あなたとの離縁を目指します

たろ

文字の大きさ
上 下
145 / 147
出て行け!

なんなんだよ!

しおりを挟む
「ったく、どこで寝ろって言うんだ!」

 扉が開くのをしばらく待った。

 突然俺の匂いを嗅いで浮気……浮気は……してねぇ。

 うん、あれは、浮気じゃない。

 頼まれたんだ。

 夜が怖いから一晩一緒にいて欲しいと。

「ハア~、仕方ねぇなぁ」

 トボトボと詰所へ向かう。

 ここから歩いて30分ほど歩くしかない。

「あらぁ?どうしたの?」
 近所の未婚の母のマリーが俺の顔を見てピンときたみたいだ。

「奥さんに追い出されたの?あんた、いい加減にしときな」

「うるせぇ」

「ふうん、うちにおいでよ。あたしも一人寝は寂しいんだ。たまには男の体にくるまって寝たいしさ」

「しっしっ!あっち行け!」

「もう愛想尽かされたんでしょ?」

「んなわけねぇだろ。うちの嫁は俺のことを愛してるんだ」

 そうさ、いつも「仕方ないな」って許してくれる。

 今日だって、本当は夜勤だったけど、どうしても怖いと言われ仕方なく泊まってやっただけ。

 まだ2歳の子供がいて、どうしようもなく寂しい時があると言って泣くんだ。それに……

 だから話し相手になった……

 まぁ、ちょっと、いい感じの空気になってもう少しで抱いてしまいそうになったけど……ちゃんと堪えた……キスはしたし、おっぱいも少し触ってしまったが、そこはご愛嬌だ。

 平民が王宮の騎士になるのは大変名誉なことだ。

 俺はひたすら頑張った。

 今の妻を娶るためにはそれが条件だった。

 あいつは今平民の住む家に暮らしてるけど、本当は子爵令嬢でそこそこの金持ちだ。妻と恋愛をするのはそんなに難しいことではなかった。恋人ならよかった。

 でも結婚となるとものすごく反対された。平民が貴族令嬢と結婚するのは並大抵のことではできない。

『君が王宮騎士になれれば結婚も許そう』

 絶対なれないとわかっていてそんな条件を出した義父。

 だけど俺は頑張った。人が嫌がる戦地にも行って戦った。

 何度死戦をくぐり抜けたことか。

 そしてその頑張りが王宮騎士になることに繋がった。

 戦地にたまたま視察できていた第三王子が敵に狙われるところを偶然守った褒章だった。

 そしてなんとか妻を娶ることができた。

 それからの俺は平民と馬鹿にされながらも必死で王宮騎士として働いている。

 それなのに……くそっ!!

 何が出て行けだ!

 俺はそれなりに稼いでいるんだ。その金を困った人のために使って何が悪い。

 困った人に頼まれて家の修繕をしたり、子供達が父親がいないからと一緒に遊んで欲しいと頼まれたりして、遊んでやってるだけだ。

 そう、たまたま声をかけてくるのが年寄りと母子家庭が多いだけ。

 男手が足りないから仕方がないだろう。

 今夜だって、前の旦那が押しかけてくるから怖いと言ってそばにいて欲しいと頼まれたんだ。

 少しくらい俺の言い訳を聞いてくれてもいいだろう。



「お疲れ!」

 詰所に行くと同期のドゥールがニヤッと笑った。

「嫁に追い出されたのか?」

「ああ、ちょっと、奥で眠る」

「可哀想にな」

「ほんと散々だ」

「違うよ!お前の嫁だ!お前みたいな男と結婚して。本当なら使用人達になんでもしてもらって高級な服を着て毎日美味しいお茶でも飲みながら微笑んで過ごしているはずなのに」

「俺はそれなりに稼いでる」

「ああ、俺は嫁のために使用人も雇ってやってるしそこそこ贅沢はさせてるぞ」

「ドゥールは男爵家の子息だからな」

「だが給金は同じだろう?なのにお前はその辺の女につぎ込んでる」

「違う!困った人を助けているんだ」

「で、嫁に追い出された?馬鹿じゃないのか?」

「仕方ないだろう。困ってる人を見ると放っておけない。俺もずっと苦労してきたんだ」

「へぇじゃあ嫁と離婚してやるんだな。嫁が可哀想すぎる」

 ………ざけんな!

 俺は心の中でそう叫んだのに、ドゥールには言い返せなかった。

「………寝る!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

私は何も知らなかった

まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。 失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。 弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。 生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。    

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

妻の私は旦那様の愛人の一人だった

アズやっこ
恋愛
政略結婚は家と家との繋がり、そこに愛は必要ない。 そんな事、分かっているわ。私も貴族、恋愛結婚ばかりじゃない事くらい分かってる…。 貴方は酷い人よ。 羊の皮を被った狼。優しい人だと、誠実な人だと、婚約中の貴方は例え政略でも私と向き合ってくれた。 私は生きる屍。 貴方は悪魔よ! 一人の女性を護る為だけに私と結婚したなんて…。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定ゆるいです。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

処理中です...