あなたとの離縁を目指します

たろ

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出て行け!

愛してるのは嫁なんだがな。

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「ふあああ、よく寝た」

 簡易ベッドから起き上がり頭をボリボリと掻きながら周りをキョロキョロ見た。

 ああ、やっぱり、家じゃない。

 いつもなら嫁が「ねぇ、そろそろお腹が空いたんじゃない?」と言ってテーブルにすわるように勧めてくれる。

 あったかい料理を出しながら
「隣のジャックが学校に行ってる間に掃除をしたらね、」とくだらない話をしながらいつもニコニコと俺に話しかけてくる。

 隣のジャックは嫁の幼馴染。と言うか子爵家の使用人の息子だった。

 ジャックの両親は嫁の子爵家の仕事中に馬車の事故で亡くなった。

 行き場のないジャックを嫁が我が家の隣に住まわせた。
 成人するまで金銭面は子爵家が面倒をみる約束で、何かと嫁が世話を焼いている。

 嫁にとっては弟のようなものらしい。

 俺も母一人子一人で苦労して育った。幼い頃から小銭を稼ぐためどんな仕事でもやった。

 だから一人になったジャックのことは気の毒だと思う。だが……嫁が手取り足取りしてやることなのか。

 ついイラッとしてしまい、用事もないのに外に出てブラブラとしてしまう。

 そしたらたまたま困っている小さな子を持つ母親に会い、手助けをしたり困っている年寄りの用事を手伝ったりしていた。

 そうたまたまなんだ。

 嫁は浮気をしているとか言うが、……してない。

 まぁ昨日の夜のことはちょっとやばかった。

 色気ムンムンで迫ってきて、キスをされて思わず体が反応して胸を鷲掴みにして揉んでしまった。

 仕方ないだろう。

 最近嫁が相手をしてくれない。

「触らないで!」と汚いモノでも見るかのような目で俺を冷たい目で見る。

 なのにドゥールは嫁が可哀想なんて言う。

 可哀想なのは俺だろう?ずっとお預けを食らって耐えてるんだ。

 そりゃ確かに昨日は嘘をついて仕事をサボったが。


 …………そろそろ家に帰ろう。

 あいつも頭に血が昇っていただけだろう。

 美味しい料理を用意して待ってくれてるはずだ。



「おっ、起きたのか?」

 同僚が声をかけてきた。

「帰るよ」

「気をつけて。しっかり謝れよ!浮気者!」

「ちげぇよ!浮気じゃない……たぶん」

 最後の方は声が小さくなった。

 浮気じゃない。俺は一度も浮気なんてしていない。ずっと愛しているのは嫁なんだ。

 だけど、昨日は……

 帰る途中、昨日泊まった女の家の前を通った。態々通ったわけじゃなく詰所から家の途中に女の家がある。

 その通勤の途中で女と知り合った。

 男と揉めているところを助けたのがきっかけだった。

 元夫から逃げて小さな息子を連れて引っ越してきた女。

 だからお金もわずかしかなくてボロボロに疲れ切っていた。

 女の服やベビー服、食べ物や雑貨屋で色々買ってやった。

 自分の幼い時の頃を思い出したから。

 でもそれを嫁に話すことはなかった。

 それじゃなくても、他の女の手助けをするたびに浮気していると疑われているのに、今回は色んな物まで買ってついでにちょくちょく仕事帰りに顔を出しては様子を見ている。

 完全に浮気と疑われても仕方ない。

 違うんだけどな。

 女の家の前を通ると『ガチャーン』『うるせぇ』と怒鳴り声と食器が割れる音が聞こえてきた。

 近所の人達もあまりの大きな音に女の家の様子を窺っている。

「きゃー」「うわぁーん」
 子供の泣き声と女の叫び声。

 俺は構わず家の中に突進した。

 女は男に馬乗りにされ、片手で髪の毛を引っ張られ頬を叩かれていた。

「やめろ!」

「うるせぇ!!!」

 プンと酒の匂いがした。

 酔っ払いが訳がわからなくなっていた。

 俺はその男を後ろから羽交締めにして床にうつ伏せに倒した。

「いってぇなぁ!」

「はやく立て!」

 女にそう声をかけると「ありがとう」と言いながら子供を抱きしめて震えていた。

 すぐに警ら隊が来て男は連行された。

「もう大丈夫だ」

「怖かった」

 俺に抱きついて震える女を俺は優しく抱きしめた。

 別にそこに愛情があったわけではない。変な気持ちでもない。

 ただよかったな、そう言うつもりで。

 ふと視線に気がつき玄関に目を向けた。

 野次馬達が中を除いていた。

「見るな、見せ物じゃない」

 俺がそう言いながら女から体を離そうとした時……野次馬の中に嫁がいた。

 嫁は青い顔をして俺と目が合うと走り去った。

「ま、待ってくれ!」

 女を体から引き離し追いかけようとした。

「や、やだ!そばにいて!怖いの!あなたしかいないの、私には」

 泣きながら俺に縋る女。

 俺は……
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