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お父様の秘密③
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「エレファはもう長くありません。彼女には俺の妻として最後を迎えて欲しいと思っています」
俺は父上に懇願した。
「お前の子供をミリアはもう産んでいる。お前にそっくりな可愛い息子を。エレファを追い出さないのはお前が約束を守りミリアを妊娠させたからだ。あともう一人息子が産まれれば我が公爵家も安泰だ。
エレファが死ねばすぐにミリアを公爵家の嫁として迎えることにしよう。これまで我慢してエレファを嫁として迎え入れていたんだ。死ぬまでの数ヶ月なら待ってやるよ」
ーーくそっ、俺は父上に逆らえずあれから何度もミリアを抱いた。
ミリアが妊娠したと聞いた時、もうエレファを裏切らないで済むと安堵した。だが、女の体を覚えた体はどうしても求めてしまう。
父上はそんな男の性をわかっていて、目の前にミリアという女を俺に与えた。
ミリアは別邸に住み、俺にそっくりの男の子を産んだ。
子供には罪はない。
時折り会いに行き、性には逆らえずミリアを抱いた。
少しずつ狂っていく俺とエレファとダイアナの生活。
ミリアに会いに行きそのまま朝まで過ごすことも増えて来た。
エレファの顔をまともに見れない。
さらにエレファに会いに行かなくなった。
「旦那様、エレファ様が!」
サリーが執務室に慌てて入って来た。
「どうした?」
屋敷には毎日帰って執務室で仕事はしていた。サリーにエレファの様子は報告させていた。
「もう危ない状態です」
「え?だって今朝までは大丈夫だと言っていただろう?」
「……エレファ様に旦那様に心配をかけたくないと止められていたのです」
「嘘だ、エレファに会いにいく」
「エレファ?」
そこには痩せ細って青白い顔をしたもういつ死んでもおかしくないエレファがベッドに寝ていた。
エレファはもう話すこともできなかった。
小さな手のダイアナが必死で母親の手を握り泣かずに耐えていた。
ーー俺はずっと逃げていた。二人から。
浮気をした罪悪感と病気の妻から。
そして黒髪を忌み嫌う父上の言葉から。
ダイアナが産まれなければエレファの体はもう少し丈夫だったのでは。この子が産まれた所為でエレファの体は弱ってしまったのだ。
ずるい俺は言い訳ばかりをして二人から逃げて今愛する妻を失おうとしている。
「エレファ……」
「来ないで!お母様に触らないで!」
ダイアナは俺を睨みつけてベッドの前に立ち両手を広げて俺を近づけないようにした。
瞳いっぱいに涙をためて小さな体でエレファを守るように立っていた。
「お母様はわたしが守るの!お父様なんか嫌い!あっちへいって!出て行って!」
「どきなさい!お前に用はない!あっちへいくのはお前だ!」
ついカッとなってダイアナを払いのけた。
ダイアナは俺に払いのけられ小さな体は床に転がった。サリーが慌ててダイアナのそばに行き抱き起こしていた。
それを見て俺は
「その子を外に出せ!命令だ!」
「お母様!お願い、お母様のそばに居させて!」
ダイアナのうるさい声に俺はどなりつけた。
「うるさい!その子を納屋にでも押し込んでおけ!」
そして俺はエレファを静かに看取ることにした。
エレファは話せない、だが俺に必死に訴えていた。
「ダイアナ……」と。
それがまた俺には許せなかった。
俺よりもダイアナを選ぶエレファが。
愛しているのは俺だけ。
エレファを失うことが怖くて向き合えなかったずるい俺はこの時も間違えた。
裏切り顔も見せなかったくせに、母親の死の間際、納屋に無理やり押し込んで、母親のそばに居させてもやらなかった。
感情のままにエレファにもダイアナにも酷いことをした。
そして………
エレファが死んで、バタバタとしていた屋敷。
ダイアナに気がついたのは妻が亡くなって葬式をする……三日後だった。
屋敷のみんなはダイアナを誰か納屋から出しているだろうと思い込んでいた。
誰も出していないことに気が付かずに……そして納屋から出されたダイアナは脱水と空腹と恐怖で、納屋に入れられたことを完全に忘れていた。
ただ俺を見ても無表情になってしまっていた。
