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幼馴染が大切ならわたしとは離縁しましょう。
え?嫌です。
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結婚したのはひと月前。
別に愛だとか恋だとか、そんなものはなかった。
そう、わたしと夫のダレンとは、いわゆる家と家の繋がりのための政略結婚だった。
別に貴族ではない、ただの平民。
平民でも政略結婚はあるわけで、わたしの父が持っている鉱山から最近鉱石が発見されて、加工して宝石を売買するのに、ダレンの実家の商会の力が必要だった。
そのために両家の関係を強化するために年の近いダレンとわたし、ミズナが結婚することになった。
「ミズナ、悪いが結婚して欲しい」
父にそう言われ「はああ?」とまず叫んだ。
「すまない、うちのあの使い物にならないと言われた廃山するしかなかったあの鉱山から100年ぶりに鉱石が見つかったんだ。アレさえあれば我が家はまた復活する。しかし、加工技術は受け継がれていてまだなんとかなるが販路がないんだ」
我が家はその昔たくさんの鉱石が採れるおかげで宝石の加工の技術は国でも一番と言われていた。
だけど掘り尽くした鉱山からは屑石しか出なくなって、今は、父は製錬職人になり仕事をして、叔父達は鍛冶職人をして細々と数人の職人を抱えて暮らしていた。
たまに鉱山に屑石を取りに行き、鍛造職人や彫金師達の技術の腕を落とさないようにするため、わずかな宝飾品を作り出すだけだった。
屑石と言っても庶民にとっては十分高値で売られていてなかなか手が出せないものばかり。
おかげでなんとか今まで持ち堪えていた。
そして久しぶりの我が家にとっての吉報。
これを逃せば我が家は衰退の一途を辿るのみ。
だから高く売ることは一番必須なわけ。
この国で貴族達と付き合いのあるダレンの実家のバーナード商会が我が家の宝石を手掛けて売ってくれれば、利益も2割からいや頑張れば5割増かも!
父だけではなく叔父さんや職人さん達までもがわたしに頭を下げてお願いした。
「どうか結婚してください」と。
おっさん達に囲まれて結婚を懇願されて、恋人も好きな人もいないわたしは「はああああ」と大きな溜息をついた。
だってバーナード商会のダレンと言えばとっても可愛らしい幼馴染の恋人がいると有名な話で、そこにわたしが横槍で結婚する?
もう、幸せになれるなんてほんの一欠片も思えない!
嫌だ、絶対無理。
確かにダレンの顔は整っているし、誰にでも優しいし、頭もよかった。
学校でも人気者でいつも女の子に囲まれていたわ。
そこに幼馴染のアデリーナがくっついていて、ダレンと言えば女好き、女たらし、ってイメージしかない。(わたしのイメージ)
わたしの一つ年下の男の子。
わたしとは無縁。
ずっとそう思っていた。
でも、彼とは実は接点があった。
わたしは彼の一つ上。
いつも朝早く学校へ行き、一人、花壇の水やりをするのがわたしの日課だった。
校舎の裏にある忘れ去られた花壇。そこにどこからか飛んできたのか鳥のいたずらか、それとも頑張って残っていた種が発芽したのか、そこにはピンクのバーベナと紫のバーベナが咲いていた。
「可愛い」
家の庭で花の世話をするのがわたしの係だった。両親は仕事が忙しく、いつも祖母がわたしの面倒を見てくれた。庭いじりの好きな祖母とわたしはいつも暇さえあれば庭で時間を忘れて過ごした。
忘れ去られた寂しい花壇。
先生にすぐに交渉して花壇のお世話をさせてもらった。
毎朝みんなが学校へ登校してくる前に一人花壇で花の世話をするのが楽しみだった。
長期休校の時も花壇の水やりだけは通っていた。
あの花壇は今も花好きの生徒に大切に守られている。たまに花壇に朝遊びに行くと数人の生徒が水やりや手入れをしてくれている。わたしはお菓子の差し入れを持って花に会いに行く。
