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プロローグ

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 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
 優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。

 そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
 わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。

「ダイアナ、また置いていかれたの?」
 わたしを気の毒そうに見ながら声をかけるのは、友人のメリンダ・ハリモン伯爵令嬢。

「仕方がないわ、彼の仕事は近衛騎士、それも王女殿下の護衛だもの」

「婚約者との大事な夜会よ?他にも護衛ならいるでしょう?」

 確かにそうだと思う。でも、彼は責任感が強くいつも王女のそばから離れない。

「ダイアナいいの?また噂が広がるわよ。護衛騎士と王女の愛、いつ婚約破棄されるかわからない悪役令嬢」

「悪役令嬢って言われてもわたし何もしていないわ」

「知ってるわよ、わたし達学生時代の友人はみんなあなたの味方よ?でもダイアナのことを知らない人達は噂を鵜呑みにしているわ」

 そう、わたしは人よりも少し背が高い。
 そして人よりもかなりハッキリとした顔立ち。身分も公爵令嬢。お母様は隣国の王女でお父様が見初めて結婚した。
 わたしにも他国の王族の血が流れている。

 髪の毛の色もこの国では珍しい黒色に翠色の瞳。見た目だけでも十分冷たく見られやすく誤解されやすい。

 さらに婚約者は今をときめく近衛騎士団の副団長。
 侯爵家の次男で、眉目秀麗、そこにいるだけでみんなが振り返りたくなる人。

 ブロンドの髪を短く切り、背が高く騎士服がとても似合っている。いつも女性に囲まれて困った顔をしていても彼は優しくみんなに微笑む。
 無碍にしないのでさらに人気は高まるばかり、さらに王女様のお気に入りでいつも彼は王女様から離れない。
 わたしはと言うとそんな二人を冷たく見つめる怖い悪役令嬢らしい。何かをした覚えなど全くないし、彼に苦言も怒ったこともない。
 因みに彼を冷たく見つめたこともない、ただ目つきが悪いだけ、無表情とはよく言われるけど。

 どんなに約束をすっぽかされてもデートをしたことがなくても、夜会でこんなふうに置いていかれても怒ったことなどない。
 だって婚約者になったのもお互い「愛」があったわけではなく、わたしは「自由」が欲しかったから、彼は仕事に集中したくて煩わしい婚約話しを回避するためだった。

 そう、お互いちょうど良い相手だったのだ。そこに愛など必要はなかった。



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