あなたとの離縁を目指します

たろ

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幼馴染が大切ならわたしとは離縁しましょう。

あと少しなのに。

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「アデリーナ、俺は貴方の言われるがままに受け入れてきた」

「あら?当たり前のことだわ。約束したもの」

 アデリーナは愉しそうに俺に微笑みかけた。

「ミズナは俺に対して嘲りの目で見ている。信頼も信用も愛情も、持ってもらえない」
 俺の右手はギュッと握りしめられ震えていた。

「それは仕方がないんじゃない?だって勝手に結婚するんだもの」

 馬鹿にするように突き放す。

「ねっ?」と言いながらこてんと首を傾げるアデリーナに俺はイラッとした。

 ゆっくりした動作で髪を耳にかけるアデリーナ、俺は黙って様子を窺っていた。

「ねぇ、ダレン?約束したわよね?」

 耳を掻き上げていた手を俺の顎へと移した。そして俺の顎に触れるとクイっと顔を上に向かせた。

 俺とアデリーナの顔はあと少しで触れ合いそうなところまで近づいた。

「ねぇ?ダレン?わたしを最優先にする約束は守ってもらわないと」

 そう言って俺の頬に舐めるようにキスを落とす。

「やめろ」

「あら?初心ね?もう何度もキスをした仲じゃない?」

「違う、俺がしたい訳じゃない。君が無理矢理…………「ミズナはそう思ってくれるかしら?結婚してるのに常に幼馴染のわたしを優先する夫。あははははっ、あーー、面白い。わたしなら、絶対、嫌だわ」

「あと少し……」
 呟くように自分自身に言った。

「そうね、あと少し。なのにどうして結婚したの?あと少し我慢すればよかったのに」
 アデリーナは意地悪く言った。

 そう、あと少し。
 この意味不明な約束から解放される。

 だけど俺はそれでもミズナと結婚をしたかった。そうしなければ他の男のところへ嫁に行ってしまうかもしれなかったから。

 ミズナとの学校での関係は唯一の朝の花壇で過ごす時間だけ。

 アデリーナが俺のそばに来ない朝早い時間。それが俺の唯一の大切な時間だった。

 何を話すわけでもない、お互い静かに好きなことをしているだけ、ただ同じ場所にいるだけの関係。

 俺にとって唯一ミズナのそばに居られる大切な時間だった。

 あの大切な時間はミズナが卒業すると終わってしまい、そのあとの学生生活は虚無感しかなかった。

 アデリーナやその周りの女の子達に囲まれ耳を塞ぎたくなるうるささの中毎日過ごすしかなかった。

 それでもなんとか耐えて卒業して父親の仕事を手伝うようになった。

 学校生活ほどアデリーナに会わずに済んだが、それでもアデリーナは仕事中などお構いなく俺に会いにくるし呼び出されることも度々あった。

 俺の事情を知っている両親は何も文句は言わないでいてくれる。


 キスをする関係などとアデリーナは言ったが、俺が好きでしたわけではない。

 ほぼ無理矢理口付けられて、あんなのキスなんてもんじゃない。

 俺はもうあと少し耐えればいいと思っていた。

 でも、ミズナに結婚の話が出ていると噂を聞いた。

 ミズナの実家は鉱山を持っていて採石業から加工まで行う、国内でも技術は一二を争う彫金師を何人も抱えていた。しかし近年ではなかなか良い石に恵まれず、商売として成り立たなくなっていた。

 そのため宝石や装飾品を売るための商会と手を組む必要があった。

 我が家はかなり大きな商会だが、ミズナの家は他の商会と手を組もうとしていた。

 そしてミズナを気に入った商会の当主が息子の嫁にと話が出ていると人伝に聞いた。

 アデリーナとの約束が終わるのは20歳になる日まで。それからミズナにアプローチをするつもりだった。

 ミズナの父親にもそう伝えていたし、絶対俺の嫁にすると昔っから宣言していた。

 だけどミズナの家も逼迫していて限界だったのだろう。だったらうちの商会に話を持ってきてくれたらよかったのに!

 そう思ったけど、ミズナの父親は、俺の事情を知っているからもう俺を解放してやりたかったと言っていた。

 くそ、解放なんてされなくていい。

 こんな屈辱に耐えてきたのは全てミズナとの未来のためなのに。

 うちの商会が名乗りをあげてミズナを他の男と結婚させなくて済んだけど、俺とミズナの夫婦生活は最悪だった。

 本当のことを言えない俺。
 優しくしてはいけない。
 愛していることも悟られてはいけない。

 雁字搦めの中、白い結婚の夫婦生活は辛い日々でしかなかった。

 大好きなミズナに誤解され嫌われて、それでも俺はアデリーナの言うことを聞くしかない。



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