94 / 156
嫌です。別れません
1話
しおりを挟む
テーブルの上に乗った今日の夕飯。
そろそろ片付けるか。
捨てるのは勿体無いので上にお皿を重ねて明日の朝食用に取っておくことにする。
湯浴みを済ませ息子のリオの寝ているベッドの横にそっと入ると、毛布を被って寝つく。
カーテンの隙間から入る朝日で目が覚めた。
「かあちゃん、はらへった」
2歳のリオはわたしの顔を見て嬉しそうに言った。
まだ食べ盛りのリオは起きた瞬間「はらへった」が口癖。
「すぐに用意するわ」
リオを抱っこして台所へ向かった。
昨日の夕飯の残りを温めてリオの座るテーブルに置くと
「いただきます!」と嬉しそうにパクパク食べ始めた。
「かあちゃん、おいしい」
「いっぱい食べてね」
リオの笑顔についわたしまで笑顔になってしまう。
「リオ、かあちゃん、お仕事に行かないといけないの。隣のおばちゃんのお店でいつものように待っててくれる?」
「えーー、かあちゃんについていく!」
「ごめんね、今日は森の奥まで行くからリオは危ないの」
「…………わかった」
「待っててくれたら美味しい木の実をたくさん採ってくるわ」
「ほんと?」
「約束ね?」
隣のおばちゃんのところにリオを連れて行く。
おばちゃんはリオに「おいで!」と手招きをした。
「リオ!いらっしゃい!」
「おばちゃん!おねがいしますっ!」
元気なリオの声におばちゃんが抱きついて自分の頬でリオの頬をウリウリするのでリオが「やめて、もう!」とおばちゃんの顔を手で押して逃げようとしていた。
「リオは今日はお店番だからね?『いらっしゃいませ!』は言える?」
「うん!いらっちゃいませ!だよね?」
「そうそう、リオがお店番するとうちのパンの売れ行きが良くなるからね。リオはうちの福の神だ」
「ふくのかみ?ぼく、かみのふくなんて、きてないよ?」
「うーん、リオはお店にいるだけで、可愛いって意味だよ」
「ぼく、かわいくない!かっこいいんだもん!」
おばちゃんとリオのやり取りを楽しみに聞いているとおばちゃんがわたしのそばに来て小さな声で聞いてきた。
「マナ、ダンは昨日も帰ってこなかったのかい?」
「……うん」
「あの男は!」
おばちゃんが大きな声でダンのことに文句を言おうとした。
「おばちゃん、リオが聞いてるから」
慌てておばちゃんに「やめて」と小さな声で言った。
「ああ、ごめん。リオは2歳ながらにしっかり大人の話を理解してるから」
「リオはわたしが悲しむからダンのことを聞いてこようとしないの」
「はああ、不憫だね」
「おばちゃん、今日はいつもより奥まで行くつもりだから少し遅くなると思います。ご迷惑をおかけしますがリオのことよろしくお願いします」
「リオは任せて。それにマナが持って帰ってきてくれるお土産も楽しみだしね」
「うん!たくさん採ってくるわ」
「よろしく頼むよ」
わたしは薬師をしている。
森の奥に入れば貴重な薬草が採れる。ついでに木の実も毎回お土産に持って帰るので、パン屋のおばちゃんは喜んでくれる。
今日のお目当てはワイルドブルーベリー!
薬効高い実でありながら、フルーティーな味なので、多めに採れればリオにも食べさせたい。
あとモミジイチゴも欲しい!
あ、仕事用の薬草が先!しっかり探さなきゃ!