俺は全てを間違えたのだ。
愛していたはずの妻も娘も失ってしまった。
俺は父上に懇願した。
「お前の子供をミリアはもう産んでいる。お前にそっくりな可愛い息子を。エレファを追い出さないのはお前が約束を守りミリアを妊娠させたからだ。あともう一人息子が産まれれば我が公爵家も安泰だ。
エレファが死ねばすぐにミリアを公爵家の嫁として迎えることにしよう。これまで我慢してエレファを嫁として迎え入れていたんだ。死ぬまでの数ヶ月なら待ってやるよ」
ーーくそっ、俺は父上に逆らえずあれから何度もミリアを抱いた。
ミリアが妊娠したと聞いた時、もうエレファを裏切らないで済むと安堵した。だが、女の体を覚えた体はどうしても求めてしまう。
父上はそんな男の性をわかっていて、目の前にミリアという女を俺に与えた。
ミリアは別邸に住み、俺にそっくりの男の子を産んだ。
子供には罪はない。
時折り会いに行き、性には逆らえずミリアを抱いた。
少しずつ狂っていく俺とエレファとダイアナの生活。
ミリアに会いに行きそのまま朝まで過ごすことも増えて来た。
エレファの顔をまともに見れない。
さらにエレファに会いに行かなくなった。
「旦那様、エレファ様が!」
サリーが執務室に慌てて入って来た。
「どうした?」
屋敷には毎日帰って執務室で仕事はしていた。サリーにエレファの様子は報告させていた。
「もう危ない状態です」
「え?だって今朝までは大丈夫だと言っていただろう?」
「……エレファ様に旦那様に心配をかけたくないと止められていたのです」
「嘘だ、エレファに会いにいく」
「エレファ?」
そこには痩せ細って青白い顔をしたもういつ死んでもおかしくないエレファがベッドに寝ていた。
エレファはもう話すこともできなかった。
小さな手のダイアナが必死で母親の手を握り泣かずに耐えていた。
ーー俺はずっと逃げていた。二人から。
浮気をした罪悪感と病気の妻から。
そして黒髪を忌み嫌う父上の言葉から。
ダイアナが産まれなければエレファの体はもう少し丈夫だったのでは。この子が産まれた所為でエレファの体は弱ってしまったのだ。
ずるい俺は言い訳ばかりをして二人から逃げて今愛する妻を失おうとしている。
「エレファ……」
「来ないで!お母様に触らないで!」
ダイアナは俺を睨みつけてベッドの前に立ち両手を広げて俺を近づけないようにした。
瞳いっぱいに涙をためて小さな体でエレファを守るように立っていた。
「お母様はわたしが守るの!お父様なんか嫌い!あっちへいって!出て行って!」
「どきなさい!お前に用はない!あっちへいくのはお前だ!」
ついカッとなってダイアナを払いのけた。
ダイアナは俺に払いのけられ小さな体は床に転がった。サリーが慌ててダイアナのそばに行き抱き起こしていた。
それを見て俺は
「その子を外に出せ!命令だ!」
「お母様!お願い、お母様のそばに居させて!」
ダイアナのうるさい声に俺はどなりつけた。
「うるさい!その子を納屋にでも押し込んでおけ!」
そして俺はエレファを静かに看取ることにした。
エレファは話せない、だが俺に必死に訴えていた。
「ダイアナ……」と。
それがまた俺には許せなかった。
俺よりもダイアナを選ぶエレファが。
愛しているのは俺だけ。
エレファを失うことが怖くて向き合えなかったずるい俺はこの時も間違えた。
裏切り顔も見せなかったくせに、母親の死の間際、納屋に無理やり押し込んで、母親のそばに居させてもやらなかった。
感情のままにエレファにもダイアナにも酷いことをした。
そして………
エレファが死んで、バタバタとしていた屋敷。
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屋敷のみんなはダイアナを誰か納屋から出しているだろうと思い込んでいた。
誰も出していないことに気が付かずに……そして納屋から出されたダイアナは脱水と空腹と恐怖で、納屋に入れられたことを完全に忘れていた。
ただ俺を見ても無表情になってしまっていた。
俺は全てを間違えたのだ。
愛していたはずの妻も娘も失ってしまった。
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