でもあの頃はいつもわたし一人で花壇の手入れをしていた。
「何してるんですか?」
雑草をひたすら引っこ抜いていた時、背後からそんな声が聞こえてきた。
「えっ?」
びっくりして尻餅をついた。そっと後ろを振り返った。
「ぶっ!!」
わたしの顔を見るなり笑い出した失礼な男の子、それがダレンだった。
名前だけは知っていた。ううん、もちろん顔も。だけど話したこともないし、お互い知らない同士。
なのにいきなりわたしに声をかけてきた。
こんな早い時間に、生徒はまだ登校する時間でもないのに。
「な、なんで、笑うの?」
動揺しながら彼にムッとして聞いた。
「だってその顔!」
わたしの顔を指さしてまた笑い出す。
「何かついてるの?」
慌てて手で顔を触る。
「ぶっ!もっと酷い顔になった」
ゲラゲラ笑い出すダレンに「えええ?」って叫んでしまった。
慌てて泥のついた手で自分の顔を触ってしまった。
恥ずかしい。
真っ赤になって「あっちへ行って!」とお願いすると「ごめんごめん、女の子の顔見て笑うなんて……クククッ」とまた笑うグレン。
わたしが遠くから見るダレンはいつも穏やかな笑顔でこんな馬鹿笑いするなんて、夢にも思わなかった。
「ねぇ、君、ミズナっていう名前だよね?」
なんでわたしの名前を知ってるの?自分で言うのもなんだけどわたしって目立たないし、それにダレンと話したこともないし、学年も違うし……
「…………」
黙って驚いていると、
「花が好きなんだね?」と聞いてきた。
それからたまに彼は朝早くにここにやってくる。
お互い何か話すわけでもなく彼はただ近くにある石に腰掛けて本を読んでいるだけ。
「ねぇ、そんなところにいるより、お家でゆっくり過ごした方がいいんじゃないの?」
一度そんなことを聞いたことがあった。
「早く目が覚めるんだ。それにこの澄んだ朝の空気が好きなんだ」
「ふうん、それなら部屋の窓でも開けていればいいし、自分の家の庭でも眺めていたらいいじゃない」
わたしがダレンにそう言うと苦笑いをしながら、「ミズナって僕を見ても何も言ってこないし楽なんだ」と言った。
別に愛だとか恋だとか、そんなものはなかった。
そう、わたしと夫のダレンとは、いわゆる家と家の繋がりのための政略結婚だった。
別に貴族ではない、ただの平民。
平民でも政略結婚はあるわけで、わたしの父が持っている鉱山から最近鉱石が発見されて、加工して宝石を売買するのに、ダレンの実家の商会の力が必要だった。
そのために両家の関係を強化するために年の近いダレンとわたし、ミズナが結婚することになった。
「ミズナ、悪いが結婚して欲しい」
父にそう言われ「はああ?」とまず叫んだ。
「すまない、うちのあの使い物にならないと言われた廃山するしかなかったあの鉱山から100年ぶりに鉱石が見つかったんだ。アレさえあれば我が家はまた復活する。しかし、加工技術は受け継がれていてまだなんとかなるが販路がないんだ」
我が家はその昔たくさんの鉱石が採れるおかげで宝石の加工の技術は国でも一番と言われていた。
だけど掘り尽くした鉱山からは屑石しか出なくなって、今は、父は製錬職人になり仕事をして、叔父達は鍛冶職人をして細々と数人の職人を抱えて暮らしていた。
たまに鉱山に屑石を取りに行き、鍛造職人や彫金師達の技術の腕を落とさないようにするため、わずかな宝飾品を作り出すだけだった。
屑石と言っても庶民にとっては十分高値で売られていてなかなか手が出せないものばかり。
おかげでなんとか今まで持ち堪えていた。
そして久しぶりの我が家にとっての吉報。
これを逃せば我が家は衰退の一途を辿るのみ。
だから高く売ることは一番必須なわけ。
この国で貴族達と付き合いのあるダレンの実家のバーナード商会が我が家の宝石を手掛けて売ってくれれば、利益も2割からいや頑張れば5割増かも!
