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さん。
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目覚めは最悪だった。
この部屋は……タウンハウスのわたしの部屋。
一年に一度はこちらに顔を出す。そのための部屋。
何も要らない。何も置かなくていい。
そう言ってベッドしか置いていないわたしの部屋。
ここは仕方なく泊まりにくるだけの部屋だから。
どのくらいここにいたらお祖父様とお祖母様のところに帰れるのだろう。
「はあー、しばらく我慢するしかないわ」
倒れてこの屋敷に運ばれたようだ。
外はもう暗くなっていた。倒れたくせにお腹はしっかりと空いていた。
ベッドサイドにあるベルを鳴らした。
しばらく待つと慌ててエマがやって来た。
「カレン様!」
わたしの顔をじっと見つめ涙をためていた。
「よかった。突然意識を失ったので慌てました」
「ごめんね、久しぶりに酷い頭痛だったの」
心配かけた申し訳なさと、またこの場所に戻って来た不安からわたしの顔色はとても悪かったようだ。
「喉は乾いていませんか?お腹は空いていませんか?それともこのまままた眠りますか?お顔の色が良くありません。お医者様を呼んで来ます」
「心配し過ぎだよ。大丈夫、ただお腹が空いたの。何か食べるものはあるかしら?」
「すぐに用意して来ますね」
エマが急いで用意をしてくれた。
胃に優しい具だくさんの野菜を柔らかく煮込んだコンソメスープ。
「美味しい」
「料理長がカレン様の好きなスープをいつでも食べられるようにと作っておいてくれたんです」
「そっか、今、クレドはこっちの屋敷に来てるのよね」
クレド料理長は、領地の屋敷でずっと働いていていつもわたしの大好きなものを作ってくれていた。今はタウンハウスに移動になってこちらの屋敷で働いている。
「はい、これからカレン様のために料理長が腕を振るうと言ってました」
「ここにくるのは憂鬱だったけど、おかげで一つ楽しみが増えたわ」
「わたし達もそばにいますので!」
「うん、ありがとう。………公爵様と公爵夫人は帰ってこられたのかしら?」
「……はい、帰って来てすぐにお互いの執務室でお仕事をされているようです」
「そう、だったら挨拶は明日の朝にしましょう。兄様は?」
「今、共同経営をしているバルド侯爵様の領地に視察に行かれているそうです」
「みんないつもお忙しいのね」
内心ホッとした。
兄様はわたしに無関心ではあるけど、害のない人だ。
ただ両親はわたしに関心はないくせに冷たい言葉を何度か言われた。
気がつけばわたしも彼らのことをお父様、お母様と呼ばなくなった。
お父様に頬を打たれ、お母様はそれを見ても助けてくれなかったことがあった。
その時からわたしは二人のことを、公爵様と公爵夫人と呼ぶようになった。
『お前など娘ではない』
そう言われた時に、わたしもこの人達を親だと思わないことにしたのだ。
それは、領地から一年に一回王都のタウンハウスに来た時だった。
まだ8歳のわたしは両親に甘えたかった。だけど、いつも忙しそうに働いている二人に甘えられず、ついて来てくれたエマとビルと共に過ごしていた。
兄様は6歳年上で学園に通うため寮に入っていた。だから滅多に会うことはなかった。
朝食の時間だけが両親と会える時間。わたしは早起きして髪を綺麗に結んでもらい、ドレスに着替えて両親に会うのを毎日楽しみにしていた。
話しかけても「そう」とか「ああ」しか返ってこなくても毎日楽しみにしていた。
そんなある日、いつものように朝食の時間に食堂へ行くと、楽しそうに話している両親と見知らぬ女の子が座っていた。
ーーー誰?
