79 / 156
(まだ)離縁しません
前編
しおりを挟む
「いたっ!」
後ろから押されて転けた。
相手が誰かなんてすぐにわかる。
「フラン!おやめなさい」
「うるさい!クソババァ!」
「クソババァ?わたしはまだ19歳のうら若き乙女なのよ!」
「もう結婚してるババアだろ?」
「どこでそんな言葉覚えてきたの?」
「うるさい、うるさい!お前なんか母親じゃないんだ!ニセモノ!出て行け!父様と離縁しろ!」
ニセモノ……そう、わたしは確かにニセモノの母親。
夫であるジョンソンとは契約結婚をした。
ジョンソンは奥様と離縁されていた。
そしてわたしはお金が必要だった。
両親が借金を作ったまま事故で亡くなった。
屋敷を売り払いドレスや宝石、絵画や馬車、馬も売り払いなんとか借金は返済できた。
だけど弟とわたしが生きていくためのお金は残っていなかった。
男爵家という爵位だけが残った。
爵位を返上して平民になることももちろん考えたわ。わたしだけなら平民でもいい。
でも優秀な弟をこのまま平民にしてしまっていいのか。将来男爵という爵位でもあればそれなりのところの就職できるし文官になっても出世することだってできる。
もし貴族令嬢との婚約の話が出ても困らないし、男爵なら平民と結婚してもそこまで厳しく言われることがない。
「アルバード、学校だけは続けなさい」
貴族でいるためには王立学園を卒業しなければいけない。これは貴族の子供にとっては必ず必要な条件だった。
「僕、学校辞めて働くよ」
「ダメ!あなたは成績もいいし特待生なの。学費は要らないし寮費だってタダなの!足りない分くらいならわたしが働いて稼げるわ!」
「でも姉上だけに苦労させたくない」
「ううん、わたし一人ならどこかの屋敷で住み込みでメイドとして働けるわ。お互い別々に暮らすことになるけど休みの日には会える、ねっ?そうしましょう」
今はお母様の弟の家に転がり込んでいるけど、お母様の実家は商家で常に忙しく働いていてわたし達は邪魔になる。
ここで働くのもありかもしれないけど給金が平民だと安い。
弟に必要なお金ならなんとか賄えるけど、貴族として生きるなら付き合いにお金は必要。
いくら男の子でも貴族ならばパーティーの服代だって馬鹿にならないし文房具代に参考書、お小遣いだって多少はあげたい。
弟は14歳、それなりに社交も始めなければいけなくなる年齢だ。
そう思って幼馴染で親友でもあるマーシャにお願いして仕事を紹介してもらった。
伯爵家のメイドとして。
一応わたしは男爵家の令嬢なので仕事の条件もいい。
住み込みで給金もわりと良い。
そしてマーシャの母方の従兄弟で、わたしも幼い頃何度か遊んでもらったことがあった伯爵家を紹介してもらった。
覚えてはいなかったけどマーシャに、
『ほら、よく肩車してくれた兄様よ』と言われて思い出した。
わたしより6歳年上の兄様は優しくてわたしとマーシャとよく遊んでくれた。
わたしは兄様に肩車をしてもらうのが楽しくて何回もおねだりしたことを覚えている。
だから少しだけ、ほんの少しだけ安心して面接に臨んだ。
兄様なら大丈夫だと。
なのに………
屋敷で面接をしてもらうと、話は雲行きが怪しくなってきた。
初めはわたしの身の上のことを聞かれ、雇い主になるので全て素直に話した。
弟が学園に通っているから住み込み希望だと言うと、
『だったら俺と契約結婚して欲しい』と言い出した。
『だったら』とは何?
キョトンとしたわたしに旦那様は言った。
『俺は再婚など面倒くさくて、したくない。元々政略結婚で元妻とは結婚したんだ。離縁してスッキリしたのに周囲がうるさいんだ』
『はあ、そうですか』
わたしもつい面倒くさそうに返事をした。
旦那様はイラッとした顔をしたけど気にしないことにした。だってメイドの面接に来て契約結婚をしたいなんて意味のわからないことを言う旦那様の方が絶対おかしいもの。
『両親が息子のフランを領地に連れ帰って自分たちが育てると言い出した』
『ああ、確かにあなたよりいいかも』
思わず本音が出てボソッと呟いた。
だって、顔は良い。見た目だけならほんと、カッコいいし、思わず振り返りたくなるくらいカッコいい。
わたしも幼い頃は兄様のこと、王子様みたいだと思ったもの。
だけど目の前にいるこの人、顔だけはいいけど性格最悪だと思う。
いきなり『契約結婚』なんで言い出すし、無愛想だし、偉そうだし(伯爵だからわたしより上だけど)、顔がいいだけでなんだかいけ好かない。
『給金は3倍。三年したら白い結婚で離縁。その後の慰謝料ももちろん払う。どうだ?』
『やります!!!』
わたしは二つ返事で了承した。
白い結婚なら戸籍は綺麗なまま。
それに身の危険もない!
給金も3倍!慰謝料ももらえる、なんて条件がいいの!
もう小躍りしたくなるくらいの気分だった。
そう、息子のフラン様にお会いするまでは。
ほんとこのクソガキ!ひとのお尻を思いっきり押しやがって!!