「ふぅ、遅くなっちゃった。リオ泣いてないかしら?」
今日はかなりの収穫だった。
なかなか手に入らない薬草も見つけられたし、リオの好きなワイルドブルーベリーもたくさん採れた。
パイやジャムもたくさん作れそう。
背中のカゴはかなり重たいけどリオの顔を思い浮かべれば全然平気。
やっと山を下りて家に近づくと大きな声がしてきた。
「ダン!ダンはどこ?」
綺麗なワンピースを着たわたしよりも少し年上の女性がわたしの肩を両手で掴んだ。
「きゃっ」
彼女の勢いで思わず転んでカゴの中身が散らばった。
「ダンをどこに隠したの?」
「夫は……」
「夫?違うわ、ダンはわたしの恋人よ!あなた、何を言ってるの?」
ああ、またか。
ダン…わたしの夫は、『女好き』でいつも遊んで回ってる。
今回は年上の女性に手を出したのね。
「ダンはわたしの夫です」
バチっ!!
えっ?どうしてわたしが叩かれるの?
それもかなり……痛いっ!
「ダンは結婚なんてしてない!毎日わたしの家に帰ってきていたのよ!それなのに最近帰ってこないの!返して!返してよ!」
「………ダンがどこにいるかわたしの方が聞きたい。いつか帰ってきたらあなたのところへ行くように言います。お名前は?」
「アイリス!ダンの恋人のアイリスよ!早く返して!」
転んだわたしを睨みつけて去って行くアイリスさん。
カゴから落ちた薬草を拾いながら大きなため息しか出てこない。
家に帰ったら頬を冷やさなきゃ。リオがわたしの顔を見たら心配するかな。
転んだと言い訳しないと。
そう思ってカゴを拾って立ち上がると、そこにリオが立っていた。
「おかあちゃん……」
リオが目に涙をためていた。
「おかあちゃん………とうちゃん、わるいの?」
「そんなことない、父ちゃんはお仕事に行ってるの、だからさっきの人は間違ってうちに来ただけなの」
「……とうちゃん、しごと?」
「うん、お仕事なの」
その日のリオは落ち込んであまり食欲がなかった。
半べそでわたしの服を掴んで離さない。
隣のおばちゃんはそんなリオに「かあちゃん守ってあげな。男だろう?」と言うと「ぼく、おとこだからまもるの」と言ってくれた。
そしてその日の夜遅くダンが久しぶりに帰ってきた。
そろそろ片付けるか。
捨てるのは勿体無いので上にお皿を重ねて明日の朝食用に取っておくことにする。
湯浴みを済ませ息子のリオの寝ているベッドの横にそっと入ると、毛布を被って寝つく。
カーテンの隙間から入る朝日で目が覚めた。
「かあちゃん、はらへった」
2歳のリオはわたしの顔を見て嬉しそうに言った。
まだ食べ盛りのリオは起きた瞬間「はらへった」が口癖。
「すぐに用意するわ」
リオを抱っこして台所へ向かった。
昨日の夕飯の残りを温めてリオの座るテーブルに置くと
「いただきます!」と嬉しそうにパクパク食べ始めた。
「かあちゃん、おいしい」
「いっぱい食べてね」
リオの笑顔についわたしまで笑顔になってしまう。
「リオ、かあちゃん、お仕事に行かないといけないの。隣のおばちゃんのお店でいつものように待っててくれる?」
「えーー、かあちゃんについていく!」
「ごめんね、今日は森の奥まで行くからリオは危ないの」
「…………わかった」
「待っててくれたら美味しい木の実をたくさん採ってくるわ」
「ほんと?」
「約束ね?」
隣のおばちゃんのところにリオを連れて行く。
おばちゃんはリオに「おいで!」と手招きをした。
「リオ!いらっしゃい!」
「おばちゃん!おねがいしますっ!」
元気なリオの声におばちゃんが抱きついて自分の頬でリオの頬をウリウリするのでリオが「やめて、もう!」とおばちゃんの顔を手で押して逃げようとしていた。
「リオは今日はお店番だからね?『いらっしゃいませ!』は言える?」
「うん!いらっちゃいませ!だよね?」
「そうそう、リオがお店番するとうちのパンの売れ行きが良くなるからね。リオはうちの福の神だ」
「ふくのかみ?ぼく、かみのふくなんて、きてないよ?」
