【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ

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王城にて⑦ ダイアナ編

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 お祖父様の罪を問う日が来た。

「王妃様、わたしも参加した方がいいのではないでしょうか?わたしの祖父です。わたしの証言が必要ではないのですか?」

 わたしはお祖父様に会いたいわけではない。会えば怖くて震えしまうだろう。それでも逃げだくはなかった。

「ダイアナはここで静かに侍女達と待っていてね。さっさとあのクソジジイを黙らせてくるから。もう二度と貴女に関わらせないわ。安心して過ごせるようにするからね」

 そう言うとわたしを抱きしめて「小さな貴女を守ってあげられなくてごめんね。エレファのことも一緒に守るから」と言ってくれた。

 お祖父様の罪を問うと言うことはお母様の尊厳を傷つけられるかもしれない。
 何よりもそれだけは許せない。悪いことをしていないのにお母様のことを辱められることだけは避けたい。

「お願い致します。どうかお母様のことだけは守ってください」

「当たり前よ、わたしの大事な親友ですもの」



 そう言って王妃様は部屋を出て行かれた。

「ダイアナ様このお部屋で待ちましょう。王妃様とキース様なら必ず良い報告を持ってきてくれます」

「……わかりました、甘えてばかりで何も出来なくて悔しいけどわたしにはお祖父様に対抗する術がないのだもの。邪魔だけはしないように静かにここで待っていることにします」

 本を読んでいても刺繍を刺していても集中できない。何度も扉の方へと目を向けてしまう。

 侍女さん達は隣の部屋に待機せずにずっと同じ部屋に居てくれた。

 わたしが外へ出ないように監視もしていたのだろうけど、それ以上にわたしの精神が不安定なので目を離せなかったようだ。

 みんなが何かしら声をかけてくれたのでなんとか気を紛らわせることができた。




 扉をノックする音がした。

「どちら様でしょう?」

 部屋にいた侍女さんの一人が警戒するように声をかけた。

「キース・ネヴァンスです。前公爵の罪が確定しました。ダイアナに話をしたいと思っています」

「わかりました、扉を開けます」

 キースは中に入るとわたしのそばに来た。

「ダイアナ、遅くなってごめん。もう心配は要らないからね。あと細かい処理は残っているけどあの元凶の屑はもう君の前にうろちょろすることはない」

「あっ…どうなったのですか?」

「罪を認め刑に処することになった、これからの余生は人のために尽くしてもらう、もう二度と外の世界に出てくることはないよ」

 そのあとキース様から詳しく話を聞いた。
 キース様は言葉を濁したがお祖父様はこれから多分厳しい日々を過ごすことになるのだろう。

「お母様は……表に出ることはない?」

「大丈夫だ、今回は陛下と王妃様、団長と俺、そして見届け人として宰相がいただけだから。あ、あとジャスティア殿下もいたけど彼女は罪には問われなかったけど王妃様に全て託されたから今までのように傲慢な振る舞いはできなくなった。自分の地位を守るために陛下は娘を切り捨てた。ジャスティア殿下はまさか捨てられるとは思っていなかったので今は呆然としているよ、誰が話しかけても返事すらできないでいる」

「……そうなんですね」

 父親に対してわたし自身はいい思いはなかった。殿下のように父親に甘やかされて愛されているのを羨ましいと思ったこともあった。
 愛されていると思っていたのに突然切り捨てられるなんてもうそれだけで十分な罰を受けたに違いない。

「君の義理の母のミリア様やサリー、公爵家の使用人やうちの使用人達も捕らえた。前公爵と共に関わった関係者の貴族達も今から捕まえていく予定だ。まだまだしばらくは大変だと思う。だけどもう君を害する者はいない」

「キース様……ありがとうございました」
 彼との婚約もこれで終わり。
 わたしはこれ以上彼に負担をかけたくない。仕事に全力でできるように煩わしいわたしとの婚約を解消しよう。

「キース様、あ、あの、わたしとの婚約ですが、かい………「ダイアナやっと煩わしいジャスティア殿下と仲良くするフリが終わった」

「へっ?」
 キース様の言葉に驚いて続きの言葉の「解消しましょう」と言うのを忘れていた。

「フリ?」

「団長に彼女に張り付くように言われていたんだ。だからジャスティア殿下の脅しに乗っていたんだ。やっとダイアナのそばに居てあげられる」

「え、ええ?わたしと婚約解消の約束の時期が過ぎているのに困っていないのですか?ジャスティア殿下と無理矢理恋人のふりをさせられたのもわたしのせいだし。キース様の屋敷で誘拐されてしまってご迷惑をおかけしたし、わたしって迷惑ばかりかけているんですよ?」

「君がいつ迷惑をかけた?婚約解消は……どうしてもしたいと言うなら……一応話は聞くつもりだ。それ以外の話は一切迷惑など思っていない。君を守りたいと思っていた。確かに幼い頃の君は妹のようで可愛いと思っていた。なのにいつの間にか君を目で追うようになっていた」

「幼い頃?」

「君が生まれた時から知っている。4歳くらいまでよく一緒に遊んでいたんだ。俺が騎士になったのは君の一言だったんだ」

「わたしとキース様が一緒に遊んだ?」

「君はよくうちの屋敷に遊びに来ていたんだ。そして俺がお世話していたんだ。一緒に絵本を読んだり散歩したり俺の後ろについて回る女の子だったんだ」

「っうそ?」

「覚えていないだろうと思っていたし君の記憶は朧げだったから今まで言わなかった。君と婚約しようと思ったのも君を守ってあげたかったんだ。ただその時は妹へ向ける愛情だった。だがいつの間にかダイアナを愛してしまった。婚約者としてこれからも一緒に過ごして欲しい。そして結婚しよう」

「キース様……」
 突然の告白に頭が真っ白になった。

 だって迷惑をかけているとしか思っていなかった。わたしが一方的に好きなだけだと思っていたのに……

「婚約解消をしないといけないと思っていました」
 震える声で搾り出すように言った。

「さっき止めたはずだ」

「わかっていたのですか?」

「うん、だから止めた。わからない?俺は今本当は忙しくてダイアナに会う暇もないんだ。それなのに会いに来たのは君が俺と婚約を解消しようとするのを止めるためだ。もう一度言わせて」

 キース様はわたしの目を見つめた。

「ダイアナ、貴女を愛しています。結婚してください」

 彼の瞳にはわたしが映っていた。

「……わたしでいいのですか?」

 キース様の瞳に映るわたしはどんな風に見えているのだろう。

「君がいい。ダイアナ、愛している」






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