とても嫌だった。だって両親があんなに楽しそうに話しているのを見たことがなかった。いつも無表情で何を話しかけても簡単な返事しか返ってこないのに、女の子と笑ってる。ショックだった。
わたしが呆然として立っているのに気がついた両親は不機嫌な声で
「そこに立ってないで入りなさい」
「挨拶もできないのかしら?」
2人から責められるように言われてハッとなった。
「申し訳ありません」
わたしは急いで自分の席に座った。
わたしの座る位置はいつも両親から離れた場所に用意されていた。
なのにその女の子は両親のすぐそばに座ってまるで親子のように話していた。
女の子の名前は、キャサリン・ダルト7歳で遠縁の子らしい。後でエマに聞いた。
わたしは初めて会ったのだけど、近くに住んでいてよく遊びに来ているらしい。
「おはようございます。貴女がカレン様?」
ピンクブロンドの髪をツインテールにして、ピンクのドレスを着ている可愛い女の子。
わたしは祖父母に似ているので両親にはあまり似ていない。
両親はどちらも金色の髪にブラウンの瞳。
兄様も同じ。
わたしは外国からお嫁に来たお祖母様と同じシルバーの髪色で青みがかったグレーの瞳。
つい考え込んでいて返事をすぐにしなかったわたしが悪い。
「カレン、返事くらいしなさい」
「はあー、挨拶もできないの?お義母様に挨拶すら教わらなかったのかしら?」
お母様がお祖母様と仲が悪いのは知っていた。だけどわたしのせいでお祖母様のことを悪く言われるのは嫌だった。
「お祖母様はきちんと教えてくださっています。挨拶が遅れて申し訳ありません」
彼女はわたしに不躾に話しかけて来た、名前すら名乗らずに。
なのに返事をしないわたしが責められた。
ちょっと悔しい。お祖母様が悪く言われるのもすっごく悔しい。
「わたしの名前はカレン・ミラーと申します。よろしくお願い致します」
「そう。……おば様、おじ様、それより早く食べたいわ。お腹が空いたの」
ーーーわたしの挨拶なんてこの子にはどうでもいいみたい。興味もないようだ。
わたしが黙って食事を始めると、キャサリン様は両親と楽しそうに話しながら食べていた。
わたしの知らない話題。
街にあるお店の名前。学校の話。彼女の友人の話。
話題は尽きないようだ。
両親もあんなにニコニコと話しているのを初めて見た。
キャサリン様はわたしに見せつけるようにチラッとこちらを見ると勝ち誇った顔をする。
わたしはただ黙って食べるしかなかった。
なのに……お父様は……
「何故、そんな不機嫌な顔で食事をするんだ?」
とわたしに言ってきた。
「……わたしにはわからない話の内容なので黙っておりました」
「ほんと、笑わないのね。可愛げすらないわ」
お母様も追い打ちをかけた。
「………申し訳ありません」
「おじ様、おば様、ごめんなさい。わたしがここにいるからカレン様が怒っているのですね?」
涙をいっぱいためて泣き出すキャサリン様。
それを見たお父様は怒り出した。
「カレン、お客様にそんな態度しか取れないなんて。領地ではどんな教育をされてきたんだ?」
「義両親はカレンを甘やかし過ぎたのね」
お母様は何かと祖父母の悪口を言う。
「お祖父様もお祖母様もわたしをとても大切に育ててくれています。悪く言わないでください」
「だったらせっかく遊びに来てくれているキャサリンに少しは気を遣いなさい。いつもムスッとしてお前は可愛げすらないのか?」
悔しくて唇を噛み締めた。
「カレン、何か言いたいことはないの?」
黙っているとお母様が聞いてきた。
「………申し訳ありません。ただ祖父母を悪く言わないでください。お願いします」
「はあ、お前の親は私達だろう?」
「………」
わたしはその言葉に返事をしたくなかった。
見捨てたのは二人なのに、こんな時だけ親になるなんて狡い!そう思った。
返事をしないわたしにお父様はとうとうキレた。
「お前は娘などではない」
そう言った。
そしてーーー
「キャサリンのように可愛い子が娘なら良かったのに」
「でしたらわたしを捨てたら良いのでは?キャサリン様を娘にすればいいのです」
バシッ!