「フラン、わたしは(まだ)離縁はしません!」
後ろから押されて転けた。
相手が誰かなんてすぐにわかる。
「フラン!おやめなさい」
「うるさい!クソババァ!」
「クソババァ?わたしはまだ19歳のうら若き乙女なのよ!」
「もう結婚してるババアだろ?」
「どこでそんな言葉覚えてきたの?」
「うるさい、うるさい!お前なんか母親じゃないんだ!ニセモノ!出て行け!父様と離縁しろ!」
ニセモノ……そう、わたしは確かにニセモノの母親。
夫であるジョンソンとは契約結婚をした。
ジョンソンは奥様と離縁されていた。
そしてわたしはお金が必要だった。
両親が借金を作ったまま事故で亡くなった。
屋敷を売り払いドレスや宝石、絵画や馬車、馬も売り払いなんとか借金は返済できた。
だけど弟とわたしが生きていくためのお金は残っていなかった。
男爵家という爵位だけが残った。
爵位を返上して平民になることももちろん考えたわ。わたしだけなら平民でもいい。
でも優秀な弟をこのまま平民にしてしまっていいのか。将来男爵という爵位でもあればそれなりのところの就職できるし文官になっても出世することだってできる。
もし貴族令嬢との婚約の話が出ても困らないし、男爵なら平民と結婚してもそこまで厳しく言われることがない。
「アルバード、学校だけは続けなさい」
貴族でいるためには王立学園を卒業しなければいけない。これは貴族の子供にとっては必ず必要な条件だった。
「僕、学校辞めて働くよ」
「ダメ!あなたは成績もいいし特待生なの。学費は要らないし寮費だってタダなの!足りない分くらいならわたしが働いて稼げるわ!」
「でも姉上だけに苦労させたくない」
「ううん、わたし一人ならどこかの屋敷で住み込みでメイドとして働けるわ。お互い別々に暮らすことになるけど休みの日には会える、ねっ?そうしましょう」
今はお母様の弟の家に転がり込んでいるけど、お母様の実家は商家で常に忙しく働いていてわたし達は邪魔になる。
ここで働くのもありかもしれないけど給金が平民だと安い。
弟に必要なお金ならなんとか賄えるけど、貴族として生きるなら付き合いにお金は必要。
いくら男の子でも貴族ならばパーティーの服代だって馬鹿にならないし文房具代に参考書、お小遣いだって多少はあげたい。
弟は14歳、それなりに社交も始めなければいけなくなる年齢だ。
そう思って幼馴染で親友でもあるマーシャにお願いして仕事を紹介してもらった。
伯爵家のメイドとして。
一応わたしは男爵家の令嬢なので仕事の条件もいい。
住み込みで給金もわりと良い。
そしてマーシャの母方の従兄弟で、わたしも幼い頃何度か遊んでもらったことがあった伯爵家を紹介してもらった。
覚えてはいなかったけどマーシャに、
『ほら、よく肩車してくれた兄様よ』と言われて思い出した。
わたしより6歳年上の兄様は優しくてわたしとマーシャとよく遊んでくれた。
わたしは兄様に肩車をしてもらうのが楽しくて何回もおねだりしたことを覚えている。
だから少しだけ、ほんの少しだけ安心して面接に臨んだ。
兄様なら大丈夫だと。
なのに………
屋敷で面接をしてもらうと、話は雲行きが怪しくなってきた。
初めはわたしの身の上のことを聞かれ、雇い主になるので全て素直に話した。
弟が学園に通っているから住み込み希望だと言うと、
『だったら俺と契約結婚して欲しい』と言い出した。
『だったら』とは何?
キョトンとしたわたしに旦那様は言った。
『俺は再婚など面倒くさくて、したくない。元々政略結婚で元妻とは結婚したんだ。離縁してスッキリしたのに周囲がうるさいんだ』
『はあ、そうですか』
わたしもつい面倒くさそうに返事をした。
旦那様はイラッとした顔をしたけど気にしないことにした。だってメイドの面接に来て契約結婚をしたいなんて意味のわからないことを言う旦那様の方が絶対おかしいもの。
『両親が息子のフランを領地に連れ帰って自分たちが育てると言い出した』
『ああ、確かにあなたよりいいかも』
思わず本音が出てボソッと呟いた。
だって、顔は良い。見た目だけならほんと、カッコいいし、思わず振り返りたくなるくらいカッコいい。
わたしも幼い頃は兄様のこと、王子様みたいだと思ったもの。
だけど目の前にいるこの人、顔だけはいいけど性格最悪だと思う。
いきなり『契約結婚』なんで言い出すし、無愛想だし、偉そうだし(伯爵だからわたしより上だけど)、顔がいいだけでなんだかいけ好かない。
『給金は3倍。三年したら白い結婚で離縁。その後の慰謝料ももちろん払う。どうだ?』
『やります!!!』
わたしは二つ返事で了承した。
白い結婚なら戸籍は綺麗なまま。
それに身の危険もない!
給金も3倍!慰謝料ももらえる、なんて条件がいいの!
もう小躍りしたくなるくらいの気分だった。
そう、息子のフラン様にお会いするまでは。
ほんとこのクソガキ!ひとのお尻を思いっきり押しやがって!!
「フラン、わたしは(まだ)離縁はしません!」
890
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話


【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる