【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ

文字の大きさ
上 下
54 / 76

王城にて④

しおりを挟む
「お前!わたしに向かってなんと言った!」

「失礼いたしました。心の声が思わず出てしまったようですがなにしろバーランド前公爵と同じで都合の悪いことは忘れてしまうので、どうかお許しいただければと思いまして」
 俺はニヤッと笑った。

「お前なんかさっさとダイアナと婚約破棄させてやる!ダイアナはわたしが幸せにしてやるんだから!」

「カステル、貴方は何を勘違いしているの?今まではなかなか貴方の罪を認めさせるだけの証拠はなかった。だからエレファのことも黙っていることしかできなかった。でもダイアナが思い出してくれたおかげで貴方の罪を罰することが出来るわ」

 王妃様は静かに話しかけた。
 ものすごい怒りが込み上がっているのだろう。平静を装っているのに扇子を持つ手は怒りでプルプルと震えていた。

「わたしはエレファの日記を読んだの。ずっと耐えてきたこと。女としてどれだけの屈辱だったか…好きでもない男に体を許さないといけなかったこと。夫のためなのに夫は自分と娘を顧みない。それも全てカステルの仕業だとわかっていたわ。わかっていても病床にいた自分では抗えない。だから愛するダニエルのために我慢した。ダイアナに手を出されないように耐えた。貴方は幼女趣味もあるみたいね?
 ダイアナにだけは手を出さないと約束していたのよね?なのに…お金のために孫を売って離縁させたら今度は自分のものにする?ふざけないで!」

 王妃様は怒りで震えていた。
 最初だけ発言されたがその後はあまり発言をしていなかった。グッと堪えていたのだろう。
 黙って聞いていることは耐え難かったのだろう。

 悔しさに涙を堪えているのがわかる。

「日記に書いてあった……いつかこの男を断罪するためにこの日記を残すと」

「ふん、たかが日記だろう?病床の中だ、実際とは違う虚言もあるのでは?」

「ブラン王国には『真実の血判』と言うものがあるの」

「なんだそれは?」

「エレファの日記には『血判』が使われていたの。以前エレファたち王族だけが使える力だと言っていたわ。真実だけを記すために自らの血をその紙に注いでから書くらしいの。だから日記は血で染まっているの……エレファの辛さや悔しさがたくさん込められていたわ…そしてダイアナへのたくさんの愛情も。ダイアナを実家へ預けたいけど病床の自分では動けなかったと書いていたわ。侍女長のサリーが手紙を握り潰していたようね?
 ダイアナをあの屋敷から連れ出すことはできなかった。わたしやアシュアに助けを求めることも出来なかった。全て侍女長が見張っていて邪魔をしていたから。
 カステル、貴方が命令したのよね?侍女長に」

「ふん、サリーは私の忠実な使用人なんだ。
 わたしの気持ちを尊重した。命令などしなくても勝手にやってくれた」

「貴方は侍女長やミリアのように自分に都合のいい人たちを常にダニエルやダイアナのそばに置いて見張らせていたのよね?他にも多数の使用人が貴方に雇われていたようね?」

「あそこの屋敷は元々わたしのものだ。使用人たちがわたしの言うことを聞いて何が悪い?なのにダニエルは何故かダイアナとだけは会わせないようにしたんだ」

「それはエレファの守りのおかげよ。エレファの力ではダイアナを貴方から遠ざけるのが精一杯だと書かれていたわ。エレファ達王族の不思議な力はもう衰退気味だと言っていたのにエレファは自分の命を賭してダイアナに守護をかけたと書いていたわ」

「ブラン王国には昔魔法があったと聞いているがまだ残っていたのか?」
 陛下が王妃様に尋ねた。

「もうほとんど残っていないと昔言ってたわ。でもエレファにはわずかだけど不思議な力があるのって笑いながら言ってた。そのわずかな力をダイアナのために使ったの」

 王妃様は昔を思い出しながら遠い目をしていた。

「エレファの奴、わたしをダイアナから遠ざけていたのか?ふざけやがって」

「ふざけているのは貴方でしょう?エレファの身も心もぐちゃぐちゃにして!絶対許さないわ!それにジャスティアのことも!この子はわたしの大事な娘なの!勝手に利用しようとしないでちょうだい!まぁ、寝込んでいたから何事もなかったからいいのだけどね?」

「何が寝込んでいただ!それこそ嘘ばかりじゃないか!」

「ここにいるみんなが知っているわ。ジャスティアは体調を崩していたのよね?宰相?」

「わたしはそう報告を受けております」

「わたしもそう聞いております」
 団長もそう答えた。

 王妃様は嘘は言っていない。
 二人に違法薬物の事件のことを聞かれた時に王妃様は「ジャスティアはその頃多分寝込んでいたはずよ?」と言ったのだ。
 そう多分……。

 だから二人は「多分そうなのでしょう」と答えた。

 前公爵の前では「多分」が抜けていたし、それ以上の追及はしなかったことを話さなかっただけだ。

「ふざけるな!お前達わたしを貶めたいのか?」
 バーランド前公爵は怒りで顔が真っ赤になっていた。








しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

私の名前を呼ぶ貴方

豆狸
恋愛
婚約解消を申し出たら、セパラシオン様は最後に私の名前を呼んで別れを告げてくださるでしょうか。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

処理中です...