お父様から頬を打たれた。
お母様は「ハア」と溜息を漏らした。
わたしはすぐにその場を離れて自分の部屋に帰った。そして、そのまま何も言わずに屋敷から出て行き、祖父母のいる領地へ戻った。
一年に一回の王都に行くことは絶対で、やめることは出来なかった。
仕方なく行っても、わたしは両親と食事をすることも顔を合わせることもしなかった。
たまに屋敷の中ですれ違う時は、
「公爵様、公爵夫人」と呼んだ。
二人もわたしに話しかけることはない。
わたしと両親との仲は完全に破綻していた。
だけど、大好きな祖父母や領地の人々のおかげで幸せに暮らしていた。
この部屋は……タウンハウスのわたしの部屋。
一年に一度はこちらに顔を出す。そのための部屋。
何も要らない。何も置かなくていい。
そう言ってベッドしか置いていないわたしの部屋。
ここは仕方なく泊まりにくるだけの部屋だから。
どのくらいここにいたらお祖父様とお祖母様のところに帰れるのだろう。
「はあー、しばらく我慢するしかないわ」
倒れてこの屋敷に運ばれたようだ。
外はもう暗くなっていた。倒れたくせにお腹はしっかりと空いていた。
ベッドサイドにあるベルを鳴らした。
しばらく待つと慌ててエマがやって来た。
「カレン様!」
わたしの顔をじっと見つめ涙をためていた。
「よかった。突然意識を失ったので慌てました」
「ごめんね、久しぶりに酷い頭痛だったの」
心配かけた申し訳なさと、またこの場所に戻って来た不安からわたしの顔色はとても悪かったようだ。
「喉は乾いていませんか?お腹は空いていませんか?それともこのまままた眠りますか?お顔の色が良くありません。お医者様を呼んで来ます」
「心配し過ぎだよ。大丈夫、ただお腹が空いたの。何か食べるものはあるかしら?」
「すぐに用意して来ますね」
エマが急いで用意をしてくれた。
胃に優しい具だくさんの野菜を柔らかく煮込んだコンソメスープ。
「美味しい」
「料理長がカレン様の好きなスープをいつでも食べられるようにと作っておいてくれたんです」
「そっか、今、クレドはこっちの屋敷に来てるのよね」
クレド料理長は、領地の屋敷でずっと働いていていつもわたしの大好きなものを作ってくれていた。今はタウンハウスに移動になってこちらの屋敷で働いている。
「はい、これからカレン様のために料理長が腕を振るうと言ってました」
「ここにくるのは憂鬱だったけど、おかげで一つ楽しみが増えたわ」
「わたし達もそばにいますので!」
「うん、ありがとう。………公爵様と公爵夫人は帰ってこられたのかしら?」
「……はい、帰って来てすぐにお互いの執務室でお仕事をされているようです」
「そう、だったら挨拶は明日の朝にしましょう。兄様は?」
「今、共同経営をしているバルド侯爵様の領地に視察に行かれているそうです」
「みんないつもお忙しいのね」
内心ホッとした。
兄様はわたしに無関心ではあるけど、害のない人だ。
ただ両親はわたしに関心はないくせに冷たい言葉を何度か言われた。
気がつけばわたしも彼らのことをお父様、お母様と呼ばなくなった。
お父様に頬を打たれ、お母様はそれを見ても助けてくれなかったことがあった。
その時からわたしは二人のことを、公爵様と公爵夫人と呼ぶようになった。
『お前など娘ではない』
そう言われた時に、わたしもこの人達を親だと思わないことにしたのだ。
それは、領地から一年に一回王都のタウンハウスに来た時だった。
まだ8歳のわたしは両親に甘えたかった。だけど、いつも忙しそうに働いている二人に甘えられず、ついて来てくれたエマとビルと共に過ごしていた。
兄様は6歳年上で学園に通うため寮に入っていた。だから滅多に会うことはなかった。
朝食の時間だけが両親と会える時間。わたしは早起きして髪を綺麗に結んでもらい、ドレスに着替えて両親に会うのを毎日楽しみにしていた。
話しかけても「そう」とか「ああ」しか返ってこなくても毎日楽しみにしていた。
そんなある日、いつものように朝食の時間に食堂へ行くと、楽しそうに話している両親と見知らぬ女の子が座っていた。
ーーー誰?
