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 久しぶりの王都は田舎の領地とは違ってとても人が多く、街並みも舗装されて歩きやすく街全体が綺麗で大きな建物とたくさんのお店で賑わっていた。

 着ている服も平民の人達ですら田舎の人と違って洗練されてお洒落に見える。貴族の人達はさらに美しく……うっ…輝いて見えるわ。

 わたしって田舎者丸出しだわ。
 思わず自分の動きやすさ重視のドレスを見た。




「うわぁ久しぶりに街を歩くと迷子になりそうだわ」
 
 わたしの言葉にエマがすぐ反応した。

「ほんとですね、カレン様わたしの手を離さないでくださいね。わたし迷子になりそうです!」
 クスクス笑いながらエマが言う。

「エマってほんと方向音痴だから何処に行くかわからないものね。わたしよりキースの手を握ってたほうがいいんじゃないかしら?ねっ?」
 そう言ってキースを見るとニコニコ笑いながらエマに手を差し出した。そして反対の手はわたしに。

「どちらも迷子になりそうなので、はい、二人とも手を繋ぎましょう」

「えっ?なんだか田舎者みたいじゃない!」
 わたしが手を離そうとしたら、エマがキースの反対側からわたしの方に顔を向けた。

「駄目ですよ!狡いです!わたしだけ手を繋いだら恥ずかしいじゃないですか!」

「いやいや、恋人同士なんだからいいじゃない。わたしがエマの彼氏と手を繋ぐ方がおかしいでしょう?」

「カレン様は僕と8歳も年が離れております。妹よりも下ですのでエマが何か変に思うことはないと思います」

「もちろんです!他の子がキースと手を繋ぐのは嫌だけどカレン様なら大丈夫です!」

「そ、そう?でも、ねぇ?」
 わたし一応お嬢様なのに。恥ずかしいじゃない!

「ねぇ?じゃないです!さっ、手を繋ぎましょう。何回迷子になったらいいんですか!その度に探し回る僕たちのことを考えてくださいよ」

「それってもう前の話じゃない。最近は……あまり迷子になっていないわ」


 三人でタウンハウスに行く前に街の中を散策しながら何か食べようとぶらぶらと歩いていた。

 よく迷子になるわたしはキースからしたらお子ちゃまと変わらないらしい。だからなかなか一人で自由に歩かせてくれない。

 エマとキースは幼い頃からそばに居てくれるわたしの大切な人達。王都にまでついて来てくれた。気心の知れた二人となら、この重たい気持ちも少し軽くなる。

 お母様とお父様にお会いしたくない。どうせわたしに関心を示すことすらないもの。だから、屋敷へ行く前に街に行くことにした。

 ふと目の端に気になる姿が見えた。

 大人にぶつかって子供が転んで動けなくなった。

「あっ!」
 わたしは咄嗟にキースの手を離してその女の子のところに駆け寄った。

「カレン様!」後ろから二人の声が聞こえる。

 わたしは構わず女このところに近寄った。

「大丈夫?」女の子に優しく声をかけて抱き起こしてあげると、涙をいっぱいためて泣くのを堪えていた。

 膝からは血が滲んでいた。

「痛いよね?」
 ポケットからハンカチを出して血を拭いて、エマからもう一枚新しいハンカチをもらい傷口を押さえるためギュッと結んだ。

「歩ける?おうちはどこだろう?」

「わかんない……お兄様……」

 とうとう泣き出した女の子。7歳くらいの女の子はワンピースを着ていたが、よく見ると生地がしっかりしていて高級な物だとわかった。

 たぶん貴族の女の子だろう。街を歩いていて家族と逸れたのか従者と逸れたのか、一人キョロキョロしながら歩いていたのが見えた。
 そして大人にぶつかり大人はさっさと歩いて行ってしまった。

「お名前は?あっ、わたしはカレン・ミラー。ミラー公爵の娘なの、だから悪いことは何もしないから安心してね?」

「わたしの名前は……アリシア・ルロワール」

「キース?わかるかしら?」
 キースは執事見習いなんだけどこの国の貴族の名前をほとんど覚えているの。とっても賢いのよね、本人は子爵家の次男で15歳の時から我が家で働いている。

 いずれは兄様の片腕として働くために引き抜かれた。
 最初の頃は領地で学校に通いながら仕事を覚えていた。そしてそのまま領地で執事見習いをしていた。
 今日からは王都で働き始めることになった。わたしについて来てもキースは優秀だからどちらで働いてもしっかり成果は出せるだろうから安心はしている。

「あっ、はい。ルロワール侯爵家のお嬢様ですね?逸れたのなら今必死で探していると思います」

 キースは怪我をして歩くのが辛そうなアリシアちゃんを「失礼してよろしいでしょうか?」と言ってお伺いを立ててから「うん」と彼女の了承を得て、抱っこした。

「カレン様、街を守る警備隊の詰め所に連れて行きましょう。もしかしたらそこにルロワール侯爵家の者が探しに来ているかも知れません」

「キースは賢いわね。じゃあ行きましょう」



 三人で警備隊のところへ向かっていると、突然わたしの腕を誰かが掴んだ。

「きゃっ」

「おい!僕の妹に何をしてる?」

「えっ?」

 わたしの腕をかなり強い力で掴んでいた男性はハアハア言っていた。急いで走って来たみたいだ。

 下を向いて息を整えてわたしの顔を見た。

「その子は僕の妹なんだ」

「お兄様!もう!どこに行ってたの!」
 アリシアちゃんはホッとしたのか泣き出した。

「アリシアちゃんのお兄様?」

「はい!」

「あっ、お兄様、転んで歩けないわたしを抱っこしてくれて、警備隊の詰め所に連れて行ってくれようとしていたのよ」
 アリシアちゃんの説明にルロワール様は申し訳なさそうな顔をした。
「えっ?そうなのか?アリシアが知らない人に抱っこされてるのが見えて慌てて走って来たんだ。誤解してすみません」

 アリシアちゃんとルロワール様はよく似ている。
 金髪に濃い青の瞳、髪は癖毛で目鼻立ちもハッキリしていて美形な兄妹で思わず綺麗だなと思ってしまった。

 ズキッ。

 頭が痛い。気分が悪い。

 思わず蹲ってしまった。

「カレン様?」
 エマが慌てて声をかけた。

「大丈夫……」

「お顔が真っ青です。キース、馬車を呼んできて!」

「わかった。申し訳ございませんがアリシア様をルロワール様にお渡ししてもよろしいでしょうか?」

 キースは抱っこしていたアリシアちゃんをルロワール様に預けると急いで我が家の馬車を呼びに走った。

「カレンお姉様?」心配そうに声をかけてくるアリシアちゃんに「平気だから大丈夫。いつものことなの」
 となんとか笑顔を作って答えた。

 わたしは時々酷い頭痛で歩けなくなることがある。
 本当は笑うのもキツイのだけど、心配そうに見ているアリシアちゃんの前では我慢するしかない。最近は落ち着いて来ていたのに、王都に戻って来たからなのだろうか。

 そんなことを思いながら気がつけば意識を手放していた。





ーーーー

ああ、いやだ。

ここはには帰って来たくなかった。

このタウンハウスは王城に近い。

もう二度と近寄らないと決めていたのに。

何故戻ってこないといけないの。

忘れてしまったはずなのに、カレンとして生きるのに、この記憶は必要ないのに。


ーーーー

わたしは夢の中で泣いていた。

今日もまた最後はあの塔から飛び降りる夢を見た。









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