「うーん、リオはお店にいるだけで、可愛いって意味だよ」
「ぼく、かわいくない!かっこいいんだもん!」
おばちゃんとリオのやり取りを楽しみに聞いているとおばちゃんがわたしのそばに来て小さな声で聞いてきた。
「マナ、ダンは昨日も帰ってこなかったのかい?」
「……うん」
「あの男は!」
おばちゃんが大きな声でダンのことに文句を言おうとした。
「おばちゃん、リオが聞いてるから」
慌てておばちゃんに「やめて」と小さな声で言った。
「ああ、ごめん。リオは2歳ながらにしっかり大人の話を理解してるから」
「リオはわたしが悲しむからダンのことを聞いてこようとしないの」
「はああ、不憫だね」
「おばちゃん、今日はいつもより奥まで行くつもりだから少し遅くなると思います。ご迷惑をおかけしますがリオのことよろしくお願いします」
「リオは任せて。それにマナが持って帰ってきてくれるお土産も楽しみだしね」
「うん!たくさん採ってくるわ」
「よろしく頼むよ」
わたしは薬師をしている。
森の奥に入れば貴重な薬草が採れる。ついでに木の実も毎回お土産に持って帰るので、パン屋のおばちゃんは喜んでくれる。
今日のお目当てはワイルドブルーベリー!
薬効高い実でありながら、フルーティーな味なので、多めに採れればリオにも食べさせたい。
あとモミジイチゴも欲しい!
あ、仕事用の薬草が先!しっかり探さなきゃ!
「ふぅ、遅くなっちゃった。リオ泣いてないかしら?」
今日はかなりの収穫だった。
なかなか手に入らない薬草も見つけられたし、リオの好きなワイルドブルーベリーもたくさん採れた。
パイやジャムもたくさん作れそう。
背中のカゴはかなり重たいけどリオの顔を思い浮かべれば全然平気。
やっと山を下りて家に近づくと大きな声がしてきた。
「ダン!ダンはどこ?」
綺麗なワンピースを着たわたしよりも少し年上の女性がわたしの肩を両手で掴んだ。
「きゃっ」
彼女の勢いで思わず転んでカゴの中身が散らばった。
「ダンをどこに隠したの?」
「夫は……」
「夫?違うわ、ダンはわたしの恋人よ!あなた、何を言ってるの?」
ああ、またか。
ダン…わたしの夫は、『女好き』でいつも遊んで回ってる。
今回は年上の女性に手を出したのね。
「ダンはわたしの夫です」
バチっ!!
えっ?どうしてわたしが叩かれるの?
それもかなり……痛いっ!
「ダンは結婚なんてしてない!毎日わたしの家に帰ってきていたのよ!それなのに最近帰ってこないの!返して!返してよ!」
「………ダンがどこにいるかわたしの方が聞きたい。いつか帰ってきたらあなたのところへ行くように言います。お名前は?」
「アイリス!ダンの恋人のアイリスよ!早く返して!」
転んだわたしを睨みつけて去って行くアイリスさん。
カゴから落ちた薬草を拾いながら大きなため息しか出てこない。
家に帰ったら頬を冷やさなきゃ。リオがわたしの顔を見たら心配するかな。
転んだと言い訳しないと。
そう思ってカゴを拾って立ち上がると、そこにリオが立っていた。
「おかあちゃん……」
リオが目に涙をためていた。
「おかあちゃん………とうちゃん、わるいの?」
「そんなことない、父ちゃんはお仕事に行ってるの、だからさっきの人は間違ってうちに来ただけなの」
「……とうちゃん、しごと?」
「うん、お仕事なの」
その日のリオは落ち込んであまり食欲がなかった。
半べそでわたしの服を掴んで離さない。
隣のおばちゃんはそんなリオに「かあちゃん守ってあげな。男だろう?」と言うと「ぼく、おとこだからまもるの」と言ってくれた。
そしてその日の夜遅くダンが久しぶりに帰ってきた。
751
お気に入りに追加
2,631
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木あかり
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる