの屋敷から通うしかないようだ。

 部屋に帰ると「はあー」と溜息。

 そしてベッドにあったクッションを壁に投げつけた。

「ずっとわたしを放っておいたくせに!!なんで今更わたしを縛るのよ!」

 エマがわたしの部屋に驚いてやってきた。部屋の外にまで聞こえていたみたい。

「どうしました?廊下を歩いていたら大きな音が聞こえてきましたよ?」

「わたし、やっぱりすぐには帰れそうにないみたい。学校へ通うように言われたわ」

「…………」
 エマは黙ったまま返事をしない。
 知っていたのね。それはそうだよね、学校へ通うなら制服の手配もしないといけないし前もって準備があるもの。

 エマを責める気にはなれなかった。

「学校へ行けばこの屋敷で過ごす時間が減るわ。そう思えば嫌なことばかりじゃないもの……それにオリヴィアに会えるもの、悪いことばかりではないわ」

「……すみません、黙っていて」

「いいわよ、黙っているように二人から言われていたのでしょう?仕方がないわ」

「カレン様……」エマは申し訳なさそうに俯いて顔を上げようとしない。悪いのはエマじゃない。

 最初から帰れないことはわかっていたのに、少しだけ期待してしまった。

 あの二人がわたしに優しくする訳がない。わたしだって素直に二人と話そうとしないし自分自身の態度の悪さもわかっている。

 今日は部屋から出たくなくて、何もない部屋にキースに頼んで使っていない机と椅子を運んでもらった。

 新しい物を買い足そうとしたけど、ずっとこの屋敷にいるつもりはないので、ある物で十分だと断った。

 あの二人が無理やり学校に入れるならわたしは飛び級してさっさと学校を卒業してやる。そう思って領地で使っていた教科書を開いて勉強を始めた。

 勉強は嫌いではない。知らないことを知るのはとても面白い。特に歴史やこの国のことを知るのは楽しい。まだ行ったことのない場所の方が多い。いろんな景色を見てみたい。いろんな人と触れ合いたい。

 王都は華やかだしたくさんの人がいる。
 だけど、ここは、とても窮屈だ。
 いつも着飾っていないといけないし、会話はどこのお店のドレスを作ったとか宝石を買ったとか、別荘がいくつあるとか、みんな自慢話ばかりだ。
 あとは誰と誰が婚約したとか、あの人は狙い目だとか、誰が不倫したとか、噂話ばかり。

 わたしがいた領地では、どこの家の牛がたくさん子牛を産んだとか、美味しい乳はどこの家の牛だとか、今年は麦が沢山取れた、とかだった。
 友人達とは誰が一番足が速いかとか誰が一番早く木に登れるかとか、誰誰の家の犬がたくさん子犬を産んだのでもらって欲しいとか。
 みんなで一列に並んで歌を歌いながら歩いたり、木苺を摘みに行ってみんなでジャムを作ったり、毎日男の子も女の子も関係なく遊んで回った。

 時には好きな子の話になるけど、純粋で可愛いらしい話で、お互いがどれだけ高い爵位の人と結ばれるかなんて競い合うことなんてない。

 学校で貴族として苦手な社交をしないといけないと思うと気が重いのだけど唯一、田舎の領地で一年間療養のために来て、一緒に過ごしたオリヴィアに会えることは楽しみだった。

「オリヴィアと二年間会ってないのよね、楽しみだわ」



 王立学園は王城の隣に建っている。

 我が家からは馬車で20分程の距離。兄様はそれなのに寮に入れてもらっていた。

 いずれ公爵家を継ぐ者として、たくさんの人たちに揉まれるのも必要だろうと言われたらしい。

 羨ましすぎる。

 わたしの部屋はベッドと最低限の服しか置いてなかったのに、今は机と椅子、本棚、それに制服が増えて少しだけ部屋らしくなった。

 だけど、欲しいものはないし、たとえ自分の親でも彼らから買ってもらうのは嫌なので、何も買い揃えることはしなかった。

 社交界デビューするためのドレスはお祖母様がプレゼントしてくれた。アクセサリーや小物はお祖母様の実家であるロワイナ国の親戚から贈られた。

 領地によく遊びに来るお祖母様の弟の息子。ま、簡単に言えばお父様の従兄弟だ。

 わたしはそのおじ様によく懐いていた。一緒に連れてくる子供達とも歳が近くて仲良しだ。
 社交界にデビューすると聞いてドレスに合わせてアクセサリーを送ってくれた。

 ついでに、その仲良しの子供の一人がわたしのエスコートをしてくれると連絡が来ている。
 もうすぐ王都に着く頃じゃないかな。

 友人の家に泊まると言ってたから。

「考えてみたら嫌なことばかりじゃないわ。良いことだけ考えよう」

「カレン様のその明るさに救われます」
 エマがホッとした顔をした。やはり気にしているようだ。





 その日は静かな時間が過ぎた。

 夕方、キースが部屋に来ると

「奥様からドレスを作るように指示がありましたが、大奥様が用意して持たせてくれたと伝えております」

「ありがとう、何か言っていたかしら?」

「………特には」

「いつもごめんね、互いの伝言をキースが聞いて伝えるなんてイヤな役割だよね」

「わたしは仕事ですから平気です。でもカレン様、お二人ともう少し会話をしてみたら如何ですか?多分お互い話をすれば誤解しているところもあるのではと思うのです」

「……そうね、でもお二人がわたしと話したいとは思っていないと思うわ。だって廊下ですれ違って挨拶してもほぼ返事は返ってこないもの、会話なんて成立しないわ」

 思い出すのはいつも不機嫌な姿。

 いっそわたしのことなんて忘れて、可愛いがっているキャサリンを養女に迎えればいいのに。

 多分そろそろキャサリンが屋敷に顔を出す頃よね。わたしが一年に一回この屋敷に来ると、必ず彼女がやってくる。

 はあ、憂鬱だわ。
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