とても嫌だった。だって両親があんなに楽しそうに話しているのを見たことがなかった。いつも無表情で何を話しかけても簡単な返事しか返ってこないのに、女の子と笑ってる。ショックだった。
わたしが呆然として立っているのに気がついた両親は不機嫌な声で
「そこに立ってないで入りなさい」
「挨拶もできないのかしら?」
2人から責められるように言われてハッとなった。
「申し訳ありません」
わたしは急いで自分の席に座った。
わたしの座る位置はいつも両親から離れた場所に用意されていた。
なのにその女の子は両親のすぐそばに座ってまるで親子のように話していた。
女の子の名前は、キャサリン・ダルト7歳で遠縁の子らしい。後でエマに聞いた。
わたしは初めて会ったのだけど、近くに住んでいてよく遊びに来ているらしい。
「おはようございます。貴女がカレン様?」
ピンクブロンドの髪をツインテールにして、ピンクのドレスを着ている可愛い女の子。
わたしは祖父母に似ているので両親にはあまり似ていない。
両親はどちらも金色の髪にブラウンの瞳。
兄様も同じ。
わたしは外国からお嫁に来たお祖母様と同じシルバーの髪色で青みがかったグレーの瞳。
つい考え込んでいて返事をすぐにしなかったわたしが悪い。
「カレン、返事くらいしなさい」
「はあー、挨拶もできないの?お義母様に挨拶すら教わらなかったのかしら?」
お母様がお祖母様と仲が悪いのは知っていた。だけどわたしのせいでお祖母様のことを悪く言われるのは嫌だった。
「お祖母様はきちんと教えてくださっています。挨拶が遅れて申し訳ありません」
彼女はわたしに不躾に話しかけて来た、名前すら名乗らずに。
なのに返事をしないわたしが責められた。
ちょっと悔しい。お祖母様が悪く言われるのもすっごく悔しい。
「わたしの名前はカレン・ミラーと申します。よろしくお願い致します」
「そう。……おば様、おじ様、それより早く食べたいわ。お腹が空いたの」
ーーーわたしの挨拶なんてこの子にはどうでもいいみたい。興味もないようだ。
わたしが黙って食事を始めると、キャサリン様は両親と楽しそうに話しながら食べていた。
わたしの知らない話題。
街にあるお店の名前。学校の話。彼女の友人の話。
話題は尽きないようだ。
両親もあんなにニコニコと話しているのを初めて見た。
キャサリン様はわたしに見せつけるようにチラッとこちらを見ると勝ち誇った顔をする。
わたしはただ黙って食べるしかなかった。
なのに……お父様は……
「何故、そんな不機嫌な顔で食事をするんだ?」
とわたしに言ってきた。
「……わたしにはわからない話の内容なので黙っておりました」
「ほんと、笑わないのね。可愛げすらないわ」
お母様も追い打ちをかけた。
「………申し訳ありません」
「おじ様、おば様、ごめんなさい。わたしがここにいるからカレン様が怒っているのですね?」
涙をいっぱいためて泣き出すキャサリン様。
それを見たお父様は怒り出した。
「カレン、お客様にそんな態度しか取れないなんて。領地ではどんな教育をされてきたんだ?」
「義両親はカレンを甘やかし過ぎたのね」
お母様は何かと祖父母の悪口を言う。
「お祖父様もお祖母様もわたしをとても大切に育ててくれています。悪く言わないでください」
「だったらせっかく遊びに来てくれているキャサリンに少しは気を遣いなさい。いつもムスッとしてお前は可愛げすらないのか?」
悔しくて唇を噛み締めた。
「カレン、何か言いたいことはないの?」
黙っているとお母様が聞いてきた。
「………申し訳ありません。ただ祖父母を悪く言わないでください。お願いします」
「はあ、お前の親は私達だろう?」
「………」
わたしはその言葉に返事をしたくなかった。
見捨てたのは二人なのに、こんな時だけ親になるなんて狡い!そう思った。
返事をしないわたしにお父様はとうとうキレた。
「お前は娘などではない」
そう言った。
そしてーーー
「キャサリンのように可愛い子が娘なら良かったのに」
「でしたらわたしを捨てたら良いのでは?キャサリン様を娘にすればいいのです」
バシッ!
お父様から頬を打たれた。
お母様は「ハア」と溜息を漏らした。
わたしはすぐにその場を離れて自分の部屋に帰った。そして、そのまま何も言わずに屋敷から出て行き、祖父母のいる領地へ戻った。
一年に一回の王都に行くことは絶対で、やめることは出来なかった。
仕方なく行っても、わたしは両親と食事をすることも顔を合わせることもしなかった。
たまに屋敷の中ですれ違う時は、
「公爵様、公爵夫人」と呼んだ。
二人もわたしに話しかけることはない。
わたしと両親との仲は完全に破綻していた。
だけど、大好きな祖父母や領地の人々のおかげで幸せに暮らしていた。
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