父だけではなく叔父さんや職人さん達までもがわたしに頭を下げてお願いした。
「どうか結婚してください」と。
おっさん達に囲まれて結婚を懇願されて、恋人も好きな人もいないわたしは「はああああ」と大きな溜息をついた。
だってバーナード商会のダレンと言えばとっても可愛らしい幼馴染の恋人がいると有名な話で、そこにわたしが横槍で結婚する?
もう、幸せになれるなんてほんの一欠片も思えない!
嫌だ、絶対無理。
確かにダレンの顔は整っているし、誰にでも優しいし、頭もよかった。
学校でも人気者でいつも女の子に囲まれていたわ。
そこに幼馴染のアデリーナがくっついていて、ダレンと言えば女好き、女たらし、ってイメージしかない。(わたしのイメージ)
わたしの一つ年下の男の子。
わたしとは無縁。
ずっとそう思っていた。
でも、彼とは実は接点があった。
わたしは彼の一つ上。
いつも朝早く学校へ行き、一人、花壇の水やりをするのがわたしの日課だった。
校舎の裏にある忘れ去られた花壇。そこにどこからか飛んできたのか鳥のいたずらか、それとも頑張って残っていた種が発芽したのか、そこにはピンクのバーベナと紫のバーベナが咲いていた。
「可愛い」
家の庭で花の世話をするのがわたしの係だった。両親は仕事が忙しく、いつも祖母がわたしの面倒を見てくれた。庭いじりの好きな祖母とわたしはいつも暇さえあれば庭で時間を忘れて過ごした。
忘れ去られた寂しい花壇。
先生にすぐに交渉して花壇のお世話をさせてもらった。
毎朝みんなが学校へ登校してくる前に一人花壇で花の世話をするのが楽しみだった。
長期休校の時も花壇の水やりだけは通っていた。
あの花壇は今も花好きの生徒に大切に守られている。たまに花壇に朝遊びに行くと数人の生徒が水やりや手入れをしてくれている。わたしはお菓子の差し入れを持って花に会いに行く。
でもあの頃はいつもわたし一人で花壇の手入れをしていた。
「何してるんですか?」
雑草をひたすら引っこ抜いていた時、背後からそんな声が聞こえてきた。
「えっ?」
びっくりして尻餅をついた。そっと後ろを振り返った。
「ぶっ!!」
わたしの顔を見るなり笑い出した失礼な男の子、それがダレンだった。
名前だけは知っていた。ううん、もちろん顔も。だけど話したこともないし、お互い知らない同士。
なのにいきなりわたしに声をかけてきた。
こんな早い時間に、生徒はまだ登校する時間でもないのに。
「な、なんで、笑うの?」
動揺しながら彼にムッとして聞いた。
「だってその顔!」
わたしの顔を指さしてまた笑い出す。
「何かついてるの?」
慌てて手で顔を触る。
「ぶっ!もっと酷い顔になった」
ゲラゲラ笑い出すダレンに「えええ?」って叫んでしまった。
慌てて泥のついた手で自分の顔を触ってしまった。
恥ずかしい。
真っ赤になって「あっちへ行って!」とお願いすると「ごめんごめん、女の子の顔見て笑うなんて……クククッ」とまた笑うグレン。
わたしが遠くから見るダレンはいつも穏やかな笑顔でこんな馬鹿笑いするなんて、夢にも思わなかった。
「ねぇ、君、ミズナっていう名前だよね?」
なんでわたしの名前を知ってるの?自分で言うのもなんだけどわたしって目立たないし、それにダレンと話したこともないし、学年も違うし……
「…………」
黙って驚いていると、
「花が好きなんだね?」と聞いてきた。
それからたまに彼は朝早くにここにやってくる。
お互い何か話すわけでもなく彼はただ近くにある石に腰掛けて本を読んでいるだけ。
「ねぇ、そんなところにいるより、お家でゆっくり過ごした方がいいんじゃないの?」
一度そんなことを聞いたことがあった。
「早く目が覚めるんだ。それにこの澄んだ朝の空気が好きなんだ」
「ふうん、それなら部屋の窓でも開けていればいいし、自分の家の庭でも眺めていたらいいじゃない」
わたしがダレンにそう言うと苦笑いをしながら、「ミズナって僕を見ても何も言ってこないし楽なんだ」と言った。
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